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数値限定発明・パラメータ発明(その2)

はじめに

 

 前回から、数値限定発明・パラメータ発明についての連載記事を始めてみました。

 前回の記事は下記のとおりです。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 前回は導入のような感じで終わりましたが、今回からは、本格的に、数値限定発明等についての説明に入りたいと思います。

 

数値限定発明の発掘

 

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数値限定発明の発掘

 

 新たな発明の発掘として、以下の点が挙げられます。

 

従来、ある技術が数値により説明・議論されてこなかった分野

 

 化学や薬学の分野では、従来から数値限定により発明が特定されている一方、従来は数値限定により発明が特定されてこなかった分野(機械や電気分野など)では、数値限定発明をとることで、広い権利が取得できる可能性があります。

 

 そのような分野では、数値限定での発明の取得という発想がない上に、従来技術(主には、特許文献)が少ない、ということが理由として挙げられます。

 

 ですので、本来的ではありませんが、従来技術を含む発明でも特許をとれてしまうかもしれません。公知文献がないと、ライバル他社(被疑侵害者)が特許無効を主張することも難しいので(※公然実施品での進歩性欠如の主張は立証面で難しい場合が多いです。)、他社にとってはなかなか厄介な特許発明になります。戦略的には悪くないかもしれません。

 

従来、数値による特定が難しかったが、近時の測定技術・解析技術の向上により、新たに物理的・化学的側面が見い出された場合

 

 従来は、数値限定による特定が難しかった分野も、近時は測定技術・解析技術が向上することで、新たな物理的側面・化学的側面が見い出され、それが特許されるべき発明となる可能性があります。

 

 今までは見えなかったものが、測定技術・解析技術の向上で、見えてくるわけで、その見えたものを発明としてクレームで特定するわけです。

 

 ビックデータで、新たな傾向が見いだされた、というのと同じ感じです(ちょっと違うか)。

 

 半導体の分野(複数層を形成した複雑な回路)などもそうでしょうか。

 

 ただし、解析自体に多額の費用がかかるという実務上の問題(侵害を主張するために、他者製品の解析も同様)もありますね。

 

発明の機能的な面を権利取得する場合の選択肢として

 

 発明を特定する場合は、

 

 ① 「ある物質を含む」という「材料」で特定することができる一方、

 ② その物質(材料)の「硬さの数値限定で特定する

 

こともできます。

 硬さの範囲で特定した方が、材料の種類を問わないので、より広く権利が取れる場合があります。

 

① ある材料で特定するか(その結果として、特定の機能を有することになる)、

② (ある材料を含む)材料の機能(硬さなど)の数値範囲で特定するか

 

です。

 

 両者は、侵害主張や立証の面で、一長一短があるので、材料を特定するクレームだけでなく、硬さによる数値限定発明でも権利を取っておいた方が、権利としては重層的に強くなりますよね。

 

より多くの製品を捕捉したい場合

 

 へたに構造・材料で限定するより、数値で広く権利取得をした方が、より多くの製品を捕捉することが可能な場合が多いです。

 

 前述の「硬さ」による数値限定発明が典型です。特定の材料で特定するより、機能(硬さ)の数値限定で特定した方が、より多くの材料を含む権利範囲として特定できますよね。

 

 機能的クレームの限定解釈の可能性の問題がでてくる場合はありますが・・・。

 

他社のパイオニア特許に対する利用発明として、数値限定発明を取得

 

 他社にパイオニア的な特許を取られてしまった場合、これを独占されると自社が不利になる場合があります。

 

 そのような場合、その他社のパイオニア特許に対して、これを前提とした数値限定による利用発明を取得するという戦略が考えられます。

 

 数値限定に進歩性があれば、利用発明として権利取得が可能ですよね。

 

 この利用発明たる数値限定発明については、他社・自社それぞれが実施する場合には、それぞれが相手方にライセンスを受ける必要がありますので、自社としては、自らが取得した数値限定発明であっても、基本発明を有する他社からライセンスを得ないと実施できませんが、逆もまたしかりなので、(数値限定の範囲については、)他社をけん制することができます

 

  この点については、以前に、従属項の意義の文脈で、説明しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

最後に

 

 今回は、数値限定発明の発掘という観点で、ご説明しました。

 次回は、数値限定発明の特徴問題点について、説明したいと思います。

 

 

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