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特許実務-進歩性の基本的考え方(ケース4)

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ケーススタディ

 

はじめに

 

 今回は、進歩性判断のケーススタディの記事です。

 

 これまで、進歩性の基本的考え方のスライド(本文)については、これまで順次説明を進めてきました(後少しで終わります)。

 ご興味がある方は、ブログのタグの「進歩性」を見て頂ければ、全て入っています。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 これと並行して、進歩性に関してケーススタディとして1~3までを記事にしています。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 前回の記事は、1年前でしたね・・・。ブログをサボるとあっという間です。

 最近、私が担当するセミナーが続いているため、準備のついでということで、この記事を書いています。

 

ケーススタディ

 

はじめに

 

 おそらく、ケース1から見て頂いた方が分かりやすいとは思いますが、(1年ぶりにケーススタディの記事を書くということで、)この記事でなるべく完結できればと思います。

 

事案(仮想事例)

 

 ・本件発明:  「推進機を3個有する飛行体

 

 先行文献調査により見つかったベストと思われる公知発明の内容

 

 ・主引用発明: 「推進機を2個有する飛行体

 ・副引用発明: 「推進機を3個有する

 

進歩性否定のロジック

 

 ① 主引用発明において、(推進機は2個であるが、)

   3個にすることは、容易に想到し得たものである。

 

 ② 副引用発明における「3個の推進機を有する構成」を、

   主引用発明の(2個の推進機を有する)飛行体に採用することは、

   当業者が容易に想到し得たものである。

 

ロジック1について

 

 ① 主引用発明において、(推進機は2個であるが、)

   (副引用発明のように)3個にすることは、

   容易に想到し得たものである。

 

 副引用発明がなくても、「2個を3個にするなんて普通にやるだろ!」という

拒絶理由が、下位の従属項であれば、(論理なく)当たり前のように飛んで来そう

ですね・・・。

 

 まぁ、(副引用発明は「飛行体」ではなく、あくまでも「船」ですが)

誤魔化すように、「(たとえば、引用発明2参照。)」とか、拒絶理由の末尾に

書いてあったりして・・・。

 

 推進機2個を3個に増やすというのも、(過去に3個のものがなかったわけなので)「普通だろ」と言われても、それは全く論理的ではありません。

 

 これについては、下記ケーススタディ1のロジックAをご覧ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 要するに、主引用文献の中で、その課題やら技術的意義やら示唆として、「推進機の数を増やす」(という技術的思想)を読み取ることができれば、それを更に推し進めて2個⇒3個とすることも容易であると、「一応」論理的に言えるかもしれません。

 

 ところで、本件では、副引用発明は3個の推進機を有しているわけですが、

この副引用発明は、本件発明や主引用発明の「飛行体」とは異なり、「船」です。

 空中を飛ぶ飛行体と、水の上を進むとは、一応違いますよね。

 

 これらを組み合わせることができるかどうかは、論理付けの問題なので、

ロジック2で説明したいと思います。

 

ロジック2について

 

 ② 引用発明2における「3個の推進機を有する構成」を、

   引用発明1の(2個の推進機を有する)飛翔体に採用することは、

   当業者が容易に想到し得たものである。

 

 ②’ (推進機3個を有する)引用発明2において、

   「船」に代えて、「飛行体」とすることは、

   当業者容易に想到し得たものである。

 

 一応、②に加え、②’ の拒絶理由も考えられますが、結局のところ、引用発明1と2の組み合わせができるかどうか、ということになります。

 言い換えれば、引用発明2の「船」に採用されている「推進機3個」の構成を、

「飛行体」にもってこれるか、という問題です。

 

 冒頭のスライドにあるように、論理付けイコライザで考えてみましょうか。

 これについては、下記記事をご参照。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 ①「技術分野の関連性」が一番問題でしょうか。

   飛行体と船では、

   推進機による移動体という点で技術分野が関連すると言えそうですが、

   推進する環境が水と空気では、同じ液体でも、密度が3桁以上異なるので、

   飛行体と船は技術分野が関連しない、とも言えそうです。

 

   結局、「『技術分野の関連性』なんて程度問題だろ?」と思われた方、

  するどいです。課題や機能・作用の共通性など、他の論理付けも含め、

  程度問題です。

   言い換えれば、どのくらい「抽象的に」あるいは「具体的に」関連している

  (共通している)かを見る必要があるのです。

   これを、イコライザとして比喩的に表現しているのが冒頭のスライドの

  左下の図です。

 

   これについては、下記記事で取り上げています。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

  ②「課題の共通性」は、スライドにあるように、

   引用文献1及び2に「推進力が不十分」という共通する課題が

   読み取れるとすれば、一応共通しそうです。

 

  ③「機能・作用の共通性」ですが、同じ推進機(推進力を生む機械)という点では

   共通しますが、飛行体と船の推進機は(仮に、共にプロペラとかであれば

   「原理的に」くらいは共通する可能性がありますが、)具体的に見れば、

   普通は異なるのではないでしょうか。

 

  ④「示唆」は、引用文献1、2を見てどの程度の示唆があるか無いかです。

   「示唆」については、まだ、進歩性の基本的考え方の中で具体的に

   説明していませんが、論理付け要素の「その他」(あるいは総括的な要素

   であると個人的には理解しています。

 

  ⑤「阻害要因」は、たとえば、主引用文献において、(具体的に見ると)

   3個目を設置する物理的制約がある場合などです。

   これも、主引用文献をどこまで具体的に見るかの問題ですが、

   これに関して、具体的に見えすぎるが故に、進歩性否定の証拠として

   一般的に使いにくいものは何でしょうか?そうでう、公然実施品です。

   これについては、最近、下記記事で書きました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 ⑥「効果の予測可能性」ですが、これは物理的な効果なので、

  通常は予測可能なように思われます。

 

 ということで、①~⑤の論理付け要素(①~④は進歩性否定のプラス要素、⑤はマイナスの要素)と⑥効果の予測可能性(これの進歩性ロジックにおける位置づけについては争いあり。)のイコライザにおいて「(どの要素がどの程度右に振れているか」で、組合せ容易(進歩性なし)を導けけるかどうかが決まりまそうです。

 

 判断者は、「(どの要素がどの程度右に振れているか」(=進歩性否定の基準をどこに設定するか)で、結論をどっちにでもできますね(下記記事ご参照。)。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 判断者による「論理」は、以上の論理付け要素とその評価で決まりますが、そうは言っても、判断者は「人」。やはり直感は大事です。

 

 言い換えれば、「推進機1個増やしただけだろ、しょーもな。」と印象づければ、

結論として、進歩性を否定してもらえるかもしれません。

 

 我々弁護士・弁理士は、「論理」を提示し、裁判官(審判官・審査官)の直感をくするぐります。

 

 翻って、ケース4は、結局のところ、本件発明(飛行体)は推進機が3個、従来技術では飛行体の推進機が2個しかない。でも、ちょっと隣接する分野(船)では3個のものがある。そういう事例です。

 

 (論理付けに必要な証拠だけでなく)直感的にも、推進機1個増やしただけを

印象づける(ある意味では直接的ではないにしても)証拠類を提出することも考えられます(論理というよりは力業ということもあり、不正競争防止法における周知性・著名性の立証のような感じでしょうか。)。

 

最後に

 

  進歩性判断のケーススタディの記事を書いてみました。

  久しぶりのケーススタディなので、ちょっと長くてくどくなってしまいました。

 

  ご批判あればお寄せください。

 

 

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