はじめに
今回は、進歩性の基本的考え方(7)として、進歩性を否定するロジックの強さをテーマとして、進歩性についてご説明したいと思います。
内容は、ここ3回くらいの進歩性の判断枠組みの復習のような感じです。
判断枠組み(前半)
下記の進歩性の基本的考え方(4)の進歩性の判断枠組みの記事では、特許庁と裁判所での進歩性の判断枠組みは、ほぼ同じであり、具体的には、
(1)本件発明の認定
(2)引用発明の認定
(3)一致点・相違点の認定
(4)相違点に係る構成が証拠(他の引用発明)に示されているか?
を順次検討していくものであることを説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
判断枠組み(後半)
そして、下記記事である進歩性の基本的考え方(5)では、動機付け要素(総合考慮による判断)を説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
前述の「(4)相違点に係る構成が証拠(他の引用発明)に示されているか?」について、主引用発明(=本件発明の一致点に相当する構成)と副引用発明(=本件発明の相違点に係る構成)とを組み合わせて進歩性を否定することができるか、という点について、両引用発明の組み合わせの可否を判断するための各動機付け要素について説明しました。
主引用発明及び副引用発明について、進歩性が否定される方向に働く要素、つまり、組み合わせ可能の方向に働く要素として、
(1)技術分野の関連性
(2)課題の共通性
(3)作用、機能の共通性
(4)各引用発明の内容中の示唆、
逆に、進歩性が肯定される方向に働く要素、つまり、組み合わせ不可の方向に働く要素を
(5)阻害要因
(6)本件発明の有利な効果
として、これらを総合的に考えて、組わせの可否を検討するのが進歩性の判断ということです。
動機付け要素の概念レベル
下記の進歩性の基本的考え方(6)の記事では、各動機付け要素の概念レベルを考えなければならない点を説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
つまり、たとえば、主引用発明の課題と副引用発明の課題が共通すると言っても、
(1)強度の向上
というレベルで共通するに過ぎないのか、
(2)表面強度の向上
というレベルまで共通するのか、更に、
(3)表面被膜による表面強度の向上
という、より具体的なレベルにおいて共通するのか、
で同じ課題の共通性という動機付け要素でも、組み合わせを肯定する要素(進歩性を否定する要素)としての強さは異なる、ということです。
より、具体的であればあるほど((1)よりも(2)、(2)よりも(3)というように)、動機付け要素としては強いということになります。
進歩性を否定するロジックの強さ
ということで、これまでの進歩性の判断枠組み、特に、後半部分の主引用発明と副引用発明とを組み合わせることができるか否かの判断においては、各動機付け要素が、どの程度強く共通・関連するかを総合的に見ることになります。
上のスライドは、そのイメージです。
各動機付け要素の「〇」が、右にたくさん来れば来るほど、進歩性が否定される感じです。
(私が中学・高校のときにはまった)コンポのイコライザーの設定のようですね。
なお、上のスライドで、動機付け要素のパラメータの一つように描かれてる予測できない顕著な効果については、近時の最高裁判決を踏まえて、その位置づけについて色々な考え方があります。上のスライドは、(最高裁判決に親和的とされる独立要件説というよりは、)二次的考慮説のイメージでしょうか。
予測できない顕著な効果については、またいずれテーマとして触れたいと思います。
最後に
ということで、進歩性を否定するロジックの強さ、より具体的には、動機付け要素の総合考慮の仕方について説明しました。
(1)引用発明の選択(主引用文献、副引用文献、その他の周知技術の文献)
(2)主・副引用発明を組み合わせるときの、各動機付け要素の有無とその強さ
をチェックして頂き、最寄りの(特許を扱う)弁護士・弁理士にご相談頂ければと思います。
実際には、
① そもそも数ある文献の中から、どの引用発明を選定するのかが難しかったり、
② 各動機付け要素の捉え方が難しかったり、誤ってしまったり、
③ 各動機付け要素が複雑に絡んでいたりするなど、
進歩性否定のロジックは、上記の単なるパラメータの確認(〇の位置が右にあるかどうか)だけにとどまらず、本件発明の課題⇒構成⇒効果のストーリー性と同様、ストーリー性をもって進歩性否定の主張を考える必要があるので、この領域まで行くと、弁護士・弁理士の専門家に相談し、意見を頂くということになろうかと思います。
そうでないと、我々の商売がなくなってしまいますからね。