はじめに
前回、下記記事の進歩性の基本的考え方(18)【組合せ類型とロジックの強さ】をやりましたが、その続きです。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
行き詰まったら・・・
背景
ライバル会社の特許出願をウォッチングしていて、その特許発明が邪魔で、特許が無効であることを確認したい(特許クリアランス)、あるいは、実際に無効にすべく、特許無効審判を請求する場合があるかと思います。
既に、ライバル会社から特許権侵害訴訟を提起されており、その中で、非充足の主張が弱く、また、そうでなくても、特許無効の抗弁(=被告として、原告特許は無効である、だから侵害には当たらない、との反論)を主張する場面もあるでしょう。
(特許権侵害訴訟では8割方、特許無効の抗弁が主張されるという話もあります。)
その場合、当該特許を無効にすべく、特許発明に関して、先行技術文献調査をする(依頼する)わけですが、上がってきた先行文献のどれを主引例発明とし、どのようなロジックで進歩性を否定するかは、実際にやってみると、パズルみたいで、なかなか難しいものです。
そこで、行き詰まった場合の検討内容です。
① 主引用発明を変えてみよう!
原則として、主引用発明とするものは、特許発明の構成要件と最も同じ構成を有しているもの、つまり、一致点の一番多いもの選択します。
たとえば、スライドにあるように、特許発明が、構成要件A+B+C+Dからなるとすると、主引用発明としては、引用発明1(構成A+B+Cを有する)が最有力候補で、あとは、構成Dを有する引用発明2(構成A+D)があれば、これを組み合わせられるかどうかを検討することになります。
しかし、往々にして、動機付け要素による組合せ(下記記事ご参照)がうまく行かない場合があります。
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また、各引用文献から、特許発明の構成要件に相当する所望の構成を(恣意的ではなく)抽出することが難しい場合もあります(下記記事ご参照)。
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そんなとき、必ずしも一致点は多くなくても、引用発明2(構成A+Dを有する)に、別の引用発明3(構成B+Cを有する)を組み合わせる方が、論理がうまく進む場合もあります。
たとえば、特許発明(構成要件A+B+C+Dを有する)において、構成要件AとDが密接不可分に関連しているような場合は、前者の引用発明1と2の組合せを検討するより、後者の引用発明2と引用発明3を組み合わせる方が素直だったりします。
発明というのは、原則的には、各構成要件が相互に関連していますが、その関連性の程度は様々で、(訴状とかではバシバシ分説しますが)中には密接不可分に近いものもあります(その場合)は、分説すべきではないかもしれません。)。
スライドにあるように、構成A+Dが密接不可分な場合には、むしろ、それをまとめて有する引用発明2を使った方が、進歩性否定のロジックが組み立てられやすい場合が多いのです。
② 特許発明のストーリー(課題⇒構成⇒効果)に沿ったものを選ぼう!
先ほど述べたように、主引用発明は、本件特許との一致点が一番多いものを選択するのが原則です。
進歩性欠如の論理は、動機付け要素の共通性・関連性に留まらず、特に、特許発明自体の課題も考慮されます。
したがって、特許発明に沿った(課題が近いなど)ストーリーのものを選ぶことが考えられます。
仮に、主引用発明が、特許発明と真逆の課題(ベクトルが逆)だったりする場合は、今の特許発明の課題を重視する流れからすれば、そもそも、当該主引用発明は引用発明として適格性を有しない、と考えるべきかもしれません。
この点については、下記記事をご参照ください。
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③ 他の技術分野からも(主)引用例を探そう!
これは、先行技術文献調査の範囲の問題かもしれませんが、技術分野Pに属する特許発明(構成要件A+B+C+D。構成要件Aが技術分野Pを反映した構成)において、発明の特徴的部分(構成要件B+C+D)が当該技術分野Pからはどうしても見つからない場合があります。
その場合でも、発明の技術分野Pと隣接する技術分野Qにおいては、構成要件B+C+Dに相当する構成を有する引用発明が見つかる場合があります。
・技術分野P(前提構成A)⇒ 構成要件B+C+Dに相当する構成が見つからない。
・技術分野Q ⇒ 構成要件B+C+Dが見つかる。
典型的には、(従来の)技術分野Qから、(新たな)技術分野Pへ技術(たとえば、構成要件B+C+D)が導入されたような場合です。
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技術分野Q ※従来、技術(構成B+C+D)が存在した。
↓ 新たな技術分野へ、技術(B+C+D)を導入
技術分野P(構成A) ※これまで技術(構成B+C+D)が存在しなかった。
※特許発明(構成要件A+B+C+D)
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他の技術分野への技術の導入については、特許入門に関する下記記事で書きました。
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そのような場合は、
「(特許発明とは別の技術分野Qではあるが、)構成B+C+Dを有する
引用発明の構成を、技術分野P(前提構成A)において採用し、
特許発明とすることは、容易に想到し得たものである。」
という論理構成になるでしょうか。
もちろん、この場合には、(特許発明、及び、前提構成Aを有する引用発明が属する)技術分野Pと、引用発明(構成B+C+Dを有する)が属する技術分野Qの近さ等、つまり、技術分野の関連性が問題となるでしょう。
なお、進歩性を肯定するよう補正・訂正すると手段としては、構成要件Aと構成要件(B+C+D)を密接不可分にするための+αの構成を付加することが考えられるでしょう。
④ 記載不備を疑おう!
どうも進歩性のロジックをうまく組み立てられない場合、そもそも、発明の課題と構成と効果が対応していない(典型的には、記載不備のサポート要件を満たさない)場合があります。
ですので、どうもこの発明おかしいなと思ったときは、発明の課題と構成と効果が適切に対応しているか、していないのであれば、サポート要件違反等を疑うことで、進歩性ではうまくいかなくても(あるいは、進歩性否定のロジックの裏腹として)、記載不備での無効理由を探すことになるかもしれません。
その具体的な例(課題と構成が対応していないサポート要件違反のケース)は、
ケーススタディ2でやりました(下記記事ご参照。)
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最後に
次回、進歩性の基本的考え方(19)【示唆と阻害要因】の記事をもって、進歩性のシリーズを「一応」終えようと思います。
あとちょっとがんばります。