刑事事件-情状証人
はじめに
今回は、起訴された(=裁判になった)自白事件(=被告人が罪を認めている事件)において、被告人の妻や親などが、裁判において、「今後、被告人を指導監督する旨を誓約する」情状証人について記事にしたいと思います。
情状証人の役目
薬物事件(大麻、覚醒剤など)や前科・前歴があり、逮捕・勾留された時点で、ほぼ起訴される(=裁判になる)ことが明らかな事件などについては、被告人の配偶者や親などに、裁判での情状証人になってもらうための準備をします。
情状証人には、裁判所において、
「今後、被告人が、再び犯罪をしないように、指導・監督する。」
旨を誓約してもらいます。
これにより、被告人の罪が多少減刑されたり、執行猶予期間が短くなったりする可能性がありますので、重要です。
情状証人の準備
逮捕・勾留段階から、配偶者や親などに連絡し、情状証人になってもらうことを取り付けます。
もちろん、自分の配偶者や子どもですので、全面的に協力してもらえることも多いのですが、
「もう、被告人を勘当した。」
「自分は、今後(配偶者、子どもである)被告人ともう関わりたくない。」
と最初から断られることもあります。被告人の減刑のために必要です!と、説得はしますが、無理な場合はどうしようもありません。
「裁判で証言台に立つのは怖いので、嫌だ。」
という回答も結構ありますが、これは、「準備すれば大丈夫ですから。」と説得し、出廷してもらいます。
「仕事が忙しくて行けない。」
という回答も結構ありますが、情状証人が出席できるよう、事前にできる限り期日(もっとも、平日だけですが)を調整しますが、それでも「平日は難しい」と言われてしまう場合があります。
このような場合は、せめて(情状証人として出廷する代わりに、)身元引受書を裁判所に提出したいので協力して欲しいとお願いし、身元引受書を作成してもらいます。
この身元引受書も、「今後、被告人が犯罪をしないよう指導監督する」旨誓約するという意味では同じではあるのですが、実際に出廷してもらった方が、減刑のためには、はるかに効果的です。
情状証人になってもらえる場合には、なるべく、裁判期日まで、定期的に、被告人に接見(=面会)に行ってもらいます。
情状証人の証人尋問
自白事件ですので、情状証人の尋問をめぐって、裁判が紛糾することはそれほどありません。
証拠調請求により、弁護人が、たとえば、被告人のお父さんを証人として請求します。
検察官も、たいていは「しかるべく。」(=裁判官のご判断に任せます)と答え、裁判所も、証人尋問を認めてくれます。
弁護人が、要するに、「今後、被告人が犯罪をしないよう指導監督してくれますね。」ということを確認します。具体的には、
① 被告人の近い身内であり、同居していること、
② 逮捕・勾留後も、警察署や拘置所に被告人に接見(=面会)に行っていること、
③ 被告人の今回犯した罪などをちゃんと理解し、再び、犯罪に手を染めないよう
にするための具体的な具体的な手段
を話してもらうこと
が中心です。
たとえば、③については、薬物事犯であれば、一緒に薬物治療に通ったり、ダルクに通ったりといったことを証言してもらいます。
裁判は、自白事件の場合、わりとあっさり終わることが多いので、弁護人としても情状証人になってくれる方、と少し打ち合わせをし、事実関係を確認する程度で、それほど準備は必要ないことが多いです。
しかし、たまに、その証人尋問が紛糾することがあります。
事案にもよりますが、検察官が、反対尋問で、意地悪な質問を連発することがあるのです。
これは、事案や検察官によるような気がするのですが、4回に1回ぐらいは、弁護人が尋問した後に、反対尋問で、しつこく、情状証人の指導監督者としての資質に疑問を呈する質問を繰り返すことがあります。
・「あなた、数年前に被告人が犯罪をしたときも、ちゃんと指導監督するって言って
ましたよね。でも、また、被告人が逮捕されたじゃないですか。」
・「あなた、今回、被告人に何回、面会に行きましたか?」
と言った感じです。
私、一度、厳しい質問をする検察官に当たってしまい、それだけならまだましなのですが、検察官の質問が情状証人を怒らせてしまい、
「それなら、もう、俺は、子どもの面倒は見ない。また、犯罪をしたら、
警察に突き出すだけだ。」
という趣旨のことを、法廷で発言されてしまったことがあります。
これは、情状証人としての能力がゼロであると証言しているに等しいので、弁護人としては、「おいおい」と思い、再尋問で、何とか前言撤回してもらい「被告人をちゃんと見る。」ともらったことがあります。
あとで、その情状証人の方から、「もっと、ちゃんと反対尋問に備える準備をしてくれないと!」と私が怒られてしまったのですが、・・・。んー、「情状証人として出廷してもらう趣旨は、ちゃんと説明したのですが・・・」、「まさか、指導監督能力ゼロだと評価され得るようなことをおっしゃるとは予想していませんでしたよ。」と心の中で思ってしまいました。
少なくとも、情状証人として、裁判で証言してもらう方には、検察官・裁判官からどんな質問が来ても、
① 決して、怒っていけない。
② 想定していなかった、答えにくい質問が来ても、
「申し訳ありません。今後はしっかりと監督したいと思います。」
程度で答えるようにお願いしなければなりませんね。
検察官・裁判官は、時に、(情状証人を含む)一般の方に対し、「非常に論理的な回答を述べない限り、自分は納得しない」というスタンスで臨む人がいます。
(優秀な)自分と同等の回答能力を相手に要求するタイプです。
でも、ただでさえ、(初めて)法廷に立たせれて緊張している情状証人が、論理的に明快に全ての検察官の質問に答えることはおよそ不可能で、中には、「弁護人の私でもうまく答えるの無理!」というような質問をしてくることがあります。
理想的な回答を求めてくる検察官の質問に対しては、
「世の中、そんなにちゃんと頭の中を整理して、理路整然と理想的な回答できる人
なんて、事前準備していたとしても、そうそういないでしょ!」
と心で思いながら、冷めた目で反対尋問を見守っているのですが、一方で、
検察官からすれば、(情状証人に対してというより、)弁護人に対して、
「私の理路制限とした質問に耐えられるように、情状証人の準備をしておけよ!」
ということなのでしょうか。
あるいは、単に、法曹と同じレベルの回答能力を、情状証人に求めているだけかもしれませんが、これは、単に、世間知らずなだけかもしれません。
いずれにしても、情状証人の検察官の質問は、シャンシャンで終わることもあれば、恐ろしいほど突っ込んでくる場合もあり、何ともケース・バイ・ケースです。
弁護人としては、情状証人の性格などもある程度把握して、「俺はもう面倒は見ない!」なんて法廷で言われてしまわないようにはしなければなりません(笑)。
弁護人の尋問に対しては、具体的な手段とともに「しっかりと、指導監督します。」と答える一方、検察官の尋問に対しては、ある程度ちゃんと答えるものの、厳しい質問に対しては、「申し訳ありません。」と下を向いて涙を流して、回答できなくなってしまうような(そうすれば、さすがに、検察官もそれ以上追及しない場合が多いので、)お母さんの情状証人が一番理想かもしれません。
最後に
情状証人は、犯罪の成否を左右する目撃証人とは違い、それほど証人尋問で紛糾することはないのですが、前述したように、私も、情状証人の性格や回答能力を見抜けず、あるいは、準備不足で、失敗してしまうことがあるので、今度時間があるときに、以前い作成した情状証人用の回答問答集をリバイスして配布しようかなぁと思っています。