理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

刑事事件-私が控訴審の事件を受任する理由

はじめに

 

私は、刑事事件の第一審(最初の裁判で、地方裁判所あるいは簡易裁判所)の事件だけでなく、その上級審不服申立て)にあたる控訴審高等裁判所)、更には、上告審最高裁判所)の事件も多く扱っています

 

今回は、刑事事件(控訴審)について、

 

① 被告人が、控訴する理由

② 控訴審の活動内容と流れ、そして、

③ なぜ、私が、控訴審の事件を受任するか

 

をご説明したいと思います。

なお、上告審については、また別の機会にご説明したいと思います。

 

被告人が控訴する理由

 

第一審判決の結果に不服がある場合には、判決の翌日から2週間以内に、高等裁判所に控訴することができます

 

もちろん、第一審判決に不満がある場合ですが、具体的には、第一審判決で無罪を争っていた方が有罪になってしまった場合はもちろん、自白事件であっても実刑になってしまった場合には、控訴する方が多いです。

あと、執行猶予付き判決でも、士業をされている方などは欠格事由にあたる場合があり、その関係で、控訴する場合があります。

 

また、本質的ではありませんが、刑務所へ行くまでの準備期間を確保するためや、執行猶予期間が切れるまで本件を確定させないため、というのもまぁまぁあります。その場合は、取下げで終わることも多いです。

 

控訴審での活動内容

 

控訴審で最も重要なのは、控訴趣意書(被告人の主張を述べる書面)を作成・提出することです。だいたい、国選事件の場合、選任されてから、提出〆切まで、1か月半から2か月くらいの期間で、控訴趣意書を準備します

 

控訴趣意書の内容は、第一審判決(原判決)について、

 

(1)事実誤認(第一審裁判所が認定した事実に誤りがある、たとえば、信用性のない目撃者の供述に基づいて有罪となる事実が認定された場合など)、

(2)法令適用の誤り(適用すべき法令を適用しなかった、たとえば、途中で犯行を自主的に止めたのに減刑を規定した中止犯の規定を適用していないなど)、

(3)訴訟手続の法令違反(違法収集証拠、たとえば、警察官の違法な捜査から得られた証拠を採用した場合など)、

(4)量刑不当(刑が重すぎる!、たとえば、被告人の情状事実を考慮していないなど)

 

などを具体的に主張します。

 

基本的には、民事事件のように、引き続き証拠を提出しながら、こちらに有利な判決に変更するように活動するというのではなく(続審)、刑事事件では、第一審判決(原判決)の誤りを徹底的に糾弾する、というのが基本スタンスです事後審)。

 

ここで一番問題となるが、控訴審における新たな証拠の提出ですが、これは残念ながら非常に限られることになります。つまり、なかなか、新しい証拠を採用してもらえません。これに関連するのは、下記の刑事訴訟法382条の2です。

 

刑事訴訟法第382条の2

 1 やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であっても、控訴趣意書にこれを援用することができる。

(以下省略)

 

刑事事件の控訴審は、事後審ということで、やむを得ない事由がない限り、第一審の弁論終結前に取調べを請求できた証拠は、控訴審で出せないという制度になってしまっています。

 

たとば「もう1回、あの証人の証人尋問をしたい」というのは、控訴審ではほとんど認められません。第一審で出来た(あるいは、すでに実施した)からです。

 

一方で、罪を認めている自白事件で、一審のときには示談できなかったが、その後、控訴審の段階でやっと示談が成立したような場合であれば、示談書を証拠として提出が認められる場合はあります。

 

国選の場合は、第一審の国選弁護人と控訴審の国選弁護人は、違う弁護士が担当することが原則になっています。

 

ですので、控訴審を担当した私が、「あーっ、これ立証したい!」と思っても、それが第一審で立証できたものについては、証拠調べを請求しても、控訴審でことごとく却下されてしまうのです。これは、非常に辛いです。

 

この「やむを得ない事由」をいかにクリアするかが控訴審のポイントになってきます

 

私が経験した事件では、たとえば、自白事件で、控訴審の段階で、被告人が更生の一環として新たな就職先を確保し、「雇い主から釈放されれば被告人を雇う」旨の一筆を書いてもらったことがありましたが、その書面は裁判所に却下されてしまいました。

 

第一審判決「後」に、被告人が就職先を頑張って確保し(まぁ、私が頑張ったのですが)、これで(刑務所ではなく)社会内での更生の機会を確保した、と主張しているのだから、量刑上有利なものとして証拠として認めてくれてよさそうですが、(検察官が不同意で、裁判所は却下し)認めてもらえず、納得いかないことも多いです。

 

一方で、たとえば、覚醒剤取締法違反事件で、控訴審の段階で、新たに、薬物治療のために病院への通院の予約をした予約票(被告人が薬物治療に向けて具体的に活動している事実を証明するため)は、証拠として採用してくれたこともあります。

 

いずれにしても、事後審(第一審の誤りを見直す)という制度の下、証拠の提出が非常に限定されてしまうのは、控訴審の弁護人としては非常に辛いです。

 

できる限り頑張るのですが、常に、「やむをえない事由」の壁に悩みます。

 

控訴審の流れ

 

(1)1月半から2か月の準備期間、控訴趣意書を提出する。

 ※弁護人が、訴訟記録を閲覧・謄写して事件の内容を検討し、被告人と面会して、控訴趣意書で主張・立証する内容を決めて、弁護人が控訴趣意書を作成し、提出する。

 

(2)期日の1週間前までに、事実取調請求書を提出。

 ※ここに、取調べして欲しい証拠と、「やむを得ない事由」を書く。

 

(3)控訴趣意書〆切から1か月後くらいで、第1回公判期日

   ちなみに、裁判官3人の合議体です。

 ① 既に提出した控訴趣意書の内容を陳述

 ② 検察官の意見(弁護人の控訴趣意は理由がない旨を口頭で述べて終わりが多いです。)

 ③ 事実取調請求書の証拠の採否の手続

 ④ 被告人質問(これも証拠の一つですが、判決後の事情に限れば、概ね採用してもらえます。)

 ⑤ そして、ほとんどの場合、これで弁論終結

 

(4)事件にもよりますが、2週間後~後に判決

  ※結果に納得できなければ、更に、最高裁へ上告することが可能。

 

私が控訴審を担当する理由

 

司法試験でも、弁護士等の法曹になるための修習(1年くらいの研修)でも、刑事事件の控訴審については、実は、ほとんど勉強したり、経験したりしません。

 

刑事事件自体を扱う弁護士は、ただでさえ少なく、更に、控訴審(や上告審)となると、修習でも扱ったことがないという理由で、扱える弁護士が非常に限られます

 

でも、私は、多摩パブリック法律事務所という刑事事件を扱う公設事務所で修習する機会に恵まれ、刑事裁判修習でもすばらしい裁判官に指導をして頂きました。その結果、控訴審、上告審を扱う術も身に付けることができました。幸運だったと思います。

 

加えて、国選事件の控訴審を扱うと、裁判記録を通じて、第一審の弁護人(弁護士)の活動(証拠の認否、立証、主張など)を拝見することができます

 

これは、非常に勉強になります。

 

私の周りには、あまり、刑事事件を扱う弁護士がおりませんので、他の先生の扱った刑事事件(第一審)の内容を見て、

 

「こんな弁護活動もできるのか。」「こんな主張もあり得るのか。」

 

と自分が思いつかなかったような主張や立証活動を見ると、自分自身の第一審での弁護活動の経験値を上げることができます

 

逆に、「もうちょっと、ちゃんと弁護活動しようよ。」「弁論要旨(一審での主張書面)これだけしか書かないの?」と思うこともあります。被告人さんから、第一審の弁護人の悪口を聞くことも結構多いです。反面教師ですね。

 

これが控訴審を扱う一番の理由ですが、控訴審で、残念ながら棄却され、第一審判決の実刑が維持されてしまった場合さえも、

被告人から、

 

先生が、これだけ主張して頑張ってくれて、それでも、ダメなら諦めがつきました。上告はしません。」

 

と言ってくれることが結構あります。

 

私としては、争う以上は、(可能性は少ないとしても、)最後(上告審)まで頑張って欲しいというのですが、国選の場合、上告審は、別の弁護士が担当することになりますし、私が引き続き担当するのは難しいので、複雑な気分です。

 

しかし、たとえ負けてしまっても、被告人が「納得感」を得られたというのは、私にとっては刑事事件を扱う「充実感」につながります。でも、できれば「99.9%」の壁を越えて、勝ちたいですけどね。

 

まとめ

 

刑事事件の控訴審は、第一審判決にケチをつける控訴趣意書を提出するのがメインの仕事です。

 

控訴審での立証は、「やむを得ない事由」に限られ、制限が多いです。

 

控訴審は、普通の弁護士は経験がありませんが、私は幸い、修習中に勉強する機会にめぐまれ、控訴審(さらに上告審も)扱うことができるようになりました。

 

控訴審は、国選で担当すると、第一審判決の弁護人の活動を、裁判記録を通じて見ることができるので大変勉強になり、第一審の弁護活動について、自分の経験値アップにつながります。

 

第一審判決に納得できない被告人が控訴するわけなので、たとえ、結果的に負けてしまっても(控訴棄却)、被告人が納得感を得られるように、活動をしています。

 

でも、本当は、古美門先生のように、勝ちたい。

 

 

ビール紀行(韓国・ソウル1/2)

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お昼ごはんとTERRAビール

 

はじめに

 

今回のビール紀行は、韓国・ソウル。昨年のコロナ渦前(昨年)の訪問です。

 

去年からの日本製品不買運動で、韓国では日本のビールが全く売れない状態になっていました。最近の下記記事でも、「アサヒ」の売上げが95%の減少だそうです。アサヒは、コロナ渦にあって、キリンやサッポロに比べても苦戦していますね。

 

news.yahoo.co.jp

 

アサヒスーパードライ」こそ、韓国料理に一番合うと思いますけどね。

まぁ、韓国の人がそのような選択をするのなら、仕方がないですよね。

 

江南(カンナム)で昼食

 

冒頭の写真は、 江南カンナム)にある(観光客向けのではなく)近所の方が利用するようなごく普通の食堂での昼食です。ぶらぶらして、適当に入ったので、店の名前も分かりません。

 

ハングルが全く分からなかったですが、写真で指さし注文をしたので、多分、豚のピリ辛炒めです(冒頭の写真の右下)。

 

さすが、韓国は、注文していないものがバンバン来ますね。

冒頭の写真のように、付け合わせとして、ワカメ酢の物キムチじゃがいも玉ねぎの和え物、そして、3種類のチヂミ。そして、ご飯。

 

韓国に初めて来たら、「こんなの注文していない!」と文句を言ってしまいそうですが、韓国では、こんなにたくさんの付け合わせが出てくるのは、ごく当たり前なんですね。

 

ちなみに、付け合わせのお替りもできました。チヂミが美味しかったのでおかわりしました。

 

でも、これって、並んでいるのを見ると、昼食というより、ビールのつまみですね。

ということで、ビールを注文しようとすると、あのTERRAビールがありました。

 

TERRA(テラ)ビール

 

日本製品不買運動の最中に発表された新しいビール・ブランドで、時期が絶妙であったこともあり、韓国で相当に売れています。

 

s.japanese.joins.com

 

 

私も、事前に情報をキャッチしていましたので、店にあるのを見つけ、これはラッキーと思い、さっそく追加注文しました。

 

 

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TERRAビール

 

韓国のこれまでのビール(CassやHite)などは、何というか薄くて、泡が立たない、というあまり良い印象がありませんでした。韓国料理は美味しいのに、ビールが今いちというのは残念な事態でした。ちなみに、ドイツは逆で、ビールが美味しいのに、料理が・・・。

 

TERRAはラガー・ビールですが、これまでの韓国ビールとは異なり、日本のビールの味に負けておらず、美味しいかったです。

 

これで、韓国に来ても、TERRAを注文すれば、ビールの選択としてはOKですね。

 

しかし、そうはいっても、この韓国料理を食べるのであれば、正直なところ、やっぱりアサヒスーパードライでしょうか。

韓国の人も、ビールは味で選んで欲しいものです。

 

サムゲタン

 

短期滞在だったのですが、折角の韓国ということで、サムゲタンを食べておこうと思い、夜にやってきました。江南にある漢方参鶏湯というお店です。

 

tabelog.com

 

ここは、サムゲタン専門店です。

 

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付け合わせ

 

私は、持病の関係もあって、辛い料理をあまり食べられないのですが、本場の韓国料理を食べる機会はそうそうありませんので、写真の辛い付け合わせも残さず食べました。

 

付け合わせは、キムチ青唐辛子&味噌大根と青唐辛子の酢の物です。

 

お酒を注文したわけではないのですが、サービスということで、高麗人参のお酒も出てきました。

 

これは、さすがに、「注文してません!」といったのですが、サービス(無料)だそうですので頂くことにしました。ですので、ビールは注文しませんでした。

 

 

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漢方参鶏湯のサムゲタン

 

サムゲタンが来る頃には、既にもう結構お腹が一杯だったのですが、サムゲタンは、まぁ、やさしい味ですので、お粥のようにじっくりと味わいました。如何にも体に良い感じがしますね。

 

実は、ちょっと奮発して、アワビ入りにしたのですが、写真では沈んでしまっていますね。

 

ここは、どうも24時間営業のようで、結構深夜に行ったため、客も少なく、静かで居心地が良かったです。

 

韓国料理では、やはり、サムゲタンがダントツ一位の料理ですね。

あまりビールとは合いませんが、飲んだ後のシメでしょうか。

 

次回も、ソウルでのビール紀行です。

他社特許対策セミナーの講師 & 知財部での勤務

 

セミナー講師

 

本日午後に、セミナーの講師をつとめてきました。

 

 

johokiko.co.jp

 

東京でコロナ感染者が増加しつつあるという状況ではあったのですが、幸い、所定の参加人数が集まったということで、(Webではなく、)会場でのセミナー開催でした。

 

ルールに従い、 マスクを付けた状態で4時間も話をしましたので、長時間話すと大変苦しいのに加え、口に籠った熱が頭に回り、頭がぼーっとしてしまいましたが、何とか無事終了しました。

 

セミナーの内容

 

「元特許庁審査官・弁護士から見た他社特許回避・無効化ノウハウ及び特許権利行使と特許戦略」という長い長いタイトルですが、要するに、

 

(1)どういう特許権が強い(怖い)か

   →クレームの読み方、作成の仕方 & 明細書

(2)他社特許の対策

   →ウォッチングから情報提供、設計回避、無効化、交渉まで

(3)特許戦略

   →企業秘密 

 

を詳細に説明する半日セミナーです。

 

私は、審査官(審査官捕を含む)として特許審査業務に7年半従事しましたので、(1)は若いころから実務で扱ってきた得意のテーマです。今、特許弁護士としては10年ほどのキャリアですが、仕事の8割が特許紛争(クレーム解釈がメイン)ですので、(1)は私のライフワークでもあります。

 

(2)については、特許弁護士として特許紛争を扱う中で、勉強し、鍛えられました。

 

(3)特許戦略は、(1)(2)を踏まえての経営も含めたコンサル的なものですが、20年近くも特許業界にいるので、いろいろと自分なりの特許戦略を整理できるようになり、それを皆様に還元しています。ただ、あまり仕事で特許戦略を一般的に語ることはありません。このようなセミナーくらいでしょうか。

 

知財戦略(特許戦略)×ベンチャー

 

話は変わって、5月のコロナで一時的に暇になって、このブログを始めました。

同時に、ブログを始める以上は、様々な情報(特に、特許関係)を得た方がよいと思い、ツイッターを始めたり、他の方のブログを見るようになりました。

 

余談ですが、最近のベンチャー知財戦略のネタは、巷に溢れていますね。

 

ipbase.go.jp

 

これが、代表的でしょうか。

 

① 特許庁がやっているもので、そもそも信用できますし、情報も多いですし、

② ベンチャーならではの格好いい、耳に心地のよい言葉も並んでいますし、

③ 事例集もあって具体的ですし、

 

素晴らしいですね。

ですが、役所にこれをやられてしまうと、我々の仕事の広がりが・・・(笑)。

 

知財×ベンチャー」は、今、若い実務家(弁理士や弁護士)の方々が、様々な情報を発信して、頑張っておられます。ベンチャー特有の専門用語を駆使してお話しされており、「意識高い」(「意識高い系」ではない)感じが半端ありません。

 

知財×ベンチャー」は、何かすごく大きなビジネスになりそうな、あるいは、そうでもなさそうな、どっちつかずな雰囲気を感じています。

 

私も、ベンチャーのクライアントも最近は増えてきましたが、ほとんどのクライアントは知財部がしっかりとした大企業です。

ですので、侵害や無効などもピンポイントでの相談が多く、知財コンサル的なものは少ないです。

 

ですので、今回のようなセミナーは、知財戦略を語ることができる貴重な機会でした。

 

本当は、これから伸びてくるベンチャーなどに対して、全体の技術を十分に理解して、次にどのような技術開発を進め、特許をとり(あるいはノウハウとして秘匿し)、資金を集め、どこの企業と組み、大きくしていくか、といった経営面も含めた戦略には非常に興味があるのですが、まだ、本格的にそのような仕事はする機会に恵まれておりません。

年を取ればとるほど、侵害、無効の判断よりも、(おしゃれな用語を並べたてるのではなく、)「地に足のついた」知財コンサルの仕事をやりたいなぁと思う今日この頃です。

 

知財部での勤務

 

実は、7月1日から、某企業の知財部で、月に10日間働くことになりました。

主に、知財関係の契約書を起案・レビューする仕事がメインで、更に、他社特許の対策をする業務フローに意見を述べる仕事も仰せつかっております。

 

私がお役に立てるのかどうか甚だ疑問で、不安でもありますが、一方で、企業の知財部を内部から見ることができるのは、非常に良い機会です。

まさかこのような機会を得らえるとは思ってもみませんでした。

 

私は、審査官、弁護士、弁理士を経験し、留学してドイツの法律事務所、特許事務所でも勤務し、おまけに今回、企業の知財部員として働く機会も得て、知財業界での経験としては、非常なほどに恵まれています。

 

しかし、特許弁護士の仕事をしながら、知財部でも働き、(しかも、刑事事件も扱う)となると、仕事量的にも精神的にも非常に大変で、この歳(45歳)でちょっと大丈夫かなぁ、と思ったりもしています。

 

法律事務所の仕事と知財部での仕事では、それこそ、メールシステムから何から勝手が全然違うので、1日おきに違うシステムで、違うフローで、違うメンバーと仕事を進めるというのは、頭が混乱してきます。1週間経つと、どっと疲れます。

 

事務所の仕事は、ちょうどコロナ渦で延期になった仕事が6月から復活しているため、現在、大忙しで、現状、土・日も働かなければならなくなってしまいます。

 

何とか、倒れないように、適度なビールとともに、乗り切りたいと思います。

仮想刑事事件(不倫罪)第4回

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Dancing Couple In The Snow (Reverse)(1928-1929)

Ernst Ludwig Kirchner (German, 1880-1938)

 

はじめに

 

仮想の不倫罪で逮捕された芸人 ワタナベ・カンの弁護人の物語の続き(第4回)です。

前回までの内容は、下記事のとおりです。

 

令和3年1月1日に施行された不倫罪によって逮捕・勾留された芸人のワタナベ・カン。その弁護人となった私は、早期釈放をめざして弁護活動を進める。

ワタナベ・カンは不倫(不貞行為)の事実を概ね認めているため、不起訴獲得をめざして、妻であるササザキ・コノミの代理人と交渉し、ササザキからの嘆願書を得るべく奮闘する。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

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奥様(ササザキ・コノミ)の代理人との交渉

 

私は、ワタナベ・カンの妻である女優のササザキ・コノミさんの代理人弁護士であるクボタ先生のオフィスを訪れた。オフィスは、六本木のオフィスビルにある。

 

私(心の声)

【デカいおしゃれなオフィスだな。うちの有楽町の事務所と大違いだ。おっ、クボタ先生は、私より若そうな30代半ばくらいの、大手事務所のデキるイケメン弁護士という感じだな・・・。弁護士は1人だけか?】

 

「本日は、お時間頂きましてありがとうございます。今日お伺いしたのは他でもなく、ワタナベ・カンの刑事事件の件で。私、弁護人の小林正和と申します。さすが、六本木の先生のオフィスはすごいですねー。」

 

ササザキ代理人

「わざわざお越し頂きましてありがとうございます。先生は特許関係の事件を多く扱っていらっしゃるようですが、刑事弁護人もされるのですね。」

 

私(心の声)

【おっ、ちゃんと相手の弁護士のリサーチをしてやがるな。しかし、私の事務所のHPには刑事事件の文字はなかっただろう?さて、いつものように下手から始めるか。】

 

「先生が、ササザキさんの代理人になられたということで、正直、大変有難く、また安心しました。大手事務所の優秀な先生について頂きましたので・・・。ササザキさんご本人と直接の交渉というのも、不倫罪という罪の性質からして、ちょっとあれですしね。」

 

ササザキ代理人

「そうですね。私としましては、ササザキさんの代理人ということですが、ワタナベさんのご意向も先生を通じてお伺いしながら、こちらのスタンスも申し上げさせて頂ければと思います。」

 

私(心の声)

【スタンスか・・・。ビジネス交渉のような感じで進めるつもりかなぁ。】

 

「ワタナベ・カンとしましては、本件の不倫罪の被疑事実について、概ね認めておりまして、私としては、自白事件であることを前提に、ワタナベのために情状活動をしようと思っています。その一環で今回、お伺いしています。」

 

ササザキ代理人

「私は、報道でしか伺っていないのですが、被疑事実というか、具体的には、どういう不貞行為だったのですか。もちろん、守秘義務はあろうかと思いますが。」

 

「簡潔に申し上げますと、5名の女性との不倫です。5名の女性についてはササザキさんは恐らくご存じのない一般の女性です。本件の捜査が終われば、彼女たちのスマホの情報も消させ、二度と接触させないように致します。」

 

ササザキ代理人

「5名ですか・・・。人数は、ともかく、ササザキさんとしては今回の件を非常にショックを受けています。正直に申し上げると、『離婚』という言葉も本人から出てきてきます。」

 

「そうですか・・・。確かに、不貞行為という倫理に反する行為ですし、また、今年1月からは刑法犯となった行為ですしね。そうですか、『離婚』という話も出ているのですか・・・。」

 

ササザキ代理人

「もし、離婚ということになった場合は、おそらく当職が代理人になるかと思います。先生も、離婚事件についても、代理される予定ですか?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。まず、ワタナベとしては、本件について深く反省をしておりまして、憔悴してもいますが、本人が留置施設で謝罪文も書きました。本日はその謝罪文もお持ちしています。本人としては、ササザキさんとは離婚したくないという意向でして・・・。」

 

ササザキ代理人

「謝罪文は、確かにお預かりし、ササザキさんにお渡しします。今の状況では、本人が読むかどうかは、私にはお約束できませんが・・・。」

 

「報道では、色々なことが言われて先生のお耳にも入っているかと思います。しかし、弁護人として、ワタナベさん本人のお話を伺う限りでは、本人が認めるように、確かに不貞行為という事実はあった。しかし、「遊び」というよりは、依存症的な病的な面を強く感じました。楽しく、複数の女性と遊ぶというよりは、衝動的に行動してしまっているというか・・・。担当医師にも協力を仰いでいます。私も刑事事件を結構やっているので、この点の依存症はよく知っているつもりです。」

 

ササザキ代理人

「そうですか。でも、不貞行為には変わりありませんからね。」

 

「刑事事件との関係では、自分の快楽・欲求を目的とした行為というよりは、依存症という衝動的かつ病的なものとして、責任能力の問題とまではいかないとしても、動機の面での情状は違ってくるのではないかと思っています。確かに、この手の依存症は、アメリカのプロゴルファーでもいましたよね。」

 

ササザキ代理人

「ササザキさんからすると、依存症、病気だからといって許すということにはならないように思いますが。」

 

「離婚というお話も出ているそうですが、こちらが離婚したくないという前提ですと、近いうちに、具体的に離婚調停の申立てがあり得るということでしょうか。」

 

ササザキ代理人

「まだ分かりません。本人は相当ショックを受けており、『離婚』という言葉が出たというに過ぎません。」

 

「なるほど。いやー、しかし芸能人同士の離婚で揉めるとなると、大変でしょうね。」

 

ササザキ代理人

「そうですね。私はエンタメ法が専門でして、今回、事務所のボスからこの件を担当するように言われまして・・・。」

 

「そうなんですか。私も知財事件が専門で、ワタナベ・カンさんの事務所の社長の紹介で、たまたま私が刑事事件を受任することになりました。まぁ、刑事事件はそれなりにやってますので。離婚事件もやむを得ず何件かはやってはおりますが。離婚事件は長くて終わりがなくて辛い事件ですよね、先生。」

 

ササザキ代理人

「いや、私、あまり離婚事件は経験がなくて。もっぱらエンタメ法が専門で。」

 

私(心の声)

【おっ、チャンス!畳みかけていくぞ!】

 

「そうですか。離婚は大変ですよ。本人の要求、時に過度な要求を逐一聞いて、これに対応するというのは。先生も、そうなると、どっぷりとこの件に浸かって、本業のエンタメ法務方が疎かになってしまうかもしれませんよ。」

 

ササザキ代理人

「えっ、それは困りますね。」

 

「離婚となると、調停からガッツリ争うことになりそうですしね。離婚調停待ち時間長いですしねぇ。財産分与も大変だぁ。お互いの資産なんて凄いでしょうしね。財産目録を作成するだけで、何年かかるか・・・。そうそう、調停の待ち時間も長いんですよねぇ。我々の専門事件からすると、ほんと非効率な事件です、離婚事件は。」

 

ササザキ代理人

「えっ、そんなにかかるんですか。」

 

「いや、まぁ、事件によりますけどね。あと、離婚訴訟の代理人ということで、先生もあらぬ噂を報道されたり、よほど注意しないとダメですよね。先生のプライベートも雑誌とかに監視されるでしょうね。まぁ、先生はエンタメ法ご専門だからマスコミ対応は慣れていらっしゃるかもしれませんけど(笑)。まぁ、私は、逆に『不倫容認弁護士』という異名を付けられるかもしれませんね(笑)。いやはや。」

 

ササザキ代理人

「エンタメ法といっても、そういうのはちょっと・・・。」

 

「先生、離婚というのは、大変です。特に、芸能人同士となれば。ワタナベはともかく、離婚が長引くと、場合によってはササザキさんの女優としてのイメージダウンにもつながりかねません。特に、夫婦役なんかは来なくなるかもしれません。むしろ、笹崎さんがワタナベをしっかり叱って、別れない方向で進んだ方が、ササザキさんの女優人生にとってもむしろプラスかもしれません。現在はササザキさんへの同情の声も大きいですし。別れないことで、彼女の女優としてのイメージも更によくなるかもしれません。」

 

ササザキ代理人

「なるほど、確かにそうかもしれませんね。」

 

「ササザキさんは、今は気持ちの整理がつかないかもしれませんが、お渡しした謝罪文を読んで頂いて、ちょっと落ち着いた段階で、先生からもお話をして頂いて、こちらの希望としては、何とか、別れない方向で話が進められればと思っております。」

 

ササザキ代理人

「女優としてのイメージというのは確かにそうですね。本人が悪くなくても、離婚の揉め事が長引けば、イメージダウンはありますしね。」

 

「マスコミから、ある事ない事言われます。今は、ササザキさんには同情の声が多く、マスコミも『世論』に沿って報道していますが、ちょっとしたきっかけで、手のひらをひっくり返したように批判的になったりします。場合によっては、全くのガセ情報が蔓延することもありますし。先生もご高承のとおりです。」

 

ササザキ代理人

「そうですね。離婚しない方向で、本人を説得できればと思います。」

 

私(心の声)

【ふーっ。ちょろいもんだな。あとは、せかさないと。】

 

「(深々と頭を下げて)ありがとうございます。重ねてのお願いで大変恐縮ですが、ワタナベ・カンとしては、民事の被告でも離婚の被申立人でもなく、刑事事件の被疑者という立場です。本件の不倫罪は社会的法益というか公序良俗が保護法益と思われ、ササザキさんは直接的な被害者という立場ではありませんが、もちろん、実質的には本件の一番の被害者であることは間違いありません。そこで、奥様であるササザキさんから、『許す』『今後、しっかり監督する』旨の嘆願書を頂ければ、裁判にまで至らない可能性もあります。是非、ササザキさんからワタナベを許す、今後しっかり監督する旨の一筆頂ければ大変有難く思っています。本人が、謝罪文の中でも書いていると思いますが。」

 

ササザキ代理人

「分かりました。時間がかかるかもしれませんが、本人を説得してみます。」

 

「よろしくお願いします。先生も、ご高承のとおり、現在、ワタナベが勾留されており、10日目ないし20日目が終局処分がなされます。裁判になってからでは遅いので、なるべく早くお願いできればと思います。10日の満期が、来週の6月25日(金)でして。できれば、嘆願書を23日(水)までに頂けると有難いのですが。色々申し上げてすいません。」

 

ササザキ代理人

「結構、急ですね。」

 

「そうなんですよ。先生は刑事事件もあまり担当されないかとは思いますが、結構、スケジュールがタイトなんですよ。万が一、起訴されてしまうと、ササザキさんの方にも悪い影響がありそうですし。あと嘆願書に入れて欲しい内容としては、〇〇〇、〇〇〇・・・。」

 

ササザキ代理人

「了解しました。いずれにしましても、さっそくササザキさん本人と連絡をとってみます。どうなるか分かりませんが。」

 

「お互い、芸能人の離婚事件をやって、色々大変なことになるのは避けたいですよね。我々は、それぞれ専門の本業がありますし。」

 

ササザキ代理人

「はーぁ、そうですね。」

 

「是非よろしくお願いします。また、お電話させて頂きます。あるいは、メールの方が宜しいですか。」

 

ササザキ代理人

「どちらでも、結構です。よろしくお願い致します。」

 

私は、クボタ先生の事務所を後にした。

 

私(独り言)

【思ったより、うまくいったな。若い柔軟性のある先生が代理人で助かった。しかし、先生には、なるべく素早く動いてもらって、何とか水曜日までに『嘆願書』をゲットしたいなぁ。謝罪文の内容で、ササザキさんが離婚ではなく、婚姻を維持する決定をしてくれるか。まぁ、ワタナベさんの謝罪文も私の手が入っているから、何とかなるかな。】

 

私は、その足で、ワタナベさんの接見(面会)のために湾岸警察署へ向かった。

ビール紀行(日本・銀座-SAPPORO THE BAR)

 

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幻想的に並ぶ黒ラベルのグラス

 

はじめに

 

ここ最近は、コロナ危機以前のヨーロッパの都市を中心に、ビール紀行をお届けしてきました。

 

今回は、コロナ危機のせいで遠方は無理ですが、最近の近所のビール紀行として、銀座にあるSAPPORO THE BARを紹介したいと思います。

 

SAPPORO THE BAR

 

www.sapporobeer.jp

 

 

コロナのせいで、暫く営業を自粛されていたようですが、緊急事態宣言解除後の6月初めから再開しました。

今週初め(6月30日)に、やっと時間ができたので、ちょっとビールを飲んできました。

 

私は、だいたい3日に1度の頻度でビール紀行を記事にしていますので、あたかも頻繁にビールを飲んでいるかのようですが(ドイツにいるときは毎日でした)、ドイツ留学から帰ってからは、仕事が忙しく、なかなかビールを飲む時間も余裕もありません。何のために働いているのやら。大変残念な生活ですね。

 

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サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR の入り口

 

カウンターのみで、立ったまま、さらっとビールを飲むスタイルです。

 

ここのビールは、黒ラベルのみです。

 

しかし、ビールの注ぎ方には大変こだわっています。

 

下記のパーフェクト黒ラベルファーストハイブリッドという3種類の注ぎ方から選べます。名前からだけではよく分かりませんが、下記のように、ちゃんと3種類の注ぎ方の説明が書いてあります。

 

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ビールのメニュー

 

ここで、注意しなければならないのは、このBARでは、2杯までしか飲めないというルールになっていることです

 

長居して、何杯も飲んで、酔っ払うという趣旨ではないようです。イギリスの駅にあるパブのように、さらっと入って、さらっと飲んで、さらっと帰るというスタイルです。

1人で飲んでいる方も多いです。

 

あと、現金支払いができません。クレジットカードやスイカなどのカード払いのみです。

 

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パーフェクト、ファースト、残った泡

 

上の写真の一番左がパーフェクト黒ラベルという注ぎ方です。

パーフェクトというだけあって、泡がきめ細かくてビックリします。普通に、黒ラベルの缶ビールをグラスに注いだだけでは、こうはいきません。泡が溢れるように注ぎ、上の粗い泡を除去して、下のきめ細かな泡だけを残す感じです。

1杯だけ飲むとしたら、パーフェクト黒ラベルを選択すべきでしょう

 

2杯目は、上の写真の真ん中のはファースト。これは、泡はそれほど感じませんが、ひっかかりがなく、ビックリするくらいさらっと飲めます。

 

ビックリしてばっかりですね。

 

上の写真の一番右側の写真を見ていただくと、飲み終わった後のグラスには、ちゃんと泡が輪っか状に付着しており、良い注ぎ方であったことが分かります。

 

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おつまみ(1つ500円程度)

 

さくっと飲むBARですので、おつまみも500円程度のものが何種類かあります。

 

写真は、左がおつまみセット(じゃことピーマン、燻製のピーナッツ)、右が6月末までの期間限定のつばめグリル監修のハンブルグステーキサンドです。

サンドウィッチは、本当は2切れなのですが、写真を撮る前に1切れ食べてしまいました・・・。

 

www.tsubame-grill.co.jp

 

つばめグリルは、このバーのすぐ近く(銀座コア)にもありますが、アルミホイル内で焼かれるつばめ風ハンブルグステーキは本当に美味しいです。そのちっちゃいバージョンのサンドウィッチといったところです。つばめグリルでは、ビールも飲めます。

 

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並ぶマイグラス

 

このBARでは、マイグラスが持てるようで(年間保管料500円)、毎月初めに募集があるそうです。

 

ビールを飲んでいる際に、お店の方からマイグラスの説明を受け、翌日の7月1日に「マイグラス」の募集があることがわかったのですが、受付が7月1日の午後1時30分からだそうで、「そんな時間、仕事中だから無理!」(逆に、こんな昼間に、誰がBARに来れるんだよ!)ということで、残念ながら諦めました。

 

毎月のマイグラスの募集の際には、大勢が並ぶそうで、すぐに売り切れてしまうんだとか。ビール好き結構いるのですね。それはそれとして、皆さん、仕事を途中で抜けてくるのでしょうか・・・。

 

マイグラスは、1年経つと貰えるそうです。

 

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天井の黒ラベルの星のマーク

 

2杯飲んで、ちょっとほろ酔いで天を仰ぐと、黒ラベルの星のマーク!。

 

その後、仕事に戻りました・・・。

特許実務(ウェットティッシュ事件1-「略(ほぼ)」について)

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本件特許発明(判決文より引用)

 

はじめに

 

今回は、「特許実務」のタイトルで、 下記の特許権侵害差止等請求事件の判決を紹介したいと思います。

 

平成29年(ワ)第28189号令和2年1月17日東京地裁40部判決[佐藤裁判長]https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/418/089418_hanrei.pdf

 

多分、重要判決というわけではありません。単に、私が興味を持ったから紹介します。後述する構成要件Cの非充足で、非侵害となり、請求棄却となりました

判例の結論に異論はありませんが、いろいろ考えるところがあり、面白いと思いました。

ちょっとググってみたところ、解説らしきものは発見できませんでした。

 

ざっと読んで検討しますので、間違っていたら、ごめんなさい。こっそり、コメントで教えてください。

 

事案の概要

 

本件発明(訂正された請求項1を分説したもの)は、以下のとおりです。

冒頭の図のような、折りたたまれたウェットティッシュをイメージしてください。これが、袋に収納されます。

 

A 折り畳まれた複数枚のシート状物が連続して取り出せるように積層されたシート状物の積層体において,
A2 上記シート状物はスパンレース不織布からなり,

B 上記シート状物の各々は,所望とする積層体の幅寸法と略同じ長さに形成された第1の中間片と,
C 上記シート状物の一辺と平行な折れ線で積層方向下側に折られ,上記第1の中間片の略1/2の幅に,上記第1の中間片に隣接して形成された第2の中間片と

D 上記第2の中間片から積層方向下側に折り返され上記第2の中間片と略同じ幅に形成された第1の折片と,

E’上記第1の中間片から積層方向上側に折り返され上記第1の中間片の幅が所望とする積層体の幅寸法となるように調整するとともに,上記第1の中間片の幅の1/2未満で,

E2 かつ,上記第1の折片の幅より短い幅となる第2の折片とを有するよ
うに折り畳まれ,
F 積層される上記シート状物の偶数番目の上記シート状物と奇数番目の上記シート状物とは,左右対称となるように折り畳まれた状態で積層され,

G 各偶数番目(奇数番目)の上記シート状物の上記第1の中間片及び上記第2の中間片によってできる谷部に,上記シート状物の次に積層される各奇数番目(偶数番目)の上記シート状物の上記第1の中間片及び上記第2の折片によってできる山部を重ね合わせることを特徴とするシート状物の積層体。

 

色々と、構成要素が出てきますが、判決で非充足と判断された構成要件Cについて見てみますと、「第2の中間片」は、「第1の中間片」の「略1/2」と規定されています。

 

「第2の中間片」やその下の「第2の折片」というのは、長ければ長いほど(広げると)大きなウェットティッシュを 収納できて良い、ということだそうです。

ただし、1/2を超えてしまうと、この積層構造だと、真ん中が膨らんでしまい不安定になりますので、1/2を超えるのは良くないですね、ということだそうです。

その上で、発明としては、①最大限(1/2)、かつ、②幅をもたようとして(略)、クレームに「略1/2」と規定されたようです。

 

被告製品は、下図2のとおりで、シートの構成は似ていますが、判決文によると、「第2の中間片」に相当する部分は、ある被告製品について、「2分の1」の長さの83%(収納されたウェットティッシュ78枚の平均値)だったようです。

要するに、折り返し部分が、2分の1より、平均で2割ほど短かかったのです。

 

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被告製品(判決文より引用)

 

判決では、明細書等の記載(課題、効果)を参酌した上で、1/2を超えてはいけないと判示するともに、

 

「『略1/2』とは,正確に2分の1であることは要しないとしても,可能な限りこれに近似する数値とすることが想定されているものというべきであり,各種誤差,シート状物の伸縮性等を考慮しても,第1の中間片の2分の1との乖離の幅が1割程度の範囲内にない場合は『略1/2』に該当しないと解するのが相当である。」(下線は私が引きました。)

 

要するに、1/2より短いものも含むが、短さの程度はせいぜい1割までですよ、ということです。

 

判決では、2割近く短い(平均で83%の)ある被告製品は、これを満たさず、非充足・非侵害となったわけです。

 

ちなみに、ある被告製品の78枚のウェットティッシュのうち3枚だけ1割に収まっていたようです。でも、発明が積層体ということで、平均をとったのでしょうね。

 

検討してみたい点

 

私が、興味を思ったのは、以下の点です。

 

(1) 「略」(ほぼ)の意義 ※これは大した話ではない。

(2) 「1/2」(数値限定)の規定について ※なぜ、「1/2」と規定したか。

    「1/2」に、どの程度まで近いと侵害と評価すべき? ※判決は1割まで

(3) 実は、たとえば被告製品②の場合、78枚のウェットティッシュのうち、3枚は「1割」に収まっていた点

 

(1)「略」(ほぼ)の意義 

 

全部書くと、記事がかなり長くなってしまうので、今回は、(1)だけさらっと。

  

審査基準をみると、

 

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/02_0203bm.pdf

 

「範囲を不確定とさせる表現(「約」、「およそ」、「略」、「実質的に」、「本質的
に」等)がある結果、発明の範囲が不明確となる場合

ただし、範囲を不確定とさせる表現があっても発明の範囲が直ちに不明確であると判断をするのではなく、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して、発明の範囲が理解できるか否かを検討する。」(下線は私。)

 

とあります。

(不明確となり得る類型だが、)ケースバイケースで、明確・不明確を判断するという感じでしょうか。

 

私は、審査官補になって間もないときは、ほとんど、不明確の拒絶理由を通知していたように記憶しています。

一方で、今、出願人代理人の立場に立つと、なるべく幅のある規定にしておきたいと思うところですよね。

 

結構たくさんの特許出願を見てきましたが、「略」で拒絶理由を通知されると、弁理士さんは、争わず、ほとんど「略」を削除します。

一方で、「略」について、審査官が、不明確ではないと判断して(あるいは単にスルーして)そのまま特許になっているものも結構あります。

 

今私が思うのは、「製造誤差」のレベルぐらいは権利範囲に含まれるという意味で、「略」という用語をクレームに入れ込んでも、そんなに目くじらを立てて、拒絶理由を通知しなくてもよいように思っています。

逆に、「略」等の幅のある記載がなくとも、「製造誤差」の程度はクレームの範囲内に入ってくると解釈されると思います。

結局、本件のように争いになったときに、具体的に判断すればよいわけですから。

 

本判決でも、上述のように、その趣旨のことが述べられていますね。

 

次回

 

次回以降は、

 

(2) 「1/2」(数値限定)の規定について ※なぜ、「1/2」と規定したか。

    「1/2」に、どの程度まで近いと侵害と評価すべき? ※判決は1割まで

(3) 実は、(1つの)被告製品の78枚のウェットティッシュのうち、3枚は「1割」に収まっていた点

 

について、思うところを自由に論じてみたい思います。

刑事事件(コロナ関連-不正競争防止法違反も!)

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漂流教室楳図かずお

 

はじめに

 

コロナ関係のニュースにもそろそろ飽きてきたところですが、都心を中心に、また感染者が増加傾向にあり、まだまだ予断を許さない状況のようです。

今日(令和2年7月2日)は、久しぶりに、東京で感染者100人超えだそうです。

 

さて、ニュースを見ていると、コロナ関連の刑事事件(逮捕・勾留)も多いようです。

 

これらは、「未知の不安・恐怖」が生み出す事件とも言えそうですね。

 

最近は、ついに、私の専門分野である知的財産法分野の法律の一つ、不正競争防止法違反でもコロナ関連で逮捕者が出たようなので、おおっと思い、記事にすることにしました(この件は知財事件ではありませんが。)。

 

今回は、コロナが関連して、刑事事件になる場合(実際の事件と可能性のある事件)をまとめたいと思います。

 

業務妨害

 

飲食店などで、「俺はコロナだ」などと言った場合、(本当の場合はもちろん、嘘であても、)飲食店はうぁーっとなり、閉店し、消毒をしたり、従業員の検査などを強いられることになります。

ですので、お店に対する威力業務妨害になります。

何件か威力業務妨害罪で事件が発生しているようですね。

 

今年の3月に愛知県の蒲郡市での事件では、家族などに「コロナばらまいてやる」などと言って出かけ、パブで従業員らと密着したり、カラオケをしたりしていたようです。

この場合は、従業員などに対しては、「俺はコロナだ」と直接言ったわけではないようなので、(相手の意思を制圧する)「威力」というよりは、(相手の錯誤を誘発する)「偽計」業務妨害罪が成立するのかもしれません。

なお、結局、加害者は、コロナで亡くなったそうです。

 

一方で、同じ3月に、(コロナ関連ではありませんが、)ある方が、店員さんに「僕サーズ」(SARZ)と言ったと、間違って受け取られてしまい偽計業務妨害で、誤認逮捕がされた事件がありましたね。

現在は、記事が消されていますね。実名報道だったのでしょうか。

 

ビデオカメラという客観的証拠を確認せず、店員の供述のみで逮捕(身柄拘束)に至ったという、酷い事件でした。んー、これ、誤認逮捕ではないでしょうか。

 

(未知の)恐怖・不安というのは、一般人だけでなく、警察までもこのような無謀な行動に至らしめるわけですね。本当に恐ろしい。

 

傷害罪

 

自分がコロナに感染していることを認識しながら(故意)、他人に接触してコロナに感染させた場合には、傷害罪が成立し得ます。

先の蒲郡市の事件も、傷害罪の成立もあり得たかもしれません。

 

しかし、因果関係が認められるか否かは、(直接殴って怪我を負わせるのとは違い、)病気の感染ルートには様々な外因もあり得ますので、現実的には難しいところです。

また、被害者が亡くなってしまった場合には、傷害致死罪ということもあり得ます。

 

一方で、殺人罪ですが、コロナの感染致死率が数%と比較的低いですので、コロナに感染させてやろうという意図があっても、(ナイフで胸を刺す等の場合と比べて)コロナに感染させようとする行為が、死に至る危険性が類型的に高くない以上、殺人罪というのは難しいかもしれません。

 

もっとも、被害者が持病を持っていたり、高齢者であって、コロナに感染すれば、ほぼ確実に死に至ってしまうことが明らかで、加害者が、それを認識しつつ、被害者をコロナに感染させようとしたという状況が揃えば、殺人罪も理論的にはあり得るかもしれません。現実には、殺人罪での逮捕は限りなく小さいと思われます。

 

一方で、刑法には、過失傷害罪があり、自分がコロナに感染していることを容易に知り得たにも関わらずこれを怠って他人に感染させてしまった、あるいは、自分がコロナに感染しており、他人との接触に注意すべきなのに、感染防止措置を怠り、感染させてしまったという場合には、過失傷害罪もあり得ます。

しかし、過失傷害罪は30万円以下の罰金ということもあり、そのような件があったとしても、逮捕にまでは至らないでしょう。

 

不正競争防止法違反

 

不正競争防止法は知的財産法分野の法律ですが、コロナ関連で、不正競争防止法違反で、逮捕者が出ました。

 

news.yahoo.co.jp

 

「従業員が検査で全員陰性だった」という虚偽の広告をしたということです。

 

不正競争防止法21条2項5号に、誤認惹起表示罰則規定があり、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金という、まぁまぁ重い罪が規定されています。

 

不正競争防止法違反の刑事事件というのは、営業秘密の漏洩という重大な事案はときどきありますが、誤認惹起表示では、あまり逮捕されたりということは少ないです。

 

今回の逮捕は、けっこう有名なお店だったらしいので、「こういうことやると逮捕するよ」という見せしめに近い逮捕でしょうか。

僕サーズ事件もそうですが、コロナ危機に接して、警察が様々な取り締まりを強化している傾向にあるのも気になるところです(監視社会)。

 

まとめ

 

コロナ関連で、業務妨害罪、傷害罪、不正競争防止法違反の罪など(他にもいくつか考えられます。)、現実に刑事事件で逮捕者が出たり、刑事事件になり得るものがあります。

 

一方で、この未知の不安・恐怖は、人々に犯罪をさせたり、また、先に述べたように、警察の行動にも(取り締まり強化や誤認逮捕に至るまで)変化をもたらしています。

 

まずは、私も含め、下記の日本赤十字社のビデオを見たりして落ち着く必要がありそうです。

 

そして、時間がありましたら、冒頭の写真の「漂流教室」という楳図かずおさんのすごく面白い漫画がありますので、是非読んでみてください。

人間が危機に瀕したときの醜い部分が余すところなく描かれていますペストの話も出てきます)。

 

 

www.youtube.com