はじめに
仮想刑事事件(マスク不着用罪)の第3回です。
(仮想事案)
街中で、鼻をマスクで覆わずに歩いていた被疑者が、そのことに怒ったおっさんからマスクを剝ぎ取られた。おっさんは立ち去ったが、被疑者が憤慨しているところへ警察官がやってきて、マスク不着用罪(仮想の罪)で逮捕・勾留された。
国選弁護人に選任された小林弁護人は、被疑者と接見し、今後の方針を被疑者に話す。
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弁護人:「まず、あなたが故意にマスクを着けていなかったのではなく、おっさんに
マスクを取られたんですね。それを警察に信じてもらわなければなりま
せん。
残念ながら、覚醒剤で過去に実刑判決を受け、刑務所に行っていたあなた
の言うことが信用されていないのかもしれません。
まずは、
① 奥さんに、以下の点に言及した陳述書&身元引受書を頂きましょう。
書面の内容は、私がアシストしますので大丈夫です。
『普段から、夫は、ちゃんとマスクをしていた。当日も、マスクを
して出かけた。』
『夫の身元引受人として、必要な取調べには出頭させる。」
② 勤め先(知り合いのリフォーム会社)の社長さんにも同様に、
陳述書&身元引受書を頂きましょう。
勤め先で、あなたは無くてはならない存在だと書いてもらえるといい
ですね。私が勤め先の社長さんに敬意を説明し、書面作成について交渉
しますね。了解を得たら、書面の内容は、私がアシストします。
※勤め先に、逮捕・勾留に理解がある前提(それだけでクビにするよう
な勤め先の場合は逮捕・勾留自体をできる限り伏せる必要あり。)
③ 本件の経緯を説明した報告書を作成しましょう。
これは、あなたから伺ったことをまとめて、私が作成しますね。
④ ドラマの世界では、この『おっさん』を探し出すということも考えられ
ますが、全く見ず知らずの方なんですよね? ちょっと見つけ出すのは、
現実的ではないかもしれません。私が毎日現場で聞き込みをするわけにも
いきませんしね。警察に協力してもらうよう要請しましょう。難しいかも
しれませんが。
⑤ あなたには、反省文を書いてもらいます。確かに、故意にマスク
不着用だったわけではありませんから、マスク不着用自体について
反省する内容というよりは、(a) 代わりのマスクを当日持っていなかった
こと、(b) 他の手段(口と鼻をハンカチで抑える等の対処をすぐにしな
かったことなどです。
この反省文については、犯罪事実というか故意を否定しつつ、まぁ、
真摯な面を捜査機関に見せるというものでして、当職でポイントを列挙
するので、ご自身で手書きで書いて頂きますね。」
被疑者: 「はい、お願いします。色々とすいません。」
弁護人: 「時間との勝負です。とりあえず、10日満期の2日前までにできる限り
揃えて、検察官に、意見書とともに、①奥様からの書面、②勤め先から
の書面、③反省文、④経緯を説明した報告書を資料として提出します。
私がポイントを列挙したものを差入れるので、反省文の作成をお願い
しますね。
一緒にがんばりましょう!」
被疑者: 「ありがとうございます。」
弁護人は接見を終え、事務所に戻った。
弁護人: 「あー、忙しくなりそう・・・。被疑者にとって10日の勾留は長いけど、
弁護人にとっては、10日の勾留はあっという間なんだよなぁ。」
事務員: 「刑事弁護人の仕事って、リーガルハイみたいな感じではなく、
地味な書類(証拠)の収集・作成ですよね。」
弁護人: 「ほんとそう。でも、その前段階で、他者と交渉が必要なんで大変なんで
すよね。示談交渉は最たるものです。今回は、被疑者がない犯罪です
けどね。」
事務員: 「さすがに、こんなマスク不携帯罪なんかで起訴とかアホですよね。
経緯を聞けばなおさらです。前科を持っていたのがちょっと不運でした
かね。不起訴処分を期待しますよ。」
弁護人: 「そうっすね。大変なんですよ。奥さんに電話したり、勤め先に電話
したり、・・・」
事務員: 「報酬もらうんだからいいじゃないですか。」
弁護人: 「国選事件です!」
事務員: 「焼肉屋でビール飲み放題くらいの報酬は貰えるでしょ!」
弁護人: 「まぁ、そうですね。」