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特許実務-進歩性の基本的考え方(2)

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進歩性の性質(続き)

 

はじめに

 

 今回は、進歩性の基本的考え方(2)です。 

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

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 前回の続きで、進歩性の性質についてです。

 

1.進歩性の判断に真理(絶対的正解)はない。

 

  前回の進歩性の基本的考え方(1)でご説明したように、

 

 ① 進歩性が規範的要件、つまり様々な事実を基にした評価を伴う概念であること、

 

 ② 進歩性が総合考慮による判断、つまり、様々な事情(いくつかの動機付け要素や、阻害要因、効果の予測可能性、本件特許発明の課題など)を総合的に判断して、進歩性があるかどうかを決めるということ、

 

 ③ 進歩性が、政策的判断、つまり、国によってはもちろん、時代などによっても、変わり得るものであること

  ・時代により、進歩性のハードルが上がった、下がったなんていったりしますね。

  ・新技術を、他国と比べて積極的に特許をするとか、ビジネス特許をどうするか

   など、技術毎の個別の判断もありますよね。

 

からすると、数学のような真理絶対的正解)、たとえば、「1+1は必ず2になる」といった判断は難しい、というか不可能ということです。

 

 したがって、特許出願の観点や特許クリアランスの観点からは、後述する判断枠組みを前提に、進歩性のロジックがどの程度強いかという観点から評価し、(本件を担当する審査官や裁判官が)進歩性ありと判断するかなしと判断するかの可能性の程度を予測するということが限度、ということになります。

 

2.進歩性には、一応の判断枠組み・判断要素がある。

 

 そうは言っても、審査官、審判官、裁判官が、好き勝手に(たとえば、技術分野が同じものでないと組み合わせは絶対にできないとするとか)、恣意的に判断されると、自分の発明について特許されるかどうか、全く予測不可能になってしまいます。

 

 特に、行政官である審査官の場合は、どの審査官が判断しても、同じ判断にならなければ、行政判断の統一性が保てません。

 行政の判断というのは、普通は、どの行政官がどの人を対象にやっても状況が同じである限り、同じ判断でなければなりません(営業許可などがそうです。担当者によって変わってしまってはたまったもんではありませんよね。)。

 この特許の世界は、ちょっと特別なのです。

 

 そこで、判断の統一化を図るため、審査官のための審査基準ガイドライン)というものがあり、いずれご説明しますが、進歩性の判断枠組みがあり、裁判所も概ねその判断枠組みに沿った判断をしています。

 

 審査官に比べると審判官、審判官に比べると裁判所の方が、個別具体的事情の下で判断するという傾向がありますが、これは、行政官、裁判官という性質からくるところが大きいです。

 

3.判断者(審査官、審判官、裁判官)は、進歩性の判断をどちらにも転がすことができる。

 

 総合考慮判断であるということは、どの事実を重視するか、また、どの判断要素(動機付け要素)を重視するかで、結論をいずれにも転がすことができます。

 

 動機付け要素、つまり、パラメータがいくつかあって、そのいくつかのうち、1つないし複数のパラメータが一定以上であれば、組み合わせ可能(進歩性あり)と判断するといったイメージです。

 

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動機付け要素は、パラメータのイメージ

 

 (前ばらしですが)上のスライドが、進歩性判断の基礎となる動機付け要素のパラメータ・イメージです。

 

 このように、判断枠組みとして、登場するパラメータはある程度決まっていますが(技術分野、課題、機能・作用、示唆、阻害要因、効果の予測可能性、本件特許発明と引用発明との課題の違い)、これらをどの程度重視するか、というところまでは決まっていませんので、進歩性の有無をどちらにも転がすことができます。

 

 たとえば、技術分野が同一でありさえすれば(他の動機付け要素がどうであっても、)、あらゆる引用発明を組み合わせることができると考えている審査官は、(少なくとも、昔の機械分野では)いました。

 今は、どうでしょうか?

 

4.進歩性の判断は、特許庁と裁判所で違っているかもしれない。

 

 これも、いずれ詳細にご説明しますが、

 

 ① 技術のバックグラウンドがあるかないか、

 ② ①とも関連しますが、証拠をどの程度重視視するか(周知技術の認定など)、

 ③ あと、個別論点として、本件特許発明の課題をどのように取り扱うか、

   (いずれご説明する進歩性の判断枠組みにおいては、引用発明の課題の共通性は

    登場しますが、本件特許発明の課題は必ずしも登場していません。)

 ④ 行政官として統一的な判断を心掛けるか、裁判官として事件を個別具体的に

   解決することを考えるか、という判断者の立場の違いでも結論が異なり得ます。

   (余談ですし、詳しく話ませんが、商標分野で言えば、「取引の実情」という

    ファクターの取扱いがありますよね。)

 

といった点で、もしかしたら、裁判官と審査官、審判官で、判断が変わり得るということがあります。

 

 これらが原因であるとは必ずしも言えませんが、特許庁と裁判所で判断が変わる(ひっくり返る)というのは、時代にもよりますが、結構ありますよね。

 

 他の行政裁判では、それほど起こらないことです。

 

最後に

 

 前回と今回で、進歩性の性質についてご説明しました。

 

 次回の進歩性の基本的考え方(3)は、論より証拠(証拠>>>論理)のテーマでご説明したいと思います。

 

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