理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

進歩性の基本的考え方(9)

f:id:masakazu_kobayashi:20201219173646j:plain

予測できない顕著な効果(イメージ)

 

はじめに

 

 今回は、進歩性の基本的考え方(9)として、予測できない顕著な効果をテーマとして、進歩性について考えてみたいと思います。

 

進歩性判断における、予測できない顕著な効果

 

 本件発明の効果が、進歩性判断において参酌されることについては、争いがありません、多分。

 個人的には、一切参酌しないという説があってもよい気がしますが・・・。

 

 ですので、進歩性判断の中で、本件発明の効果を把握し、発明の構成を見て、予測できない顕著な効果を奏するかどうかを検討する必要があります。

 

 下の左図の中央下部分に、そのフローが書かれていますね(独立要件説的記述)。

 一方で、右図では、進歩性が肯定される方向に働く要素として、有利な効果が挙げられています(二次的考慮説的記述)。

 

f:id:masakazu_kobayashi:20201203213348j:plain

進歩性判断の枠組み

 

 現実には、本件発明について構成と効果が対応していなかったり、効果が明細書には定性的にしか記載されておらず、後の実験報告書などで定量的な効果が補充されたりなど、効果に関して面倒な検討項目はたくさんありますが・・・。

 

 進歩性判断における本件発明の効果に関する理解は、ここまでで十分な気がしますが、後述するように、この本件発明の効果なるものを、どのように判断するか(①判断の位置づけや、②判断基準や、③判断基底)、については、独立要件説やら二次的考慮説(非独立要件説)やら他の名前がついた説などがあったり、何を基準に判断するのか主に3つの説があったり、更に、「非予測性」やら「顕著性」やらその概念の区別もわかりにくく、以下で説明する最高裁が出る前から、そして、出てからも、いろんな人がいろんなことを言っていて、ややこしい議論になっています。私も、あまり理解していません。

 

最高裁判例(令和元年8月27日最高裁第三小法廷判決)

 

f:id:masakazu_kobayashi:20201219173623j:plain

予測できない顕著な効果(判例

 

 最高裁判例やその後の差戻審の知財高裁判決において、進歩性判断における予測できない顕著な効果の①判断の位置づけ、②判断基準、③判断基底に関し、

 

① 判断の位置づけについては、裁判所は、独立要件説(=効果は、構成の容易想到性

 とは独立して、それ自体として進歩性を基礎づける要件であると捉える説)に一応

 親和的である、

 

② 判断基準については、(これまで争いがあったものの)本件発明の効果が

 現に奏する効果と、その効果が奏するであろうと予測された範囲との比較により

 判断する、

 

③ 判断基底については、

 (1)当業者が予測することができたものか否か(非予測性)と

 (2)予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否か(顕著性

 との双方の観点から検討する、

 

という一応の整理できるように思われます。

 

 イメージだと下のような感じでしょうか?

 

f:id:masakazu_kobayashi:20201219173646j:plain

予測できない顕著な効果(イメージ)

 

私見

 

 個人的には、(特に、私自身が機械分野の元審査官であるというバックグランドも影響し、)構成⇒必然的結果として⇒効果とどうしても考えてしまいます。

 

 なので、あまり、効果を殊更持ち上げる、つまり、効果が進歩性判断において独立して捉えたり、重視される要件や要素と捉えるのは、あまりしっくりきません。

 

 出願人や特許権者が、そんなに効果、効果と主張するなら、用途発明における用途のように、「クレームに書けよ。」と思ってしまったりもします(笑)。ついでに、「本件発明の課題もクレームに書けよ。」と思ったりもします。言い過ぎました。

 

 もし、私が化学分野の元審査官であったならば、違った考え方だったかもしれませんが・・・。

 

 実際、「構成」というのは客観的であるのに対し、「効果」や「課題」は、言ったもん勝ち的であったり、胡散臭かったりするのを、実務でよく見てしまっている点も、私の考えに影響してしまっています(笑)。

 

 言い過ぎましたが、効果と構成とが一対一対応になっていないもの(ズレが生じているもの)が実際には多いと思われます。本来的にはサポート要件違反だったりするはずなのですが・・・。

 

 ですので、効果不奏功の抗弁なんって(流行っていない)抗弁もあったするわけですが。最高裁を受けて、今後、この抗弁も再興するでしょうか・・・?

 

私見-判断の位置づけについて

 

 余談が多かったですが、本件特許発明の効果の位置づけについては最高裁判決や差戻審の知財高裁判決が、独立要件説を採用した、あるいは、独立要件説に親和的であると評価されるとしても、個人的には、二次的考慮説、つまり、効果も総合考慮の一要素と捉えるのが良いように思っています

 

f:id:masakazu_kobayashi:20201219173646j:plain

予想できない顕著な効果(イメージ)

 

 つまり、

 

(1)進歩性を否定する動機付け要素(課題、作用・効果、示唆)

(2)進歩性を肯定する動機付け要素(阻害要因、※本件発明の予測できない顕著な効

   果) ※必ずしも決定的ではない要素の一つとして

 

と捉えるのが良いように思っています。

 

私見-判断基底について

 

 次に、予測できない顕著な効果を判断するための要素(判断基底)について、①非予測性と②顕著性との双方の観点から検討すべきとする点について、裁判所が「程度」を問題にしているかのようなのでわかりにくいのですが、現時点の印象としては、

 

① 非予測性 = 「えっ、その構成で、そんな良いことあるの?」=質・発見の問題

② 顕著性 = 「えっ、その構成で、そんなに良いの?」=量の問題

 

と理解しました。

 

 そもそも、効果の質(種類)として思いもつかないもの(=新たに発見したようなもの)が非予測性効果の質(種類)としては思いつくが、そんなに効果の程度が凄いものとは予測できないというのが顕著性と理解しました。

 

 非予測性についても、〇か✖かの決定的要素ではなく、程度の問題と捉えます。

 つまり、「全然、全く思いもよらない」というのが非予測性が大きく、「まぁ、ちょっと難しいけど思いつくかなぁ、いや無理かなぁ程度」がまぁまぁ非予測性がある、「それ、普通に思いつくでしょ」が非予測性なし、という感じです。異質の程度ということですね。

 

 顕著性は、どのくらい凄いか(顕著か)という意味で、程度の問題ですよね。

 

 そして、この「質の程度」と「量の程度」を総合的に見て、「予測できない顕著な効果」か否かを判断すると理解しました。

 

 ということで、本件発明の効果も、他の動機付け要素と同様、進歩性判断の一判断要素に過ぎないというのがしっくりとくるのですが、最高裁判例、その差戻審を受けて、これから「効果」なるものが独立して(一人歩きして)フィーチャーされていくのかもしれません。

 

 10年以上前に、本件発明の「課題」がフィーチャーされました。

 進歩性判断において、色々と検討しなければならないファクターが増えて、言葉遊び商売(≒特許実務)としては大変有難いですし、判断基底となるパラメータが多いことで判断の面白みも増しますが、色々と考え出して頭を整理しようとすると、逆に、頭が混乱してきます。

 

 きっと、ここまでで書いたこともだいぶ間違っているかもしれません。ご了承ください。また、理解が及べば、修正したいと思います。

 

最後に

 

 進歩性判断における本件発明の効果、あるいは、予測できない顕著な効果であるか否かについては、色々と言われていますが、当事者・弁護士としては、①特許権者側であれば、本件発明の効果が異質だったり顕著だったりしたらそれを強調すればいいだけですし、そうでなければ、効果にはあまり触れず、一方、②被疑侵害側・特許を無効にする側としては、逆の対応の主張をすればよいだけなので、あまり悩むことはありません。

 

 もっとも、評釈を書いたり、人に説明しなければならないときは、少なくとも間違ったことを言うわけにもいかず、そのために、色々調べたり、勉強しなければならないので、忙しいときには辛いところです。

 

 このブログは、結構適当に書いていますし、お金をもらっているわけでもないので、内容がおかしかったしてもお許しください。こっそりコメントで指摘してください。

 

 次回以降に予定している「本件発明の課題」についても、同じ感じで書いてみようと思います。

 

 あー長くなった。いつもは書くのに10分くらいなのに、今回は20分くらいかかりました・・・。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング