理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許実務 - 特許実務において頻出する悩ましい問題について(セミナー資料)

www.slideshare.net

 

はじめに

 

 昨年末に某大学で行ったセミナーの資料を共有します。

 

 企業等の知財担当者をはじめ、300人近くの方に出席して頂いたそうです。

 でも、ウェブ開催なので、その実感がなく(参加者の顔も見れず)、緊張感が全くありませんでした・・・。

 AIPPI判例研究会(これは、コロナ前なのでリアルでした。)での発表以来の大人数でした。

 

内容

 

 事前にご担当者様から「テーマは自由です!」と言われ、逆に困ったので、標記のテーマで、オムニバス(ダイジェスト)にしました。

 

 ① 理想的なクレーム

 ② 侵害立証の問題

 ③ 審査・審判・訴訟における判断者の違い

 ④ 進歩性の判断と発明の課題

 ⑤ 侵害主体や間接侵害・特許保証の問題

 ⑥ 数値限定発明、パラメータ発明

 

と、あまりにも内容を欲張り過ぎました(笑)。

 

 セミナーの時間は90分でしたが、ギリギリでした。

 

 それぞれのテーマについては、各数時間かけるべき内容ですよね(進歩性は10回コースでもよいくらいですね。)。

 

 ④の進歩性については、以前に、これだけのテーマのスライドを共有させて頂きました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 セミナー終了後は、(その場での質問は時間的に2、3つしかできなかったため、)メールでの質問が沢山・・・。

 また、企業内セミナーもやらせて頂いています。

 

 セミナー終了後のご質問に答えるのは大変なのですが、各企業の知財担当者が日ごろ疑問に思っていることや、知財業務の問題点などが分かるので、実は、ご質問を受けつつ、私にとって貴重な情報を提供して頂いている感じです。

 

 でも、「具体的な」相談については、有料でお願いところですが・・・。

 

 あと、セミナーやっても、ほぼ収入にはならないので(このセミナーは無料で、報酬は国立大学からなので・・・、1回お酒を飲める程度)、やっぱり事件を扱わないと弁護士としては生きていないのです。

 

 「口」(セミナーや口頭での回答)だけではなく、「手」(書面の起案)を動かさないと、弁護士としては生きていけないのです。

 

最後に

 

 ⑤(侵害主体や間接侵害・特許保証の問題)と⑥(数値限定発明、パラメータ発明)についても、これらの単独テーマのセミナー資料がありますので、いずれ共有したいと思います。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング

 

 

特許実務 - 進歩性の基本的考え方(17)【公知文献(特許文献)と公然実施品】

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220207151458j:plain

公知文献(特許文献)と公然実施品

 

はじめに

 

 進歩性の基本的考え方の記事を再開しています。

 

 前回は、主引用発明に副引用発明を付加する場合と置換する場合についてでした。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 

 今回は、公然実施品を進歩性否定のロジックで使う場合の問題点についてです。

 

公然実施品を公知発明として使う場合

 

 進歩性のロジックを否定する場合は、通常は、特許文献や他の文献を使う場合がほとんどです。

 

 公然実施品による進歩性否定のロジックを構築しなければならないのは、やむを得ない場合です。つまり、適切な公知文献(特許文献等)がどうしても見つからない場合です。

 

 どういう場合に見つからないかというと、典型的には、特殊な数値限定発明パラメータ発明ような「やっかいな特許」を、つぶさなければならない場合です。

 

 どうも従来技術(従来品)を含んでいるであろうパラメータ発明が特許されてしまう場合は結構散見されます。そして、パラメータ発明、は特許文献が見つかりにくい場合が多いです。

 

 その場合、公然実施品(従来品)を分析(実験や測定)をして、当該パラメータ発明の構成要件を充足するかどうか検証することになります。

 

 これは必ずしも進歩性の問題ではなく、新規性を否定する場合でもそうですが、パラメータ発明(数値限定)特有の実験条件等が問題になります。

 

公然実施品による進歩性否定の難しさ

 

公然実施品は(極めて)具体的構造

 

 スライドにもありますように、特許文献は、実施例により(実施可能要件違反にならない程度に)ある程度は具体的に記載されているものの、文献なので、実施品そのものを詳細に説明しているわけではありません。

 ですので、比較的抽象的に公知発明を捉えることができます(なお、スライドの絵では、公知文献を「四角形」にして、他の公知文献と組み合わせやすいイメージの形にしています。)

 

 これに対し、公然実施品は、具体的な製品です。構造が具体的なので、特許文献ほど抽象的に捉えることができない場合が多いです(なお、スライドの絵では、公然実施品を「ギザギザ型」にして、他の公知文献と組合せにくいイメージの形にしています。)。

 

 ですので、他の文献(副引用発明)と組み合わせるときに、どうしても、公然実施品は使いにくい(組み合わせにくい)という問題が生じてしまいます。

 

 感覚的にもそうなのですが、たとえば、公然実施品のある構成Pを、副引用文献により他の構成Qに置き換えるとしても、公然実施品として完成された構成(ある意味、最適化された構成)を取り除いて、他の構成に置き換えるというのは、「なんでそれ自体完成している製品の構成を取り除いて置き換えるの? 恣意的(後付け)じゃない?」となってしまう場合があります。

 

 これが、公然実施品を進歩性否定のロジックで使う際の難しさの一つです。

 

公然実施品は、論理付け要素を直接語らない

 

 また、公然実施品は、たとえば、進歩性判断に用いられる論理付け、たとえば、課題(の副引用発明との共通性)などを直接的に語ることはありません。公然実施品そのものからは、課題を抽出することが難しいのです。

 

 なお、技術分野の関連性については、公然実施品そのものが、ある技術分野に属しているというのは比較的言いやすいので、論理付け要素としては、公知文献(特許文献)の場合とそれほど差違はないかもしれませんが。

 

 そこで、公然実施品を主引用発明として、他の文献(副引用発明)と組み合わせるときには、公然実施品自体が有する論理付け要素(課題など)を技術常識や周知技術などとして他の証拠により、補足的に主張・立証しなければなりません

 

 公然実施品だけを証拠とするのではなく、その周辺情報(この公然実施品が背景として有する課題など)も、証拠で立証しなければならないということです。

 

 たとえば、(公然実施品との関係で直接的なものとしては)取扱説明書や、スペック表や、パンフレットでしょうか。(やや間接的なものとしては)公然実施品の技術的背景を説明した論文や記事や、発明によっては消費者のアンケート結果とか、様々でしょう。

 

 同じ論理付けでも、公然実施品の機能・作用(の副引用発明との共通性)であれば、公然実施品そのものが持つもの(内在するもの)ではありますが、その機能・作用が直接的に見えないような場合には、その機能・作用を実験などにより発現させ、証拠(実験報告書等)により補わなければなりません。

 

 また、公然実施品に(論理付け要素としての)示唆があるというのは、なかなか想定しにくい概念かもしれません。

 

まとめ

 

 このように、公知文献(特許文献)と比べて、公然実施品は、他の副引用発明との組合せで進歩性否定のロジックを構築する際、動機付けの立証が難しいです。

 

 しかし、裁判例上は、公然実施品を用いて進歩性を否定したものもいくつかあり、決して不可能というわけではありません。

 

 なお、あくまで経験上ですが、特許無効審判(つまり特許庁)で、公然実施品を用いて特許無効の審決を出してもらうのは、裁判所と比べると難しい印象です。

 審判官が、裁判官ほど、(文献ではない)証拠(公然実施品)の扱いや評価に慣れていないからではないでしょうか(なので、保守的に、公然実施品による特許無効を判断するのに躊躇する。)。あくまでも私見です。

 

 いずれにしましても、公然実施品を用いて特許発明の進歩性を否定することは、上述のとおり、①公然実施品自体を分析して証拠を作成したり、②論理付け要素などについて、技術常識や周知技術を他の証拠で補ったりしなければならないので、結構大変なのです。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング

 

特許実務 - 進歩性の基本的考え方(16)【置換と付加】

はじめに

 

  サボっていた進歩性の基本的考え方のスライド説明を再開したいと思います。

 全体のスライドは、下記です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 今回は、「置換と付加」です。

 

 (私のパソコン、私が刑事事件を扱う影響で「置換」よりも「痴漢」が先に出てきてしまいます。誤変換に注意しなければ・・・。)

 

置換と付加

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220203171703j:plain

進歩性の基本的考え方「置換と付加」28頁

 

 引用文献1(主引用発明)と引用文献2(副引用発明)とを組み合わせて、進歩性否定する理屈を考える場合、

 

置換であれば、

 

 「主引用発明(引用文献1記載の発明)において、「構成○」に代えて、

  引用文献2記載の・・・という構成「構成○」を採用(つまり置換)することは、

  容易に想到し得たものである。」

 

となり、

 

付加であれば、

 

 「主引用発明(引用文献1記載の発明)において、

  引用文献2記載の・・・という構成「構成△」を採用(付加)することは、

  容易に想到し得たものである。」

 

となりそうです。

 

 より具体的に見ると、置換の場合は、進歩性を否定するロジックとして、

 ① 引用文献1の既にある「構成○」を(敢えて)削除し、

 ② 別の引用文献2の「構成△」を付加する

わけですから、厳密には2段階です。

 

 付加の場合は、②だけなので1段階です。

 

 そこで、置換の場合には、代替可能性について、しっかりとした理由がないと進歩性を否定するのは、一般的には、付加よりも難しいはずです。

 

 一方で、付加の場合は、ある意味で、付加する「構成△」を採用するかどうかどうかは、引用文献1にはそれに相当する構成が(書いて)なくフリーなわけですから、比較的付加しやすいように思われます。

 

 あくまで、一般論ですが。

 

 また、後日、別の記事で書きたいと思いますが、主引用発明として公然実施品を持ち出さざるを得ない場合、これは、置換が難しい典型です。

 

 だって、公然実施品は、それ自体、完成されているわけですから、敢えて、公然実施品のある構成を、(別の文献の)別の構成に置換するというのは、感覚的にも「なんで?後付けじゃねぇ。」となってしまいそうだからです。

 

f:id:masakazu_kobayashi:20220203171747j:plain

進歩性の基本的考え方「置換と付加」29頁

 

 主引用文献から、あるいは、副引用文献から、本件発明に相当する構成を抽出し、組み合わせるわけですが、構成というのは、(確かに、訴状などで、発明を分説したりしますが、)実際には、互いの構成は密接関連性を有する(切り離すのが難しい)場合は多いです。

 

 上記スライドにあるように、

 

 主引用文献から(構成要件A、B、Cと密接に関連するかもしれない)構成Pを

無視して、構成A+B+Cを抽出し、

 

 副引用文献から(構成要件Dと密接に関連するかもしれない)構成Eを無視して、構成Dを抽出し、

 

 これらを組み合わせて、「本件発明(構成A+B+C+D)が出来た!」というのは、おいおい恣意的じゃねぇか、と言われることもありそうです。

 

 各引用文献における(進歩性を否定するために)抽出すべき構成が他の構成と密接に関連している場合には、ロジックが弱くないか注意が必要です。

 

 言い方を変えると、なんでもかんでも、(構成の)「単なる寄せ集め」にはできないということです。

 

 スライドに書きましたが、補正の文脈での、EPOUnallowable Intermediate Generalisation許されざる中間概念化)を想起させますね。

(なお、敢えて、Generalizationではなく、Generalisationとしました。ヨーロッパかぶれですね。てへ。)

 

最後に

 

 次回は、「特許文献と公然実施品」、「組合せ類型とロジックの強さ」というように、スライドの解説を続けて行きたいと思います。

 

 時間があればですが。コロナの自宅待機になってしまったら、(「手持ち資料なくて、仕事はかどりませ~ん!」とか言いながら、)一気に進みそうですが。

 

 間違っていたり、違うお考えの方は是非ご教示ください(特に、化学系の方)。

 どうぞよろしくお願い致します。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング

 

特許実務 - 複数の特許権、複数の被告、併合

はじめに

 

 下記の進歩性のスライドが思いのほか好評でした。ありがとうございます。

 ブログを書く(セミナーをやる)モチベーションにしたいと思います。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 さて今回は、

 

 原告Xの特許権1、2を侵害するY社製造の製品がZ社によって販売されている場合(Y、Zが共同の実施主体の場合ではなく、それぞれが製造と販売を実施している場合)について検討します。

 

 複数の特許権複数の被告(製造者と販売者など)、それぞれの事件が別々の部に係属した場合の併合の可否について、ざっとまとめておきます。

 

 間違っていたら、教えてください。

 

特許権複数の場合

 

 原告Xは、被疑侵害品を製造するYに対し、自身の特許権1及び特許権2をそれぞれ侵害しているとして、訴える場合があります。

 

 原告が、被疑侵害品が、特許権1も特許権2も侵害していると考えた場合は、一つの訴状で訴えることもできるでしょうし、特許権1、特許権2について、それぞれ別々の訴状で訴えることもできます。

 

 別々の訴状で訴えると、裁判所では機械的配点によって、別々の部に係ってしまうことがあります(東京地裁には知財部が4つあります。)。

 場合によっては、受付で、訴状を持参した原告に対し、書記官が「2つの訴状の事件について、同一の部に係属にしますか?」と聞いてくるかもしれません。

 

 被疑侵害品が一つであれば、一つの訴状で訴える方が合理的なように思われますが、裁判所的には、訴状ベースで(1件ではなく)2件を処理した方が処理実績になるので、おそらく、別々の訴状で訴えてもらった方が嬉しいのでしょう。

 

 原告が、大企業などの場合は、戦略的に、複数の裁判所(係属部)に係った方が、1つでも勝てば被告にプレッシャーをかけられるので、別々の部に係属することを望むかもしれません。

 

 一方で、被告としては、当事者(原告・被告)が同じで、被疑侵害品が同じであれば、1つの係属部に併合してもらいたいと思うのが通常でしょう。被告は、係属する部それぞれに対し、併合の上申をすることになります。

 

 なお、併合は、通常、(事件番号が若い)先に係属した裁判所の事件に、後に係属した裁判所の事件が併合されるのが通常で、先に係属した裁判所が、併合の可否を判断します。

 

被告複数の場合

 

 原告Xは、侵害品を製造するY、これを販売するZを、それぞれ、原告特許権1を侵害しているとして、訴えることができます。

 

 なお、通常は、販売者Zを訴えることはしませんが、販売者Zも発明品の販売という発明の実施行為をしているので、訴えることはできます。

 

 この場合、原告Xは、被告Y、Zを一つの訴状で訴えるかもしれませんし、別々の訴状で別々に訴えることもできます。

 

 原告としては、どちらかで勝てば(たとえ、被告Yとの関係で負けても、被告Zとの関係で勝てば)、製造者Yにプレッシャーを与えられるので、別々の部に係属することを望むかもしれません。この点、同じ特許権、同じ被疑侵害品であれば、同じ結論が出そうですが、別々の部に係属すれば、別々の判断が出てしまうことも想定されます。

 なお、通常、Y、Zの間には、特許保証など何らかの契約関係があることが多いです。

 

 裁判所的には、処理件数が多い方が実績になるので、同様に、別々に訴えてもらいいでしょう。

 

 たとえば、販売者であるZは、そもそも、被疑侵害品の構成自体を知らない場合も多いでしょうから、製造者であるYに訴訟対応について助けを求める必要が出てきます。

 

 そこで、被告Yの事件が係属した部と、被告Zの事件が係属した部が異なる場合には、被告Zとしては、被告Yの事件が係属した部への併合を望むでしょう。

 

 そこで、被告Zは、自分の事件が係属した部に対し、被告の事件が係属した部への併合を上申するでしょう。

 場合によっては、(被告Z自身は当事者ではないものの)被告Yの事件が係属した部へも併合の上申することもあるかもしれません。

 

 仮に、上申が認められない場合でも、ただの販売者である被告Zは、単独で戦うのが難しい場合が多いので(被告製品の構成自体を知らないかもしれない)、被告Yへ訴訟告知をし、被告Yに補助参加してもらうように対処するでしょう。

 

 訴訟経済上は、一つの裁判所が、被告Yと被告Zの双方の事件を審理した方がよいように思いますが、裁判所の事件処理の過度の負担を回避するという面もあるでしょうから、裁判所としては、併合を認める場合もあれば、認めない場合もありそうです。

 

 原告としては、別々の部に係属することを望む(一つが当たれば良い)、被告らとしては、(特に、販売者Zとしては、製造者Yがいないと訴訟が戦えないので、)同じ部に係属することを望むのが、一般的かもしれません。

 

最後に

 

 以上のとおり、ざっと、特許権侵害訴訟において、複数の特許権、複数の被告(共同侵害とかではなく、製造者と販売者)の場合の併合について書いてみました。

 

 以上述べたように、①原告の訴訟戦略、②販売者たる被告は、現実には単独では戦えず、製造者の助けを求めなけれならないこと、③(お役所的ですが)裁判所の処理件数(実績)、④1つの裁判所に係属することによる当該裁判体の処理負担、⑤訴訟経済、統一した判断等、いろいろと考慮要素があります。

 

 また、別々の訴状にするか、一つの訴状にするかは、原告にとっての印紙の問題や、損害賠償の問題も生じ得ますね。

 

 間違っていたら、教えてください。どうぞよろしくお願い致します。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング

 

 

特許実務 - 進歩性の基本的考え方(プレゼン資料)【全くの私見】

www.slideshare.net

 

はじめに

 

 予告しましたように、進歩性に関するプレゼン資料(進歩性の基本的考え方【私見】)をアップしてみました。

 

 

作成した経緯

 

 私は、特許審査官を7年半やって、その後、知財系の弁護士・弁理士になり、今でも、進歩性の判断(特許クリアランス)をはじめとした特許実務に関わっています。

 

 進歩性というのは、特に弁理士さんの仕事としては、おそらくは最も重要で理解すべき項目でありながら、いつまで経っても良く分からない(=進歩性の有無を判断できない)捉えどころのないもののようにも思われます。

 

 私も、かれこれ20年近く特許実務をやっていますが、正直よく分かりません。

 逆に、「進歩性を完全に理解した!」という人がいれば会って問い質してみたいくらいです(笑)。

 

 ということで、一番重要かつ頻出する進歩性ではありますが、私個人としては、他人様に対して、進歩性について説明するという出過ぎた真似はできないと思っていました。

 

 ところが、ある企業で、知財部の方の進歩性(というか、特許クリアランス)の判断が、知財部員により差があるため、全体の底上げをしたいというご要望があり、進歩性について、基本的なところから解説して欲しいと言われました。

 

 最初は「うーん、進歩性は無理!」と思い、審査基準を解説して、高石先生の本を読んでくれと言い、あるいは、いくつかの裁判例を解説して逃げようかと思いましたが、一度はちゃんと進歩性について、基本的なところから考えて見て、その検討結果を残しておきたいと思い、90分程度のプレゼンに収まるようなプレゼン資料を作成しました。

 

 作成してみて、いろいろ分かったこともあり、増々分からなくなったこともありました。

 

プレゼン資料の内容

 

 冒頭から、進歩性の判断は「どちらにも転がせる。」というのは、判断者(審査官・裁判官)に対して失礼な物言いかもしれません。しかし、進歩性判断の枠組みからすれば、そのようになっていると思います(もちろん、ご批判は承りたいと思います。)。

 

 各スライドについては、今後、個別に、このブログ内で詳しく解説しています。

 既に、このブログで、いくつかのスライドについて解説をしています。

 

 進歩性判断のポイントは、なるべく簡潔に言うと、

 

 ① 各論理付け要素(判断要素)と、その関連性の抽象度・具体度合いを見定め、

  総合的に判断する。

   ※判断要素が多く、その抽象度・具体度合いまで見るので、

    進歩性の判断は、「総合的に」判断するので、どちらにも転がせる(てへ)。

 

 ② プロパテント以降、本件発明の課題を判断に取り入れている。

  ※動機付け要素に、更に、もう1つの判断要素が増える。

  ※おそらくは、主引例の適格性の問題に帰着するかもしれない。

 

 ③発明の効果も(特に化学分野で)重要で、最高裁も出ている。

  ※特に化学分野で重要な、もう一つの判断要素ですね。

  ※ただし、発明の効果については、私まだ理解が十分ではなく勉強中。

   事務所のプレゼンでごまかし、偉い先生に指摘されてしまいました(笑)。

 

 ④イメージとして、発明は、「構成」が原則としても、「課題」も見るので、

  発明は、スカラー量ではなく、ベクトルとして捉えよう

  ※構成が近いものだけでなく(スカラー量)、(課題の方向が似た)

   ベクトルが近い引用例を探そう。

  また、本件発明の「課題⇒構成⇒効果」と、進歩性否定のロジックは、

  山登りに例えられる

 

と言ったところでしょうか。

 

最後に

 

 私はもともと機械系の出身なので、どうしても、機械・電気を念頭に置いた説明になってしまいます。

 一方で、審査官時代にも経験しましたが、化学・薬学分野では、進歩性についても、だいぶ考え方が違うことは承知しており、前述の「発明の効果」については、考慮要素としての位置付けや、考慮の仕方などをもっと勉強しなければとも思っています。

 

 今後の一応の目標として、裁判例にたくさんあたって(あるいは、ちょっとサボって)高石先生の本を読んで、進歩性についての考え方を改めたりしながら、詰めて行こうかと思っています(時間があれば)。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング

 

 

特許実務 - 特許法・実用新案法と実務(プレゼン資料)

www.slideshare.net

 

はじめに

 

 久しぶりのブログですね。

 この最近は、知財関連のプレゼンを行うことが多くて、スライドをブログで共有したいなぁと思っていたところ、ツールを発見したので、試しにアップしてみました。

 

 今回のプレゼン資料は、某大学で実施した特許法・特許実務に関するセミナーの資料です。

 おそらくは、一番基本的な内容のものだと思います。

 

今後のプレゼン資料

 

 実は、最近、進歩性に関するプレゼンを私の所属する事務所(中村合同特許法律事務所)内で実施した(正確にはさせられた)ところ、思いのほか好評でした。

 もともとは、某企業の知財部の方向けに実施したものですが、アレンジしました。

 

 このような時期なので、事務所内とは言え、ウェブでプレゼンしたのですが、何十人という弁護士・弁理士先生に参加頂きましたし、セミナー後は、廊下ですれ違ったたくさんの弁護士・弁理士先生に(はじめてお話しした先生もいました!)、「先生、凄い分かりやすいですね。」と言って貰えました。

 

 普段仕事をしていて(本格的に)褒められることは無いので(怒られることもありませんが)、ちょっと嬉しいですね。

 

 進歩性のプレゼン資料は既にできており、一部は、このブログでも解説記事とともにスライドを載せていますが、まもなく、まとまったプレゼン資料をアップしようと思います。

 

 あとは、間接侵害・共同侵害サポート要件数値限定発明のそれぞれに関するプレゼン資料もあるので、今後アップしたいと思います。

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング

 

 

起訴後の勾留取消請求

 

はじめに

 

 今回は、起訴後の身柄釈放の手段としての勾留取消請求について、最近の事件でやってみたので、忘れないように残しておこうと思います。

 

 ちょっと専門的なところがあるので、一般の方が読んでも分かりにくいところがあるかもしれませんが、本記事は、私の備忘録ということで、何卒ご容赦ください。

 

 逆に、専門家(弁護士など)の方、もし、間違っていれば(弁護活動として適切ではない点があれば)、こっそり教えてください。

 

起訴後の勾留取消請求

 

起訴前(捜査段階)

 

 弁護人は、起訴前(捜査段階)は、勾留されないよう、あるいは、勾留延長されないよう活動します。

 されてしまうと、裁判所に対して、準抗告特別抗告をして、争います。

 

起訴後

 

 一方、起訴された後は、身柄釈放の手段としては、通常、保釈請求をします。

 

 保釈というのは、皆様よくご存じのとおり、お金を積んで、釈放してもらいます。案件によりますが、一審だと150万円~です。

 

起訴後の勾留取消請求

 

 一方で、勾留取消請求というのもできますが(保釈と違い、お金は積まなくてよい。)、保釈と違い、実務上、なかなか認められません。

 

事案

 

 (窃盗や詐欺などの)財産犯の事件で、起訴はされましたが、執行猶予が見込まれる事案でした。

 結果的に、執行猶予で終わっています。

 

 起訴された後、保釈請求をしたかったのですが、身元引受人保釈金が準備できない事案でした。

 

 なお、保釈金が用意できない場合でも、たとえば、日本保釈支援協会を利用して立て替えてもらう方法もあるのですが、諸事情により、本件では利用できませんでした。

 

 ですので、保釈は諦めていました。

 

 第1回公判期日が終わり、検察官から言及があり、追起訴予定ということでした。

 

 追起訴というのは、既に起訴された事件(本件では、財産犯)とは別の事件(実は、これも同じような財産犯でした。)をこの裁判で一緒に扱ってしまう制度です。

 

 検察官が、後に、追起訴をし、請求予定の証拠が開示され、その後、第2回公判期日となります。

 

 しかし、1か月待っても、2か月待っても追起訴はされませんでした。被告人は、(拘置所に移送されることなく)警察署の代用監獄で待たざるを得ない状況でした。

 

 つまり、第2回公判期日がずっと開かれず、いわば放置状態になっていました。

 

 検察(公判)に問い合わせたのですが、「追起訴はまだのようです。捜査の方の検事(起訴検事)に聞いてみてください。」と、東京ならではの役所のたらい回しに会い、捜査の方の検事に聞いてみても、「まだ、警察から送致されて来ないんすよね。」と言われました。

 

 ん-、ちょっと待たせすぎ。というか、追起訴予定だったんじゃないの?

 

 実刑であれば、公判で待たされた分は、未決勾留期間で考慮してもらえる可能性があるのですが(罰金であれば満るまで)、執行猶予が見込まれる事案は、待たされれるだけで無駄な期間になってしまいます。

 

 そこで、被告人と相談し、勾留取消請求をすることにしました。

 

 普通の身柄拘束では、逮捕・勾留で20日ちょっとの期間制限内で起訴されるのに、本訴を利用した追起訴の取調べが2か月近くに及んでいるのは、明らかに不当だと思いました。

 

 別件(本訴の事件)の身柄拘束を利用した別件(追起訴しようとしている事件)の取調べですよね。

 

勾留取消請求の懸念と本件の内情

 

 もっとも、勾留取消請求をして、

 

 ① 検察官が、別件について改めて被告人を逮捕・勾留したら、却って勾留期間が

  長くなってしまうのではないか、

 

 ② 公判で2つの別々の事件として扱われたら、追起訴により一緒に2件を扱う

  場合に比べ、量刑で(1.5倍ではなく、足し算になってしまい)

  被告人に不利になるのではないか、

 

という懸念があったのですが、被告人に事情(リスク)を説明し、それでもこれ以上追起訴をたされるのは嫌だということなので、勾留取消請求に踏み切りました。

 

 実のところ、被告人が警察に聞いた話によると、追起訴予定の事件は、当初事件化(追起訴)する予定はなかったそうです。

 ところが、異動により新しい担当検察官に変わり、前任が事件化する予定がなかったのに、一から捜査し、追起訴をすることを警察に指示したようです。

 警察の捜査担当が、被告人に愚痴っており、被告人に申し訳ない、と言っていたそうです。

 

 そういうことを聞くと、弁護人としては、ちょっと「んー。」と思い、普段やらない勾留取消請求をしたくなった次第です。

 

 事前に、裁判所に電話をし、「追起訴が大変遅いようですが、検察から何か伺っていますか?」と伺ったところ、書記官の方が「裁判官も認識しております。大変申し訳ありません。検察官に確認してみます。」とおっしゃっていたので、追起訴が遅く、被告人が不当に長く拘束されていること自体に問題意識はあるようでした。

 追起訴が未定であるにも関わらず、とりあえず、12月に公判期日が指定されました。

 

勾留取消請求

 

 具体的な追起訴予定はなかったようなので、勾留取消請求をしました。

 

 通常の勾留の理由・必要性に加え、(追起訴待ちで)不当に身柄が長く拘束されていることに言及しました。憲法問題を持ち出して、特別抗告(最高裁)までやるつもりでした。

 

 結果は、残念ながら(というか、案の定)、却下決定(却下の理由は、具体的に書かれない)で、勾留の取消は認められませんでした。

 

 すぐに、高裁に抗告申立てをしました。

 

 高裁でも、抗告は棄却(つまり、勾留は取り消さない。)されました。

 理由が付されていたのですが、「11月中には追起訴がなされる見込みであることがうかがえる」との一文もありました。おそらく担当部の地裁(地裁の担当書記官から担当検察官)に確認したのでしょう。

 しかし、結果的に、11月中に、追起訴はされませんでした(おいおい)。

 

 すぐに、最高裁特別抗告の申立てをしました。

 

 しかし、抗告は棄却され、結果として、勾留取消は認めらえませんでした。

 

 久しぶりに、不当な身柄拘束について、憲法違反をしっかり書いたのですが、「実質は法令違反の主張であって」と判示され、「いや、明らかに憲法違反ですよ。」と言いたくなりました(笑)。

 

 なお、残念ながら、合議体の中に宇賀裁判官の名前はありませんでした。

 

その後の訴訟進行

 

 ということで、残念ながら、というか、予想通り、勾留取消は認められなかったのですが、その後の訴訟進行は驚くほど早かったです。

 

(高裁が言及した11月中には追起訴されませんでしたが、)12月初めに追起訴されました。

 

 第2回公判期日(追起訴の予定を確認する期日)では、裁判官が、公判廷で、追起訴が遅くなった原因を検察官に問い詰めていました。起訴検事(捜査担当)と立会検事(公判担当)が異なる東京では、ちょっと立会検事がかわいそうな気がしましたが。

 

 その後の証拠開示も驚くほど早く、追起訴の審理のための第3回公判期日も12月中になされ、しかも、その第3回公判期日後に即日判決(審理終結後、ただちに判決)でした。

 

 無免許や速度超過などの自白事件であれば、即日判決はあるのですが、財産犯では、初めてでした。

 

 通常であれば、判決まで1~2週間あるので、本件の場合、年を跨ぐことは覚悟していた(覚悟するように被告人に伝えていた)のですが、年内に、無事、執行猶予判決で釈放されました。

 

 勾留取消自体は、功を奏しませんでしたが、結果として、驚くほど早く訴訟進行がなされ、被告人にひどく感謝されました。

 

 「先生の名刺ください。友達に配ります。」

 

と言われました・・・。いや、友達の刑事事件は、やりたくないよ。

 

最後に

 

 あまりやったことのない、起訴後の勾留取消請求の事案でした。

 

 ネットで色々調べると、検察官請求証拠の取調べが終わった後(自白事件であれば、通常、第1回公判期日後)、ある裁判官は、執行猶予が見込まれる事件について、勾留取消請求を促していた、という記事を発見しました。もちろん、実務にはなっていませんが・・・。

 

 また、ネットで発見した中園江里人先生の「連続的犯罪行為に関する刑事手続上の問題点」が大変参考になりました。ありがとうございました。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング