理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許実務 - 進歩性の基本的考え方(19)【示唆と阻害要因】

はじめに

 

 前回(下記記事)に続き、進歩性の基本的考え方(19)です。

 テーマは、示唆阻害要因です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

示唆

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220210220237j:plain

示唆

 

 「示唆」というのは、ある引用発明の内容中に、他の引用発明を適用することに

関する記述です。

 

 本件発明の構成要件がA+B+C+Dであるとして、

 たとえば、スライドの例1にあるように、

  

 公知文献1に、構成A+B+Cからなる公知発明1が開示されており、かつ、

当該公知発明1が高温で用いられると記載されている一方、

 

 公知文献2には、構成C高温で安定するため、好ましくはと共に用いられる

記載されているとすると(公知発明2は、構成C+Dかなる発明)、

 

 公知文献1には、公知発明1に公知発明2を組み合わせる示唆があると言える

かもしれません。

 

 この場合、高温という環境条件が、いわば、公知発明1と公知発明2を結び付ける

「糊」として役割を果たしており、これが示唆に当たります。

 

 この「糊」すなわち示唆としては、その他には、スライドの例2で挙げられている

用途も考えられるでしょう。

 

 結局のところ、示唆というのは、技術分野、課題、機能・作用以外の、あれば嬉しい「糊」の働きをするもの、と言えるかもしれません。

 

 また、ある意味では、技術分野が関連していることや、課題や機能・作用が

共通していることも、「示唆がある」という範疇に含まれるようにも思われ、

その意味で、示唆というのは、動機付けの総括的なもの、あるいは、

補充的(その他的)なものといえるかもしれません。

 

阻害要因

 

概念

 

 阻害要因は、マイナスに働く動機付け要素であり、これがあると、組合せが認められない方向の要素です。

 

 もっとも、阻害要因というのも、他の動機付け要素の関連性・共通性の程度(具体的なレベルか抽象的なレベルか。下記記事参照。)と同様、程度問題かなと思います。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 

 つまり、阻害要因も、決定的に組合せを不可にするものから、それほどではないもの(他のプラスの動機付け要素が強ければ、結果として組合せられると評価されるもの)まであり、結局のところ、他の要素との総合考慮で組合せの可否が決まるような要素だと思っています(あくまで私見)。

 

 結局、上記記事のイコライザーの摘み(下記スライド)が全体として右に行くほど、進歩性が否定されやすいということになりそうです。

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220216185854j:plain

進歩性を否定するロジックの強さ

 

周知技術との関連

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220216190106j:plain

阻害要因-周知技術等なら組合せに際し阻害要因はないか?

 

 周知技術等(周知技術、慣用技術、技術常識)は、その分野において一般的に知られていたり、慣用されていたりする技術なので、他の公知文献とは一般的に組合せがし易いはずです。

 

 しかし、周知技術等であれば、いかなる公知発明とも組合せ可能である(免罪符となる)わけではありません。

 

 公知文献自体が、周知技術等を排除するような構成であれば、阻害要因ありで、組みわせ不可ということもありそうです。

 

 周知技術等を用いた組合せについては、下記記事でも書きました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

最後に

 

 これで一通り、進歩性の基本的考え方(1)~(20)のスライド説明と、

ケーススタディ(1)~(5)の記事を書き終えました。

 

 何となく、(私見で、独りよがりですが、)頭が整理できました。

 一記事30分を目標に記事を作成し続けてきましたので、内容の誤りや誤記も

多いかと思います。

 ご批判ご意見あれば、お寄せ下さい。

 

 

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特許実務-進歩性の基本的考え方(18)つづき【組合せ類型とロジックの強さ】

はじめに

 

  前回、下記記事の進歩性の基本的考え方(18)【組合せ類型とロジックの強さ】をやりましたが、その続きです。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

行き詰まったら・・・

 

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組合せ類型とロジックの強さ(2)

 

背景

 

 ライバル会社の特許出願をウォッチングしていて、その特許発明が邪魔で、特許が無効であることを確認したい(特許クリアランス)、あるいは、実際に無効にすべく、特許無効審判を請求する場合があるかと思います。

 

 既に、ライバル会社から特許権侵害訴訟を提起されており、その中で、非充足の主張が弱く、また、そうでなくても、特許無効の抗弁(=被告として、原告特許は無効である、だから侵害には当たらない、との反論)を主張する場面もあるでしょう。

特許権侵害訴訟では8割方、特許無効の抗弁が主張されるという話もあります。)

 

 その場合、当該特許を無効にすべく、特許発明に関して、先行技術文献調査をする(依頼する)わけですが、上がってきた先行文献のどれを主引例発明とし、どのようなロジックで進歩性を否定するかは、実際にやってみると、パズルみたいで、なかなか難しいものです。

 

 そこで、行き詰まった場合の検討内容です。

 

① 主引用発明を変えてみよう!

 

  原則として、主引用発明とするものは、特許発明の構成要件と最も同じ構成を有しているもの、つまり、一致点の一番多いもの選択します。

 

 たとえば、スライドにあるように、特許発明が、構成要件A+B+C+Dからなるとすると、主引用発明としては、引用発明1(構成A+B+Cを有する)が最有力候補で、あとは、構成Dを有する引用発明2(構成A+D)があれば、これを組み合わせられるかどうかを検討することになります。

 

 しかし、往々にして、動機付け要素による組合せ(下記記事ご参照)がうまく行かない場合があります。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 また、各引用文献から、特許発明の構成要件に相当する所望の構成を(恣意的ではなく)抽出することが難しい場合もあります(下記記事ご参照)。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 そんなとき、必ずしも一致点は多くなくても、引用発明2(構成A+Dを有する)に、別の引用発明3(構成B+Cを有する)を組み合わせる方が、論理がうまく進む場合もあります。

 

 たとえば、特許発明(構成要件A+B+C+Dを有する)において、構成要件AとDが密接不可分に関連しているような場合は、前者の引用発明1と2の組合せを検討するより、後者の引用発明2と引用発明3を組み合わせる方が素直だったりします。

 

 発明というのは、原則的には、各構成要件が相互に関連していますが、その関連性の程度は様々で、(訴状とかではバシバシ分説しますが)中には密接不可分に近いものもあります(その場合)は、分説すべきではないかもしれません。)

 

 スライドにあるように、構成A+Dが密接不可分な場合には、むしろ、それをまとめて有する引用発明2を使った方が、進歩性否定のロジックが組み立てられやすい場合が多いのです。

 

② 特許発明のストーリー(課題⇒構成⇒効果)に沿ったものを選ぼう!

 

 先ほど述べたように、主引用発明は、本件特許との一致点が一番多いものを選択するのが原則です。

 

 進歩性欠如の論理は、動機付け要素の共通性・関連性に留まらず、特に、特許発明自体の課題も考慮されます。

 

 したがって、特許発明に沿った(課題が近いなど)ストーリーのものを選ぶことが考えられます。

 

 仮に、主引用発明が、特許発明と真逆の課題(ベクトルが逆)だったりする場合は、今の特許発明の課題を重視する流れからすれば、そもそも、当該主引用発明は引用発明として適格性を有しない、と考えるべきかもしれません。

 

 この点については、下記記事をご参照ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

③ 他の技術分野からも(主)引用例を探そう!

 

 これは、先行技術文献調査の範囲の問題かもしれませんが、技術分野Pに属する特許発明(構成要件A+B+C+D。構成要件Aが技術分野Pを反映した構成)において、発明の特徴的部分(構成要件B+C+D)が当該技術分野Pからはどうしても見つからない場合があります。

 

 その場合でも、発明の技術分野Pと隣接する技術分野Qにおいては、構成要件B+C+Dに相当する構成を有する引用発明が見つかる場合があります。

 

・技術分野P(前提構成A)⇒ 構成要件B+C+Dに相当する構成が見つからない。

・技術分野Q       ⇒ 構成要件B+C+Dが見つかる。

 

 典型的には、(従来の)技術分野Qから、(新たな)技術分野Pへ技術(たとえば、構成要件B+C+D)が導入されたような場合です。

 

 ---------------------------------------------------------------------------

 技術分野Q ※従来、技術(構成B+C+D)が存在した。

 

 ↓ 新たな技術分野へ、技術(B+C+D)を導入

 

 技術分野P(構成A) ※これまで技術(構成B+C+D)が存在しなかった。

  ※特許発明(構成要件A+B+C+D)

  -----------------------------------------------------------------------------

 

 他の技術分野への技術の導入については、特許入門に関する下記記事で書きました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 そのような場合は、

 

 「(特許発明とは別の技術分野Qではあるが、)構成B+C+Dを有する

  引用発明の構成を、技術分野P(前提構成A)において採用し、

  特許発明とすることは、容易に想到し得たものである。」

 

という論理構成になるでしょうか。

 

 もちろん、この場合には、(特許発明、及び、前提構成Aを有する引用発明が属する)技術分野Pと、引用発明(構成B+C+Dを有する)が属する技術分野Qの近さ等、つまり、技術分野の関連性が問題となるでしょう。

 

 なお、進歩性を肯定するよう補正・訂正すると手段としては、構成要件Aと構成要件(B+C+D)を密接不可分にするための+αの構成を付加することが考えられるでしょう。

 

④ 記載不備を疑おう!

 

 どうも進歩性のロジックをうまく組み立てられない場合、そもそも、発明の課題と構成と効果が対応していない(典型的には、記載不備のサポート要件を満たさない)場合があります。

 

 ですので、どうもこの発明おかしいなと思ったときは、発明の課題と構成と効果が適切に対応しているか、していないのであれば、サポート要件違反等を疑うことで、進歩性ではうまくいかなくても(あるいは、進歩性否定のロジックの裏腹として)、記載不備での無効理由を探すことになるかもしれません。

 

 その具体的な例(課題と構成が対応していないサポート要件違反のケース)は、

ケーススタディでやりました(下記記事ご参照。)

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

最後に

 

 次回、進歩性の基本的考え方(19)【示唆と阻害要因】の記事をもって、進歩性のシリーズを「一応」終えようと思います。

 

 あとちょっとがんばります。

 

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特許実務-進歩性の基本的考え方(18)【組合せ類型とロジックの強さ】

はじめに

 

 進歩性の基本的考え方(18)です。

 

 「20回シリーズ」+「ケーススタディ1~5」の記事を書く予定で、

ほぼ完成しているので、まもなくこの進歩性シリーズも、「一応」終わります。

 

 ご興味のある方は、進歩性のタブで各記事をお読みください。

 

 ちなみに、前回の記事(公然実施品に関する進歩性判断の問題)は、下記です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

組合せ類型とロジックの強さ

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220210215844j:plain

組合せ類型とロジックの強さ(1)

 

パターン

 

 文献(に開示された発明)同士の組み合わせについては、様々なパターンが考えられます。

 

 典型的には、スライドの(3)主引用発明+副引用発明ですが、場合によっては、スライドの(1-B)同一文献の中の実施例同士を組み合わせようとする場合もあるでしょうし、(2)主引用発明と周知技術を組み合わせようとする場合も多いでしょう。

 

 もちろん、引用発明(公知発明)の組合せは、2つに限らず、3つ、4つでも、進歩性を否定できる場合もあるでしょう。

 

 ちなみに、複数の公知文献(公知発明)の組合せについては、「容易の容易は容易でない」という格言(笑)ないし戒め(笑)があり、私も審査官のときに、何か、有難いお言葉のように習いましたが、これについては、将来的に、記事を一つ書けそうなので、また別の機会に。

 

 複数の公知文献(公知発明)の組合せに関連する記事として、下記進歩性の基本的考え方(3)の「論より証拠」もご参照ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

パターン(1-B)同じ文献の実施例同士の組み合わせ

 

 この(1-B)同じ文献の実施例同士の組合せは、下手をすると、基本的なパターン(3)主引用発明+副引用発明よりも、組合せが難しい場合がありそうです。

 

 というのは、(1-A)1つの実施例で新規性を否定できる場合とは異なり、ずばりの実施例がなく、「敢えて」異なる実施例同士の「良いとこどり」をするからです。

 

 「ズバリの実施例が書いていないってことは、この文献からは、

  当業者は、本件発明を想定していないんだから、容易想到って言えないん

  じゃないの?

  むしろ、ズバリの実施例が書いていないってことは、

  本件発明を容易想到とできない阻害要因さえあるんじゃないの?」

 

っていうのが、同じ文献内の実施例同士の組合せが難しいと感じる問題意識でしょうか。

 

 もちろん、(紙面の関係で、格調高く言えば、先願主義との関係で)たまたま

実施例に開示されていないだけで、複数の実施例同士を組み合わせる場合が、

(進歩性の論理として)、無理なく導けるのであれば、進歩性否定は可能でしょう。

 結局、ケースバイケースですね。

 

パターン(2)主引用発明+周知技術の組み合わせ

 

 周知技術を、発明の構成を埋め合わせるために使う場合です。

 周知技術が用いられるパターンについては、下記記事をご参照ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 周知技術(慣用技術もほぼ同じ概念)は、その技術分野において良く知られた技術(よく用いられる技術)なので、一般的には、様々な(主)引用発明との組合せがし易い場合が多いでしょう。

 

 しかしながら、周知技術であるからといって、オールマイティに全ての(主)引用発明に組み合わせられるとは限りません。

 

 たとえば、(主)引用発明が極めて特殊なものであれば、(その技術分野ではよく用いられているであろう)周知技術の組み合わせを阻害するもの(阻害要因がある)かもしれませんので。

 

 ですので、実質的には、パターン(3)主引用発明+副引用発明と検討すべきこと(論理付けの検討)が変わらない場合もあるかもしれません。

 

組合せに行き詰まったら・・・

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組合せ類型とロジックの強さ(2)

 

 特許クリアランス、つまり、他社特許対応のために、先行技術文献調査をし、進歩性を否定できそうな文献をとっかえひっかえして、組合せなどを検討するわけですが、その際のポイントを上記スライドでご説明しようと思います。

 

 ・・・

 

最後に

 

 と思ったら、結構な文字数になってしまったので、また、次回。

 

 

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自分史(試験についての私見)その1

はじめに

 

 しばらく特許実務の記事ばかりでしたが、ブログの趣旨は自分のことを残すことでした。そこで、久しぶりに自分のことを書こうと思います。

 

 自分の人生は、ほぼ、「試験」と共に歩んだ人生でした。

 私ほど試験を受けている人は、あまりいらっしゃらないかもしれません。

 その意味で、試され続けた人生といえるかもしれません。

 随分辛い思いもしましたので、結果として、非常に謙虚な性格になりました(笑)。

 

 誰かの参考になるわけではありませんが、試験について、現時点で思っていることを、書き残しておこうと思います。

 

私の試験の歴史

 

 全部書き切れるか自信がないですが、これまで受けた試験の主なものを思い出して、挙げてみたいと思います。

 

小学校時代

 ・学校の定期テスト(小学校は真ん中ぐらいの成績でした。)

 ・進学塾(6年生の1年弱)でのテスト

  (ここで頑張りました。記憶では、だいたい60~63くらいの偏差値でした。)

 ・私立中学受験

  ※地元の三重県松阪市の唯一の私立三重中学校・高等学校(6年制)だけ受験し、

   合格できたので、進学しました。

   今は知りませんが、私の時はたぶん偏差値52、3くらいの学校でした。

   成績からして、多分合格できるだろうということで、緊張もなく、

   塾の友達も多かったので楽しく受験しました。辛かった印象は全くありません。

 

   中学から松阪市外の学校に通うことはそもそも思いもしませんでしたので、

   他の私立学校は受験しませんでしたが、三重県でトップは、当時高田高校で

   偏差値60くらいでした(受けていれば、わかりませんが、かろうじて

   受かってかもしれません。灘や東大寺は、到底無理な成績でした。)。

   

中学校・高校時代

 ・学校の定期テスト

 ・大学受験のための予備校のテスト

 ・大学受験

 (・英検) ※受けたような気もしますが、ちょっと記憶にありません。

        受けたとしても、せいぜい4級~2級だと思います。

大学時代

 ・大学の定期試験

  ※航空宇宙工学科へ進学するためにかなり頑張りました(平均点86点くらい。)

 ・大学院入学試験

 

 ほんとうは、ここらあたりで、一般的には、試験時代が終了するはずなのですが、私の場合、ここからが怒涛の試験ラッシュでした。

 

大学院時代

 ・大学院の定期試験

 ・国家公務員Ⅰ種試験(技術系・機械)

 ・就職面接 ※ペーパーテストを受けた記憶はありません。

 

特許庁時代(途中、筑波ロースクールへ通いながら)

 ・TOEIC ※平成15、16年あたりで600~700点台だったような記憶です。

        職場で受けさせられるので受けていましたが、当時は留学とか

       できるはずないと思い、英語の勉強はほぼしていませんでした。

 ・筑波ロースクール(夜間)の入学試験

  ※前年、千葉大(昼間)の入学試験を受けましたが、落ちました。

   一年遅れですが、特許庁辞めずに筑波ローに行けて、結果ラッキーでした。

   筑波ローの入学倍率が当時12.5倍だったので、この試験がもっとも

   入りにくい試験でしたので、ラッキーでした。未習なので、勉強して

   どうこうなる試験ではなかったような気がします。

 ・筑波ロースクールの定期試験

 ・行政書士試験(合格)

 ・弁理士試験(合格) 

        ※理系大学院卒なので申請すれば選択科目は免除だったように

         記憶していますが、もうロースクールに通っていたので、

         選択科目は、民法・民訴で受けました。

 ・新司法試験(合格)

 ・法律事務所の面接試験(ペーパーテストは特になし。)

  ※中村合同法律事務所に入れてもらいました。

   無知で事務所への就職活動が遅れたせいで他はほとんど締め切られていました。

 

修習生時代

 ・何度かの起案試験

 ・2回試験

  ※おそらくは、この世で一番過酷な試験でした。思い出したくもありません。

 

弁護士時代

 ・IELTS試験 ※ヨーロッパの大学向けの試験で、米国のTOFELと同じ感じです。

        7.0TOEFLでいう100)をとるのに、大変に難儀しました。

        特にspeaking test(インタビュー形式)は、嫌な嫌な思い出です。

        受験費用も1回2万5000円くらいで、恐ろしく高額でした。

        一番精神的ダメージの大きい試験でした

 

 ・海外ロースクールへの出願(厳密には試験ではありませんが)

  ※ドイツ・ミュンヘンのMIPLCに進学しました。

  ※ちなみに、ドイツ・MIPLCアイルランド・ダブリン大学

   英国・クイーンメアリーロンドン大学に出願し、無事オファーをもらいました。

   マルタ大学もこっそり出願準備していましたが、結局やめました。

   (基準は、全部「ビールの国」ですよね。今ならチェコプラハ・カレル大学

    加えていたかもしれません。)

 

留学時代

 ・MIPLC(ミュンヘンにある知財法のロースクール)の定期試験

  ※ドイツの学校ですが、試験は英語。ペーパーではなく、コンピュータを使った

   試験でした。

 

帰国後

 ・ドイツ語検定(4級、3級) 

  ※ドイツ語の記憶があるうちに受けて、無事受かりました。

 

試験についての私見

 

 身分や出所に関係なく、試験に合格さえすれば、色んな道が開ける平等だと思います。

 もちろん、も大きく影響しますが、ある程度は運に左右されずに、合格に持っていける試験がほとんでした。

 運については(例えば筑波ロー合格)、私は大変幸運でした。

 

 自分のように、容姿も、身体能力も、性格(コミュ力なし)も良いとは言えくても、試験をクリアすることで、道が開けました。

 

 もちろん、芸術・芸能やスポーツで身を立てられる人もいるでしょうが、大半の人は(努力しても限界があり)無理です。しかし、勉強して試験に合格することは、大変ではありますが、芸術やスポーツのように不可能ではないですし、また、プロの選手や芸術家、芸能人になって成功するよりも、確率が圧倒的に高い。地道な努力も報われやすい。

 

 少なくとも私の時代は、学歴が断然有利でしたし、資格試験の合格は、とりあえずは、くいっぱぐれないことが約束されているとも言えます(将来はわかりませんが)。

 

 それに早い段階(小学校)で気づいて良かったと思っています。ここに尽きます。

 

 しかし、最近感じることは、「試験は平等」というのは、必ずしも正しくないということです。たとえば、都心の中学受験のように、親の資力が影響するであろう現実に接しました。

 

 その意味(経済格差など)で、全て平等であるとは言えないかもしれませんね。

 

 もっとも、最近は、Youtubeなどで無料の講義が配信されていたりして、地方と都心、金持ちとそうでないものとの情報格差がなくなっているので、ので注目です。

 

 今になって思いますが、うちは三重県の田舎で、家庭も決してお金持ちでもありませんでしたが、親が私立の中学に入れてくれ、東京の大学に行くのに仕送りをしてくれました。  

 

 高校時代には、名古屋や東京の予備校の夏期講習も受けさせてもらいました。

 駿台の高い講義のビデオとかも買ってくれました。

 

 金銭面で、相当な負担だったと思います。

 

 つまり、自分の努力だけではなく、親の経済的負担があってこその結果であることを遅きに失しましたが、認識しています。

 でも、父親が高校生のときに受からなかった大学(東京R大学)にも、私は受かることができ、喜んでくれましたので、良かったです。

 親に心より感謝。

 

最後に

 

 個別の試験や思い出を書くには、1つの記事では難しいようなので、また、人生を左右したと思う赤字の試験について、後日書きたいと思います。

 

 なお、人生最後の試験としては、ビール検定を視野に入れています(笑)。

 あるいは、もう一度、ドイツに(今度はドイツ語で)留学するか。

 もう年齢は50近いですが・・・。

 

 

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特許実務 - 進歩性の基本的考え方(20)【証明力-証拠のレベル】

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証明力-証拠のレベル

 

はじめに

 

 進歩性の基本的考え方(20)の記事です。

 一応これで、進歩性の基本的考え方のスライド説明は終了なのですが、まだ、進歩性の基本的考え方(18)、(19)は書いていません。この2つが終わると一応完成です。

 後日、がんばります。

 

 今回は、証拠の証明力の話です。

 これは、進歩性欠如を言うときの証拠に限らず、充足性先使用の抗弁などの

場合にも共通するトピックです。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

証拠の証明力

 

様々な証拠の形式

 

 進歩性を肯定・否定するための証拠や、進歩性の論点に限らず、充足性や先使用の場合でも、実験報告書を作成し、これを証拠とする場合があります。

 

 表題の証拠の証明力とは、証拠が裁判所の心証形成(進歩性の有無などの判断の基礎になる事実の有無)に与える影響力です。

 

 たとえば、特許発明において、数値範囲が規定されている場合、(進歩性否定の基礎となる)公然実施品も、(見た目では分からないが、測定すれば)その範囲に収まると思われる場合、たとえば、社内で実験し、実験報告書を作成して、裁判所に提出することがあります。

 

 そのような場合の証拠のランク付けです。

 スライドの記載を少しラフにして、下記のとおり番号を付けてみました。

 

 (1)事実実験公正証書 by 公証人

 (2)実験報告書 by 外部機関、理科系大学教授

 (3)実験報告書 by 自社従業員 with 第三者(大学の先生など)[立会い]

 (4)実験報告書 by 自社従業員

 

 感覚的にはお分かり頂けるかと思いますが、番号が若い方(上の方)が、一般的に、証明力が高いとされています。

 

 番号が若いほど、客観性が保たれているからでしょうか。

 

 感覚的には、

 

 (4)だと「自社の従業員が実験やるんだから、自社に有利に都合よく実験するんじゃないの?」

 

となりそうですし、じゃあ(3)のように三者を立ち会わせるというと、

 

 (3)「第三者って言っても、中立なの? 都合よく誘導してるんじゃないの?」

 

となるかもしれません。

 

 じゃあ、ということで、(2)のように外部機関に委託して実験やってもらう、

 あるいは、(1)公証人に立ち会ってもらって、事実実験公正証書の形にすることで、客観性を保ち、証明力の強い証拠を提出しよう、となるわけです。

 

費用

 

 一方で、その実験報告書ないし事実実験公正証書を作成する場合ですが、番号が若い方(上の方)が費用が高くなります。

 

 (4)自社での実験報告書であれば、自前なので(実験の種類によりますが)それほど費用がかからないかもしれませんが、(3)第三者を立ち会わせるとなると謝礼がいるでしょうし、(2)外部機関に頼むと委託料がかかります。(1)事実実験公正証書だと、数十万から3桁万円かかったりします。

 

事実実験公正証書

 

 証明力が高いとされる事実実験公正証書は、本当に大事な論点の場合、公証人と打ち合わせ、公証人に作成してもらいます(なお、実際には、その案は代理人である我々が起案したりします。)。

 

 さっきの(3)第三者立会いの実験報告書の場合、「第三者たる立会人を都合よく誘導してるんじゃないの?」というのは、(1)の公証人の場合でも同じように言えそうですが、(ちゃんとした統計があるわけではないですが、)事実実験公正証書の証明力は、他に比べ高いイメージです。

 

 公証人が元裁判官(元検察官)だからでしょうか?

 

 でも、実験の内容にもよりますが、たとえば難しい技術的な実験の場合、必ずしも公証人は熟知しているわけではないので、当事者・代理人の事前インプットにより、高所人が、客観的に、事実を見定めることができるのかは、なかなか難しいところですね(我々は、もちろん、ちゃんと客観性が担保されるように説明します!)。

 

余談

 

 事実実験公正証書は、公証人と事前に打ち合わせ、公証人と工場などに赴き、場合によっては、公正証書の素案を作成したり、その後、公証人とやりとりをしたりなど、結構大変です。

 

 でも、地方の工場や研究所に行って、中を覗いたり、説明を聞いたりできるので、

社会見学のような感覚で楽しかったりします。

 

 最近はめっきり少なくなりましが、私も、昔は、(公証人と)色んな工場に出かけて行きました。

 

最後に

 

 ちょっと余談になりましたが、実験により(進歩性の有無を決する)事実を証明する場合、先に述べたように、様々な形式が考えられ、また、費用も異なります。

 

 証明すべき事実の重要性費用との兼ね合い、ひいては訴訟戦略により、どの時期に、どのような証拠を作成するかを見定め、証拠作成に向けて早めに準備する必要があります。

 

 

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特許実務-進歩性の基本的考え方(ケース5)【単なる寄せ集め?】

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ケーススタディ

はじめに

 

 進歩性判断に関するケーススタディの5回目です。

 前回の記事は、下記です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

ケース5

 

 特許庁が公開している知的財産権制度入門テキストの事例から拝借しました。

 

 本件発明:  船外機空中プロペラの両方を設けた船

 引用発明1: 船外機を設けた船

 引用発明2: 空中プロペラを設けた船

 

 公知文献である引用発明1、2から、本件発明は容易(進歩性なし)と言えるか、です。

 

 このテキストでは、

 

 「・・・、既に実在する発明(アイデア)を単に寄せ集めたにすぎないとして、

  『進歩性』がないと判断される可能性があります。」

 

と記載されており、「単なる寄せ集めなので、進歩性なし。」としていますが、

「可能性があります。」とも記載されているように、事情によっては進歩性が認められる可能性があるということでしょうか。

 

拒絶理由

 

 これまでのケーススタディとは趣向を変えて、(元特許庁審査官として)久しぶり(14年ぶりくらいでしょうか。)に拒絶理由を起案してみたいと思います。

 

 ① 引用文献1の船に、引用文献2記載の空中プロペラを採用することは、

  容易に想到し得たものである(笑)。

 

 これだと、理由になってないじゃないか(理由不備だろーが)となりそうです。

 昔はこの程度の拒絶理由でしたが、今はもっとちゃんと詳しく拒絶理由が書かれているのでしょうか。弁護士になってから、中間処理とかしておらず、事件でもそれほど拒絶理由を見たりしていないので、正直あまり存じ上げません。

 もう少し、詳しく書いてみましょうか。

 

 ② 引用文献1記載の船外機を有する船において、

   同じく船である引用文献2記載の空中プロペラを採用することは、

  容易に想到し得たものである。

 

 引用発明1と引用発明2は、同じ船ということで、論理付けの一つである

技術分野の関連性が「具体的に」認められます。

 

 (色々具体的に検討はするもののアウトプットとしての拒絶理由は)

 昔はこの程度でした(すいません。)。

 

 さて、技術分野の関連性についてですが、厳密には、一概に「船」といっても、小型船から大型コンテナ船までありますので、引用発明1、2の船が(規模的に)具体的には異なり、場合によっては技術分野の関連性が「強い」とまでは言えない場合もあるかもしれません。

 

 再三取り上げている、例の、論理付け要素が、どれほど具体的に(抽象的に)共通しているかの問題ですね(下記記事ご参照。)。

 

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 

 さて、進歩性を否定する要素が多い場合を仮定して、徹底的に具体的にした拒絶理由を書いてみます。

 

 ③ 引用文献1記載の小型船において、

 

  <技術分野の関連性>

   同じく小型船であって技術分野において同一である引用文献2の船

  における空中プロペラを採用することについて検討する。

 

  <課題の共通性>

   引用文献1記載の船は、船外機を有するところ、一般的技術課題

  (引用文献3~5、あるいは、この点については、引用文献1、2にも示唆が

  ある)である推進力の増加を図るべく、

 

  <機能・作用の共通性>

   これと機能的・作用的に共通する(ただし、船外機と空中プロペラとでは、

  具体的な点を見ると機能・作用としては異なる面もあるが、推進力を増加させ

  という点では差異はない。)

 

   引用文献2記載の空中プロペラのを更に設けるようにすることに、

  格別の困難性は認められない。

 

  <阻害要因の不存在>

   この点、引用文献1記載の船に、引用文献2記載の空中プロペラを

  採用することについて(物理的制約などの)特段の阻害要因は認められない。

 

  <発明の効果>

   そして、両推進機を有することよる効果も、本件発明の明細書の説明を見る

  限りにおいては、それぞれによるそれぞれの推進力の総和を超えないものと

  認められ、したがって、当業者が予測し得たものに過ぎない。

 

   以上のとおりであるから、本件発明は引用文献1及び2記載の発明に基づいて、

  当業者が容易に想到し得たものである。

 

 

 ・・・ややクドイでしょうか。論理付け要素を散りばめてみました。

  

単なる寄せ集めについて

 

 ところで、本ケース(特許庁のテキスト)でも言及されている「単ある寄せ集め

という概念は、進歩性を否定する理屈(?)の一つですが、イマイチよく分かりませんよね。

 

 これって、「本件発明の各構成要件の有機的関連の有無」と関連しています(ダジャレみたいですいません。)。

 

 訴訟になると分説(漢字注意!)といって、発明の構成要件をぶつ切りにして、

対象製品との充足性を見たり、進歩性の判断をしたりますが、発明の各構成要件の中には、有機的に関連しており、①切り離せない(切り離すと技術的意義がなくなってしまうような場合)と②切り離せる場合がありそうです。

 

 たとえば、構成要件が、技術的意義との関係で、A+B+C+Dとあった場合に、

A+Bは切り離せない、A+BとCは切りなせるが、C+Dは切り離せないと言った場合

です(理想的に書いているので、現実はそこまではっきり区別できないかもしれません。)。

 

 そのような場合、AとBを別々の引用文献から持ってきて組み合わせるというのは、

そもそも無理筋かもしれません(CとDも同様)。

 

 逆に、引用文献1(A+B)と引用文献2(C+D)は、技術的意義と関係で

切り離せるのであれば、組合せも容易かもしれません。

 

 ということで、本件発明は「単なる寄せ集め」であるというのは、言い換えれば、

本件発明の各構成要件は、技術的意義との関連性において、必ずしも有機的関連性を

有するものではないという頭があるのでしょう。

 だから、本件発明の構成要件は分離できるし、逆に言うと、それぞれ別々の引用文

献に記載されている構成を組み合わせるのも簡単、これをもって、「単ある寄せ集め

」と評価しているように思います。

 

 あくまでも私見ですが。

 

拒絶理由を解消する補正案

 

 前述したように、「単なる寄せ集めに過ぎない」という、(私見では)

有機的関連性否定する拒絶理由に対しては、逆に、有機的関連性を持たせられれば

寄せ集め(組み合わせ)は途端に難しくなります

 

 そこで、スライドにもありますように、2つの推進機(船外機と空中プロペラ)の

切替の構成や、2つの推進機による船体のバランスを図る構成(位置や制御方法)

付加すれば、船外機と空中プロペラは「単なる寄せ集め」とは言えなくなり、

進歩性が認められる(特許になる)可能性が高いです。

 

最後に

 

 進歩性のケーススタディ・シリーズは一応これで最後ですが、また、いいネタが見つかったら、追加したいと思います。

 技術的に難しいとそれが理由で説明が難しいですし、事案設定が難しいですね。

 

 進歩性の基本的考え方(スライド解説)は、まだ続きます。

 

 

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特許実務-進歩性の基本的考え方(ケース4)

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ケーススタディ

 

はじめに

 

 今回は、進歩性判断のケーススタディの記事です。

 

 これまで、進歩性の基本的考え方のスライド(本文)については、これまで順次説明を進めてきました(後少しで終わります)。

 ご興味がある方は、ブログのタグの「進歩性」を見て頂ければ、全て入っています。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 これと並行して、進歩性に関してケーススタディとして1~3までを記事にしています。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 前回の記事は、1年前でしたね・・・。ブログをサボるとあっという間です。

 最近、私が担当するセミナーが続いているため、準備のついでということで、この記事を書いています。

 

ケーススタディ

 

はじめに

 

 おそらく、ケース1から見て頂いた方が分かりやすいとは思いますが、(1年ぶりにケーススタディの記事を書くということで、)この記事でなるべく完結できればと思います。

 

事案(仮想事例)

 

 ・本件発明:  「推進機を3個有する飛行体

 

 先行文献調査により見つかったベストと思われる公知発明の内容

 

 ・主引用発明: 「推進機を2個有する飛行体

 ・副引用発明: 「推進機を3個有する

 

進歩性否定のロジック

 

 ① 主引用発明において、(推進機は2個であるが、)

   3個にすることは、容易に想到し得たものである。

 

 ② 副引用発明における「3個の推進機を有する構成」を、

   主引用発明の(2個の推進機を有する)飛行体に採用することは、

   当業者が容易に想到し得たものである。

 

ロジック1について

 

 ① 主引用発明において、(推進機は2個であるが、)

   (副引用発明のように)3個にすることは、

   容易に想到し得たものである。

 

 副引用発明がなくても、「2個を3個にするなんて普通にやるだろ!」という

拒絶理由が、下位の従属項であれば、(論理なく)当たり前のように飛んで来そう

ですね・・・。

 

 まぁ、(副引用発明は「飛行体」ではなく、あくまでも「船」ですが)

誤魔化すように、「(たとえば、引用発明2参照。)」とか、拒絶理由の末尾に

書いてあったりして・・・。

 

 推進機2個を3個に増やすというのも、(過去に3個のものがなかったわけなので)「普通だろ」と言われても、それは全く論理的ではありません。

 

 これについては、下記ケーススタディ1のロジックAをご覧ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 要するに、主引用文献の中で、その課題やら技術的意義やら示唆として、「推進機の数を増やす」(という技術的思想)を読み取ることができれば、それを更に推し進めて2個⇒3個とすることも容易であると、「一応」論理的に言えるかもしれません。

 

 ところで、本件では、副引用発明は3個の推進機を有しているわけですが、

この副引用発明は、本件発明や主引用発明の「飛行体」とは異なり、「船」です。

 空中を飛ぶ飛行体と、水の上を進むとは、一応違いますよね。

 

 これらを組み合わせることができるかどうかは、論理付けの問題なので、

ロジック2で説明したいと思います。

 

ロジック2について

 

 ② 引用発明2における「3個の推進機を有する構成」を、

   引用発明1の(2個の推進機を有する)飛翔体に採用することは、

   当業者が容易に想到し得たものである。

 

 ②’ (推進機3個を有する)引用発明2において、

   「船」に代えて、「飛行体」とすることは、

   当業者容易に想到し得たものである。

 

 一応、②に加え、②’ の拒絶理由も考えられますが、結局のところ、引用発明1と2の組み合わせができるかどうか、ということになります。

 言い換えれば、引用発明2の「船」に採用されている「推進機3個」の構成を、

「飛行体」にもってこれるか、という問題です。

 

 冒頭のスライドにあるように、論理付けイコライザで考えてみましょうか。

 これについては、下記記事をご参照。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 ①「技術分野の関連性」が一番問題でしょうか。

   飛行体と船では、

   推進機による移動体という点で技術分野が関連すると言えそうですが、

   推進する環境が水と空気では、同じ液体でも、密度が3桁以上異なるので、

   飛行体と船は技術分野が関連しない、とも言えそうです。

 

   結局、「『技術分野の関連性』なんて程度問題だろ?」と思われた方、

  するどいです。課題や機能・作用の共通性など、他の論理付けも含め、

  程度問題です。

   言い換えれば、どのくらい「抽象的に」あるいは「具体的に」関連している

  (共通している)かを見る必要があるのです。

   これを、イコライザとして比喩的に表現しているのが冒頭のスライドの

  左下の図です。

 

   これについては、下記記事で取り上げています。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

  ②「課題の共通性」は、スライドにあるように、

   引用文献1及び2に「推進力が不十分」という共通する課題が

   読み取れるとすれば、一応共通しそうです。

 

  ③「機能・作用の共通性」ですが、同じ推進機(推進力を生む機械)という点では

   共通しますが、飛行体と船の推進機は(仮に、共にプロペラとかであれば

   「原理的に」くらいは共通する可能性がありますが、)具体的に見れば、

   普通は異なるのではないでしょうか。

 

  ④「示唆」は、引用文献1、2を見てどの程度の示唆があるか無いかです。

   「示唆」については、まだ、進歩性の基本的考え方の中で具体的に

   説明していませんが、論理付け要素の「その他」(あるいは総括的な要素

   であると個人的には理解しています。

 

  ⑤「阻害要因」は、たとえば、主引用文献において、(具体的に見ると)

   3個目を設置する物理的制約がある場合などです。

   これも、主引用文献をどこまで具体的に見るかの問題ですが、

   これに関して、具体的に見えすぎるが故に、進歩性否定の証拠として

   一般的に使いにくいものは何でしょうか?そうでう、公然実施品です。

   これについては、最近、下記記事で書きました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 ⑥「効果の予測可能性」ですが、これは物理的な効果なので、

  通常は予測可能なように思われます。

 

 ということで、①~⑤の論理付け要素(①~④は進歩性否定のプラス要素、⑤はマイナスの要素)と⑥効果の予測可能性(これの進歩性ロジックにおける位置づけについては争いあり。)のイコライザにおいて「(どの要素がどの程度右に振れているか」で、組合せ容易(進歩性なし)を導けけるかどうかが決まりまそうです。

 

 判断者は、「(どの要素がどの程度右に振れているか」(=進歩性否定の基準をどこに設定するか)で、結論をどっちにでもできますね(下記記事ご参照。)。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 判断者による「論理」は、以上の論理付け要素とその評価で決まりますが、そうは言っても、判断者は「人」。やはり直感は大事です。

 

 言い換えれば、「推進機1個増やしただけだろ、しょーもな。」と印象づければ、

結論として、進歩性を否定してもらえるかもしれません。

 

 我々弁護士・弁理士は、「論理」を提示し、裁判官(審判官・審査官)の直感をくするぐります。

 

 翻って、ケース4は、結局のところ、本件発明(飛行体)は推進機が3個、従来技術では飛行体の推進機が2個しかない。でも、ちょっと隣接する分野(船)では3個のものがある。そういう事例です。

 

 (論理付けに必要な証拠だけでなく)直感的にも、推進機1個増やしただけを

印象づける(ある意味では直接的ではないにしても)証拠類を提出することも考えられます(論理というよりは力業ということもあり、不正競争防止法における周知性・著名性の立証のような感じでしょうか。)。

 

最後に

 

  進歩性判断のケーススタディの記事を書いてみました。

  久しぶりのケーススタディなので、ちょっと長くてくどくなってしまいました。

 

  ご批判あればお寄せください。

 

 

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