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特許実務-進歩性の基本的考え方(ケース1)

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ケーススタディ

 

はじめに

 

 これまで、13回にわたって、進歩性の基本的考え方について記事にしてきました。

 

 論理付けやら、本件発明の課題、効果など、進歩性の文脈で問題となるトピックについて説明してきました。

 

 これからも暫くは続けていく予定なのですが、(一応具体例も入れてはいますが)概念の説明だけでは具体性に欠くところもあるので、ケーススタディをいくつか作成しています。

 

 今回は、その一つ目について紹介したいと思います。

 

ケーススタディ

 

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ケーススタディ

 

仮想事例

 

 上記スライドにあるように、仮想事例ではありますが、本件発明は、

 

 推進機を3個有する移動体

 

です。説明を重視するため、ちょっと抽象的な発明ですいませんが、実施例としてはスライドの上図のとおり、進行方向前方に1個後方に2個推進機がある移動体です。

 

 従来発明(公知文献1)は、

 

 推進機を2個有する移動体

 

で、具体的には、後方に2個推進機がある移動体です。

 

とします。

 残念ながら、(新規性を否定できるような)3個推進機がある移動体は先行文献調査で見つからなかったとします。

 

 さて、本件発明は、公知文献1に基づいて、容易に想到し得たと言えるでしょうか。

 

ロジックA (文献1つで)

 

 2個を3個にするのは容易でしょ?

 

と言いたいところですが根拠がないと、現に3個の推進機を有する移動体がこの世ににない以上、独断になってしまいますね。

 

 さて、公知文献1を見ると、【従来技術】では推進器が1個だけでしたが、【課題】1個では推進力が不十分であったことから、【発明】2個の推進機を設けたと記載されていたとします。

 

 そうすると、確かに、公知文献1には、3個の推進機を有する移動体自体は開示されていませんが、推進機を(1個から2個へ)増やそうという技術的思想は読み取れるかもしれません。

 

 もう少し詳しく言うとすると、

 

 【従来技術】推進機1個だけの移動体

 

 【課題】移動体において、推進力の不足

 

 【技術的思想】推進機を増やすという技術思想

        ※他にも、推進力の不足という課題を解決する技術的思想としては、

         移動体の軽量化推進機自体の性能向上なども考えられますが、

         本件発明は、推進機の個数を増やすという点が技術的思想ですね。

 

 【発明】(=課題解決原理) 推進機を2個有する移動体

 

です。

 

 なお、技術的思想に関しては、下記記事をご覧ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 そうすると、公知文献1には、(具体的には、1個から2個へ)推進機を増やすという技術思想が読み取れますから、公知文献1記載の2個の推進機を有する移動体において、更にこの公知文献1が開示する技術的思想を推し進め(1個から2個へ、更に2個から3個へ)、3個の推進機を有する移動体とすることは、容易に想到し得たということができるかもしれません。

 

 公知文献1から読み取った推進機の個数を増やすと言う技術的思想は、別の言い方をすれば、公知文献1に推進機を(更に)増やすという示唆があるという言い方もできるかもしれません。

 示唆については、まだテーマとして記事にしていませんので、いずれ記事にしたいと思います。

 

 しかし、まぁ、証拠よりも論理(理屈)の割合が大きいので、なかなか説得力があるかどうかはわかりません。

 この点については、下記記事(論より証拠)でも言及しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 しかし、このロジックAによると、たとえば、本件発明において推進機が3個ではなく、4個以上であった場合にも、同様の理屈で、進歩性欠如のロジックを構築できるわけです。

 

 「1個⇒2個」であれば、これを更に「2個⇒3個」にするだけでなく、「3個⇒4個(以上)」にするのも容易と言うことできるわけです。

 

 プログラミングのループみたいですね。

 

 これに対し、次回ご紹介する予定の(スライドにもある)ロジックBは、ロジックAよりも証拠の割合は多い(論理は少ない)ですが、4個以上の推進機を有する移動体について、進歩性欠如のロジックを構築することは難しいかもしれません。

 

最後に

 

 次回は、同じ仮想事例で、(公知文献1に公知文献2を組み合わせるロジックBについて説明したいと思います。

 

 

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