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特許実務-進歩性の基本的考え方(11)【課題・構成・効果のイメージ】

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進歩性判断のイメージ(山登り)

 

はじめに

 

 今回は、進歩性判断の基本的考え方(11)として、進歩性判断のイメージ(山登り)についてご説明したいと思います。 

 

 下記の前回、前々回の記事で、本件発明の効果本件発明の課題についてご説明しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

進歩性判断は、山登りのイメージ

 

  進歩性判断において、引用発明同士を組み合せる際の、引用発明に係る特性、つまり、動機付け要素(技術分野の関連性、課題の共通性、機能・作用の共通性、示唆、阻害要因)に加え、本件発明自体の課題や効果が、少なからず影響してくることを説明しました

 

 この本件発明の課題や効果が進歩性判断に影響することを、何とかイメージとして理解しようと冒頭のスライドを作成しました。

 

 山登りのイメージです。

 

 課題 ≒  山登りのルート

 構成 ≒  山頂へ到達した結果それ自体

 効果 ≒  山頂に到達したことによる達成感

 

 前回の記事では、下記スライドにより、理想的には、課題があって、課題解決原理としての発明が出来て、それにより、効果があるというストーリーとなっていることをご説明しました。これに整合していると思います。

 

 また、発明(構成)は、課題解決原理であるというのにも整合していると思います。

 

 

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特許発明の課題の取扱い

 

 さて、この山登りのイメージでいうと、進歩性を否定する論理を構築するということは、いわば、別ルートで、山頂に到達できるかどうかを検証する作業と言えそうです

 

進歩性判断で、本件発明の課題や効果を考慮しないとすると・・・

 

 仮に、発明(構成)のみで進歩性を判断するとすると、とにかく、どんなルートでも、山頂に到達できれば良いということを意味します。

 

 発明のクレーム(構成)に、特段の創作性なく(公知文献の組合せなどから)到達できたかどうかだけを問うわけです。

 

実際には、本件発明の課題や効果を考慮するが・・・

 

 実際には、前回、前々回の記事で見たように、本件発明の課題や効果を考慮することになります。

 

 どのように、どの程度考慮するかは様々な考え方があり、今だ確立されているものではなりません。

 

 たとえば、課題を考慮するというのは、その発明に至った本ルートを通って山頂に到達したことを考慮するということです。

 

 更に、効果を考慮するというのは、本ルートを通ることで、他のルートでは感じられないような達成感を味わえることをも考慮するということです。

 

 そのように考えると、課題(ルート)と効果(達成感)というのは、ある程度対応しているということになりますね。

 

本件発明の効果を考慮することの意義

 

 進歩性を否定するためのロジックは、別ルートであり、いわばフィクション(仮想)です。

 

 ですので、本件発明のストーリーで生み出された達成感(効果)は、別ルート(仮想ルート)では想像できない賜物かもしれませんよね

 

 そうすると、何でも良いから山頂に達した事実ではなく、このルートを辿ったことによる素晴らしい達成感を評価する、すなわち、効果を考慮して、進歩性あり(特許とする)とするのは、ある程度合理的なことかもしれません。

 

 更に、そのような達成感を味わえる本ルートをも評価するのであれば、課題(の設定)というものも、進歩性判断の中で重視しても良いものなのかもしれません。

 

しかし、問題は・・・

 

 こうやって、山登りのイメージで、課題、構成、効果を捉えると、構成だけでなく、本件発明の課題や効果を考慮することも、合理的なように思われます。

 

 しかし、実務的な問題として、そもそも課題や効果というのは、明確なのかということです。

 

 確かに、ちゃんとした一般的な明細書であれば、従来技術が書いてあって、課題が書いてあって、これを解決したものとして発明(クレーム)が書かれ、それによる効果がストーリー立てて書かれています。

 

 しかし、実際には、発明者自身の認識からもそうかもしれませんし、また、クレームの補正やら出願の分割やらで、

 

 課題や効果が、構成(クレーム)との関係で不明確であったり、

 

ちゃんと書かれている明細書でも、実際には、

 

 「課題⇒構成⇒効果」が一対一対応していない

 

ものが結構あります。

 

 言い換えると、その構成が包含するもの全てが課題を解決できるのか(サポート要件違反の問題になったりします。)、その構成が包含するもの全てが効果を奏し得るのか(流行りませんが、効果不奏功の抗弁なんてものがありますよね。)が甚だ疑問というものが結構散見されるわけです。

 

 ですので、権利範囲(クレーム)に書かれていない、課題や効果を重要視し過ぎたり、取り違ってしまうと、結局、(私のように)弁護士・弁理士なんかがうまいこと主張・立証すれば、進歩性を肯定できてしまったりするわけです。

 

 一方で、侵害性(充足性)の方は、原則的には構成の文言充足性のみで議論されるので(もちろん、解釈において課題や効果も考慮されますが)、進歩性判断において(真の意味で構成と対応しているかどうか疑問な)本件発明の課題や効果を考慮することのバランスが悪くなるような気がします。

 

 つまり、特許権者としては、充足論では構成のみで主張・立証する一方、被疑侵害者の特許無効の抗弁に対しては、(引用発明自体にケチをつけることに加え、)本件発明の課題やら効果やらで議論をかき回し、進歩性を維持するよう画策できるというわけです。

 

 両者のバランスをとるのであれば、たとえば、クレーム自体に、構成だけでなく、課題、効果を含めるという考え方もありそうです(そんな法制度は世界にもありませんが)。

 

 【請求項1】

   【課題】・・・

   【構成】・・・

   【効果】・・・

 

といった感じです。そうすると、課題が違うとか、効果を奏しないというのが、否認になるわけですかね。

 

 ちょっとお花畑でした。

 

最後に

 

 進歩性判断のイメージを山登りで表現してみましたが、このアイデアが誰かが先に使っていたらすいません。でも、私自身のオリジナルなので著作権法的には大丈夫でしょうか。

 

 もっとも、この山登りのイメージが進歩性判断とズレていると、進歩性の説明において無用な誤解を生んでしまうことになり、これは本末転倒ですよね。

 

 また、いずれ、再検討したいと思います。

 

 

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