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特許実務-進歩性の基本的考え方(1)

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進歩性の考え方

はじめに

 

 前回予告しましたように、元審査官、弁護士・弁理士の立場から、進歩性の基本的考え方について、記事にすることにしました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 トピックとしては、以下のものを考えています。

 

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進歩性の基本的考え方(目次1)

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進歩性の基本的考え方(目次2)

 

 今回は、第1回目ということで、そもそも論ですが、進歩性の性質、つまり、

 

 「進歩性ってどんなものなの?」

 

という説明をしたいと思います。

 なお、ある程度特許実務に携わっていらっしゃる方を想定しています

 

進歩性の性質

 

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進歩性の性質

 

 なお、私、なるべく、プレゼン資料は、それを読めば理解できるように書くのを原則としています。

 プレゼン資料はシンプルな項目のみで、口頭で内容を説明するというスタイルもありますが、特許関係は複雑だったりして、項目を見たり、話を聞いただけでは頭に残らないことも多いと思うので、知財のプレゼン資料に関しては、上記スタイルにしてます。

 

 ですので、上記スライドを見れば、内容はご理解できるようにしていますが、結構難しい概念が出てきたりするので、説明を補足します。

 

規範的要件であること

 

 特許出願特許クリアランス、つまり、進歩性判断に携わっている方は、日々、進歩性についてあーでもないこーでもないと議論したり考えたりしていると思いますが、そもそも、特許法29条2項の「容易に発明をすることができた」か否かの要件論を議論していますよね

 

 この「容易に発明をすることができた」か否か、つまり、進歩性は、具体的な概念というよりは、抽象的な(評価が含まれる)要件なので、規範的要件です。

 

 たとえば、民法特許法に出てくる「過失」という要件がありますが、これと同じ感じです。

 「権利濫用」というのもそうでしょうか。

 評価を伴いますよね。

 

総合考慮判断であること

 

 そして、容易かどうかって、様々な事実・事情で、結論を決めますよね。

 そういう意味で、総合考慮による判断になります。

 皆様も既にご存知かもしれませんし、近々説明しますが、動機付け要素って色々ありますよね。 本願発明の課題効果を見て判断したりもします。

 

政策的判断であること

 

 また、進歩性の判断は政策的判断です。

 絶対的な真理はありません。

 

 たとえば、ある国の政策として、(進歩性判断を、滅茶苦茶緩くする、すなわち、)全て特許するという制度であれば実質的には登録制度になりますし、(進歩性判断を、滅茶苦茶厳しくする、すなわち、)絶対に特許しないということであれば、実質的に特許制度の否定ということになります。

 

 これって、そもそも、国が決めるべき政策的な判断ですよね。物質特許は認めない、とか昔ありましたよね。

 

 さて、そこまで極端ではないにしても、実際に、どの程度、進歩性があれば特許するかというのは、規範的要件でもあるので、明確に決まりません。

 

 この程度で特許するという、ある程度の進歩性判断のレベルがあり、明確には分からないものの、裁判官も審判官も審査官も、その判断のレベルで判断しています。

 

 しかし、たとえば、審査官だと、「判断のレベル」っていうのは、人それぞれ判断してしまうと、出願人としても運不運があるので、なるべく「判断のレベル」を統一したいですよね。なので、審査基準というのがあります。

 基準を明確にして、個々の審査官によらずに、判断を統一しようというわけです。

 

 政策的判断なので、時代によっては、アンチパテントだったり、プロパテントだったりしますよね。国の競争力に関わるとっても過言ではありません。

 

 長く、特許実務に携わっている方であれば、

 

 「昔は厳しかったのに、今は7割特許かぁ。」

 

と思っていらっしゃるかもしれません。

 

 国によっても、

 

 「日本やEPOだと進歩性なしなのに、米国だと一発特許か~」

 

なんてこともありますよね。

 

最後に

 

 ということなので、進歩性の有無を一義的に(100人が100人とも同じ判断となる)ということは、進歩性の性質、つまり、

 

 ①(評価を伴う)規範的要件であり、

 ②(様々な事情を考慮する)総合考慮判断であり、しかも、

 ③ 政策的判断

 

ですので、数学のような正解はありません。

 

 結局のところ、日本の今の審査実務、あるいは、日本の今の知財高裁において、この本願発明(特許発明)について、どのくらいの可能性で、進歩性欠如と判断され得るか、というリスク判断をする程度が限界となります。

 

 弁護士倫理の問題(結果の約束はできな)という点を措くとしても、以上の進歩性の性質のため、我々、弁護士・弁理士は、

 

 「この特許は、進歩性欠如で100%無効です。」

 

とは意見書に書けません。

 

 せいぜい、進歩性欠如となる可能性が非常に高い、高い、低い、非常に低いという程度が限界かもしれません。

 

 依頼者から頼まれて、70%無効とか80%無効とか、もうちょっと具体的に(6、7段階評価くらいでしょうか。)書くことはありますが・・・。

 

 以上のように、進歩性の性質を理解した上で、つまり、「絶対的な正解はないんだ」と一旦諦めて頂いた上で、どの程度のリスクか(つまり、ライバル会社の特許が有効として維持されるか、無効とされ得るか)を判断するということになり、我々は、その点を知識と経験でお手伝いするということになります。

 

 スライド1枚でも、記事にすると結構説明することはありますね。

 次回も、進歩性の性質の続きを説明したいと思います。

 

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