はじめに
刑事事件の記事は、これまで、起訴(裁判)前の被疑者段階の話題がほとんどでした。
今回は、公判期日(裁判)でのお話をしたいと思います。
被告人質問
第一審の公判期日(裁判)では、無罪を争っている場合も、罪を認めている自白事件の場合も、証拠調べの最終段階で、被告人質問が実施されます。
弁護人、検察官、裁判官の順に、被告人に質問をし、被告人が答えるというものです。
自白事件の場合は、被告人は罪を認めていますので、被告人質問の内容は、専ら、量刑に影響を与える情状に関する質問と答えです。
たとえば、犯行動機に関しては、情状(量刑)に影響します。被告人質問では、既に証拠として取り調べられた被告人の供述書面には、必ずしも現れていない背景や事情などを、もう少し突っ込んで聞いたりします。
もちろん、弁護人は被告人に有利な方向で、検察官は被告人に不利な方向で、質問をする場合がほとんどです。
また、被告人に対し、「反省をしているか?」とか「二度とやらないと誓えるのか?」といった(質問というよりはむしろ)誓約的な内容のものもあります。ちょっと日本特有の謝罪の文化ないし儀式的な感じがしますが・・・。
このような誓約的な内容についても、もう少し突っ込んで、質問したりします。
たとえば、自分が犯した罪がどのような結果をもたらしてしまったのか、ちゃんと認識しているか(誰にどのような迷惑をかけたか)、あるいは、二度と犯罪を犯さないように今後どのような点に気を付けるか(たとえば、酔っぱらって人を殴って怪我を負わせてしまったのであれば断酒を誓約するとか、痴漢の場合には二度と通勤で電車に乗らないとか)を話してもらいます。
弁護人(私)の被告人に対する対応
私の場合は、ときどき、被告人質問において、わざと厳しい口調で、あたかも非難しているかのように質問をする場合があります。
しかし、これは、被告人の反省が法廷で際立つようにするための工夫です。
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弁護人(私):「もう、二度と、覚醒剤を使用しないと誓えますか?」
被告人:「はい、誓います。二度と使いません。」
弁護人(私):「でも、あなたは、これが3回目の逮捕ですよね。今までも、あなたは、繰り返し覚醒剤を使用して、逮捕され、裁判になっていますよね。」
被告人:「はい。」
弁護人(私):「前回も、二度と覚醒剤を使用しないと誓約してますよね?」
被告人:「はい。」
弁護人(私):「そうすると、今回も前回と同じように、また覚醒剤をやってしまうのではないかと、裁判官も、検察官も、私でさえも、本当かどうか正直疑ってしまいます。今回が最後であると、なぜ言えるのですか?」
被告人:「今回、逮捕されまして、前回の場合とは違い、・・・と思うに至りました。二度と覚醒剤を使用しないため、通院し、ダルクのプログラムに参加し、覚醒剤仲間とは連絡を絶ち、・・・」
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最後の答えについては、事前に準備をした上で、被告人と答えを一緒に考え、ちゃんと法廷で答えられるように練習をしてもらっています。被告人質問でのこのような弁護人と被告人とのやりとりは、いわばパフォーマンスという側面もあります。
厳しい口調で質問するのも、もちろん、弁護人として受任してから被疑者・被告人との接見(面会)を通じて構築された被告人と弁護人との信頼関係が前提となっています。
検察官の被告人に対する対応
さて、今回書きたかったことは、検察官の被告人に対する被告人質問での対応です。
まず、前提知識として、東京では起訴するまでを担当する検事(捜査検事)と、起訴後の裁判を担当する検事(公判検事)は、違う検事が担当します。
捜査検事は、被告人を何回か取り調べていますので、被告人の人となりを、それなりによく把握しています。
しかし、公判検事は、被告人を取調べてはいませんし、公判(裁判)でいわば初対面です。
公判検事は、立場上、被告人にとって不利な情状を引き出すために、質問することがありますが、彼らのほとんどは、被告人に対し、丁寧な言動で、しかし厳しい質問をします。本当に反省しているのか、二度と犯罪をしないというは本当なのかについて、被告人を追及してきます。
ちなみに、検事のこのような追及を、弁護人が、できる限り先取りしてやっておくのが、弁護人と被告人との前述のやりとりの例です。それにより、検事の厳しい質問を事前にある程度減らすことができる場合があるからです。
しかし、公判検事の中には、被告人に対し、ため口や横柄な態度で、質問をする検事がいます。私は、たくさんの公判を経験していますので、統計的には、10人に2、3人くらいでしょうか。どちらかというと、40~50代と思われる男性の検事に多い気がします。
たとえば、(巻き舌や煽る感じで、)「あのさぁ、あんた、・・・て言ってるけどね、・・・だよね? それ、嘘じゃないの?」
といった感じです。たとえて言うと、半沢直樹のドラマの悪役みたいな感じです。
前述したように、公判検事と被告人は初対面ですので、信頼関係はないはずです。
たとえ、罪を犯した(と認めている)人であったとしても、そのような言動で接して良いわけありませんよね。社会人として、普通の常識ある言動で接するべきです。被告人を追及する厳しい質問はもちろん構いません。その質問の仕方や態度が問題です。
私は、そのような場合には、
「異議あり。被告人を威嚇・侮辱する質問です。」
と言って、異議を出します・・・というのが理想的なのですが、「異議あり。」というのは、ちょっと恥ずかしいので、実際には、検察官の質問を比較的大きな声で遮って、立ち上がり、
「あのー、ちょっとすいません。その質問の仕方、被告人に大変失礼な言い方ですよね。普通に、社会人に接する話し方で、質問してもらえませんか?」
と言ったりします(ちょっと、裁判所を介さずに突然質問を遮るのは、法廷のルール違反ではありますが、それなりに効果があります。)。
検察官は、我に返ったようにキョトンとする検事もいますし、ブスっとして「質問を変えます。」と言って、それ以降はちゃんとした言動で質問を続ける検事もいます。
一部の検察官のこのような横柄な態度について(分析)
どうして、一部の検察官が、被告人に対して横柄な態度をとるのかというのは、私には何となく推測がつきます。
彼らは、被疑者・被告人と仕事で毎日のように相対するわけです。本当に精神的にも大変な仕事だと思います。公判検事も、ある時期は捜査検事をやり、色んな(中には、厄介だったり、怖かったりする)被疑者・被告人を面と向かって取り調べます。そうすると、自然と「彼らに舐められないようにしよう」と自己防衛本能が生まれるはずです。そうじゃないとどんなタフな人でも身が持ちません。被疑者に舐められないようにするには、こちらが強く出なければならない・・・その結果、何年も経つと、上述するような横柄な態度になってしまうのだと推測します。
警察官も同じだと思います。ニコニコいつも丁寧な言動で対応したのでは、凶悪犯や犯罪の言い逃れをする人に対応できませんものね。
もっと言えば、弁護士だってそうです。いろんな(中には非常にやっかいな)依頼者をたくさん相手するわけです(有難いことに、知財分野は少ないですが。)。依頼者に舐められたら大変ということで、どんどん自己防衛のため、横柄になってしまうのです。
しかし、冷静に考えれば当然なのですが、たとえ、罪を犯したと認めている被告人であっても、普通の社会人です。親しくもないのに、罪を犯したというだけで、ため口を聞いて良い理由は全くありません。
法廷だろうと、どこだろうと、ごく普通の社会人としての態度、言動をするべきです。
ごく当たり前のことのはずなのですが、対人で過酷な状況に長時間置かれる者(前述したように、検察官や警察官、彼らほどではないとしても弁護士)は、自己防衛のために、そのようなごく普通の社会人としての通常の言動や態度を忘れてしまう場合があるのです。
最後に
私は、常に自分を顧みるようにしています。
被疑者・被告人と警察署や拘置所で接見(面会)するときも、企業の知財担当者と仕事の打ち合わせをするのと全く同じ態度で臨んでいます。
その場合、ため口になるはずありませんよね。
私ぐらいの年齢の法曹になると、残念ながら、横柄な態度になる人も増えてきます。
特殊な仕事ゆえに、ごく普通の常識ある社会人として振舞っているか、常に自分を顧みなければなりません。