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数値限定発明・パラメータ発明(その4)

はじめに

 

 数値限定発明・パラーメタ発明に関する記事の続きを書きたいと思います。

 これまでの前3回は、以下の記事をご覧ください。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 前回の記事から丸1年経ってしまっていました・・・。

 サボり過ぎですね。1年が経つのは早いですね。

 

数値限定発明の問題点(充足性)に対する対応策

 

 前回の記事(その3)で、数値限定発明について、

 

 ・ 数値(範囲)自体は、算数的に明確である、 

   ※例)「1μm以上8μm以下」

 

 ・ しかしながら、①数値の「対象」が明確でなく

   ※例)「粒子径」とは?平均粒子径?

 

 ・ あるいは、②被疑侵害品の捉え方において問題があり

   ※例)「測定条件」や、「測定方法」が一義的に明確でない。

 

その結果、数値限定発明の充足性の争いが頻発してしまうとご説明しました(下記スライド参照)。

 

数値限定発明の問題点(充足性)②

 

「教科書的」な考え方

 

 ですので、これの対応策としては、教科書的には、下記スライドにあるように、

 

 ① 数値の対象を、クレームにおいて明確に書いたり、あるいは、

  数値の対象(クレームの文言)を明細書で明確に定義し

 

 また、

 

 ② 明細書において、測定条件、測定方法などを、一義的に(原則として一通りで)

  書く

 

というのが良さそうです。

 

  

数値限定発明の問題点(充足性)に対する対応策①

 

戦略的な考え方(1)

 

 しかしながら、下記スライドのように、別の考え方、つまり、戦略的な考え方

できそうです。

 

数値限定発明の問題点(充足性)に対する対応策②

 

 端的に言うと、「曖昧なクレームほど、厄介ものはない。」ということです。

 言い換えれば、「酔拳」のようなクレームは、怖いわけです(言い換えになっていない・・・)。

 

 ここで、数値限定発明のよくある相談の流れを紹介しましす。

 

 ・相談者 「今度のうちの製品が、○○社の特許に抵触している可能性があります。

       そこで、侵害か、非侵害か判断してほしいのです。

       うちの製品が侵害か検証したいが、クレームの数値範囲に入るかどうか

       に関して、測定条件○○をどう設定したらよいか分からないのです。

       明細書にちゃんと書いていないので。」

 

 ・弁護士 「その測定条件は、明細書を読んでも、明確には分からないですね。

       この業界で一般的な測定条件とか、JIS規格に定められているとか、

       ありますか?」

 

 ・相談者 「いや、その測定条件は、色々考えられます。

       いくつかの条件で測定してみたのですが、

       ある測定条件だと数値範囲に入り、充足してしまいますが、

       別の測定条件だと数値範囲に入らず、非充足となります。

       侵害なのか非侵害なのか。」

 

 ・弁護士 「まず、測定条件が明細書を見ても明確ではない場合、記載要件違反

       (実施可能違反)等を問題にすることは可能ですが、

       裁判所では記載要件違反は、そう簡単には認めません。

       次に、裁判例では、測定条件が多義的である場合に、

       全ての測定条件で充足しない限りは、非充足と判断されます。

       ただし、実際に、裁判をやってみないと、裁判所がいかなる

       測定条件を採用するかはわかりません。原告の立証次第、あるいは、

       被告の反証次第のところもあります。」

 

 ・相談者 「そうすると、権利者は、自分に都合よい測定条件を用いて侵害すると

       主張し、我々としては、こちらに都合のよい測定条件を用いて非侵害

       を主張することになるのでしょうか。」

 

 ・弁護士 「明細書と(証拠で立証できる)技術常識で、合理的な測定条件が何かを

       裁判所が判断することになりますが、

       まぁ、実際、そんな感じになりますね。いわゆる実験合戦です。」

 

 ・相談者 「そうすると、やっぱり、無難に、設計回避した方が良いでしょうか。」

 

 ・弁護士 「本件明細書を見る限り、その測定条件は一義的に決まらず、また、

       技術常識当を踏まえて、合理的な測定条件を設定し、その条件による

       測定では非充足である、という意見書自体は書けますが、やはり、

       裁判所がどのような測定条件を採用するか不透明ですので、

       権利行使されるリスク、侵害とされるリスクは残りますね。」

 

 ・相談者 「じゃぁ、やっぱり設計回避ですね。」

 

 やや悲しい流れですが、測定条件が曖昧ゆえに、侵害か非侵害かよくわからず、

 被疑侵害者(特に、規模の小さい会社)は無難に回避してしまいます。

 結局のところ、特許の明細書(測定条件)が曖昧ゆえに、逆に、萎縮効果により、

 特許権(独占排他権)として功を奏してしまうわけです

 

 つまり、測定条件等について、教科書的には、曖昧な記載は避けるべきですが、

 事実上、独占排他権を実現するという意味では、ある程度、曖昧にしておくというも一つの手ということになってしまいます。

 

 このような問題は、特に、権利者が大きな会社(多数の出願できる余裕がある)で、

被疑侵害者が比較的小さな会社(人的・費用的余裕がなく、何が何でも訴訟は避けないといけない)である場合に顕著なように思われます。

 

最後に

 

 長くなってしまったので、スライドの後半の「戦略的な考え方(2)」は、

次回に回したいと思います。

 

 

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