はじめに
今回は、進歩性の基本的考え方(5)として、動機付け要素(総合考慮による判断)をテーマに、進歩性についてご説明したいと思います。
前回までの記事は以下のとおりです。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
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組み合わせ可能か?
たとえば、典型的には、本件特許発明の構成要件がA+B+C+Dであったときに、公知文献1は構成A+B+Cを有しており、一方で、公知文献2が構成Dを有する場合に、どのような事情を考慮して、組み合わせられるか否かを判断するのか、という問題です。
前回お示しした上記スライドにもあるように、主引用発明及び副引用発明について、進歩性が否定される方向に働く要素、つまり、組み合わせ可能の方向に働く要素として、
(1)技術分野の関連性
(2)課題の共通性
(3)作用、機能の共通性
(4)各引用発明の内容中の示唆、
などが挙げられており、
逆に、進歩性が肯定される方向に働く要素、つまり、組み合わせ不可の方向に働く要素として、
(5)阻害要因
(6)本件発明の有利な効果
が挙げられています。
例え話で言えば、カップルが成立するか否かという場面において、(互いに違うところに惹かれるという点はちょっと措いておきます。)
カップルが成立する方向での要素としては、
(1)出身地や方言が近い、
(2)好きな食べ物が近い、
(3)人生観が近い、
(4)趣味が近い
などがある一方、
カップルが成立しない方向での要素として、
(5)否定的な要素(たとえば、一方が、どうしても弁護士という屁理屈ばかり垂れる職業の人間とは付き合いたくない・・・など)
と言ったものが挙げられます。
これらを総合的に考慮することで、カップルが成立するか否かを考える感じです。
進歩性の基本的考え方(1)でご説明したように、進歩性の判断は総合考慮による判断ですので、どれかの要素が決定的であるというよりも、全体としてどれくらい似たもの同士か(受け入れられない相手の性質はないか)で決まる感じです。
ここで、注意点ですが、阻害要因というのは、必ずしも、それが有るか無いかで、組み合わせが不可か可が決定的に決まるものではありません。つまり、〇か×かという二者択一の概念ではありません。
阻害要因も、他の動機付け要素と同様、程度の問題(どの程度、組み合わせを阻害するか)です。
例え話で言えば、一方が、他方の仕事である弁護士が嫌いな場合には、カップルになることに否定的な要因となりますが、必ずしもそれが決定的ではないかもしれません。
たとえば、出身や趣味や人生観がすごく近くて、かつ、たとえ弁護士が嫌いであっても、(私のように)普段は比較的物静かな弁護士であれば、受け入れてもらえ、無事、カップル成立となるかもしれません。
まとめ
進歩性判断における文献の組み合わせは、例えで言えば、カップル成立・不成立の判断のため、共通項や否定的要素を色々と具体的に探っていこうという感じですね。
例え話が中心になってしまって、特許実務、しかも、進歩性判断のコア部分を解説した感じが全くしない感じで終わってしまいますが、実務をされている方は、動機付け要素を空で言えるほどご存じでしょうから、今回はいいですよね。
更に、もう少し、例え話をしますが、
①スポーツが共通の趣味であれば、カップル成立がしやすい方向に働きますが、
②2人とも野球が好きだとしたら、なお、カップル成立の可能性が上がりますし、
③2人とも同じ球団が好きだとしたら、カップル成立の大きな要素になるでしょう。
④2人とも同じ選手のファンだったら決定的かもしれません。
このように、この趣味の共通性のレベルというのも、カップル成立の可否において重要ですよね。
本題の進歩性判断に戻ると、動機付け要素の同一性のレベル(=どの程度共通しているか)は、進歩性判断の重要な視点になります。
この点は、次回の記事で詳しくご説明したいと思います。