はじめに
進歩性の基本的考え方(20)の記事です。
一応これで、進歩性の基本的考え方のスライド説明は終了なのですが、まだ、進歩性の基本的考え方(18)、(19)は書いていません。この2つが終わると一応完成です。
後日、がんばります。
今回は、証拠の証明力の話です。
これは、進歩性欠如を言うときの証拠に限らず、充足性や先使用の抗弁などの
場合にも共通するトピックです。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
証拠の証明力
様々な証拠の形式
進歩性を肯定・否定するための証拠や、進歩性の論点に限らず、充足性や先使用の場合でも、実験報告書を作成し、これを証拠とする場合があります。
表題の証拠の証明力とは、証拠が裁判所の心証形成(進歩性の有無などの判断の基礎になる事実の有無)に与える影響力です。
たとえば、特許発明において、数値範囲が規定されている場合、(進歩性否定の基礎となる)公然実施品も、(見た目では分からないが、測定すれば)その範囲に収まると思われる場合、たとえば、社内で実験し、実験報告書を作成して、裁判所に提出することがあります。
そのような場合の証拠のランク付けです。
スライドの記載を少しラフにして、下記のとおり番号を付けてみました。
(1)事実実験公正証書 by 公証人
(2)実験報告書 by 外部機関、理科系大学教授
(3)実験報告書 by 自社従業員 with 第三者(大学の先生など)[立会い]
(4)実験報告書 by 自社従業員
感覚的にはお分かり頂けるかと思いますが、番号が若い方(上の方)が、一般的に、証明力が高いとされています。
番号が若いほど、客観性が保たれているからでしょうか。
感覚的には、
(4)だと「自社の従業員が実験やるんだから、自社に有利に都合よく実験するんじゃないの?」
となりそうですし、じゃあ(3)のように第三者を立ち会わせるというと、
(3)「第三者って言っても、中立なの? 都合よく誘導してるんじゃないの?」
となるかもしれません。
じゃあ、ということで、(2)のように外部機関に委託して実験やってもらう、
あるいは、(1)公証人に立ち会ってもらって、事実実験公正証書の形にすることで、客観性を保ち、証明力の強い証拠を提出しよう、となるわけです。
費用
一方で、その実験報告書ないし事実実験公正証書を作成する場合ですが、番号が若い方(上の方)が費用が高くなります。
(4)自社での実験報告書であれば、自前なので(実験の種類によりますが)それほど費用がかからないかもしれませんが、(3)第三者を立ち会わせるとなると謝礼がいるでしょうし、(2)外部機関に頼むと委託料がかかります。(1)事実実験公正証書だと、数十万から3桁万円かかったりします。
事実実験公正証書
証明力が高いとされる事実実験公正証書は、本当に大事な論点の場合、公証人と打ち合わせ、公証人に作成してもらいます(なお、実際には、その案は代理人である我々が起案したりします。)。
さっきの(3)第三者立会いの実験報告書の場合、「第三者たる立会人を都合よく誘導してるんじゃないの?」というのは、(1)の公証人の場合でも同じように言えそうですが、(ちゃんとした統計があるわけではないですが、)事実実験公正証書の証明力は、他に比べ高いイメージです。
公証人が元裁判官(元検察官)だからでしょうか?
でも、実験の内容にもよりますが、たとえば難しい技術的な実験の場合、必ずしも公証人は熟知しているわけではないので、当事者・代理人の事前インプットにより、高所人が、客観的に、事実を見定めることができるのかは、なかなか難しいところですね(我々は、もちろん、ちゃんと客観性が担保されるように説明します!)。
余談
事実実験公正証書は、公証人と事前に打ち合わせ、公証人と工場などに赴き、場合によっては、公正証書の素案を作成したり、その後、公証人とやりとりをしたりなど、結構大変です。
でも、地方の工場や研究所に行って、中を覗いたり、説明を聞いたりできるので、
社会見学のような感覚で楽しかったりします。
最近はめっきり少なくなりましが、私も、昔は、(公証人と)色んな工場に出かけて行きました。
最後に
ちょっと余談になりましたが、実験により(進歩性の有無を決する)事実を証明する場合、先に述べたように、様々な形式が考えられ、また、費用も異なります。
証明すべき事実の重要性や費用との兼ね合い、ひいては訴訟戦略により、どの時期に、どのような証拠を作成するかを見定め、証拠作成に向けて早めに準備する必要があります。