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刑事事件-取調べの際の弁護人の立ち合い

はじめに

 

ネットで、被疑者の取調べの際の弁護人の立会いについての下記記事を読みました。

今回は、このテーマについて、ちょっと書きたいと思います。

 

japan-indepth.jp

 

被疑者の取調べの際の弁護人の立会い

 

上記記事にあるように、現実的に、警察官や検察官による被疑者の取調べの際に、弁護人が立ち会うことは、ほとんど認められていません。

 

ですので、我々弁護人は、被疑者に対し、警察官や検察官の取調べに向けた対応を、逐一アドバイスします。

 

黙秘権があること、②作成された供述調書をちゃんと確認すること(間違いがあれば訂正を求めること、訂正されなければ指印[=印鑑がないので、指に朱肉を付けて押印すること]をしないこと)、③「〇〇〇」と質問されたら、「△△△」と答えること、④何かあれば「弁護士をすぐに呼んでくれ」と言うように、などなど。

 

しかし、特に身体拘束(逮捕・勾留)されている被疑者の弁護の観点からは、当然に、弁護人が立ち会うことが許されるべきだと思います。

また、取調べの可視化という観点からも、取調べの録画だけに留まらず、弁護人の取調べへの立会いも認められるべきであると論じられています。

 

経験上、多くの被疑者の話を聞くと、警察官による取調べは、半ば強引に、自白させようとする場合があるそうですし、検察官は巧みに被告人の自白を引き出して、調書(検察官面前調書)に残そうとする傾向があります。

私も、修習時代に、検察官の取調べを間近で見ることがあり、そのことを実感しました。

 

捜査機関を批判しているわけではありません。彼らは、被疑者が本件犯罪をしたという前提で、それを自白させることが仕事ですから。ただし、仕事に熱心なあまり、行き過ぎることもありますし、ミスをすること(冤罪)もあります。

それを正すのが、我々弁護人の仕事ですから。

 

検察官は、被疑者と視線を合わせるとか、被疑者に日の光があたるようにして取調べをするとか、様々なテクニックを使って自白させようとします。

 

さて、記事によれば、国際的には、ヨーロッパ諸国など、弁護人の立会いは認められており、認められていないのは、極東でいえば、中国、北朝鮮、日本だそうです・・・。

 

このように、被疑者の実効性ある弁護、取調べの可視化(これも被疑者の弁護に資する制度)、国際的な状況からしても、被疑者の取調べの際の弁護人の立会いは認められるべきであり、認められる方向で進んでいくだろうと思います。

 

弁護人の立会いの問題点(義務化した場合)

 

一方で、上記記事では論じられておりませんが、現実的に、弁護人の立会いが導入された際には、様々な問題が生じてきそうです。

 

たとえば、全ての被疑者の取調べにおいて、弁護人の立会いを義務化するとします。

確かに、被疑者にとっては、自分の味方(弁護人)がいつも横についていてくれるわけですから、心強いですし、アドバイスももらえますし、弁護人により不適切な質問を遮ることさえできるかもしれません。無罪事件において、強引に、あるいは、巧みに、自白させようとすることを防ぐことができます。

 

一方で、弁護人は、被疑者の取調べごとに、それに立ち会うための予定を空けなければならず、弁護人としての活動が増加します

 

このことは、たとえば、私選の場合には、被疑者が弁護士に支払う報酬に跳ね返ってしまう、つまり、弁護士費用が高額になってしまうことが十分に考えられます。

 

また、国選の場合にも、毎回取調べに立ち会う必要があるとなると、負担が増え、他の弁護士業に差し支えが生じてしまうということで、(たとえ、少々の国選弁護の報酬が増えるかもしれませんが、)公益活動として国選を担当する先生が減ってしまうかもしれません。

 

また、取調べに際し、弁護士の立会いが義務化すると、警察官や検察官は取調べに際し弁護人とで予定を調整しなければならず、弁護士が忙しくて取調べの日程が入れられない結果、「捜査未了」で、勾留延長の事案が増えてしまうかもしれません

 

そうすると、結果的に、被疑者にとって、逆にマイナス面も生じてしまいます。

 

弁護人の立会いの問題点(弁護人の申し出による場合)

 

一律に弁護人の立会いを義務化しないまでも、弁護人が申し出た場合には、検察官・警察官は立会いを認めなければならない、という制度にすることも考えれます。

 

それでも、被疑者としては、立ち会って欲しいと思う人がほとんどだと思いますので、「毎回、立ち会ってください!」という人が多いのではないかと予想します。

 

そうだとすると、それを無碍に断るわけにも行きませんし、そうすると、結果的にほとんどの場合に、立会いをすることになり、義務化と同様の状況になりそうです。

 

弁護人の立会いの問題点(否認事件の場合のみ)

 

否認事件だけ取調べを義務化するいうのも、何か否認事件と自白事件を差別するようで、あまりしっくりきません。

 

自白事件の場合であっても、情状面等で、捜査機関に、被疑者が必要以上に(あるいは、場合によっては覚えのない点まで)不利な供述をさせられる場合もあります。捜査自体の違法性も問題になり得るからです。

 

ときどき、起訴されてから、警察官や検察官による調書を見ると、情状面でびっくりするような被告人に不利なことが書かれていて、慌てて被告人に確認すると、「いや、そなことを言ってません。知りません。」という場合に結構出くわします。

 

まとめ

 

取調べの際に、弁護人の立会いを認めることは、総論としては賛成です。

 

しかし、どのような制度設計にするのかというのは、被疑者の弁護士費用の増大(私選の場合)、担当する弁護士の負担や(負担が大きすぎると国選弁護を引き受ける先生が減ってしまうかもしれません。)、(取調べの日程調整の関係で)勾留が長引いてしまう(延長されてしまう)可能性等、様々な問題が生じてきそうです。

 

私としても、事務所の仕事との関係もありますので、あまりにも負担が増えてしまうと、国選弁護をやりたくても担当できなくなってしまうかもしれません。

 

たとえば、裁判員裁判の場合には、弁護人の負担や拘束時間が通常の事件と比べると非常に大きいので、私は、担当したくても、事務所との関係で担当することができないのです。

 

この問題については、今後の行方を見守りたいと思います。 

 

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