1.はじめに
下記の前回のブログ記事では、逮捕されたときの流れ(特に、ご家族の対応を中心に)をご説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
軽微な事案(酔っぱらって、お店の看板壊しちゃった[器物損壊罪]程度)であれば、逮捕されても、勾留されずに、2、3日で釈放されることもあります。
それなら、無断欠勤となってしまった場合でも、何とか誤魔化せるかもしれません。
しかし、そのような見通しも含め、やはり、弁護士に依頼する必要が出てくることが多いと思います。
そうすると、一番気になるのが弁護士費用ですよね。一般の方の感覚からは高いと思いますし。
今回は、被疑者段階(逮捕→勾留され→起訴されるまで)の弁護士費用について説明します。
2.着手金と成功報酬と…
(1)当番弁護制度
まずは、当番弁護士制度というのがあります。ご本人が逮捕された場合、警察を通じて、当番弁護士を呼んでもらいたいと言うと、(弁護士会の名簿でその当日に待機している)我々弁護士が出動します。無料です(※弁護士は日当で1万円くらいの報酬が弁護士会から支払われます。帰りちょっと飲んじゃうと、一瞬でなくなる金額ですね)。
その2018年の弁護人用のマニュアルをみると、「着手金及び報酬金の金額は、依頼者と協議し、適切妥当な範囲で決定してください。」とあります。まぁ、そうですよね。弁護士と依頼者(本人や家族等)との契約ですので。
その前置きを前提に、被疑者段階では、この金額を上回る場合には、所属会への報告が必要とされています。なお、この金額にしなければならないというものではありません。
「被疑者段階の弁護活動の着手金は20万円+消費税
公判請求されなかった場合(不起訴、略式起訴)の報酬金は30万円+消費税」
これを前提にすると、最初に、着手金を22万円支払い、無事不起訴となったり、略式起訴(罰金)となった場合には、成功報酬として33万円支払うので、合計で、55万円となります。
ただし、諸費用(交通費、コピー代等)は別途請求される場合もあります。
ですので、これがミニマムの着手金・成功報酬かもしれません。もっと安くやる弁護士もいるかもしれませんが、インターネットを少し調べた限りでは、これより安いのは1つの事務所だけでした。
1点だけ注意ですが、裁判(公判)になってしまうと、成功報酬は支払わなくてよいのですが、裁判(被告人段階)での着手金が別途かかりますので、(他の弁護士に頼むのだとしても)結局、同じくらいの金額がかかってしまいます。
更に言えば、裁判で無罪になったり、執行猶予が付いたりすれば、被告人段階での成功報酬もかかります。
結局どっちにしても、ミニマムで55万円はかかりそうです。
(2)九条先生の場合
九条弁護士(「九条の大罪」という人気漫画の主人公)はどんな事件でも30万円(+消費税?)で依頼を受けると書いてあったと記憶しています。その他の費用はわかりません。確か、あまり、お金には興味のない感じのキャラクタですよね。
(3)さまざまな法律事務所の調査
インターネットで主要な法律事務所の費用を調べてみました(そんなにしっかりは調査してません。AI活用するなどして調べました。)。着手金は、およそ、25万円~55万円+消費税でした。
ただし、「~」(から)です。ここが大事。
成功報酬は、その金額より高く設定されていましたし、成功の程度で幅がありましたら、たとえば、「0~100万円」の幅で設定されている事務所がありました。
そうすると、刑事事件(たとえば、家族が逮捕されて、)弁護士に依頼すると、起訴(裁判になるまでの段階で)最低でも50万円(成功報酬を含む)、多いと100万円を超える場合もありそうです。
ここで、ちょっと注意しないといけないのは(私も様々な法律事務所の費用体系を見て知りました。)、結構、様々な項目立てをしてあり、追加の費用が発生することです。
被害者がいる事件の場合(大麻取締法違反だといませんが、傷害だといますね。)、示談が成立した場合、接見禁止が解除された場合(勾留に際し、接見禁止がつくと、弁護士を除く他者と接見や手紙のやりとりができなくなる)、日当(近所でも数万円という設定がされている事務所がありました。)などなどです。
ですので、実際の事件だと、どんどん付加されて、軽く100万円を超えてしまうかもしれません。私、正直、知りませんでした…。
3.なぜ高くなるか?
これはあくまで私見です。
皆様が、「刑事事件 費用」で検索すると、上位に大きな事務所がヒットすると思います。(弁護士も商売ですし、私もそれを反対するわけではありませんが)広告費用をかけていると思います。これは、刑事事件に限らず、離婚事件でも、他の一般事件でも同様です。やはり、それを回収するため、費用が高額に設定される場合があります。
事務所の家賃・人件費も高いですね。これは、ほぼ全ての弁護士にあてはまるかもしれません。
私の場合、専門が知的財産法(特許法など)で、特に、事務所のHPでも、刑事事件を扱っているとは書いていませんし、宣伝もしていません。料金も書いないかもしれません。
だいたい、公益活動としての国選事件(資力のない被疑者の場合で、費用はかからず、弁護士がもらえる報酬はトータルで5~10万円くらい。これまで述べた金額とは桁違いに低いですね(笑))をやっているので、刑事事件1件で100万円の報酬となると思うと、正直ちょっとその落差にびっくりします。
もっとも、昔(10年前くらいに、偶然)、私選で、当番弁護のマニュアルに準拠して、着手金20万円+報酬30万円でやってしまいましたが、おそろしく時間と手間がかかったので、やってられないと思った記憶がありますので、やはり適正な金額設定が重要です。
着手金は、事案に応じて、20~50万円(+消費税)が基本でしょうか。
金額が20万円から上がる要素としては、①被害者の数(示談の必要があるため)、②否認事件(接見の回数が増えるため)あたりでしょうか。
一旦着手金をもらってから、増額になる場合はあまり考えられませんが(他の事務所では結構細かく増額設定されていますね)、強いて言えば、再逮捕の場合でしょうか。特殊詐欺系ではよくあります。勾留がどんどん伸びるので、やむを得ないかもしれません。
難しい事件や外国の方の事件など、極めて特殊な場合は、もっと金額が上がらざるを得ません。なお、通訳必要だと、通訳人へお支払いする通訳料も別途かかりますね。
4.弁護士費用に関するエピソード
ある国選事件(被疑者段階)を担当しました(前述したように、弁護士が貰える報酬はトータルで、5~10万円。だいたい、1回の接見で2万円くらいの感じです。)。
国選事件として任務を遂行していたのですが、被疑者本人ではなく、その知り合いが、逮捕段階で既に私選の弁護士の先生に依頼したらしく、その場合、国選は通常、解任となります(国選は国の費用でやっていますので、自分で支払う私選が原則ですので当然ですね。)。
解任されたので、私としてはその事件は終了ですので、少し日が経って忘れかけたころ、その被疑者のご家族から連絡がありました。
ご家族: 「被疑者本人の知り合いが、私選の弁護士を別に雇ってしまったせいで、
大変申し訳ありません。」
私: 「いいえ問題ありません。国選は原則として資力のない方のためのものですし、
本来は、私選が原則です。
私も、3回接見にいった分の費用(※6万程度ですが)は、法テラスから
頂けますし。」
ご家族: 「私選の先生が、ぜんぜん動いてくれません。
面会にも行ってくれないし、私が電話しても、5分も経たず
電話を切ってしまいます。」
私: 「そうなんですか。まぁ、その先生はお忙しいのでしょうね
(※私が暇なわけではない)。その先生にちゃんとやってくれるよう
お願いしたらどうですか?」
ご家族:「しかも、知人が着手金を100万円で立て替えたらしく、
知人が私に請求してきました。」
私:「えっ、この事件で、着手金100万円ですか(※被害者もいないし、
せいぜい、30万円くらいだろうに…。やはり、自分の感覚が
安すぎるのか…)…」
家族:「先生、もう一度、国選弁護人になってもらえませんか?」
私:「それは残念ながら、制度上できません。もう一度私が担当するとすると
その先生に降りてもらい、私との私選になってしまいます。
しかも、今の先生へ支払った着手金は返してもらえないと思われます...」
家族:「全額返せないと言ってました。」
私:「そうですか…」
家族:「先生はお幾らですか。」
私:「そもそも、国選事件で一度担当しているので、同じ事件を私選で受けると、
弁護士倫理上問題が生じ得ますので、金額によらず、依頼を受けるのは
難しそうです…。」
(※なお、国選弁護人が私選に切り替えるよう働きかけると、弁護士倫理上問題が
あります。もっとも、弁護士の働きかけではなく、本人や家族からの依頼で
あれば、倫理上問題ないと思われますが、念のため、受けるのを控える場合が
多そうです。本当に私が助けてあげたいと思えば、弁護士会に問題ないか
念のため確認して受任するかもしれません。)
こんな感じでした。このような経験は、国選やっていると、何回も経験します。
5.高い弁護士は、良い弁護士か
上のエピソードからも、そうとは限らないことがわかります。
私選弁護人と国選弁護人で、前者が後者より優秀とは限りません。
費用が高く設定されている弁護士が、そうではない弁護士より優れているとも限りません。これは、刑事事件に限りません。
うちの事務所は、他より安いですが、日本一の知財系の事務所です(宣伝)。
脱線しましたが、滅茶苦茶優秀ですが、国選事件だけ公益活動としてやっている先生も結構見かけます(HPで刑事を扱っていると書いていない先生も多いです。)。
6.おわりに
今回は、弁護士費用(被害者段階)についてご説明しました。
結局は、家族が逮捕されるなどの緊急事態に備え、そのような不測の事態より以前から、信頼できる弁護士の知り合いを作っておくことが最重要です。
今からでも友人や知人の紹介で弁護士と知り合いになっておくのもよいですし、周りに弁護士がいなくても、街の法律相談などをきっかけに、ちゃんと話を聞いて適切なアドバイスをしてくれる良い弁護士を見つけたら、名刺をもらって、一言、「先生は、刑事事件もやるのですか?」と聞いておくのがよいかもしれません。やらなくても、その先生から刑事事件ができる良い先生を紹介してもらえるかもしれません。
そして、名刺を財布に入れるか、冷蔵庫に貼るなどして、ずっと取っておいてください。
結局、(刑事事件を扱える)良い先生を事前に(複数)確保しておくのが一番確実です。
そうでないと、家族が逮捕され、テンパって慌てて、HPで調べた一つ目の法律事務所に行き、そこで決めてしまいます。そのような状況では、複数の事務所を回って、先生の人となりを見て、料金を比べてはできません。
それで、当たりの弁護士なら良いですが、そうでないと、弁護活動もいまいちで、費用も高くて、…。
次回は、被疑者段階での色んな問題点を書いていこうと思います。
身柄拘束されていると、本人はもちろん、ご家族も色んな問題が生じ、大変な状態になりますので、その辺を紹介したいと思います。
弁護士・弁理士 小林正和 (中村合同特許法律事務所)
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