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刑事事件-私が控訴審の事件を受任する理由

はじめに

 

私は、刑事事件の第一審(最初の裁判で、地方裁判所あるいは簡易裁判所)の事件だけでなく、その上級審不服申立て)にあたる控訴審高等裁判所)、更には、上告審最高裁判所)の事件も多く扱っています

 

今回は、刑事事件(控訴審)について、

 

① 被告人が、控訴する理由

② 控訴審の活動内容と流れ、そして、

③ なぜ、私が、控訴審の事件を受任するか

 

をご説明したいと思います。

なお、上告審については、また別の機会にご説明したいと思います。

 

被告人が控訴する理由

 

第一審判決の結果に不服がある場合には、判決の翌日から2週間以内に、高等裁判所に控訴することができます

 

もちろん、第一審判決に不満がある場合ですが、具体的には、第一審判決で無罪を争っていた方が有罪になってしまった場合はもちろん、自白事件であっても実刑になってしまった場合には、控訴する方が多いです。

あと、執行猶予付き判決でも、士業をされている方などは欠格事由にあたる場合があり、その関係で、控訴する場合があります。

 

また、本質的ではありませんが、刑務所へ行くまでの準備期間を確保するためや、執行猶予期間が切れるまで本件を確定させないため、というのもまぁまぁあります。その場合は、取下げで終わることも多いです。

 

控訴審での活動内容

 

控訴審で最も重要なのは、控訴趣意書(被告人の主張を述べる書面)を作成・提出することです。だいたい、国選事件の場合、選任されてから、提出〆切まで、1か月半から2か月くらいの期間で、控訴趣意書を準備します

 

控訴趣意書の内容は、第一審判決(原判決)について、

 

(1)事実誤認(第一審裁判所が認定した事実に誤りがある、たとえば、信用性のない目撃者の供述に基づいて有罪となる事実が認定された場合など)、

(2)法令適用の誤り(適用すべき法令を適用しなかった、たとえば、途中で犯行を自主的に止めたのに減刑を規定した中止犯の規定を適用していないなど)、

(3)訴訟手続の法令違反(違法収集証拠、たとえば、警察官の違法な捜査から得られた証拠を採用した場合など)、

(4)量刑不当(刑が重すぎる!、たとえば、被告人の情状事実を考慮していないなど)

 

などを具体的に主張します。

 

基本的には、民事事件のように、引き続き証拠を提出しながら、こちらに有利な判決に変更するように活動するというのではなく(続審)、刑事事件では、第一審判決(原判決)の誤りを徹底的に糾弾する、というのが基本スタンスです事後審)。

 

ここで一番問題となるが、控訴審における新たな証拠の提出ですが、これは残念ながら非常に限られることになります。つまり、なかなか、新しい証拠を採用してもらえません。これに関連するのは、下記の刑事訴訟法382条の2です。

 

刑事訴訟法第382条の2

 1 やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であっても、控訴趣意書にこれを援用することができる。

(以下省略)

 

刑事事件の控訴審は、事後審ということで、やむを得ない事由がない限り、第一審の弁論終結前に取調べを請求できた証拠は、控訴審で出せないという制度になってしまっています。

 

たとば「もう1回、あの証人の証人尋問をしたい」というのは、控訴審ではほとんど認められません。第一審で出来た(あるいは、すでに実施した)からです。

 

一方で、罪を認めている自白事件で、一審のときには示談できなかったが、その後、控訴審の段階でやっと示談が成立したような場合であれば、示談書を証拠として提出が認められる場合はあります。

 

国選の場合は、第一審の国選弁護人と控訴審の国選弁護人は、違う弁護士が担当することが原則になっています。

 

ですので、控訴審を担当した私が、「あーっ、これ立証したい!」と思っても、それが第一審で立証できたものについては、証拠調べを請求しても、控訴審でことごとく却下されてしまうのです。これは、非常に辛いです。

 

この「やむを得ない事由」をいかにクリアするかが控訴審のポイントになってきます

 

私が経験した事件では、たとえば、自白事件で、控訴審の段階で、被告人が更生の一環として新たな就職先を確保し、「雇い主から釈放されれば被告人を雇う」旨の一筆を書いてもらったことがありましたが、その書面は裁判所に却下されてしまいました。

 

第一審判決「後」に、被告人が就職先を頑張って確保し(まぁ、私が頑張ったのですが)、これで(刑務所ではなく)社会内での更生の機会を確保した、と主張しているのだから、量刑上有利なものとして証拠として認めてくれてよさそうですが、(検察官が不同意で、裁判所は却下し)認めてもらえず、納得いかないことも多いです。

 

一方で、たとえば、覚醒剤取締法違反事件で、控訴審の段階で、新たに、薬物治療のために病院への通院の予約をした予約票(被告人が薬物治療に向けて具体的に活動している事実を証明するため)は、証拠として採用してくれたこともあります。

 

いずれにしても、事後審(第一審の誤りを見直す)という制度の下、証拠の提出が非常に限定されてしまうのは、控訴審の弁護人としては非常に辛いです。

 

できる限り頑張るのですが、常に、「やむをえない事由」の壁に悩みます。

 

控訴審の流れ

 

(1)1月半から2か月の準備期間、控訴趣意書を提出する。

 ※弁護人が、訴訟記録を閲覧・謄写して事件の内容を検討し、被告人と面会して、控訴趣意書で主張・立証する内容を決めて、弁護人が控訴趣意書を作成し、提出する。

 

(2)期日の1週間前までに、事実取調請求書を提出。

 ※ここに、取調べして欲しい証拠と、「やむを得ない事由」を書く。

 

(3)控訴趣意書〆切から1か月後くらいで、第1回公判期日

   ちなみに、裁判官3人の合議体です。

 ① 既に提出した控訴趣意書の内容を陳述

 ② 検察官の意見(弁護人の控訴趣意は理由がない旨を口頭で述べて終わりが多いです。)

 ③ 事実取調請求書の証拠の採否の手続

 ④ 被告人質問(これも証拠の一つですが、判決後の事情に限れば、概ね採用してもらえます。)

 ⑤ そして、ほとんどの場合、これで弁論終結

 

(4)事件にもよりますが、2週間後~後に判決

  ※結果に納得できなければ、更に、最高裁へ上告することが可能。

 

私が控訴審を担当する理由

 

司法試験でも、弁護士等の法曹になるための修習(1年くらいの研修)でも、刑事事件の控訴審については、実は、ほとんど勉強したり、経験したりしません。

 

刑事事件自体を扱う弁護士は、ただでさえ少なく、更に、控訴審(や上告審)となると、修習でも扱ったことがないという理由で、扱える弁護士が非常に限られます

 

でも、私は、多摩パブリック法律事務所という刑事事件を扱う公設事務所で修習する機会に恵まれ、刑事裁判修習でもすばらしい裁判官に指導をして頂きました。その結果、控訴審、上告審を扱う術も身に付けることができました。幸運だったと思います。

 

加えて、国選事件の控訴審を扱うと、裁判記録を通じて、第一審の弁護人(弁護士)の活動(証拠の認否、立証、主張など)を拝見することができます

 

これは、非常に勉強になります。

 

私の周りには、あまり、刑事事件を扱う弁護士がおりませんので、他の先生の扱った刑事事件(第一審)の内容を見て、

 

「こんな弁護活動もできるのか。」「こんな主張もあり得るのか。」

 

と自分が思いつかなかったような主張や立証活動を見ると、自分自身の第一審での弁護活動の経験値を上げることができます

 

逆に、「もうちょっと、ちゃんと弁護活動しようよ。」「弁論要旨(一審での主張書面)これだけしか書かないの?」と思うこともあります。被告人さんから、第一審の弁護人の悪口を聞くことも結構多いです。反面教師ですね。

 

これが控訴審を扱う一番の理由ですが、控訴審で、残念ながら棄却され、第一審判決の実刑が維持されてしまった場合さえも、

被告人から、

 

先生が、これだけ主張して頑張ってくれて、それでも、ダメなら諦めがつきました。上告はしません。」

 

と言ってくれることが結構あります。

 

私としては、争う以上は、(可能性は少ないとしても、)最後(上告審)まで頑張って欲しいというのですが、国選の場合、上告審は、別の弁護士が担当することになりますし、私が引き続き担当するのは難しいので、複雑な気分です。

 

しかし、たとえ負けてしまっても、被告人が「納得感」を得られたというのは、私にとっては刑事事件を扱う「充実感」につながります。でも、できれば「99.9%」の壁を越えて、勝ちたいですけどね。

 

まとめ

 

刑事事件の控訴審は、第一審判決にケチをつける控訴趣意書を提出するのがメインの仕事です。

 

控訴審での立証は、「やむを得ない事由」に限られ、制限が多いです。

 

控訴審は、普通の弁護士は経験がありませんが、私は幸い、修習中に勉強する機会にめぐまれ、控訴審(さらに上告審も)扱うことができるようになりました。

 

控訴審は、国選で担当すると、第一審判決の弁護人の活動を、裁判記録を通じて見ることができるので大変勉強になり、第一審の弁護活動について、自分の経験値アップにつながります。

 

第一審判決に納得できない被告人が控訴するわけなので、たとえ、結果的に負けてしまっても(控訴棄却)、被告人が納得感を得られるように、活動をしています。

 

でも、本当は、古美門先生のように、勝ちたい。