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理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許実務-間接侵害と特許クリアランス(その3)

 

 はじめに

 

  下記2つの記事で、前2回にわたって、間接侵害の特許クリアランスについて説明しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

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  今回は、これに関連して、物ないし方法の発明の一部を実施したに過ぎない場合でも、なお、直接侵害と評価され得る場合、言い換えれば、複数主体による合わせ技の実施の場合でも、なお、ある主体が直接侵害と評価され得る場合について、過去の裁判例などを見てみたいと思います。

 

道具理論

 

 電着画像事件という昔の事件がありまして、方法の発明に関する事件です。

 

 特許発明の構成のうち、最終工程(被告製品の時計文字盤等への貼付)を被告自ら実施せず、被告製品の購入者において実施している場合、当該工程を含んだ全体の工程を、被告の行為と同視して、本件特許権の侵害と評価することができるか、という問題について、

 

 「被告製品には,他の用途は考えられず,これを購入した文字盤製造業者において上記の方法により使用されることが,被告製品の製造時点から,当然のこととして予定されているということができる。したがって,被告製品の製造過程においては,構成要件⑥に該当する工程が存在せず、被告製品の時計文字盤等への貼付という構成要件⑥に該当する工程については,被告が自らこれを実施していないが,被告は,この工程を,被告製品の購入者である文字盤製造業者を道具として実施しているものということができる。したがって,被告製造の時計文字盤等への貼付を含めた,本件各特許発明の全構成要件に該当する全工程が被告自身により実施されている場合と同視して,本件特許権の侵害と評価すべきものである。」

 

 タイトルのとおり、道具理論と言ったりしますが、他人を「道具として」という点は措くとして、要するに、前工程までで生産された被告製品について、(最終工程を経てないという)他の用途が考えられない以上、被告としても、その他者による最終工程の実施は当然に予測されたものであり、要するに、後に購入者が当然にその最終工程を実施するに決まっているような場合ということになります。

 

 ほとんどの工程の実施をしており、あとは放っておいても(残りの工程は別の物が実施して)全部実施となってしまうというような場合です。

 あくまでも、一事件に過ぎず、確立された理論というわけでもありませんが、間接侵害のクリアランスとともに見ておくべき事案です。

 

 ここでは、

 ① 自社がある方法の発明のほとんどの工程を実施しているという意味で、発明に占める重要度の把握が必要となり、また、

 ② 製造した製品(未完成品)が、その流通の下流にいる他社の残りの工程の実施によって、全体の方法が完成してしまう場合がないかを把握するという意味で、その後の流通の把握が重要となってきます。

 

支配管理論

 

 メガネレンズ供給システム事件というのがありまして、システムに関する発明(物の発明)で、製造者・発注者という複数主体が実施する前提の発明の書き方となっていた発明について、

 

「争点・・・複数主体の関与・・・本件発明は,『眼鏡レンズの供給システム』であって,発注する者である『発注側』とこれに対向する加工する者である『製造者』という2つの『主体』を前提とし,各主体がそれぞれ所定の行為をしたり,システムの一部を保有又は所有する物(システム)の発明を,主として『製造側』の観点から規定する発明である。そして,『発注側』は,『製造側』とは別な主体であり,『製造側』の履行補助者的立場にもない・・・。・・・この場合の特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載は,2つ以上の主体の関与を前提に,実体に即して記載することで足りると考えられる。この場合の構成要件の充足の点は,2つ以上の主体の関与を前提に,行為者として予定されている者が特許請求の範囲に記載された各行為を行ったか,各システムの一部を保有又は所有しているかを判断すれば足り,実際に行為を行った者の一部が『製造者』の履行補助者ではないことは,構成要件の充足の問題においては,問題とならない。・・・これに対し,特許権侵害を理由に,だれに対して差止め及び損害賠償を求めることができるか,すなわち発明の実施行為・・・を行っている者がはだれかは,構成要件の充足の問題とは異なり,当該システムを支配管理している者はだれかを判断して決定されるべきである。

・・・以上を前提に検討すると,被告が被告システムを支配管理していることは明らかであり,・・・」

 

 タイトルのとおり、あるシステム(たとえば、サーバー・クライアント型システムなど)において、

 

 ① 複数主体(たとえば、サーバーの運営主体とユーザー)がそれぞれ実施している構成要件を合わせて全体としてクレームを充足するかを判断し(=合わせ技一本でOK)、

 ② その次のステップで、誰が支配管理者か、すなわち、実施主体(責任主体)かを

規範的に判断するという考え方です。

 

 この支配管理論も、(著作権法分野のカラオケ法理とは異なり、)特許法の分野では確立された理論というわけではありません。

 

 もっとも、間接侵害の特許クリアランスと同様、システムの一部しか実施していなくても、支配管理していると評価される場合(まぁ、システムの運営主体としてシステムのほとんどの処理をしている場合でしょうか。一方で、ユーザーは、入出力程度。)には、直接侵害と評価される場合があるので注意が必要です。

 

 先にご紹介した前々回の記事(その1)で、物の発明における間接侵害の特許クリアランスについては、①(発明の課題との関係で)発明に占める部品等の重要度の把握が大切だとご説明しましたが、それと同様に、システムにおける自社の実施部分の重要度の把握が重要となり、また、②複数主体という意味では、システムの運営主体と端末の操作主体(ユーザー)との関係性も重要となってきますが、ここでいう関係性というのは、後述する共同侵害の場合とは異なり、発明の内容から把握できる関係性ということになります。

 

共同直接侵害

 

 複数主体が特許権侵害に関与した場合に、それぞれに直接侵害を問える場合があるか、という共同直接侵害の問題です。確立した判例はありません。

 

 先に見た道具理論の電着画像事件も、支配管理論の眼鏡レンズ供給システム事件も、ある意味では、複数主体に序列があるという意味で、やや特殊な事例です。

 

 しかし、より一般的に、複数主体が、(相手を道具だとか、支配管理するとかではなく)対等に一部の発明の実施をした場合です。

 

 ある発明(構成要件A~D)について、主体Xが構成要件A、Bを実施し、主体Yが構成要件C、Dを実施する場合です。

 

 共同直接侵害については、主観的共同の要件(共同遂行の意思)が必要か否かについて争いがあります。しかし、それぞれが一部の実施を独立して実施した場合に、それぞれ差止されるというのは酷な(≒予測可能性がない)ので、やはり、共同遂行の意思は必要と考える方が妥当な気がします。

 

 もっとも、刑法の共同正犯や(独禁法でも問題となる)談合の場合と一緒で、共同遂行の意思は、「いっしょに侵害やろうぜ!」「うん!」という、明示的な書面や発言は普通、証拠として存在しません(していたら、ちょっとおバカですよね)。

 なので、客観的状況(これらの周辺事情からすれば、お前らグルでやっただろう)から、共同遂行の意思を推認して、共同直接侵害と評価される、ということになります。

 

 この場合は、共同遂行の意思を推認させる客観的事実、すなわち、複数主体間の関係性に注意する必要があります。

 

 特許クリアランスとしては、ある発明の一部実施の場合に、他社との関係性(なお、ここでいう関係性は、先のシステム特許のように、発明の内容自体から把握できるものではなく、外部的な関係性です。)に注意する必要があります。

 たとえば、グループ会社間とか、下請けの利用の場合などには注意が必要です。

 

最後に

 

 今回は、間接侵害と関連して、複数主体が特許権侵害に関与する場合として、道具理論、支配管理論、共同直接侵害について説明しました。

 

 特許クリアランスとの関係では、道具理論の方法の発明の事例からは、①発明に占める重要度の把握、及び、②自社の製品のその後の流通の把握、つまり、下流の主体との関係性が重要ということがわかりました。

 

 また、支配管理論のシステム特許の事例からは、間接侵害の物の発明の説明(記事その1)で述べたのと同様、①発明に占める部品等の重要度の把握が重要で、これは別の捉え方をすると、サーバー(ないしその運営主体)と、クライアント端末(ないしユーザー)との発明の内容における関係性の把握が重要だということになります。

 

 更に、共同直接侵害の事例では、複数主体間の関係性が重要となります。

 

 以上を見ると、①発明に占める重要性の把握、及び、②他社との関係性の把握(その後の流通の把握を含む。)が、共通したキーポイントのようですね。

 

 ①は知財部(特許部)マターですが、②は流通・他社との関係性ですので、事業部等も含めて会社全体として把握すべき事項ということになりそうです。

 

 ①間接侵害の成立の不明確さに加え、②知財部(特許部)を超えて、製品の流通や他社との関係を把握しておかなければならないという意味においても、間接侵害等のクリアランスは大変難しいことがわかりますね。

 

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