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仮想刑事事件(不倫罪)第1話

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Dancing Couple In The Snow (Reverse)(1928-1929)

Ernst Ludwig Kirchner (German, 1880-1938)


はじめに

 

芸能人の不倫(不貞行為)が頻繁に話題になります。今、現在もそうですね。

芸能人に限らず、自らの意見を発信される方々は、不倫に対して、大変、厳しいご意見をおっしゃっていますね。

 

私は、他人様の行動に対し、特に何か言うべきことはありません。

強いて言うならば、不倫(不貞行為)は、犯罪ではありませんが、民事上の不法行為が成立し、損害賠償(慰謝料)請求がされる可能性があります、という点くらいでしょうか。

 

さて、不倫は大変けしからんという世論を押し及ぼし、仮に、不倫(不貞行為)を、刑法で犯罪として規定したら、どうなるかなぁ、とちょっと想像して面白くなってしまいました。

 

そこで、これから、仮想の不倫罪で逮捕された、ワタナベ・カン(仮名)さんの仮想刑事事件について、勾留段階から弁護した話を、ドキュメンタリー風に語ってみようと思います。

 

なお、実在する人物や組織等とは一切関係がありません。また、あくまで仮想事例ですので、ご了解ください。

 

しかし、皆さまに是非知っておいて頂きたいことは、犯罪というのは、時代や情勢により変化するという事実です

戦争では人を殺すことが許される場合があります。

最近の例で言えば、性犯罪自動車運転の関係の犯罪は、新設や厳罰化されていますね。

ですので、世論の皆様が他人の不倫をこれほどまで非難しているということは、不倫罪の成立もそう遠くないかもしれません。

なお、芸能人や政治家(だけを処罰するという)不倫罪はダメです。法の下の平等憲法14条1項)に反しますから。結婚していれば、あなたも対象です。

 

不貞罪が新設された改正刑法が成立!

 

令和2年〇月〇日のニュース

 

「本日、不貞罪が新設された改正刑法が参議院本会議にて可決、成立しました。令和3年1月1日から施行されます。今後、既婚者が不貞行為をはたらいた場合には、3年以下の罰金又は10万円以下の罰金に処せらる可能性があるということです。」

 

私(独り言)

【不倫(不貞行為)を刑罰をもって罰すべきという点が真の世論かどうかはともかく、表面的には不倫を厳しく糾弾している世論が、遂に不貞罪を成立せしめたのか・・・。不寛容社会がますま加速しそうな感じだなぁ。他人の行動を見張るという監視社会が今後もますます浸透しそうだなぁ。

 

不倫をサツにチクる、なんてことが今後結構でてきそうだ。実際、どれくらい岸びく取り締まるんだろう。マスコミと捜査機関も、ますますズブズブの関係になりそうだ。この前の賭け麻雀どころの話じゃないな。特に、政治家や芸能人が祭り上げられそうだ。既婚者をはめるという事件も増えそうだなぁ。

 

まぁ、刑事弁護人としては、刑事事件が増えれば、仕事も増えるし、まぁいっか。でも、離婚事件も絡みそうで、そっちはやりたくないなぁ。とりあえず、刑事弁護人の端くれとしては、不貞罪の条文をちゃんと見ておかないと。】

 

どれどれ、

 

不貞罪(刑法184条の2[※実際はありません。])

配偶者のある者が、配偶者以外の者と性交をしたときには、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」、

 

ちなみに、刑法184条は、重婚罪です。実際にはあまり事件として生じませんが。

刑法184条

「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、2年以下の懲役に処する。その相手となって婚姻した者も、同様とする。」

 

私(独り言)

【さすがにデート程度は、大丈夫なんだな。そうすると、本当に肉体関係があったか否かが頻繁に争われそうだなぁ。「ホテルは行ったけど、ゲームやってただけ」とか。】

 

(想像)

裁判官

「(不倫罪の)公訴事実に関する弁護人のご意見は?」

「被疑者がいうとおり、被疑者は〇〇さんとホテルに行った事実はありますが、被疑者は〇〇とは『関係』を持ってはおりません。具体的には、ホテルでは、単に、一緒にゲームをやっただけです。」

 

裁判官

「『性交』の点を争うという趣旨ですか。」

 

「そのとおりです。」

 

 

 

刑事事件(不貞罪)受任

 

令和3年6月17日(木)。私の所属する事務所にて。

 

某パートナー弁護士

「あの、小林君さぁ~、刑事事件ときどきやってるんでしょ。クライアントの社長さんの知り合いで、捕まった人の刑事事件あるけど、やれる?」

 

「いや、あんまりやってないですけど。でもまぁ、裁判員裁判とかでなければ、大丈夫だと思います。商標法違反事件(知財事件)とかですか?」

 

某パートナー弁護士

 「いや、不貞罪。この前、刑法が改正されたんでしょ。よく知らんけど。大した懲役刑でもないんでしょ。やってくれる。」

 

「了解しました。(でも、離婚事件まで関連してきたらやりたくないなぁ。)依頼者は、どなたですか?」

 

某パートナー弁護士

「クライアントの社長と芸能人事務所の社長が仲が良くて、そこの芸能人らしいよ。男性ね。小林君と同じくらいの年じゃなかったかな。俺、あんまり、テレビ見ないから知らんけど。報酬はちゃんととれるだろうから、しっかり頑張ってね。」

 

「了解しました。先生と共同受任ということで、委任契約書と弁選(弁護人選任届)を作成しても宜しいでしょうか。」

 

某パートナー弁護士

「・・・いや、・・・小林君一人でやってくれる。俺、刑事よう分からんから。アソシエート誰かを入れて、共同受任にしてもいいよ。」

 

「私一人でやりますね。芸能人だとマスコミ対応とかあるかもしれませんね。あんまりやったことがないので、マスコミ対応とか迷ったときは相談させてください。それでは、さっそく、接見(面会)に行ってきますね。勾留場所はどこですか?」

 

某パートナー弁護士

「もちろん、芸能人といえば、湾岸警察署。」

 

「え、芸能人なんですか・・・。了解しました。(「ゆりかもめ」じゃなくて)事務所からタクシー使っていいですよね。」

 

パートナー弁護士A

「依頼者に請求できるのであれば、いいんじゃない。受任するなら、ちゃんと委任契約してね。」

 

接見(面会)

 

令和3年6月17日午後7時。湾岸署にて。報道陣がたくさんいる。

 

「弁護士の小林です。弁護士接見に来ました。」

 

受付

「(被疑者は)男性ですか女性ですか。」

 

「男性です。名前は、ワタナベ・カンさんです。今日勾留質問だったですが、もう逆送は戻ってますか。」

※被疑者が、勾留質問を受けた裁判所等から、収容されている警察署へ戻るバス

 

受付

「あぁ、さっき戻りましたよ。ご飯も終わってると思います。そちらにおかけになって少々お待ちください。今、係の者が参ります。」

 

私は、警察官に案内されて、エレベータで△階に上がり、留置係に着いた。「弁護士になろうとする者」として、必要書類に記載し、身分証を提示し、面会室1に入った。

 

私(独り言)

【あんまり知らない人だけど芸能人か。ちょっと事前にネットで調べておけばよかった。ちょっとドキドキするなぁ。】

 

ワタナベさんが黙って、面会室に入室する。

 

ワタナベ

「あっ、弁護士の先生ですか。事務所の社長から聞きました。この度は、すいません。よろしくお願いします。」

 

私(名刺を見せながら、)

「弁護士の小林正和です。名刺は、後で差入れしておきますね。うちのクライアントの社長さんから、電話を頂きまして、私が参りました。ワタナベさんの事務所の社長さんと仲が良いそうで。ところで、ワタナベさんご自身で、他に弁護士を依頼されたりしてますか。」

 

ワタナベ

「いいえ。先生にお願いできるのですか?」

 

「ワタナベさんが、宜しいということでしたら。

まず、今後の流れを説明します。先ほど裁判所から戻られましたよね。本日、勾留決定がされ、勾留請求がされた昨日から数えて10日間、つまり、6月25日金曜日まで勾留されることになりました。更に10日延長されることもありますし、延長じゃなくて10日目に起訴される可能性もあります。もちろん、不起訴で釈放される場合もあり得ます。勾留に対しては準抗告という不服申し立てや勾留理由開示という手続きもあります。

取調べでの注意点や、事件のことを具体的に伺いますね。その上で、私で宜しければ、本日、委任契約書を交わして、ご署名を頂いた弁護人選任届を検察庁に提出しまして、本日からワタナベさんの弁護人として活動します。」

 

ワタナベ

「私、勾留されるのも、逮捕されるのも初めてです。薬なんかは、やったことはありません。でも、今回、不倫ということで逮捕・勾留されました。不貞行為は事実です。ちょっとどうしたらいいか・・・。」

 

「仕事関係は、社長さんに任せておきましょう。」

(黙秘権、指印等の取り調べの注意点、手続きとしての準抗告・勾留理由開示などを一通りご説明した上で、)

「これから、事件のことを色々と聞いていきますね。」

 

(つづく)