はじめに
今回は、進歩性の基本的考え方(15)として、下記前回の周知技術等(周知技術、慣用技術、技術常識)の続きを記事にしたいと思います。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
周知技術等の使われ方
進歩性判断において、周知技術等といっても、色々な使われ方をします。
上のスライドにもあるように、
(1)周知技術等によって、進歩性欠如をいうための公知文献(たとえば、主引用
文献)の書かれざる(黙示の)不足構成を補ったり、変更(置換)のために
用いる場合
※たとえば「(偶々)主引例には、車のエンジンにおいて、クランクシャフトが
記載も示唆もされていないが、他の文献A~Cから明らかなように、
車のエンジンがクランクシャフトを有しているのは周知技術であり、
主引例のエンジンもクランクシャフトを有するものである。」
(2)周知技術等を、公知発明の認定の基礎として用いる場合
※たとえば、「公知発明における『○○』の意義は、文献A等に示される
技術常識を勘案すれば、本件発明における『●●』と同じものである。」
(3)副引用発明と同様の方法で用いる場合
※周知技術等は、よく知られ、あるいは、よく使われているという意味において
一般的には他の公知文献との組合せが比較的容易な場合が多いと思われます。
しかし、周知技術等であることが、直ちに、公知文献との組合せのための
免罪符となるわけではありません。
周知技術等を適用できない(=阻害要因のある公知発明)場合などもあり、
当該公知発明に対しては、周知技術等により、公知発明の構成を補ったり、
変更したり、付加(適用)できないという場合もあります。
この場合には、通常の副引用発明の場合と同様、周知技術を適用しようとする
公知文献との間での動機付け要素を検討しなければなりません。
どの程度立証すれば周知技術って認定してもらえる?
さて、話題が変わりますが、「どれくらい文献挙げれば周知っていえるの?」よく質問されます。
特許庁の審査官をしているときは、周知技術っていうためには、「とりあえず、文献3つ探してね。」と指導を受けました。今はどうか知りません。
一方、裁判例などを見ると、
① 文献の数(数が多いことは、周知技術と認定されやすい方向の要素)のみで
決まるものではなくて、
② 刊行物の性質(たとえば、ハンドブックや権威ある教科書などは、周知技術と
認定されやすい方向の要素)や、
③ 頒布時期(昔に公開されたものは、周知技術と認定されやすい方向の要素)、
④ 当該事項の属する技術分野
などで決まるという判示がなされたものがあります。
結局、裁判所は、周知技術の認定においても、他の事実認定と同様に、
・要証事実(証明を要する事実):「○○というのは周知技術である」
↑
・それを基礎づける証拠
という「証拠→事実認定」という作業をしているだけですが、「周知」ということ
なので、ある程度の質と量が必要という感じです。
ただし、余談ですが、不競法などの周知性・著名性を立証するために、時に3桁にも及ぶおびただしい数の証拠を提出したりしますが、そこまでは必要ありません(笑)。
周知技術といえるかどうかの視点としては、集めた証拠によって「どれくらいの人数の人(当該技術分野の当業者が)が知っていると言えるかなぁ」と考えると良いのではないでしょうか。
・その分野では権威のある教科書、誰もが使うハンドブック、技術用語集
→ その分野の人は皆読んでるので、多くの人が知っている。
・文献の数
→ 多くの人に目に触れている。
ただし、数が多くても、同じ出願人の公開公報だけだったら、あまり多くの人
の目には触れていないかも。
・文献の発行時期
→ 古くから版が重ねられていれば、それだけ多くの人の目に触れているだろう。
といった感じです。
最後に
どれだけ需要があるか甚だ疑問ですが、進歩性の基本的考え方を、もうちょっと続けたいと思います。