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特許実務-企業と大学との共同研究契約

 

はじめに

 

 今回は、企業と大学との共同研究契約において、よく問題となる点について、記事にしたいと思います。

 

特許権等の帰属

 

 共同研究の過程において、発明等が創作された場合、特許を受ける権利等は、理論的には、①企業の単独、②大学の単独、あるいは、③企業と大学の共有の可能性があります。

 

 正確には、企業の研究者が発明をした場合には、企業が特許を受ける権利を承継し、あるいは、規程により原始的に帰属することとなり、大学の先生の場合も、ほぼ同様です。

 

 企業の立場からすると、共同研究の過程において発明等が創作されたとしても、(大学の先生からは、研究成果の最後のお墨付きをもらったという程度であって、)自分たちだけが発明の創作に寄与し、自分たちに単独帰属する、というのが理想的です

 

 一方で、大学は、特許を受ける権利が、大学に単独に帰属するとすると(出願等の負担を大学側が負担しなければならないのが通常となるので)、企業と大学との共有となり、企業が出願費用を全額負担し、企業が実施し、それにより、企業から大学に実施料の一部が継続的に入ってくる、という形が理想的です

 あるいは、特許を受ける権利の持分を譲渡し、一括金を得るということもあるでしょう。

 

 共同研究において、どちら側が/両方が「発明者」かというのは、創作に寄与したか否かで客観的に判断されるわけですが、(そのような判断基準によれば、企業単独になりそうなところも、)現実的には、(共同研究という形をとっていることもあって、)特許を受ける権利は、企業と大学との共有「とする」ことが多いのかもしれません。

 

 その後、企業と大学との間で、

 

 ① 大学が、企業に、(有償で)特許を受ける権利の持分を譲渡する

 ② 企業が、独占的に実施する、

 ③ 企業が、非独占的に実施する、

 ④ 第三者に、実施させる(大学と企業は持分に応じた実施料を得る)

 

等の態様が、協議あるいは企業側の選択によりなされます。

 

不実施保証(企業から大学への実施料の支払い)

 

 共有特許権となった場合、企業は実施主体ですが、大学は研究機関なので実施主体ではありません

 

 企業が、共有特許権を、②独占的、あるいは、③非独占的に実施するパターンが多いかもしれません。

 

 企業が②独占的に実施する場合、大学は(もともと実施主体ではありませんが)、第三者に対しても実施許諾できない状態になるので、企業が実施して儲けた分け前を頂いたいということになります。不実施保証料(単に、実施料)といったりします。

 それは当然ですね。

 

 一方で、企業が、③非独占に実施する場合には、企業の立場と大学の立場で、食い違いが見られる場合があります。

 

 企業の立場としては、

 

 「うちは、単に非独占での実施で、大学は自らが実施主体ではないとしても第三者

  実施させることは(うちが同意すれば)できるわけなので、うちが実施して儲けた

  分け前は払いたくない。」 

 

という立場です。

 

 一方、大学としては、

 

 「大学は、実施主体ではないし、大学がわざわざ第三者を見つけ出して実施許諾し、

  第三者から実施料を確保するのも大変なので、企業が実施した場合は、独占的な

  場合だけではなく、非独占的であっても、実施料を払ってほしい。」

 

という立場が多いでしょう。

 

 もちろん、大学の共同研究契約書の雛形には、非独占の場合には企業から大学への実施料の支払いが規定されていないものもありますが、企業による非独占の実施でも、「企業は、大学に、実施料を支払う」と規定されている場合が多いように思われます。 

 

 この点は、結構よく対立する問題になります。

 

研究成果の実施

 

 研究成果のうち、特許を受ける権利等の取扱いは、前述したとおりになります。

 

 一方、研究成果のうち、ノウハウに相当するものは秘匿期間が設定され、また、(どちらかに属する)秘密情報に関連するものは、秘密保持期間が設定されます

 

 しかし、それらに該当しない(=至らない)研究成果(たとえば、企業からすれば、共同研究において、大学の先生から得た知見等)は、企業の今後の事業活動に活用したいですよね。そのために、大学の先生と共同研究するというのが普通かもしれません。

 

 このような発明等までには至らない研究成果については、大学は、「研究成果を、研究・教育目的のために無償で自由に実施する」と定めることが多く、企業としては、この点は特に支障はありません。

 

 一方で、企業が、大学の契約書の雛形に、「知的財産権に至らない研究成果を、事業目的のために無償で自由に実施する」という条項を加えると、大学側としては、「それは控えて欲しい」というスタンスになる場合が多いです。

 

 大学側から見ると、「知的財産権に至らない研究成果を、企業が自由に使って儲けるのは、自分たちの利益にはならないし、逆に、好き放題企業に使われてしまう」と考えます。

 

 企業側からみると、共同研究は、最終的には、企業の事業目的に大きく活用するために、研究費を負担しても(通常、共同研究費用は企業が持ちます。)、どの大学と組むのが利益が大きいか、を考えた上で特定の大学と共同研究を行うわけです。

 ですから、研究費を負担し、なるべく、事業のために活用したいのだから、知的財産権の取扱いは、前述のようにするとしても、それに至らない様々な成果は、(もちろん、ノウハウの秘匿や秘密情報の保持は別として)できる限り事業活動に活用したいわけです。

 逆に言えば、それが得られないのであれば、その大学と組む意味がないという場合さえあります。

 

 ここでも、大学と企業とで対立する場合は多いですが、最終的には、企業からすれば、この大学とでないと共同研究ができないのか、他の大学とでも共同研究が可能であるのか、という立場の優劣も含め、(場合によっては、契約の相手方の大学を変更するなどして、)最終判断することになります。

 

 この大学(のこの先生)としか、この共同研究は成り立たないというのであれば、ある程度、企業側が妥協することになるかもしれません。

 

最後に

 

 ちょっと長くなってしまったので、続きは、またいずれ書きたいと思います。

 

 

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