はじめに
予告しましたように、進歩性に関するプレゼン資料(進歩性の基本的考え方【私見】)をアップしてみました。
作成した経緯
私は、特許審査官を7年半やって、その後、知財系の弁護士・弁理士になり、今でも、進歩性の判断(特許クリアランス)をはじめとした特許実務に関わっています。
進歩性というのは、特に弁理士さんの仕事としては、おそらくは最も重要で理解すべき項目でありながら、いつまで経っても良く分からない(=進歩性の有無を判断できない)捉えどころのないもののようにも思われます。
私も、かれこれ20年近く特許実務をやっていますが、正直よく分かりません。
逆に、「進歩性を完全に理解した!」という人がいれば会って問い質してみたいくらいです(笑)。
ということで、一番重要かつ頻出する進歩性ではありますが、私個人としては、他人様に対して、進歩性について説明するという出過ぎた真似はできないと思っていました。
ところが、ある企業で、知財部の方の進歩性(というか、特許クリアランス)の判断が、知財部員により差があるため、全体の底上げをしたいというご要望があり、進歩性について、基本的なところから解説して欲しいと言われました。
最初は「うーん、進歩性は無理!」と思い、審査基準を解説して、高石先生の本を読んでくれと言い、あるいは、いくつかの裁判例を解説して逃げようかと思いましたが、一度はちゃんと進歩性について、基本的なところから考えて見て、その検討結果を残しておきたいと思い、90分程度のプレゼンに収まるようなプレゼン資料を作成しました。
作成してみて、いろいろ分かったこともあり、増々分からなくなったこともありました。
プレゼン資料の内容
冒頭から、進歩性の判断は「どちらにも転がせる。」というのは、判断者(審査官・裁判官)に対して失礼な物言いかもしれません。しかし、進歩性判断の枠組みからすれば、そのようになっていると思います(もちろん、ご批判は承りたいと思います。)。
各スライドについては、今後、個別に、このブログ内で詳しく解説しています。
既に、このブログで、いくつかのスライドについて解説をしています。
進歩性判断のポイントは、なるべく簡潔に言うと、
① 各論理付け要素(判断要素)と、その関連性の抽象度・具体度合いを見定め、
総合的に判断する。
※判断要素が多く、その抽象度・具体度合いまで見るので、
進歩性の判断は、「総合的に」判断するので、どちらにも転がせる(てへ)。
② プロパテント以降、本件発明の課題を判断に取り入れている。
※動機付け要素に、更に、もう1つの判断要素が増える。
※おそらくは、主引例の適格性の問題に帰着するかもしれない。
③発明の効果も(特に化学分野で)重要で、最高裁も出ている。
※特に化学分野で重要な、もう一つの判断要素ですね。
※ただし、発明の効果については、私まだ理解が十分ではなく勉強中。
事務所のプレゼンでごまかし、偉い先生に指摘されてしまいました(笑)。
④イメージとして、発明は、「構成」が原則としても、「課題」も見るので、
発明は、スカラー量ではなく、ベクトルとして捉えよう。
※構成が近いものだけでなく(スカラー量)、(課題の方向が似た)
ベクトルが近い引用例を探そう。
また、本件発明の「課題⇒構成⇒効果」と、進歩性否定のロジックは、
山登りに例えられる。
と言ったところでしょうか。
最後に
私はもともと機械系の出身なので、どうしても、機械・電気を念頭に置いた説明になってしまいます。
一方で、審査官時代にも経験しましたが、化学・薬学分野では、進歩性についても、だいぶ考え方が違うことは承知しており、前述の「発明の効果」については、考慮要素としての位置付けや、考慮の仕方などをもっと勉強しなければとも思っています。
今後の一応の目標として、裁判例にたくさんあたって(あるいは、ちょっとサボって)高石先生の本を読んで、進歩性についての考え方を改めたりしながら、詰めて行こうかと思っています(時間があれば)。