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仮想刑事事件(不倫罪)第3話

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Dancing Couple In The Snow (Reverse)(1928-1929)

Ernst Ludwig Kirchner (German, 1880-1938)

 

前々回から架空の事件について、なるべくリアリティのある感じで物語を書いています。

 

芸人のワタナベ・カンは、令和3年1月1日から施行された改正刑法において新設された不倫罪で逮捕・勾留されてしまった。彼の弁護人となった私は、初回の面会を終え、正式な弁護人となった。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

前回までのあらすじ

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

私(独り言)

【とりあえず、検察庁へは弁護人選任届を出し、その後、裁判所の令状部へ準抗告の準備か。あと、いろんな方(芸能事務所の社長、相方、奥様であるササザキ・コノミさん)と連絡をとらないと。】

 

事務所へ戻ってきた私は、さっそく、事務作業や各種連絡に取りかかろうとした。

 

某若手弁護士

「聞きましたよ。ワタナベ・カンさんの刑事弁護人するんですって? うちの事務所だと小林先生しか適任者いませんものね。」 

 

「いやいや。実は、湾岸署に接見行ってきて、正式に弁護人になりましたよ。これから、色々と大忙し。」

 

某若手弁護士

「あー、東京国際クルーズターミナルの近くの警察署ですね。芸能人御用達の。とりあえず、準抗告勾留理由開示ですか。大変ですね。」

 

準抗告はするけど、勾留理由開示はワタナベさんと話してやらないことにした。」

 

某若手弁護士

「そうですか。ニュースの報道以上のことは守秘義務があるでしょうから、あれですけど、不倫罪での逮捕・勾留ですよね、今年、新設されたっていう?」

 

「そう。3年以下の懲役で、住居侵入と同じ刑の重さ。逮捕・勾留は、ちょっと、やりすぎじゃない? どうも、見せしめ感があるよねぇ。」

 

某若手弁護士

「世の中、というか、日本で最も恐ろしいものの一つである世論というやつが根底にありますね。」

 

「うん。」

 

某若手弁護士

「でも、不倫罪なんてそもそも憲法違反ですよ。香川県ゲーム規制条例と同じで。」

 

「ほーぉ。是非、教えて欲しいですね。」

 

某若手弁護士

幸福追求権自己決定権性的行為の自由・・・。幸福追求権っていうのは、本件の場合、やや皮肉ですね。」

 

憲法13条後段ね。さすがですね。本件は先生との共同受任にしましょう。さっそく準抗告起案してもらいましょうかね? 書き方分かる? 基本は、罪証隠滅のおそれなし、逃亡のおそれなし、勾留の必要性なしを具体的に論じるのですよ。」

 

某若手弁護士

「いえ、いえ、いえ、結構です。私、『知財事件』で色々忙しいんで。」

 

「何より、配偶者のある者が罰せられる一方、配偶者のない者は罰せられないんだよ。憲法14条1項平等権)違反もあるよね。」

 

某若手弁護士

「その点は、重要ですね。配偶者がいなければ、罪にならないんですから。ところで、不倫罪って、相手が独身の場合も、罰せられるんでしたっけ?

 

「あっ、しまった。大事なとこなのに、気にしてなかった。ちょっと条文見てみる。」

 

不貞罪(刑法184条の2[※実際はありません。])

「配偶者のある者が、配偶者以外の者と性交をしたときには、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」

 

「うーん。条文見ても分かんないなぁ。あれですかね、身分と共犯の論点ですかね。身分なき者も身分のあるものと共同正犯になり得るってやつ。」

 

某若手弁護士

「いやいや、先生、大丈夫ですか? ロースクール世代は、すぐに、論点に飛びつくからぁ。むしろ、収賄・贈賄のような対向犯じゃないですか、規定があるかどうかですよ。刑法184条重婚罪を見てみてください。後段で、重婚の相手も罰せられますよね。でも、不倫罪には後段がないようです。ですから、規定からすると、相手は、独身であれば、罰せされないはずですね。」

 

刑法184条(重婚)

「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。その相手となって婚姻した者も、同様とする。」

 

「なるほど。そっか、さすが予備試験組は違いますね。そうすると、相手の女性たちは逮捕・勾留はされていないんだね。罪証隠滅の観点からは、ワタナベ・カンさんが勾留を解かれても、彼女たちと接触しないことを約束してもらわないといけないですね。それは、既にお願いしてありますが。」

 

某若手弁護士

「もし、裁判になったら、法令違憲の主張もありますが、弁護人としては面白いですが、無効になる勝算がある程度ない限り、依頼者にはあまりメリットないですよね。『世論』は、『不倫罪が無効だなんて、反省していない!』とか言って、マスコミもその筋で当然書いてきそうですね。」

 

「私も、そう思います。資格者のように欠格事由がある場合は、何が何でも、起訴を免れるか、起訴されても、罰金どまりにし、懲役は免れないといけません。彼は、その点の心配ないですが、また、何らかの形で、芸能界に復帰しなければならないですからね。」

 

某若手弁護士

「不倫罪は違憲とか主張したら、先生も、『不倫容認弁護士』とか言われて、叩かれそうですね。」

 

「はーっ。そこまでは気にしてなかった。困ったなぁ。『不倫は犯罪ではなく、文化です。』とか言ったら、このご時世、大変なことになりそうですね。昔は、芸能人が不倫しても、デヘデヘして、リポーターの前で答えてましたけどね。時代は変わりましたね。まぁ、違憲の点は、裁判になったときに考えますよ。」

 

某若手弁護士

「最近は、勾留が緩くなったかと思っていましたが、例のコーン事件以降は、東アニ事件、政治家の公職選挙法違反事件等、また、逮捕・勾留が厳しく運用されるようになるんでしょうか。」

 

「んー。最近は、勾留されなかったり、保釈やら結構認められやすくなっている印象があったんだけどね。」

 

某若手弁護士

「また、身柄拘束の運用が厳しくなるんでしょうか。また、別の見方ですけど、不倫罪って、これ、既婚者の売春行為も全部摘発できますね。あと、たとえばですが、若い女性が、『中年男性の既婚者をはめる』こともできますね。運用次第では凄いことになりますよ。」

 

「なるほど。確かにそうですね。不倫罪、結構影響が甚大ですね。」

 

某若手弁護士

「まーぁ、本件については、よろしければ、違憲論だけだったら、全部込みで、『200万円』で最高裁まで引き受けますよ。」

「あと、勾留の要件である『逃亡のそおれ』の観点からは、ワタナベさんから、パスポート預かっておかないとダメですね。コーン事件もありましたしね。海外逃亡のおそれがないことを裁判所に示さないと、ですね。」

 

「・・・。なんか、弁護士って、他人が大変な事件やってると、他人事だからって、色々と突っ込んで楽しむ癖あるよね・・・。」

 

「そうですかぁ~。議論ですよ、議論。弁護の質を高めるための。」