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特許実務-進歩性の基本的考え方(12)【進歩性の判断者の特質】

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判断者(審査官、審判官、裁判官)の違い

 

はじめに

 

 今回は、進歩性の基本的考え方(12)として、進歩性の判断者(審査官、審判官、裁判官)の特質について書きたいと思います。

 

 ここ最近、下記3つの記事のとおり、進歩性判断における、①本件発明の効果、②本件発明の課題、及び、③本件発明の課題・構成・効果のイメージと、だいぶ踏み込み過ぎた内容になってしまいました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 

 今回は、「審査官、審判官、裁判官ってどんな感じ?」という比較的気楽な内容です。

 

審査官

 

行政官

 

 技術系のバックグラウンドを持った行政官で、特許査定・拒絶査定などの行政処分をします。

 基本的にはまじめな人が多いですよ。

 

 行政官たるもの、画一的な判断をしなければなりません。審査官によって判断がバラバラだとしたら、国民としては困ってしまいますから。

 

特定の技術分野に詳しい

 

 同じ技術分野の特許審査を大量に処理するので、否が応でもその技術分野の特許発明に異常に詳しくなります

 

 そのため、ある出願を審査する際に、直感的・経験的に、「これは、特許しても、大丈夫だ。」、「これは、特許したら、(公知技術に抵触して)やばい。」というのが分かってきます。

 

 公知文献の提示は、自分の直感や経験の後付け作業のような感じです。

 昔は、証拠なしで拒絶したことを武勇伝のように語る審査官もいましたが、今はさすがにダメでしょうね。

 

 なお、審査官は、上(審判)で自分の判断がひっくり返ることをさほどきにしていません。私の頃は、フィードバックがありましたが、(審判官がよくわかってないだけだろう)と受け流していました。

 

 そもそも、審査官は、出世する人は、審査部ではなく、他の部署を回りながら出世していきますし、審査部が長い人も、上(審判)でひっくり返ったことで何か影響があるとは考えていないので、私と同じような感じではないかと思います。

 

裁判官

 

 裁判官は、審査官と対局にあります。

 

① 主に法律、文系のバックグラウンドの方がほとんどで、

② 紛争となった個別的かつ特殊な案件が多く、

③ その上、扱う事件数は、審査官に比べて圧倒的に少なく、ほとんど始めて扱う

 であろう技術分野で、発明の進歩性などを判断します。

 

 ですので、たとえば、周知技術を認定するにしても、審査官などのように直感的・経験的に判断はできませんので、しっかりと下から証拠を積み上げて判断していくようなスタイルになります。

 

 審査官のように画一的ではなく、事案の即した個別具体的な判断をしますが、まさに、司法機関としての本来的な役割ですよね。

 

 なお、裁判所調査官特許庁からの出向や弁理士)が、裁判官の技術面でのサポートをします。

 後述するように、裁判官、特に、知財部の裁判官は個性が強く、しかも、優秀なので、技術面でのサポートは受けるものの、判断としては、調査官の意見にとらわれることなく、判断してきます。

 

 他の一般的な行政処分を争う事件とは異なり、審決がいとも簡単に裁判所(知財高裁)でひっくり返りますよね。他の行政処分と比べると、すごく例外的なのです。

 

審判官

 

 審判官を飛ばしてしまいましたが、審判官は、いわば、審査官と裁判官の中間的な特質を有しています。

 

 昔、私の上司にあたる審判官経験者が、

 

 「審判官は、審査官とは違って、審査基準なんて見ないんだよ

  あんなのは、ただのガイドラインだからね。」

 

と偉そうにおっしゃっていたことをよく憶えています。

 

 当時の私は、

 

 「へー、審判官は、えらいから、審査基準見なくていいんだぁ~。

  もう消化(昇華)しちゃってるのかなぁ。」

 

ぐらいにしか思っていませんでした。

 

 今思うと、平成17年のパラメータ特許知財合議判決において、審査基準が「法規範ではない」と判断されたことの単なる受け売りなのかもしれませんが、善意に解釈すると、審判では、審査とは違い、審査基準では必ずしも割り切れない、個別具体的な案件を扱っているのだ、とおっしゃっていたのかもしれません。

 

 ちょっと、裁判官気取りになっていたのかもしれませんね。まぁ、準司法機関だから良いですけどね。

 

判断者に共通して

 

個性が強い

 

 審査官については、皆様も、審査手続きとかで既に経験済みかもしれません。

 分割しても、分割しても、「あの」同じ審査官が出てくる・・・。

 面接ガイドラインあるのに、一律に面接に応じない審査官・・・。

 

 (昔ほどではありませんが)知財部の裁判官も同じ感じです・・・。

 

時代と共に判断が変わる・・・

 

 裁判所で言えば、プロパテント/アンチパテント

 審査で言えば、ひと昔前と比べて、特許査定率はかなり上昇していますよね。

 

 以前に、進歩性の判断は、政策的判断だとご説明しましたが、その表れかもしれまえん。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

最後に

 

 我々利用者としては、このような判断者の特質や個性を見極めた上で、自分にとって有利な判断がでるよう対応しなければなりません

 

 一例を言えば、審査段階では、審査基準を共通の議論の対象にした方がよいでしょうし、でも、裁判の段階では、(審査基準よりも)個別具体的な事情をしっかりと主張・立証した方がよいでしょう。

 

 我々弁護士は、裁判長の個性によって準備書面の書く内容を変えたりもします。

 

 とはいえ、ひと昔前と比べると、スタープレイヤーのような人が少なくなり、知財部の裁判官の個性も、知財弁護士の個性も薄くなりました。

 

 時代の流れでしょうか。

 

 

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