はじめに
下記の進歩性のスライドが思いのほか好評でした。ありがとうございます。
ブログを書く(セミナーをやる)モチベーションにしたいと思います。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
さて今回は、
原告Xの特許権1、2を侵害するY社製造の製品がZ社によって販売されている場合(Y、Zが共同の実施主体の場合ではなく、それぞれが製造と販売を実施している場合)について検討します。
複数の特許権、複数の被告(製造者と販売者など)、それぞれの事件が別々の部に係属した場合の併合の可否について、ざっとまとめておきます。
間違っていたら、教えてください。
特許権複数の場合
原告Xは、被疑侵害品を製造するYに対し、自身の特許権1及び特許権2をそれぞれ侵害しているとして、訴える場合があります。
原告が、被疑侵害品が、特許権1も特許権2も侵害していると考えた場合は、一つの訴状で訴えることもできるでしょうし、特許権1、特許権2について、それぞれ別々の訴状で訴えることもできます。
別々の訴状で訴えると、裁判所では機械的配点によって、別々の部に係ってしまうことがあります(東京地裁には知財部が4つあります。)。
場合によっては、受付で、訴状を持参した原告に対し、書記官が「2つの訴状の事件について、同一の部に係属にしますか?」と聞いてくるかもしれません。
被疑侵害品が一つであれば、一つの訴状で訴える方が合理的なように思われますが、裁判所的には、訴状ベースで(1件ではなく)2件を処理した方が処理実績になるので、おそらく、別々の訴状で訴えてもらった方が嬉しいのでしょう。
原告が、大企業などの場合は、戦略的に、複数の裁判所(係属部)に係った方が、1つでも勝てば被告にプレッシャーをかけられるので、別々の部に係属することを望むかもしれません。
一方で、被告としては、当事者(原告・被告)が同じで、被疑侵害品が同じであれば、1つの係属部に併合してもらいたいと思うのが通常でしょう。被告は、係属する部それぞれに対し、併合の上申をすることになります。
なお、併合は、通常、(事件番号が若い)先に係属した裁判所の事件に、後に係属した裁判所の事件が併合されるのが通常で、先に係属した裁判所が、併合の可否を判断します。
被告複数の場合
原告Xは、侵害品を製造するY、これを販売するZを、それぞれ、原告特許権1を侵害しているとして、訴えることができます。
なお、通常は、販売者Zを訴えることはしませんが、販売者Zも発明品の販売という発明の実施行為をしているので、訴えることはできます。
この場合、原告Xは、被告Y、Zを一つの訴状で訴えるかもしれませんし、別々の訴状で別々に訴えることもできます。
原告としては、どちらかで勝てば(たとえ、被告Yとの関係で負けても、被告Zとの関係で勝てば)、製造者Yにプレッシャーを与えられるので、別々の部に係属することを望むかもしれません。この点、同じ特許権、同じ被疑侵害品であれば、同じ結論が出そうですが、別々の部に係属すれば、別々の判断が出てしまうことも想定されます。
なお、通常、Y、Zの間には、特許保証など何らかの契約関係があることが多いです。
裁判所的には、処理件数が多い方が実績になるので、同様に、別々に訴えてもらいいでしょう。
たとえば、販売者であるZは、そもそも、被疑侵害品の構成自体を知らない場合も多いでしょうから、製造者であるYに訴訟対応について助けを求める必要が出てきます。
そこで、被告Yの事件が係属した部と、被告Zの事件が係属した部が異なる場合には、被告Zとしては、被告Yの事件が係属した部への併合を望むでしょう。
そこで、被告Zは、自分の事件が係属した部に対し、被告の事件が係属した部への併合を上申するでしょう。
場合によっては、(被告Z自身は当事者ではないものの)被告Yの事件が係属した部へも併合の上申することもあるかもしれません。
仮に、上申が認められない場合でも、ただの販売者である被告Zは、単独で戦うのが難しい場合が多いので(被告製品の構成自体を知らないかもしれない)、被告Yへ訴訟告知をし、被告Yに補助参加してもらうように対処するでしょう。
訴訟経済上は、一つの裁判所が、被告Yと被告Zの双方の事件を審理した方がよいように思いますが、裁判所の事件処理の過度の負担を回避するという面もあるでしょうから、裁判所としては、併合を認める場合もあれば、認めない場合もありそうです。
原告としては、別々の部に係属することを望む(一つが当たれば良い)、被告らとしては、(特に、販売者Zとしては、製造者Yがいないと訴訟が戦えないので、)同じ部に係属することを望むのが、一般的かもしれません。
最後に
以上のとおり、ざっと、特許権侵害訴訟において、複数の特許権、複数の被告(共同侵害とかではなく、製造者と販売者)の場合の併合について書いてみました。
以上述べたように、①原告の訴訟戦略、②販売者たる被告は、現実には単独では戦えず、製造者の助けを求めなけれならないこと、③(お役所的ですが)裁判所の処理件数(実績)、④1つの裁判所に係属することによる当該裁判体の処理負担、⑤訴訟経済、⑥統一した判断等、いろいろと考慮要素があります。
また、別々の訴状にするか、一つの訴状にするかは、原告にとっての印紙の問題や、損害賠償の問題も生じ得ますね。
間違っていたら、教えてください。どうぞよろしくお願い致します。