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理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許入門12(従属項の意義)

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独立項と従属項の関係

はじめに

 

今回のテーマは、従属項従属クレーム)です。具体的には、従属項の意義について説明したいと思います。

 

従属項については、以前に、下記の記事でも少し触れたのですが、自分なりに、少し体系的に整理したいと思います。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

従属項の内容について

 

まずは、いつもの鉛筆特許の具体例を挙げて、従属項がどういうものかを説明したいと思います。

 

【請求項1】 断面形状が多角形であることを特徴とする鉛筆。

【請求項2】 請求項1記載の鉛筆において、断面形状が正六角形であることを特徴とする鉛筆。

【請求項3】 請求項1記載の鉛筆においてその先端に消しゴムを設けたことを特徴とする鉛筆。

 

まず、【請求項1】は、独立項です。

 

【請求項2】は、「請求項1記載の鉛筆において」と【請求項1】を引用しており、これが従属項です。【請求項1】に係る発明の下位概念の発明です。正六角形は、多角形の概念に含まれますよね

 

【請求項3】も、同様に、【請求項1】を引用した従属項で、【請求項1】に係る発明の下位概念の発明です。

【請求項3】に記載の、消しゴムを設けた(一体化した)鉛筆は、断面形状を工夫した発明とは別発明と言えますが、【請求項1】を引用しているため、権利範囲としては【請求項1】の中に含まれるという関係になります。

【請求項3】の権利範囲は、多角形断面で、かつ、その先端に消しゴムを有する鉛筆です

 

ところで、発明の権利範囲については、で表現すると、大変分かりやすいと思います。円が独占権の範囲(自分の敷地)という感じです。

 

そして、【請求項1】~【請求項3】の権利範囲の関係は、冒頭の図(ベン図)のような関係になります

 

【請求項1】が最も広く、それを限定した(その下位概念)である【請求項2】、【請求項3】のそれぞれの権利範囲はその中に含まれることになります。

 

さて、ここで、素朴な疑問。

 

【請求項1】は、もっとも「広い」概念で、この範囲(薄緑の円)で特許権を取得しさえすれば、これに包含される【請求項2】(赤い円)や【請求項3】(薄青の円)のより狭い範囲を権利取得する必要はないのではないか、という疑問です。

 

言い換えると、「大は小を兼ねる」から従属項は不要ではないか、という疑問です。

 

でも、実は、必ずしもそうではありません。この点を含めて、次に、従属項の意義について説明したいと思います。

 

従属クレームの意義について

 

従属項の意義としては、大きく分けて、

 

(1)権利化段階における戦略的・防衛的意義

(2)権利化後における戦略的・防衛的意義

 

が挙げられます。

 

(1)権利化段階における戦略的・防衛的意義について

 

権利化段階における戦略的・防衛的意義については、以下の3つが挙げられます。

 

① 拒絶理由に対する事前対応

② 公知技術の情報取得・補正の戦略

③ 広い特許を取ったから安心というわけではない。

 

まず、「① 拒絶理由に対する事前対応」ですが、段階的に発明の内容を限定している従属項は、いわば、審査官に対する予めの妥協案の提示という意義があります。

 

独立項で「多角形断面の鉛筆について権利をください!」という一方で、その下に、妥協案としてのより限定した発明「正六角形」等を従属項で列挙しておき、「多角形がダメでも、六角形ではどうでしょうか? もっと狭い『正六角形』ではどうでしょうか?」といった具合に、審査官にお伺いと立てるイメージです。

そして、審査官からの最初の拒絶理由をみれば、どの従属項まで権利範囲を絞れば、特許査定になり得るかを知ることができます(全部ダメって場合もありますけどね。)。

 

これが、仮に、独立項(多角形断面)だけしか記載していないと、1つの正方形断面に関する先行技術文献だけを引用されて拒絶理由通知を受けた際に、正六角形断面に限定補正したら特許になるかどうか、審査官の心証は必ずしも見えてきません。ですので、次のアクションで、多角形を正六角形に補正しても、拒絶査定をされてしまうおそれがあります。

事前に下位概念を段階的に従属項で規定し、審査官に示しておいた方が、特許され得る発明の範囲がある程度見えてきます。

 

次に、「② 公知技術の情報取得・補正の戦略」ですが、審査官としては、従属項で下位概念が規定されていると、(単一性に問題がない限り、)全請求項に対して、それらに最も近い先行技術文献を調査し、提示してくれます。

 

大企業だと予めお金をかけて先行技術文献をした上で出願することも多いですが、必ずしもそのような余裕がない場合だと、審査官になるべく網羅的に先行技術文献をしてもらいたいですよね。そういう意味で、従属項を書く意義があります。

 

従属項に対応したより多くの先行技術文献を列挙してもらうことで、これらを全て回避した上で(「つぶれにくい特許」)、最も広い範囲で特許を取る(「広い特許」)ための戦略を立てることができます。

 

仮に、これが独立項だけしかないと、正方形断面の鉛筆に関する先行技術文献1つだけを提示されてしまい、正方形断面については権利が取れないことは分かりますが、それ以上に、最大でどの範囲まで権利を取得できるのか(正六角形だったら権利がとれるの?)が見えてきません。

 

最後に、「③ 広い特許を取ったから安心というわけではない」という点ですが、これは先の疑問への回答です。まず、以下の図を見てください。

 

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自分の特許発明の権利範囲と他人の特許発明の権利範囲との関係

 

仮に、独立項で記載した「 多角形断面の鉛筆」(薄緑の円の範囲)で権利がとれたとします。そうすると、薄緑の円の範囲は、出願日から20年間、あなたの独占権の範囲かといえば、答えはYesです。

 

しかし、後で、他人が、多角形断面をより限定した「六角形断面の鉛筆(赤い円)で特許権を取得することは、実は可能な場合があります

 

あなたの「多角形断面の鉛筆」については、従来、円形断面の鉛筆しかなく、新規性・進歩性があるとして、特許査定となったとします。

 

しかしその後、他人が、六角形断面の鉛筆について出願し、①仮に、あなたの明細書の中に、六角形断面の鉛筆について具体的な言及がなく、かつ、②審査官が六角形に限定したことに特許性を見出した(たとえば、転がり落ちないというあなたの特許発明の効果に加え、更に、六角形断面によるグリップの最適化という効果があり、進歩性ありと見た)場合には、特許査定になり得ます。

 

その場合、権利関係としては、六角形断面の鉛筆(赤い円)については、たとえあなたが多角形断面の鉛筆の特許権を持っていたとしても、この他人から許諾を得ないと、製造・販売ができません。

 

逆に、後から六角形鉛筆で権利をとった他人も、自らが六角形断面について権利を取得したからといって、自由に製造・販売ができるわけではなく、あなたから許諾を得なければなりません。あくまでも、赤い円は、薄緑の円の範囲内にありますからね。

 

つまり、双方互いに実施許諾(ライセンス)をしないと、双方とも製造・販売ができないということ関係になります

 

ちなみに、あなたの権利が虫食いになるわけではありませんので、そこはご注意ください。あくまでも、薄緑の円全体があなたの権利です。しかし、赤い円の部分は、他人からライセンスをもらわないと実施できなくなるというにとどまります。

 

仮に、(自分でも他人でもない)第三者が、赤い円の部分(六角形断面の鉛筆)について、無断で製造・販売した場合には、あなたも、そして、別の人も、この第三者に対して、それぞれの特許権を行使することができます。

 

このような自分と他人との関係は、典型的には、あなたの会社が権利取得した基本発明について、ライバル会社に利用発明で権利をとるという事態が典型です。あなたの会社は、ライバルの許諾なく、ライバル会社の利用発明を、実施できなくなってしまいます。

 

ですので、従属項によって、あなたの最初の発明である多角形断面(薄緑の円)の権利の範囲内にある、下位概念の発明である正六角形断面(赤い円)についても重層的に権利取得しておく必要があるのです

 

たとえば、あなたが電気自動車の基本原理について特許を得たからといって、それを利用した様々な改良発明について、全てあなただけが自由に製造・販売できるわけではないのです。ライバル会社に、改良発明をとられてしまうと、その改良発明を実施するには、互いに、ライセンス契約を結ぶ必要が出てくるのです。

 

説明がくどいですね、すいません。

 

そういった意味でも、従属項により、下位概念(具体的な改良発明)でも、権利取得をしておくほうがよいのです。

 

(2)権利化後における戦略的・防衛的意義について

 

前半が少し長くなってしまいましたので、後半の権利化後の意義については、ごく簡単に説明します。

 

従属項の権利化後の意義としては、

 

① 多様な権利行使を可能にする

② つぶれにくい特許の実現

③ 交渉における優位性

 

が挙げられます。

 

まず、「① 多様な権利行使を可能にする」という点についてですが、様々なレベル・観点の従属項を揃えたおいた方が、相手方への権利行使の際に、ベストな請求項で権利行使ができます

要するに、「武器は、色々あった方がよい。」ということです。

 

次に、「② つぶれにくい特許の実現」に関しては、たとえば、ある請求項(独立項)に対し、相手方から、独立項に係る発明について特許が無効であるという主張がなされる可能性がありますが、その場合でも、より下位概念の従属項に無効理由がなければ、それで権利行使ができますよね

特許無効審判を申し立てられても、従属項に限定する訂正は、割と簡単です。

このように、「使えない武器があっても、別の武器が使える。」という意味で、従属項があることは、戦略的に有利です。

 

最後に、「③ 交渉における優位性」という点ですが、特許紛争においては、

 

A「おれは、おまえが実施している製品について、こんだけ特許権持っているんだ。」

B「おれも、おまえが実施している製品について、こんだけ特許権持っているんだ。」

 

として、互いに、特許権という武器の数と強さを見せあい、結局、どちらがどちらにいくら払うか(互いにゼロという場合もありますね。)を決めて、クロスライセンス契約して、紛争を収めるということがあります。

 

本当に、カードゲーム見たいなところがあります。

 

その際、「武器(カード)の数」というのは、相手の製品に充てられる特許権の数ですが、特許権における各請求項も、相手の製品に権利行使できるか否かという点では「カードの数」に寄与します

 

ちなみに、「武器(カード)の強さ」というのは、①相手方の製品が特許発明の技術的範囲に含まれていると言えること(充足性)の議論の強さ、②特許が無効でないことをどれだけ強く言えるか(有効性)の議論の強さ、ということです。

 

まとめ

 

以上のように、従属項には、

 

① 権利化段階で、より「強い特許」をとるために戦略的に活用できるという意義、

② 権利化段階で、独立項で広い範囲だけ特許権をとるのではなく、その下位概念でも特許を取っておくことで、後に、他人に下位概念の権利を取られてしまうことを防ぐという意義、

② 権利化後に、権利行使において、特許権という武器(カード)の数と強さに寄与するという意義、

 

があります。

仮想刑事事件(不倫罪)第3話

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Dancing Couple In The Snow (Reverse)(1928-1929)

Ernst Ludwig Kirchner (German, 1880-1938)

 

前々回から架空の事件について、なるべくリアリティのある感じで物語を書いています。

 

芸人のワタナベ・カンは、令和3年1月1日から施行された改正刑法において新設された不倫罪で逮捕・勾留されてしまった。彼の弁護人となった私は、初回の面会を終え、正式な弁護人となった。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

前回までのあらすじ

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

私(独り言)

【とりあえず、検察庁へは弁護人選任届を出し、その後、裁判所の令状部へ準抗告の準備か。あと、いろんな方(芸能事務所の社長、相方、奥様であるササザキ・コノミさん)と連絡をとらないと。】

 

事務所へ戻ってきた私は、さっそく、事務作業や各種連絡に取りかかろうとした。

 

某若手弁護士

「聞きましたよ。ワタナベ・カンさんの刑事弁護人するんですって? うちの事務所だと小林先生しか適任者いませんものね。」 

 

「いやいや。実は、湾岸署に接見行ってきて、正式に弁護人になりましたよ。これから、色々と大忙し。」

 

某若手弁護士

「あー、東京国際クルーズターミナルの近くの警察署ですね。芸能人御用達の。とりあえず、準抗告勾留理由開示ですか。大変ですね。」

 

準抗告はするけど、勾留理由開示はワタナベさんと話してやらないことにした。」

 

某若手弁護士

「そうですか。ニュースの報道以上のことは守秘義務があるでしょうから、あれですけど、不倫罪での逮捕・勾留ですよね、今年、新設されたっていう?」

 

「そう。3年以下の懲役で、住居侵入と同じ刑の重さ。逮捕・勾留は、ちょっと、やりすぎじゃない? どうも、見せしめ感があるよねぇ。」

 

某若手弁護士

「世の中、というか、日本で最も恐ろしいものの一つである世論というやつが根底にありますね。」

 

「うん。」

 

某若手弁護士

「でも、不倫罪なんてそもそも憲法違反ですよ。香川県ゲーム規制条例と同じで。」

 

「ほーぉ。是非、教えて欲しいですね。」

 

某若手弁護士

幸福追求権自己決定権性的行為の自由・・・。幸福追求権っていうのは、本件の場合、やや皮肉ですね。」

 

憲法13条後段ね。さすがですね。本件は先生との共同受任にしましょう。さっそく準抗告起案してもらいましょうかね? 書き方分かる? 基本は、罪証隠滅のおそれなし、逃亡のおそれなし、勾留の必要性なしを具体的に論じるのですよ。」

 

某若手弁護士

「いえ、いえ、いえ、結構です。私、『知財事件』で色々忙しいんで。」

 

「何より、配偶者のある者が罰せられる一方、配偶者のない者は罰せられないんだよ。憲法14条1項平等権)違反もあるよね。」

 

某若手弁護士

「その点は、重要ですね。配偶者がいなければ、罪にならないんですから。ところで、不倫罪って、相手が独身の場合も、罰せられるんでしたっけ?

 

「あっ、しまった。大事なとこなのに、気にしてなかった。ちょっと条文見てみる。」

 

不貞罪(刑法184条の2[※実際はありません。])

「配偶者のある者が、配偶者以外の者と性交をしたときには、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」

 

「うーん。条文見ても分かんないなぁ。あれですかね、身分と共犯の論点ですかね。身分なき者も身分のあるものと共同正犯になり得るってやつ。」

 

某若手弁護士

「いやいや、先生、大丈夫ですか? ロースクール世代は、すぐに、論点に飛びつくからぁ。むしろ、収賄・贈賄のような対向犯じゃないですか、規定があるかどうかですよ。刑法184条重婚罪を見てみてください。後段で、重婚の相手も罰せられますよね。でも、不倫罪には後段がないようです。ですから、規定からすると、相手は、独身であれば、罰せされないはずですね。」

 

刑法184条(重婚)

「配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。その相手となって婚姻した者も、同様とする。」

 

「なるほど。そっか、さすが予備試験組は違いますね。そうすると、相手の女性たちは逮捕・勾留はされていないんだね。罪証隠滅の観点からは、ワタナベ・カンさんが勾留を解かれても、彼女たちと接触しないことを約束してもらわないといけないですね。それは、既にお願いしてありますが。」

 

某若手弁護士

「もし、裁判になったら、法令違憲の主張もありますが、弁護人としては面白いですが、無効になる勝算がある程度ない限り、依頼者にはあまりメリットないですよね。『世論』は、『不倫罪が無効だなんて、反省していない!』とか言って、マスコミもその筋で当然書いてきそうですね。」

 

「私も、そう思います。資格者のように欠格事由がある場合は、何が何でも、起訴を免れるか、起訴されても、罰金どまりにし、懲役は免れないといけません。彼は、その点の心配ないですが、また、何らかの形で、芸能界に復帰しなければならないですからね。」

 

某若手弁護士

「不倫罪は違憲とか主張したら、先生も、『不倫容認弁護士』とか言われて、叩かれそうですね。」

 

「はーっ。そこまでは気にしてなかった。困ったなぁ。『不倫は犯罪ではなく、文化です。』とか言ったら、このご時世、大変なことになりそうですね。昔は、芸能人が不倫しても、デヘデヘして、リポーターの前で答えてましたけどね。時代は変わりましたね。まぁ、違憲の点は、裁判になったときに考えますよ。」

 

某若手弁護士

「最近は、勾留が緩くなったかと思っていましたが、例のコーン事件以降は、東アニ事件、政治家の公職選挙法違反事件等、また、逮捕・勾留が厳しく運用されるようになるんでしょうか。」

 

「んー。最近は、勾留されなかったり、保釈やら結構認められやすくなっている印象があったんだけどね。」

 

某若手弁護士

「また、身柄拘束の運用が厳しくなるんでしょうか。また、別の見方ですけど、不倫罪って、これ、既婚者の売春行為も全部摘発できますね。あと、たとえばですが、若い女性が、『中年男性の既婚者をはめる』こともできますね。運用次第では凄いことになりますよ。」

 

「なるほど。確かにそうですね。不倫罪、結構影響が甚大ですね。」

 

某若手弁護士

「まーぁ、本件については、よろしければ、違憲論だけだったら、全部込みで、『200万円』で最高裁まで引き受けますよ。」

「あと、勾留の要件である『逃亡のそおれ』の観点からは、ワタナベさんから、パスポート預かっておかないとダメですね。コーン事件もありましたしね。海外逃亡のおそれがないことを裁判所に示さないと、ですね。」

 

「・・・。なんか、弁護士って、他人が大変な事件やってると、他人事だからって、色々と突っ込んで楽しむ癖あるよね・・・。」

 

「そうですかぁ~。議論ですよ、議論。弁護の質を高めるための。」

ビール紀行(ドイツ・バンベルグ)

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バンベルグの旧市庁舎

ドイツ・バンベルグ

 

バンベルグは、ミュンヘンから電車で約2時間(ニュルンベルクよりも少し行ったところ)で、バンベルグの旧市街地がすべてユネスコ世界文化遺産に指定されています。

 

バンベルグは、小さなヴェネチアと呼ばれている大変美しい町です。そういえば、ヴェネチアのように船に乗れるところがありました。旧市街地は、奇跡的に、第二次世界大戦の戦禍を免れたのだそうです。

 

旧市街地は、1日あれば、徒歩でまわることのできる素敵な観光都市です。

 

冒頭の写真は、バンベルグの象徴的な風景、旧市庁舎です。この下が川になっており、なんか、川に浮かんだ感じの建物です。

 

プロのカメラマンでなくても、ヨーロッパの都市のように景色がよいと、普通にプロのカメラマンのような素敵な写真が取れてしまいますね。

 

バンベルグのビール(ラオホ・ビア)

 

さて、バンベルグに来た目的は、他でもなくビールです。

バンベルグは、知る人ぞ知るラオホ・ビア(Rauchbier)で有名な街で、その代表が、下記のシュレンケルラ醸造のラオホ・ビールです。

 

www.schlenkerla.de

  

「ラオホ」というのは、「煙」という意味で、燻したようなスモーキーな風味が特徴です。

 

Rauchというのは、「煙」のことで、「煙草を吸う」という動詞は、ドイツ語でrauchenです。

ドイツの駅とかには、Rauchfreiと書いてありますが、英語で言えばsmoke freeで、「禁煙」という意味です。 ちなみに、freiは(英語のfreeで)「空いている」という意味もあり、電車で席が空いているか確認するときに、"Ist das frei?" [イス・ダスト・フライ?](ここ空いてますか?)と聞くときに使います。

 

私、2年ミュンヘンに居たので、ドイツ語は結構分かります。

 

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ラオホ・ビール(Rauchbier)

 

とりあえず、写真の2種類のラオホ・ビールに挑戦しました。見た目と違い、それほど苦くなく、飲みやすいです。でも、燻製されたビールということで、味・風味は普通のビールとは全く違い、独特です。

 

このラオホ・ビール、実は、ドイツ人でも苦手という人が結構いました。

 

一度、留学先の各国出身の学生何人かで集まってパーティをしたときに、皆でラオホ・ビールを開けて飲んだのですが、他国の皆さんには、実は、軒並み不評でした。

 

でも、日本人学生には割と好評でした。多分、日本人は燻製の味や風味に慣れていて馴染みがあるからでしょうか

 

私の率直な感想は、一口飲んだときには、「確かに燻製の味・風味のようなものがするが、苦みもあまりなく、ちょっと薄くて物足りない感じだなぁ。」という印象でしたが、飲み進めていくうちに、「結構いけるかも。」という感じで、結果的にはまた飲みたいと思いました。

 

バンベルグのスーパーでは、普通のドイツ・ビールと同様、さきほど飲んだシュレンケルラ醸造のラオホ・ビールを500mlビンで1ユーロ(=約120円)くらいで売っていましたので、自分のお土産として買いました。

 

 

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バンベルグのビール

 

シュレンケルラのビールが日本で買えるか、ちょっとググってみましたが、ネットでは、このビール、500mlビンを600円~700円で売っていますね。高い!

 

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シュレンケルラ醸造所(Schlenkerla)

 

シュレンケルラ醸造所のレストランを出ると、入り口付近に、観光客があふれていました。

このレストランは、食事をするために待っている人たちではありません。実は、レストランの中に入らなくても、窓口のようなところで、ビールを買って立ち飲みができるのです。ですので、レストランの前で、グラス片手にビールだけ飲んでいる人がたくさんいるわけです。

 

日本のラオホ・ビア

 

ドイツでもバンベルグの他では見かけなかった珍しいラオホ・ビールですが、帰国後、日本でも製造しているところはないかと調べたところ、ありました。

 

www.fujizakura-beer.jp

 

富士桜高原麦酒では、定番ビールの中に「ラオホ」があり、「世界コンペ2冠ビール!」と謳っていますので、きっと美味しいのでしょう。

 

beer.warabi.or.jp

 

あと、田沢湖ビールのラインナップにもラオホ・ビールありました。

以前に、秋田に行ったときに、秋田駅で飲んだ田沢湖ビールは、以下の記事です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

このときは、ラオホ・ビールは見当たりませんでしたが、実は醸造していたのですね。

でも、限定醸造のようですので、次回を待ちたいと思います。 

 

ちゃんと調べたら、日本の他の醸造所でも、醸造しているところがあるかもしれません。

 

ネットで、シュレンケルラ醸造所のビールを買って飲んでもよいのですが、おそらく鮮度が落ちてしまっているでしょうから、日本で醸造されたラオホ・ビールの方がいいかもしれませんね。

 

今度、機会があれば、日本のラオホ・ビールを是非飲んでみたいと思います。

特許入門11(発明を言葉で表現することの難しさ3)

はじめに

 

特許入門2-8では、六角形の鉛筆を例に、「強い特許」(良いクレーム)の書き方をご説明しました。

 

特許入門9、10では、ドラゴンクエストのスライムの立体形状を例に、発明を言葉で表現することの難しさをご説明しました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

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今回は、実際の具体例で、クレームを検討してみたいと思います。

 

洗濯ばさみ収納具(特許第6614690号)

 

去年末に、ニュースで、小学生が特許を取得!、と報道されてました。

お母さんのお手伝いの延長で、便利な洗濯ばさみ収納具を発明したそうです。偉いですね。

 

www.youtube.com

 

いつものJ-Platpatで調べると、構造は以下のようなものでした。

 

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洗濯ばさみ収納具の構造図

 

洗濯ばさみ収納具には、2種類のタイプ(実施例)が開示されていました。

 

左の箱の図は、1つめのタイプで、収納具の棒に、使い終わった洗濯ばさみの孔を通すと、洗濯ばさみの持つ部分が、常に手前を向くように調整され、次回使うときに、洗濯ばさみを(下の開口部から)取り出しやすいように、洗濯ばさみの方向が揃うようになっています。

明細書の詳細な説明の段落【0024】には、「落下姿勢規制部4は、洗濯バサミ5の形状及び寸法と中心軸体3の基台2における取り付け位置とに応じて形成される。」とあるので、洗濯ばさみの形状・大きさと、基台(壁体内)の棒の位置との関係で、洗濯ばさみの方向をうまく揃えるようです

 

真ん中の図は、上から見た図で、オプションとして、箱の内側に出っ張った「補助規制部13」を設け、同様に、次回使うときに、洗濯ばさみを取り出しやすいように、洗濯ばさみの方向が揃うようになっています。

 

右の図は、もう1つのタイプで、棒に洗濯ばさみの孔を通すと、洗濯ばさみがどんな方向を向いていても、斜めになった壁部分で、くるっと回転し、同様に、洗濯ばさみの持つ側が常にこっちを向くようになっています

 

クレームの記載

 

このような単純な構造(でも、素晴らしい!)でも、クレームにすると結構長くなりますね。ポイントだけ、下線を引きました。

 

【請求項1】
基台と、中心軸体と、落下姿勢規制部と、中心軸体に挿通された洗濯バサミを取り出す開口部を備えた取り出し部とを有し、
(a)前記中心軸体が基台の平面に対して縦方向に設けられ、
(b)前記落下姿勢規制部が、洗濯バサミの力点部に力を加えると支点部を中心にして作用点部が互いに離反するように回動するその洗濯バサミにおける前記作用点部と前記支点部との間に形成される洗濯バサミの空間部に前記中心軸体の上部が挿通する状態になるように中心軸体に洗濯バサミを装着した場合に、中心軸体の上部から基台の平面に向かって洗濯バサミが落下するときに、前記洗濯バサミの前記力点部となる部位が前記開口部に向かうように洗濯バサミの落下姿勢を規制することを特徴とする洗濯バサミ収納具。

 

【請求項2】
前記落下姿勢規制部が、前記中心軸体に挿通された洗濯バサミが中心軸体を中心にして回転するのを阻止する内壁面を備えた壁体である前記請求項1に記載の洗濯バサミ収納具。


【請求項3】
前記落下姿勢規制部が、前記中心軸体を挿通して基台上で上下に積み重なった複数の洗濯バサミが同じ方向に向いて重なるように形成された壁体である前記請求項1又は2に記載の洗濯バサミ収納具。

 

【請求項4】
前記落下姿勢規制部は、その上端面が、前記開口部における開口方向に向かって傾斜する傾斜端面である前記請求項1~3のいずれか一項に記載の洗濯バサミ収納具。

 

クレームの検討

 

実施例1の方は、洗濯ばさみの形状・大きさと棒の具体的な位置関係で、洗濯ばさみの持つ部分(力点部となる部位)がこっちを向くというもので、クレームで具体的に記載するのは難しそうです。

形状や寸法を具体的に規定してしまうと、権利範囲が小さくなり、「広い特許」(「強い特許」)に反してしまいます。

 

実施例2は、「傾斜面」でクレームが書けそうですが、権利範囲としてはある程度限定されてしまいそうです。

 

さて、一番上位概念のクレームである【請求項1】を見ると、「落下姿勢規制部」が、「中心軸体の上部から基台の平面に向かって洗濯バサミが落下するときに、前記洗濯バサミの前記力点部となる部位が前記開口部に向かうように洗濯バサミの落下姿勢を規制する」というように、機能的な書き方になっています(機能的クレーム)。

 

下記記事の鉛筆特許の「転がり落ちない平坦部」と同じです。鉛筆特許でも、「平坦部」という具体的な構造さえも特定せずに、「転がり規制部」という表現もできたかもしれません。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

ただ、上記記事にあるように、機能的クレームには、記載要件の問題や、権利範囲が限定解釈されるおそれもあるので、必ずしも多用すれば良いというわけではありません。

 

本件の洗濯ばさみ収納具では、後述するように、従属項で、その機能を実現する具体的な構造(壁体、傾斜端面)を規定していますね。

 

実施例1が、洗濯ばさみの形状・寸法と収納具における棒の位置で決まるとすると、具体的な構造としてクレームを書くのは書きにくいし、具体的に書いてみても権利範囲も狭くなるので、請求項1で機能的に書くのが常套でしょうか。これで、実施例2も含めた上位概念で規定できていますね。

 

【請求項2】は、オプションの「補助規制部13」のことで、「内壁面を備えた壁体」という具体的な構造が規定されています。

 

【請求項4】は、別のタイプ(実施例2)に対応して、 【請求項1】を受けて(=に従属して)「その上端面が、前記開口部における開口方向に向かって傾斜する傾斜端面」というように、「傾斜端面」という具体的構造(形状)で規定していますね。

 

具体的構造だけのクレームでは、ちょっとした構造の変更で、特許権を回避されてしまう可能性があるので、「回避困難な特許」をめざすには、【請求項1】の(具体的な構造を捨象したというか超越した)機能的なクレームで権利が取るというのは良い手法です。

本件でも、無事特許されており、良かったと思います。

 

どうでしたか。典型的ではありますが、素晴らしいクレーム構成だと思います。

皆様も、実物(発明品)を見て、クレームを考えてみましょう。

 

仮想刑事事件(不倫罪)第2話

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Dancing Couple In The Snow (Reverse)(1928-1929)

Ernst Ludwig Kirchner (German, 1880-1938)

前回までのあらすじ 

 

前回から、既婚者による不倫(不貞行為)が、刑法上の犯罪行為になってしまったという世界を想像し、仮想刑事事件の話を始めてみました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

なお、ここでの登場人物や機関は、実在のそれらとは一切関係がありません。

 

お笑い芸人であるワタナベ・カンさんが、成立したばかりの不倫罪で逮捕・勾留され、弁護士である私は、勾留決定当日の夜、ワタナベさんが勾留されている湾岸警察署へ接見に向かいました。私は、今後の手続きの流れや、黙秘権等の権利を一通り説明をした後、ワタナベさんに事件の真相を聞きました。

 

「これから、事件のことを詳しく聞いていきますね。」

 

- まず、勾留状にある被疑事実をワタナベさんに読み聞かせた。

 

「要するに、ワタナベさんは、ササザキ・コノミさんという奥様がいるのに、この5名の女性と関係を持ったということが被疑事実として書かれています。」

「この5名の女性A、B、C、D、Eさんはいずれもご存じの方ですか? 5名と関係を持った日時、場所も書かれています。被疑事実で何か間違っている点はありますか?

 

ワタナベ

「3名の女性A、B、Cさんは確かに名前も知っており、関係を持ちました。日時・場所は正確には覚えていませんが、おそらく間違いないと思います。D、Eの2名の女性は名前を聞いても知りませんが、日時や場所を見る限り、身に覚えがあります。」

 

「なるほど。5人とも心当たりがあると。」

 

ワタナベ

「実は、私が関係を持った女性は、実は、全部で10名くらいです。でも、下の名前しか知らない女性もいます。本名かどうかもわかりませんが・・・。」

 

私(独り言)

【10名かぁ、大変だなぁ。余罪も含め10件ということか・・・。】

 

「約10名ですか。そうすると、被疑事実のD、Eの女性についてはフルネームに見覚えはないけれど、関係を持った可能性があるということですね。その他に、捜査機関に発覚していない5名も・・・。」

 

ワタナベ

「そっ、そうです。D、Eさんは苗字は知らないけど、名前は知っているあるので、多分、関係をもったことに間違いなさそうです。お恥ずかしい話ですいません。」

 

「いいんです。あっ、そうだ。忘れてました。念のため、それらの女性かちと関係を持ったというのは、(不倫罪が施行された)令和3年1月1日以降ということですか。」

 

ワタナベ

「はい。」

 

「それと、言い忘れてしまいましたが、私は弁護士としての守秘義務がありますので、本日お話し頂いたことは、ワタナベさんの許可なく、他人に口外することはありません。ご安心ください。マスコミに逐一しゃべるなんてことも絶対にありません。」

 

ワタナベ

「はい。安心しました。」

 

「後の5名について今後発覚するかどうかは、今後の捜査次第なので分かりません。」

「相手の正確な特定の問題もありますが、基本的には被疑事実を認める前提で、弁護活動を考えてみます。今、一番大事なのは、①一刻も早く釈放されるようにすること、そして、②起訴されないこと、つまり、裁判にならないようにすることです。」

「今後、警察・検察の取調べが始まりますが、間違いない事実であれば認めてもかまいませんが、そうでなければ、はっきりと『違います。』、『分かりません。』と答えてください。事実と異なる調書をまかれたら、指印は拒否してください。取調べが辛くなったら、黙ってしまっても大丈夫です。先に申し上げたように、ワタナベさんには黙秘権がありますから。取調べが執拗だったり、怖かったりしたら、『弁護人を呼んでください。』と接見希望を出してください。取調べが辛ければ、体調が悪いふりをしても構いません。」

※調書をまく=調書を作成される

※指印=印鑑の代わりに、指にインクを付けて、調書等に押印すること。

 

ワタナベ

「わかりました。よろしくお願いします。早くここから出たいです。10日で出られるでしょうか。でも、外へ出ても地獄でしょうね。外にはマスコミ・・・。私の人生はもう終わりでしょうか・・・。」

 

「弁護士倫理の問題として、10日で釈放されるという保証はできません。でも、今回の勾留については不服申し立てをし、また、ダメでも10日以上延長されないよう最善を尽くします。」

「人生が終わりだなんて、そんなことはありません。確かに、ワタナベさんのこれまでの人生が順風満帆の100点だとすれば、今はゼロ、いやマイナスです。しかし、これから、また、復活できますよ。そもそも、犯罪をしてしまった方が復活できる世の中でなければならないはずです。」

 

ワタナベ

「無理ですよ。私はもうお茶の間には戻れない・・・。」

 

「いいですか。私は、ただの弁護士なので、芸能界のことはよく知りません。確かに、有名人ですから、今後も、ずっとこのことを言われ続けるかもしれません。しかし、あなたは、お笑い芸人として実力や努力があってここまでの地位にのし上がったはずです。また、のし上がればいいじゃないですか。今はゼロというかマイナスかもしれません。しかし、また、そこから一歩ずつ上がっていきましょう。」

「あなたの芸能事務所の社長さんは、あなたを心配して、私を派遣してくれた。社長さんは、できる限り協力してくれるそうです。本来であれば、あなたの仕事のキャンセルで莫大な損害を被っているはずです。でも、力を貸してくれるそうです。私が、しっかり交渉しますから。」

「それから、あなたの相方のオダジマさん。ニュースによれば、あなたのことを、ラジオで泣きながら非難していました。でも、『一からやり直せ。』とおっしゃっていたそうです。あなたを決して見捨てていないはずです。10年以上も一緒にコントやってきたんでしょ。」

「事務所の社長も、相方との関係もこのまま維持できれば、復活する土台がある。他にもあなたを助けてくれる芸能界の先輩・友人はいるはずです。テレビに復帰できなくとも、今は、You Tuberで復活している芸人もいるじゃないですか。最近は、あのマツトモさんも、間違いを犯してしまった芸能人たちを暗黙のうちに年末に復活させるべく自分の番組に呼んだりしているじゃないですか。頑張りましょう。もちろん、私も全面的に支援します。ワタナベさんが勾留されている間、私が、他の方といろいろと調整しますし。」

 

ワタナベ

「そうですね。ありがとうございます。もう1回やり直せるといいのですが・・・。」

 

「あと、問題は、奥様のササザキさんですね。人気の女優さんですよね。」

 

ワタナベ

「はい。妻には申し訳ないことをしました。妻も大変なことになっていると思います。」

 

「報道では、まだよくわかりません。奥様との今後ですが、可能性としては、奥様はどう出てくると思われますか。」

 

ワタナベ

「『離婚する!』と、言われるかもしれません。正直、分かりません。真摯に謝ればもしかしたら許してくれるかも・・・。」

 

私(独り言)

【あー、離婚の話になったら、嫌だなぁ。刑事事件はともかく、離婚事件はできれば受任したくないなぁ。】

 

「奥様は女優さんですので、このような状況で、代理人(弁護士)がつく可能性があります。」

「本件は、不倫罪ということで、何とも厄介な罪なのですが、奥様が直接的な『被害者』という位置づけでもないのです。痴漢のように個人の権利を侵害したというのとは性質が違い、不倫罪の規定による限り、不貞行為により社会秩序を乱したとかそういう点を非難する位置づけの罪のようです。」

「ただ、奥様との婚姻関係を維持し、場合によっては、奥様から嘆願書を頂ければ、ワタナベさんの情状にとって有利となることも確かです。」

 

ワタナベ

「色々とすいません。妻とは離婚したくありません。許してもらえるよう、よろしくお願いします。でも、こんな大変になるなんて・・・。なんでバレたのか。」

 

「5名の女性と関係で、何かトラブルとか、こじれたりというのはありましたか。」

 

ワタナベ

「私は、そう感じませんでした。でも、相手は都合よく使われて、よく思っていなかったかもしれません。」

 

「そのうちの誰かがマスコミにリークしたり、あるいは、マスコミ自身が嗅ぎつけたり、マスコミと捜査機関との関係もありますし、今回は、不倫罪成立後のいわば「見せしめ」のような事件かもしれません。言い方が正しいかどうかわかりませんが、運が悪かったというか・・・。でも、今や既婚者の不倫は犯罪ですから。不倫は、もはや倫理上の問題に留まりませんし、ましてや、「不倫は文化」でもありません。」

 

ワタナベ

「まさか、私がこんなことになるなんて・・・。」

 

「これは、決して興味本位で聞くわけではありませんが、今年に入ってから、被疑事実の5名の女性を含む、10名もの女性と関係を持ったというのは、えーっと、何というのでしょうか、そういう嗜好というか、お強いというか。きっかけは、どうなんでしょう。」

※動機を聞こうとしている。

 

ワタナベ

「仕事のストレスの発散です。一時に全て忘れられるというか。また、仕事の後とかで、無性にイライラしたりして、つい、誰か女性にラインし、会ってしまいます。誰でもいい、会ってくれるなら、という気持ちになることもあります。病気でしょうか。」

 

「なるほど。聞いてよかったです。私の経験上、社長さんとか芸能人とか、成功者にはすごくタフな遊び人タイプが多いのです。ワタナベさんもそういうタイプかと思っていました。でも、私は医師ではありませんが、お話を聞く限り、依存症の可能性がありますね。あの、ゴルフ選手のタイガー・キッズがそうだったようですね。ご存じですか。」

 

ワタナベ

「そうかもしれませんね。依存症・・・。言われてみればそうかもしれません。」

 

薬物や、複数の女性と関係を持つこと、また万引きなど、世の中には依存性が高く、抜け出せないものがあります。たとえば薬物は特に依存度が高く、何度も捕まっている芸能人もいますよね。カウンセリングや、場合によっては治療が必要な場合があります。」

「私としては、ワタナベさんがそういった依存症である可能性も含め、将来的な医師による治療や診断書の入手可能性も検討します。これも、仮に裁判になってしまった場合に、ワタナベさんにとって有利な情状になり得ます。」

「ただの女好き・女性を軽視する者という現時点での世間のイメージを払しょくするには、依存症つまり病気であるという方が、ワタナベさんの芸能界への復帰の面でも、ベターではないかとも思うのです。」

 

ワタナベ

「マスコミはあることないこと、ひどいこと報道してるでしょうね。」

「私は一歩間違えば、仕事のストレスで薬物に手を出していたかもしれませんね。いや、いずれにしても一歩どころじゃなく間違いを犯してしまった。私の場合、たくさんの女性と関係を持ってしまったという罪です。これも罪なのですね。不倫罪ですか。結婚していなければ、罪にはならないのですよね。確かに、自分でも、倫理的にはひどい行動だと思います。しかし、本当にこれが逮捕までされるような犯罪なんでしょうか。」

 

「マスコミのことは今は気にしないようにしましょう。」

「んー、難しいご質問ですね。『ネット上の上辺の世論に忖度した結果』として不倫罪が誕生し、今年の令和3年1月から施行されました。刑法に規定がある以上、今は、これが犯罪であると言わざるを得ません。おっしゃりたいことはわかります。不倫罪が憲法に反し、違憲無効であるという主張も検討する必要があります。成立以前は、そういう議論も学者から盛んになされていましたし。」

 

ワタナベ

「でも、そんな主張したら、ますます、マスコミから叩かれそうですね。反省してないって。」

 

「その点は戦略的には難しいところです。犯罪事実は認めた上で、でも不倫罪って違憲でしょって主張することは、理論的にはもちろん可能です。でも、マスコミが報道すると、ワタナベさんの印象が悪くなる可能性も否定できません。あなたが有名人である以上、世論のこともある程度は気にしなくてはいけません。しかし、それは、裁判になってから考えましょう。」

「とりあえず、今の勾留に対して、不服申立てをします。準抗告です。それが蹴られたら、最高裁特別抗告します京アニ事件と同様です。勾留理由開示まではどうしましょう。今、ワタナベさんが勾留されている理由は、『罪証隠滅のおそれ』と『逃亡のおそれ』です。このような罪証隠滅とか逃亡とかのそおれの具体的可能性がないことを示すべく、ワタナベさんとしては、担当検察官向けの『反省文』、奥様への『謝罪文』を書いてください。不服申立てがダメでも、10日以上、延長されないよう担当検察官と交渉します。」

 

「『反省文』には、

①今回の件について反省していること、

②二度とこのような不貞行為をしないこと、

③5名の女性にも(一応)謝罪の言葉を述べ、彼女たちとの関係を断ち、今後一切近づかないこと、

④自分は依存症であると思っており、病院で治療を受けたいこと、

⑤釈放されても、捜査機関に全面的に協力すること、

という点を含め、自分の言葉でしっかり、反省を表現しください。原案ができたら、私が確認します。」

 

「奥様への謝罪文もお願いします。私が、奥様へ渡せるよう努力します。」

 

こうして、私の弁護活動としては、準抗告に加え、検察官への意見書の作成で、そのための準備として、

 

(1)ワタナベさんの反省文の確認と、検察官への提出。

(2)ワタナベさんの奥様への謝罪文の確認と、奥様への提出。

   できれば、奥。様から嘆願書を頂く。 

   ※ただし、奥様の代理人弁護士との交渉になる可能性が高い。

(3)(将来的に)依存症について、診断書をもらうための準備。

(4)渡辺さんの事務所の社長さん、相方のオダジマさんからの嘆願書の取得。

 

また、5名の女性が正確には特定されていないので、検察官に確認する必要あり。

 

まずは、勾留決定に対する準抗告。これは、証拠が集まらなくとも、できる限り早く対応。

来週の金曜日が、10日の満期なので、水曜日までにできる限りの上記証拠(反省文等)をあつめて意見書を検察官に提出することを目標に、活動をしてくことになりました。

 

「ところで、報酬ですが、・・・。全ての活動について、勾留満期までで、着手金〇〇〇万円、成功報酬〇〇〇円で大丈夫ですか。普通の事件とは違い、対応しなければならないことも多いですので。」

 

ワタナベ

「わかりました。大丈夫です。よろしくお願いします。」

 

「委任状差入れます。署名・指印してください。あと、弁護人選任届も。それらを後で宅下げします。」

※差入れ=弁護人から被疑者へ

※宅下げ=被疑者→弁護人へ

 

私(独り言)

「あーっ、めちゃくちゃ大変だ。どうしよう。とりあえず、事務所戻って片っ端からやらないと・・・。あーっ、土日なしだな。」

「しかし、不倫罪って、住居侵入と同じ3年以下の懲役でしょ。こんなんで勾留(身柄拘束)までするかね。やっぱ、見せしめかも。そうすると、結構厄介かもなぁ。」

 

(続く) 

 

 

 

 

 

ビール紀行(スロバキア・ブラチスラバ)

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ブラチスラバ

 

今回のビール紀行は、スロバキアの首都であるブラチスラバです。

 

ブラチスラバは首都ではあるものの、日本から観光に行くことは少ない非常にマイナーな都市かもしれません。

 

実は、ウィーンからは日帰り(半日)で遊びに行くことができます。

でめお、ウィーンは観光スポットが山ほどあるので、敢えてブラチスラバに行く人は、ほとんどいないかもしれません。

 

 ウィーン中央駅では、ブラチスラバ駅までの往復チケットとブラチスラバ市内のトラムなどに乗り放題のブラチスラバというチケットを売っています。

これを買うと、現地で切符を買うなどの煩わしさが一切なくなるので大変楽です。

 

さて、ウィーン中央駅から、ブラチスラバまでは、電車で1時間ちょっとです。非常に近いですよね。

 

しかも、スロバキアの通貨はユーロなので、両替の心配もありません。

 

ですが、ブラチスラバは、正直なところ、それほど有名な観光スポットはなく、わざわざ、ウィーン観光の時間を削ってまで行くほどの都市ではないもしれません。

 

さて、ブラチスラバ駅を降りると、冒頭の写真のように、でかでかと「Welcome to Slovakia」と書いてありました。やや暗い感じでしたが、治安の心配を感じるほどではありませんでした。

 

ブラチスラバ駅からはトラムに乗って、旧市街まではすぐです。

 

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スロバック パブ

wolt.com


旧市街の手前でトラムを降りて、最初の目的地であるスロバック・パブにやってきました。

店内は明るく、パブというよりは、普通のレストランという感じで、店員さんに英語も通じますし、メニューに英語表記もあります。

小さな子連れのお母さんも食事をしていて、不安な感じは全くありませんでした。

 

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スロバキアのビール

 

とりあえず、ドリンク・メニューの一番上にあるスロバキアのビールを頼んでみました。

チェコでも見かける、丸みを帯びた可愛らしいグラスにビールが注がれています。昔は、チェコスロバキアという一つの国でしたものね。

 

チェコピルゼンプラハ)のビール紀行は、また、近いうちに記事にしたいと思います。

 

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メニュー(ビール安い)

 

上の写真のメニューを見てください。500mlで、わずか2.1ユーロ(250円くらい。1ユーロ≒120円)なので、相当に安いですね。

ドイツでは、スーパーのビールは500mlで1ユーロくらいで安いですが、レストランでは5ユーロ前後はしますので、それと比べると相当に安いです。

 

たくさん飲んでも、問題ありません。

 

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パン・シチュー

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ブリンゾベー・ハルシュキ

 

はじめてのスロバキア訪問で、折角なので、(なぜか子どもころから非常に憧れる)パンをくりぬいてシチューを入れた料理と、ブリンゾベー・ハルシュキを注文しました。

 

ブリンゾベー・ハルシュキは、定番のスロバキア料理だそうです。すり下ろしたジャガイモと、小麦粉を茹でて作ったダンプリングと、牛乳で溶いた羊乳のチーズソースを絡めて作った料理だそうです。焼いたベーコンが上にのっています。

羊のチーズなので、ちょっと癖があり、好き嫌いがあるかもしれません。私は、大丈夫でしたが、味が単調なので最後の方は飽きました。

 

この2品は明らかに注文ミスです。パンの大きさはビールのグラスと比較して頂くと分かるように、大きなかぼちゃのサイズです。この2品を全部お腹に入れるのには、相当苦労しました。ビールで流し込むしかなさそうです。

 

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スロバキアのラガー・ビール

そこで、食が進むよう、普通のラガー・ビールも追加で注文。

これで、もう、(まだ観光していないのに、)歩けないくらいお腹が一杯になりました。

 

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青の教会

さて、観光ですが、大したものはないので、ネットで調べて一番素敵な外観だった青の教会まで歩きました。天気が悪いのが残念です。

そして、残念ながら、教会の中には入れませんでしたが、中を覗くことはできました。

 

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ブラチスラバの街

 

その後は、旧市街をブラブラし、ブラチスラバを往復し、戻ってきました。

んー、特に目新しいものはありません。

 

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お土産のビールとジュース

さきほどのパブでの食事で、お腹が一杯でしたので、スーパーに入って、飲んでいない種類のスロバキアのビールをお土産として購入しました。

一緒に、 kofolaというチェコのコーラを購入しました。チェコスロバキアでは、コカ・コーラペプシコーラのライバルなのだそうです。特に、目新しい味でもありませんでしたが。

 

en.wikipedia.org

 

ブラチスラバには半日いましたが、特に、治安に不安を感じることもありませんでした。すれ違いざまに、一度、「お金をくれ」と言われたくらい。しかし、(天気もあるのでしょうが、)全体として暗い感じで、必ずしも裕福な国とはいえない印象でした。

 

ブラチスラバは、わざわざ行くほどの価値はありませんが、今回は、スロバキアのビールを3種類飲み、スロバキア料理もお腹一杯堪能しましたので、満足でした。

特許入門10(発明を言葉で表現することの難しさ2)

前回の内容

 

前回の下記記事では、ドラゴンクエストのスライム(の立体形状)について、これを流体中に置かれる「弁」ないし「撹拌機」の立体形状だと仮定し、この立体形状をクレームとして表現することの難しさについて説明しました。

 

store.jp.square-enix.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

前回は、このスライムの形状を、クレーム中において、

 

(1)「スライム形状」

(2)「雫の形状」「泡の形状」、「栗の形状」

(3)「楕円体と、該楕円体の上部において該楕円体から連続的に外側に延びる円錐体からなる形状」

 

と表現した場合の問題点などを考えてみました。

今日は、その続きです。

 

(4)数式での表現

 

スライムの立体形状を表現するクレームの記載として次に考えられるのが、数式、及び、数値限定による形状の特定です。

 

前回の記事で、欲しい権利範囲は、(実物を特許庁に持参するではなく)クレームとして言葉で表現しなければならないと説明しました。

しかし、日本語(言葉)だけでなく、数式数値限定も使うことができます。

 

たとえば、新規の化合物の発明について、その成分を特定したりするのためには、数値による限定を用いるのは不可欠ですよね。また、パラメータ同士の関係性を規定する発明もあります(パラメータ特許といったします)。

これらについては、また、別の機会に記事にしたいと思います。

 

スライムの形状を数式と数値限定で特定するとすると、例えば、スライムの下部形状(楕円体形状)ですと、

 

{\frac  {x^{2}}{a^{2}}}+{\frac  {y^{2}}{b^{2}}}+{\frac  {z^{2}}{c^{2}}}=1

 

で、a, b, c (各軸方向の径の半分の長さ)の値を特定することで、このスライムの下部形状を厳密に特定できるかもしれません。

 

しかし、a, b, c の値を1つに特定してしまうと、たった1つの大きさの、たった1つの形状の楕円体のみを表現することになり、特許権の権利範囲としては、「点」(非常の狭い権利)になってしまい、広がりのある権利になりません。

 

そこで、スライムの大きさはさておき、まず、スライム下部形状を特定するには、a, b, cの関係性を特定すればよさそうです。たとえば、a=b, c=2aといった具合です。

 

更に、スライム下部形状の大きさは、aの範囲を特定すればよさそうです(上記関係式により、b, cも特定されます。)。たとえば、「0<a<10」といった具合です。

 

円錐体も同様に、数式は複雑にはなりますが、このスライムの上部形状を表現することはできそうです。

 

少し、本筋から離れてしまいましたが、このように、数式やパラメータやパラメータの数値範囲を特定することで、前回説明した「栗の形状」と比べると、より厳密にこのスライムの形状に近いものを表現できそうです

 

しかし、(また、ケチをつけてしまいますが、)楕円体から円錐体へなめらかに移行する曲線部分や、丸まった先端部分を厳密には表現できていないですね。

 

もちろん、恐ろしく複雑な式で、厳密な形状を特定できるかもしれませんが。

 

さて、ここで、(諦めるわけではないのですが)そもそも形状の厳密な特定が本当に必要なのか、という点に立ち返る必要があります。

 

ここで、ちょっと休憩(余談)。

 

意匠権による形状の保護の可能性

 

ちょっと、横道にそれて、このスライム形状のように、形状については、(特許権に加えて)意匠権で保護を受けることも検討する余地があります

 

たとえば、下記のダイソンの扇風機(送風機)。

 

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意匠1376284

 

ちなみに、下記のJ-Platpat特許情報プラットフォーム)の簡易検索で、意匠をポチッと押した上で、「ダイソン 送風機」で検索すると、出てきます

 

www.j-platpat.inpit.go.jp

 

J-Platpatは使い方は、簡単だし、無料だし、特許権実用新案権意匠権、おまけに、商標権まで検索できるので、非常に良いツールです。是非使ってみてください。

 

ただ、意匠権の問題として、意匠の権利範囲(類似するとして権利侵害とされる範囲)は、実は結構狭かったりします。

 

たとえば、(同じ技術を用いて)ダイソンのような「円形」の送風機ではなく、「楕円形状」にしたり、「貝殻形状」にしたり、「ハート形状」にしたら、とたんに、類似範囲(ダイソンの意匠権の権利範囲)から外れてしまい、そのような製品に意匠権では、権利行使が、難しくなるかもしれません。

 

まぁ、意匠の類似範囲は、先行意匠との関係で決まるところがありますので、一概には言えませんが。

 

ですので、意匠権での権利取得もよいのですが、併せて、(送風機の技術的観点から)特許権も取得しておく必要がありそうです。ダイソンは、おそらく、特許権もたくさん持っていると思われます。

 

本題に戻って、スライム形状も、「流体弁」ないし「撹拌機」の意匠として、意匠権を取得することができるかもしれません。

 

なお、意匠権も、特許権と同様、新規性、進歩性等の登録要件があります。一応、知財全般が専門なので、特許関係のネタが切れてしまったら、(ブログのタイトルからは外れますが、)もしかしたら、意匠や商標も記事にしたいと思います。

 

技術思想の追求

 

話を戻しまして、前回から今回まで、スライムの立体形状の様々なクレームの記載(形状の特定)を試みてきましたが、そもそも、形状を厳密に記載(特定)する必要はないかもしれません

 

これまでの内容をひっくり返すようで、すいません。正直なところは、クレームの記載のバラエティを説明したかったというのもあります。

 

厳密に形状を記載(特定)してしまうと、特許権の権利範囲としては、「点」とはいかないまでも、非常に狭くなってしまい、「広い」特許をとるという方向性に反してしまいます。

 

そこで、立体形状に特徴がある発明も、その技術思想がどのようなものであるかを追求することで、無用な権利範囲の限定を防ぐことができます。

 

たとえば、仮に、このスライムの形状が流体中の攪拌作用を向上させるもので、攪拌作用を向上させているのが、スライムの形状の先端部分の形状のみであるとしたら、その先端部分の形状のみを特定すれば、クレームとしては必要十分なのです

逆に、余計な他の部分を特定すると、権利としては狭くなってしまいますね。

 

発明者は、「こんな良いものできた!」と言って、発明品(実物や設計図)を弁理士のところにもってきて説明します。

 

でも、クレームを書く者(たとえば、弁理士知財部の方)は、その発明品の技術思想(本質)を適切に捉え、その技術的意義のある部分のみに着目して、不必要な構成をそぎ落とし、その本質部分だけをクレームとして記載し、「広い」特許をとろうとするわけです

 

特許入門2~8で説明した鉛筆特許でいえば、転がり落ちない本質は、(曲線ではなく)平坦にあり、したがって、(六角形ではなく)本質を捉えた「平坦部」というクレームを【請求項1】にもってきて、「広い」特許をとることを狙ってみたのです。

 

これに対し、審査官からは、「『平坦部を有する鉛筆』というのは、特許権をあげるには広すぎるよ。」と拒絶理由をもらうかもしれません。

その場合は、たとえば、「平坦部」に、機能的形容句である「転がり落ちない」を付けるなど工夫するわけです。

 

審査官の調査結果や現時点の心証を理解した上で、先行文献を回避しつつも、将来他社が製造するであろう鉛筆を権利範囲に収める、すなわち、「つぶれにくく」、「回避が困難」な特許で、かつ、なるべく「広い」特許を、ギリギリのところで狙っていくのです。

 

クレームを考えるというのは、このように、すごく面白い作業です。

 

私は、弁理士でもあり、また、特許弁護士として、紛争事案でのクレーム解釈や訂正クレーム案などをたくさんやっていることもありますので、若い先生方には、

 

「我々は、言葉遊びで飯を食うんだ。」 

 

とよく言ったりします。

 

しかし、まぁ、このご時世、いつまで、言葉遊びで飯が食えるかわかりませんが。