理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許実務-間接侵害と特許クリアランス(その4)

f:id:masakazu_kobayashi:20201004192550j:plain

間接侵害(発明の一部実施を含む)の特許クリアランス

 

はじめに 

 

 これまで3回にわたり、下記の記事で、間接侵害(発明の一部を実施する場合を含む。)と特許クリアランスについて書きました。

 

 3回の説明で、ちょっとごちゃごちゃしてしまったので、今回は、これまでの3回の内容をまとめたいと思います。

 

 キーワードは、① 課題との関連で、発明全体に占める部品等の重要性

        ② 別主体との関連性

 

の把握です。


masakazu-kobayashi.hatenablog.com

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

間接侵害の特許クリアランス(まとめ)

 

物の発明・支配管理論

 

 間接侵害というのは、たとえば、物の発明の場合、のみ品・不可欠品のように、構成要件の一部にあたる部品等(部材、材料、モジュール等)を実施(製造・販売等)した場合でも、なお侵害とされる場合です。

 なお、のみ品、不可欠品は、別に構成要件の一部でなければならないわけではありませんが、そのようなケースはここでは考えません。

 

 間接侵害の特許クリアランスは、課題との関連で、発明全体に占める部品等の重要性を基準に考えます。

 

 なお、何をもって不可欠品とするかについては争いがありますが、発明全体に占める部品等の重要性を考えることで、均等侵害(本質的部分)の場合とパラレルに、特許クリアランスを考えることができます。

 

 システムの発明(たとえば、サーバと端末が協働して処理を行うような場合など)も物の発明ですが、同様に、課題との関連で、発明全体に占めるサーバの重要性を基準として評価することができます。

 

 ほとんどサーバ側で重要な処理をしている場合(一方で、端末側では、入力・表示程度である場合)には、サーバ側の処理にあたる構成要件に、課題との関連で、発明全体に占めるサーバの重要性が見られるはずなので、特にシステムの発明について特別視する必要はなさそうです。

 

 間接侵害と特許クリアランス(その3)で紹介したシステムの発明について、管理支配論を採用した裁判例もあります。

 しかし、そのような場合においても、たいていは、課題との関連で、発明全体に占める重要性を有する側(サーバ側など)が管理支配していると評価される場合が多いと思われますので、同様に考えてそれほど問題はなさそうです。

 

 もっとも、支配管理論との関係は、システムの発明では、たとえば、発明全体に占める重要性がサーバ側にある場合でも、クライアント側の役割分担という点で、サーバ側の実施者としては、(クライアント側である)別主体との関連性を見ておく必要があります。

 しかし、主体間の役割は、システムの発明自体を分析することで足りそうです。

 

方法の発明・道具理論

 

 方法の発明の一部を実施することが、間接侵害になるわけではありません特許法101条4号、5号)。

 

 方法の発明の一部工程を実施することで生じる中間生成物が、のみ品・不可欠品に当たり得ると解する考え方もあるので一応注意です。

 その場合でも、課題との関連で、方法の発明全体に占める一部工程の重要性を見れていれば、特許クリアランスとの関係では良さそうですね。

 

 道具理論を作用した古い裁判例がありますが、これも、方法の発明のほとんどの工程を実施していた者が、最終工程を実施した他者を道具として利用したと評価され、直接侵害を肯定したものです。

 結局、方法の発明において、ほとんど工程を実施している場合は、課題との関連で、方法の発明全体に占める一部工程の重要性を見て特許クリアランスを考えれば良さそうです。

 また、前半あるいは後半の残りの工程を別主体が実施している場合は、当該別主体との関連性上流ないし下流に位置する別主体が、発明の残りの工程を実施しているか否か)を見ておく必要もありそうです。

 

共同直接侵害

 

 特許発明に関する裁判例で共同直接侵害を正面から認めたものはありませんが、複数の主体が発明の一部を実施し、全体として発明を実施している場合には、理論上、共同直接侵害(それぞれが直接侵害者)と評価される場合が考えられます。

 

 この場合には、これまでの場合とは異なり、必ずしも、発明全体に占める重要性のある構成要件を実施していなくても、侵害者と評価される可能性があります。

 

 しかし、共同直接侵害が成立するためには、複数主体に主観的関連(共同遂行の意思)が必要と一般的には考えられていますので、ここでは、別の主体との関連性をしっかりと把握しておく必要があります。

 グループ会社同士や、元請・下請の場合などは、この共同遂行の意思が認められると評価され得る典型的な場合なので注意が必要です。

 

最後に

 

 普通の直接侵害の特許クリアランスに比べ、間接侵害や発明の一部を実施する場合の特許クリアランスは難しいです。

 しかし、大枠では、重要なポイントとして、

 

 ①(課題との関連で)発明全体に占める部品等の重要性

 ② 別の主体との関連性(上流・下流の別の主体の、発明の残り部分の実施態様)

 

を把握しておけばよさそうです。

 

 そうはいっても、特に、②別の主体との関連性については、発明自体の検討の枠を超えて、製品(中間生成物など)の流通なども把握する必要があり、これは知財部単独では難しいかもしれませんね。

 また、取引相手が発明の残りの部分を実施しているのか等、営業秘密との関係もあるので、把握するのは実際問題難しいかもしれません。 

 

 そこで、次に登場するのが、契約で予めケアしておくという特許保証の規定についてです。

 次回は、間接侵害品等にあたり得る場合の特許保証の規定について説明したいと思います。

 

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング