はじめに
今回は、起訴後の身柄釈放の手段としての勾留取消請求について、最近の事件でやってみたので、忘れないように残しておこうと思います。
ちょっと専門的なところがあるので、一般の方が読んでも分かりにくいところがあるかもしれませんが、本記事は、私の備忘録ということで、何卒ご容赦ください。
逆に、専門家(弁護士など)の方、もし、間違っていれば(弁護活動として適切ではない点があれば)、こっそり教えてください。
起訴後の勾留取消請求
起訴前(捜査段階)
弁護人は、起訴前(捜査段階)は、勾留されないよう、あるいは、勾留延長されないよう活動します。
されてしまうと、裁判所に対して、準抗告⇒特別抗告をして、争います。
起訴後
一方、起訴された後は、身柄釈放の手段としては、通常、保釈請求をします。
保釈というのは、皆様よくご存じのとおり、お金を積んで、釈放してもらいます。案件によりますが、一審だと150万円~です。
起訴後の勾留取消請求
一方で、勾留取消請求というのもできますが(保釈と違い、お金は積まなくてよい。)、保釈と違い、実務上、なかなか認められません。
事案
(窃盗や詐欺などの)財産犯の事件で、起訴はされましたが、執行猶予が見込まれる事案でした。
結果的に、執行猶予で終わっています。
起訴された後、保釈請求をしたかったのですが、身元引受人や保釈金が準備できない事案でした。
なお、保釈金が用意できない場合でも、たとえば、日本保釈支援協会を利用して立て替えてもらう方法もあるのですが、諸事情により、本件では利用できませんでした。
ですので、保釈は諦めていました。
第1回公判期日が終わり、検察官から言及があり、追起訴予定ということでした。
追起訴というのは、既に起訴された事件(本件では、財産犯)とは別の事件(実は、これも同じような財産犯でした。)をこの裁判で一緒に扱ってしまう制度です。
検察官が、後に、追起訴をし、請求予定の証拠が開示され、その後、第2回公判期日となります。
しかし、1か月待っても、2か月待っても追起訴はされませんでした。被告人は、(拘置所に移送されることなく)警察署の代用監獄で待たざるを得ない状況でした。
つまり、第2回公判期日がずっと開かれず、いわば放置状態になっていました。
検察(公判)に問い合わせたのですが、「追起訴はまだのようです。捜査の方の検事(起訴検事)に聞いてみてください。」と、東京ならではの役所のたらい回しに会い、捜査の方の検事に聞いてみても、「まだ、警察から送致されて来ないんすよね。」と言われました。
ん-、ちょっと待たせすぎ。というか、追起訴予定だったんじゃないの?
実刑であれば、公判で待たされた分は、未決勾留期間で考慮してもらえる可能性があるのですが(罰金であれば満るまで)、執行猶予が見込まれる事案は、待たされれるだけで無駄な期間になってしまいます。
そこで、被告人と相談し、勾留取消請求をすることにしました。
普通の身柄拘束では、逮捕・勾留で20日ちょっとの期間制限内で起訴されるのに、本訴を利用した追起訴の取調べが2か月近くに及んでいるのは、明らかに不当だと思いました。
別件(本訴の事件)の身柄拘束を利用した別件(追起訴しようとしている事件)の取調べですよね。
勾留取消請求の懸念と本件の内情
もっとも、勾留取消請求をして、
① 検察官が、別件について改めて被告人を逮捕・勾留したら、却って勾留期間が
長くなってしまうのではないか、
② 公判で2つの別々の事件として扱われたら、追起訴により一緒に2件を扱う
場合に比べ、量刑で(1.5倍ではなく、足し算になってしまい)
被告人に不利になるのではないか、
という懸念があったのですが、被告人に事情(リスク)を説明し、それでもこれ以上追起訴をたされるのは嫌だということなので、勾留取消請求に踏み切りました。
実のところ、被告人が警察に聞いた話によると、追起訴予定の事件は、当初事件化(追起訴)する予定はなかったそうです。
ところが、異動により新しい担当検察官に変わり、前任が事件化する予定がなかったのに、一から捜査し、追起訴をすることを警察に指示したようです。
警察の捜査担当が、被告人に愚痴っており、被告人に申し訳ない、と言っていたそうです。
そういうことを聞くと、弁護人としては、ちょっと「んー。」と思い、普段やらない勾留取消請求をしたくなった次第です。
事前に、裁判所に電話をし、「追起訴が大変遅いようですが、検察から何か伺っていますか?」と伺ったところ、書記官の方が「裁判官も認識しております。大変申し訳ありません。検察官に確認してみます。」とおっしゃっていたので、追起訴が遅く、被告人が不当に長く拘束されていること自体に問題意識はあるようでした。
追起訴が未定であるにも関わらず、とりあえず、12月に公判期日が指定されました。
勾留取消請求
具体的な追起訴予定はなかったようなので、勾留取消請求をしました。
通常の勾留の理由・必要性に加え、(追起訴待ちで)不当に身柄が長く拘束されていることに言及しました。憲法問題を持ち出して、特別抗告(最高裁)までやるつもりでした。
結果は、残念ながら(というか、案の定)、却下決定(却下の理由は、具体的に書かれない)で、勾留の取消は認められませんでした。
すぐに、高裁に抗告申立てをしました。
高裁でも、抗告は棄却(つまり、勾留は取り消さない。)されました。
理由が付されていたのですが、「11月中には追起訴がなされる見込みであることがうかがえる」との一文もありました。おそらく担当部の地裁(地裁の担当書記官から担当検察官)に確認したのでしょう。
しかし、結果的に、11月中に、追起訴はされませんでした(おいおい)。
すぐに、最高裁に特別抗告の申立てをしました。
しかし、抗告は棄却され、結果として、勾留取消は認めらえませんでした。
久しぶりに、不当な身柄拘束について、憲法違反をしっかり書いたのですが、「実質は法令違反の主張であって」と判示され、「いや、明らかに憲法違反ですよ。」と言いたくなりました(笑)。
なお、残念ながら、合議体の中に宇賀裁判官の名前はありませんでした。
その後の訴訟進行
ということで、残念ながら、というか、予想通り、勾留取消は認められなかったのですが、その後の訴訟進行は驚くほど早かったです。
(高裁が言及した11月中には追起訴されませんでしたが、)12月初めに追起訴されました。
第2回公判期日(追起訴の予定を確認する期日)では、裁判官が、公判廷で、追起訴が遅くなった原因を検察官に問い詰めていました。起訴検事(捜査担当)と立会検事(公判担当)が異なる東京では、ちょっと立会検事がかわいそうな気がしましたが。
その後の証拠開示も驚くほど早く、追起訴の審理のための第3回公判期日も12月中になされ、しかも、その第3回公判期日後に即日判決(審理終結後、ただちに判決)でした。
無免許や速度超過などの自白事件であれば、即日判決はあるのですが、財産犯では、初めてでした。
通常であれば、判決まで1~2週間あるので、本件の場合、年を跨ぐことは覚悟していた(覚悟するように被告人に伝えていた)のですが、年内に、無事、執行猶予判決で釈放されました。
勾留取消自体は、功を奏しませんでしたが、結果として、驚くほど早く訴訟進行がなされ、被告人にひどく感謝されました。
「先生の名刺ください。友達に配ります。」
と言われました・・・。いや、友達の刑事事件は、やりたくないよ。
最後に
あまりやったことのない、起訴後の勾留取消請求の事案でした。
ネットで色々調べると、検察官請求証拠の取調べが終わった後(自白事件であれば、通常、第1回公判期日後)、ある裁判官は、執行猶予が見込まれる事件について、勾留取消請求を促していた、という記事を発見しました。もちろん、実務にはなっていませんが・・・。
また、ネットで発見した中園江里人先生の「連続的犯罪行為に関する刑事手続上の問題点」が大変参考になりました。ありがとうございました。