はじめに
前2回の進歩性の基本的考え方(1)、(2)では、進歩性の性質について、ご説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
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今回は、進歩性の基本的考え方(3)として、 論より証拠(証拠>>>論理)をテーマに、進歩性についてご説明したいと思います。
進歩性欠如のロジック構築のイメージ
特許クリアランス(=自社の事業活動に支障のある競合他社の特許を無効にできないかの検討)の際に、まずは、本件特許発明(クレーム)、明細書の内容や審査過程(包袋)を確認し、特に、審査官等が引用した公知文献その他の先行技術文献を確認しますよね。
次に、
(1)独自に、(外注するなどして)先行技術文献調査(サーチ)を行い、
(2)候補となる公知文献をいくつかピックアップし、
(3)これらをどう組み合わせるか、組み合わせが容易か、を検討するなどして、
(4)何とか、新規性・進歩性欠如の無効理由を構築できないかを検討します。
この(3)、(4)の際の「証拠」(公知文献)の選択、及び、組合せの「論理」(動機付け)の構築については、
「特許発明」=「棒状製品」
と見立てた上で、
「証拠」=「部材」、「論理」=「糊」
とイメージすると分かりやすいのではないかと思います。
以下、冒頭のスライドの3つの例を見ながらご確認ください。
スライドの一番上の例
たとえば、スライドの一番上の例のように、特許発明の構成が、1つの証拠(公知文献)内に開示されているとすれば、原則として新規性欠如になりますので(ただし、別々の実施例を組み合わせるなどの場合は除きます。)、論理はそもそも必要ない、ということになります。
例えで言えば、棒状製品が、一部材だけで完成するイメージです。
後述するように、糊を使う場合よりも、圧倒的に強固な棒状製品が完成します。
スライドの真ん中の例
次に、スライドの真ん中の例のように、特許発明の構成が2つの証拠に開示されている場合、進歩性欠如を言うためには、これらを容易に組み合わせられるかどうか、という論理(動機付け)が問題となります。
実務でよく見かける、公知発明1(主引用発明)に、公知発明2(副引用発明)を組み合わせるという場合です。
例えで言えば、棒状製品を完成させるための2部材は揃っており、これらをくっつけるための糊が問題となります。
糊が強いと、強固な棒状製品が完成しますが、逆に、糊が弱いと、棒状製品は簡単にポキッと折れてしまいます。
スライドの一番下の例
最後に、比較的多くの証拠(公知文献だけでなく周知技術なども含む)を組み合わせなければならない場合があります。
なお、周知技術については、このテーマでいずれ取り上げます。
この場合、これらを組み合わせるための論理がたくさん必要になってしまいますね。
例えで言えば、棒状製品を完成させるための部材は全て揃っている。しかし、部材が多数なので、各部材をくっつける糊の箇所も多数あり、たとえ、各部材をくっつける糊がある程度強いものであったとしても、全体としては、棒状製品が、グニャっと曲がって折れてしまうこともあるかもしれません。
すなわち、前述の2例のように、部材、つまり、証拠(公知文献)は、なるべく少ない方が、棒状製品(進歩性欠如のストーリー)としては、強固なものになるわけです。
まとめ
以上のように、特許発明を棒状製品でたとえた上で、「証拠」=「部材」、「論理」=「糊」のイメージで考えると、
強い進歩性欠如を主張するためには、
(1)証拠(部材)は少ない方がよい。
⇒なるべく少ない公知文献で、ロジックを構築しよう!
⇒そのためには、先行文献サーチを頑張ろう!
(2)論理(糊)も少ない方がよい。
⇒なるべくロジックがいらないように、先行文献サーチを頑張ろう!
⇒論より証拠
(3)論理(糊)は強い方がよい。
⇒ロジックが強固となるような公知文献を適切に選択しよう。
というのがポイントということになります。
特に、知財部の方の場合は、サーチを外注するなどして、外注から上がってきたサーチレポートやクレームチャートの中から、どの公知文献を選択し、どう組み合わせるか、を検討することが多いかと思います。
ですので、(3)の最適な公知文献の選択が特に重要な作業になります。
これから続けて行く進歩性の基本的考え方の記事も、基本的には、この(3)に重点を置いています。