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数値限定発明・パラメータ発明(その5)

はじめに

 

 数値限定発明・パラメータ発明の記事を続けています。第5回目です。

 前回の記事は、下記です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 

 数値限定発明においては、数値(範囲)自体は算数的に明確であるが、その数値

(範囲)の対象や、測定条件・測定方法において、クレーム及び明細書を参酌しても、

一義的に明確に解されないことを理由に、何が数値(範囲)の対象か、どの測定条件・

測定方法が妥当であるのかが、裁判において紛争のタネになる(実験合戦になる)、

というのをご説明をしました。

 

 これに対し、出願人(後の特許権者)の「教科書的な」対応策としては、

 

 ① 数値(範囲)の対象を、クレームで明確に書く

   あるいは、明細書で明確に定義付けする

   ※単なる「粒子径」よりは「平均粒子径」の方がより明確でしょうし、

     更に、明細書において、「『平均粒子径』とは・・・」と定義した方が更に明確でしょう。

 

 ② 測定条件・測定方法を、明細書に、一義的に明確に書く

   ※場合によって、条件の一部はクレームに書くこともあるでしょうか。

 

ということになりそうです。

 

 一方で、数値範囲の対象が曖昧だったり、測定条件・測定方法が明確に定められていなかったりすると、クレームに関する明確性要件違反や、発明の詳細な説明に関する実施可能要件違反といった記載要件違反になることもあります。

 

 記載要件違反にあたらないまでも、測定条件等が曖昧な場合、被告(被疑侵害者)に、裁判で測定条件をめぐって充足性を争われると、権利者は、証拠(技術常識)等によって明細書で書かれた測定条件等を補っていかなければなりません。被告は、(明細書の記載に矛盾の無い範囲で、かつ、非充足となるような測定条件を加えて、これが本件においてあるべき測定方法だと争うこともあります。原告・被告の実験合戦になりますね。時間も費用も要します。我々は儲かります(笑)。

 

 しかし、実際に裁判(特許権侵害訴訟)になる前の段階において、測定条件等が曖昧であるがゆえに、無難に、大きく設計回避する被疑侵害者(特に中小企業)が、現実には多いです。

 費用面だけでも、訴訟はやりたくないですからね。

 

 したがって、自社製品が侵害にあたるか否かが曖昧である故に、結果的に、

萎縮効果をもたらしてしまうわけです。

 

 以上が、前回のざっくりした説明です。

 

 今回は、積み残し分です。

 

数値限定発明の問題点(充足性)に対する対応策

 

戦略的な考え方(2)

 

数値限定発明の問題点(充足性)に対する対応策

 

 数値限定発明における測定条件や測定方法は、基本的には、出願人(後の特許権者)が、明細書において、発明の説明として、自己の判断で書くわけです。

 

 一般的な測定方法(JIS規格で定められているようなもの)であれば、被疑侵害者が、自己の製品が数値限定発明に抵触するか否か(数値範囲に入ってしまうか否か)は、検証が比較的容易なことが多いかもしれません。

 

 もっとも、仮に、明細書で記載する測定条件や測定方法を、出願人が独自のものとして規定するのはどうでしょう。独自のものが必ずしも悪いわけではありません。

 なお、パラメータ発明も同様。パラメータの設定(独自のもの)が悪いわけではありません。

 

 もうちょっと意地悪く考えるとして、たとえば、大企業が、測定に非常にお金がかかる実験装置(高価で、小さな企業が所有していないようなもの、あるいは、外部機関に依頼するとそれなりに費用がかかるもの)や、測定が、費用的にも時間的にも作業的にも、大変なものを明細書に規定したらどうでしょう。

 

 権利者である大企業は、自前で被疑侵害品の検証(分析)は可能かもしれません。

 一方で、被疑侵害者(他社の特許に抵触しているかもとの疑念をもった会社、特に、中小企業)が自己の製品(被疑侵害品)を検証(分析)するのは、物的、費用的、時間的、人的に大変です。

 

 そうすると、被疑侵害者は、製品の販売後で、今更設計変更が困難である場合ならともかく、それに至らない段階であれば、数値範囲に入らないよう、大きく無難に回避することが経済合理性に合うかもしれません。

 

 明細書に書かれた測定条件・測定方法の実証が、物的、費用的、時間的、人的に重いものであると、事実上、その特許権は独占排他性を発揮してしまうのです・・・。

 

最後に

 

 ということで、今回は、(比較的多く出願できる)大企業向けからすれば、(記載要件違反にはならない程度に、)①数値限定発明の対象をある程度曖昧に規定したり、あるいは、②数値の測定条件や測定方法がある程度曖昧であったり、(自社では簡単だけど第三者が)測定に多くの費用や時間等がかかる条件・方法を規定すると、裁判で最後までいけば負けるかもしれないけど、それに至らない段階においては(警告をし、交渉する段階においては)、その特許権があたかも「酔拳」のように、曖昧であるがゆえに第三者(特に中小企業に)怖いものになり、事実上の萎縮効果をもたらすというメリットがありそうです。

 

 もちろん、私は、そんなアドバイスは決してしませんが(笑)。 

 

 

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