はじめに
今回は、進歩性の基本的考え方(4)として、進歩性の判断枠組みをテーマとして、進歩性についてご説明したいと思います。
これまでの記事は、進歩性の性質についての内容で、以下のとおりです。
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特許庁の判断枠組み
特許庁においては、審査過程では審査官が本願発明に進歩性があるかどうか等(特許要件)を判断します。
そして、たとえ審査官が進歩性なしと判断して拒絶査定をしたとしても、拒絶査定不服審判において、審判官が、本願発明に進歩性があるかどうかを判断します。
また、特許査定後であっても、特許異議申立てや特許無効審判において、進歩性の有無も含めた本件特許の有効性を判断します。
上記スライドのうち、左側のチャートは、進歩性の判断枠組み(判断手順)を説明したもので、(審査基準に載っているわけではないのですが、)大変有名なチャートで、分かりやすいこともあって、様々なところで引用されています。ご覧になったことがある方も多いのではないかと思います。
右側の図は、(左側のチャートの左側の枠内に相当するもので、)審査基準に掲載されている論理付け(動機付け)要素の図です。
これらの動機付け要素の総合考慮により、組み合わせが可能かどうか、つまり、進歩性が否定されるかどうかを判断します。
裁判所の判断枠組み
一方、裁判所においては、審決取消訴訟、つまり、審決の違法性を判断する際に、本願発明ないし本件特許発明について、進歩性の有無を判断します。
また、特許権侵害訴訟においても、被告から特許無効の抗弁(=被告による「特許は進歩性欠如により無効だ!」という反論)が提出された場合に、この当否を破断すべく、進歩性の有無について検討します。
裁判所が、進歩性をどのように判断しているかについては、従前から、大枠としては上記の特許庁の判断枠組みと同じだとされていました。
現に、私が司法修習生(=裁判官・弁護士・検察官という法曹になるための約1年間の研修生)の際に、東京地裁の知的財産部で研修させてもらったのですが、裁判官がプレゼンしてくれた進歩性の判断の説明は、特許庁もものとほぼ同じでした。
上記のスライドにあるように、最近、ピリミジン誘導体知財高裁大合議判決において、判断枠組みが、特許庁のものとほぼ同じであることが明示されています。
一致点・相違点の認定
具体的な判断枠組みの前半部分について、ご説明します。
上記スライドは、特許庁のスライドの左側のチャートの前半部分、及び、裁判所のスライドの判示の前段部分のイメージ図です。
(1)本件発明の認定
⇒特許請求の範囲(クレーム)を見ます。
(2)引用発明の認定
⇒一般的には、本願発明と構成が最も一致しているものを公知文献1として
持ってきます。
なお、公知文献1(主引用発明)をどれにするか、という選定が、すごく
重要である点については、前回ご説明したとおりです。
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(3)一致点・相違点の認定
⇒本願発明の構成と公知文献1とが同じ構成である点(構成A+B+C)が
一致点です。
⇒逆に、
① 本願発明の構成と公知文献1の構成とが異なる点、あるいは、
② 本願発明にはあるが公知文献に1には明記されていない構成(構成D)が
相違点です。
(4)相違点にかかる構成が証拠に示されているか
⇒相違点(構成要件D)を、他の文献で埋め合わせられるかが問題となります。
ここで、次回以降にご説明する予定の動機付け要素との関係で、
公知文献2(副引用発明)の選定が問題となります。
このように、(1)本件発明の認定にしても、(2)主引用発明の認定にしても、(3)一致点・相違点の認定にしても、(4)相違点にかかる部分を、副引用発明からもってくるときも、「構成」を基準として、判断が進められていることがわかります。
ところが、進歩性の判断枠組みの後半部分、つまり、主引用発明の構成と副引用発明の構成との組み合わせを考える際には、構成をくっつけられるか否かを絵合わせのようにして判断するのではなく、構成以外の各引用文献に開示されている様々な事情を考慮していくことになります。
それが、動機付け要素を考慮したり、効果の予測可能性を見たり、あるいは、本件発明の課題と引用発明の課題とを比較したりとかです。
この点が進歩性判断の最も中心的なテーマです。
次回以降の記事で、順次ご説明したいと思います。