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特許入門20ー論文問題2の解説

 はじめに

 

前回は、下記の記事で、司法試験向けの特許法の論文問題2(自作)を紹介しました。

今回は、その解説です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

論文問題

 

1.甲は、「A部材、B部材、及び、C部材からなり、Cの断面形状が『真円形(=まんまる)』であることを特徴とする器具」の発明について特許出願をし、審査請求をしたところ、拒絶理由通知を受け取ることなく特許査定を受け、特許権の設定登録がなされた(以下「甲特許権」、「甲発明」という。)。甲発明における発明の詳細な説明において、C部材の断面形状の実施例として、「真円形」と「楕円形」が同等・等価のものとして列挙されていた。

  乙は、A部材、B部材、断面形状が「楕円形」であるC部材からなる器具を製造・販売している。

  甲は、乙に対し、甲特許権に基づく侵害を主張することができるか。

 

2 甲は、「A部材、B部材、及び、C部材からなる器具」の発明について特許出願をし、審査請求をした。審査官は「A部材、B部材、C部材からなり、Cの断面形状が『正方形』であることを特徴とする器具」が開示された引用文献により、新規性欠如の拒絶理由を通知した。甲は、同拒絶理由を解消すべく、クレームを「A部材、B部材、及び、C部材からなり、C部材の断面形状が『真円形』であることを特徴とする器具」と補正したところ、特許査定がなされ、特許権の設定登録がなされた(以下「甲特許権」、「甲発明」という。)。

 

(1)丙は、A部材、B部材、断面形状が「正方形」であるC部材からなる器具を製造・販売している。

   甲は、丙に対し、甲特許権に基づく侵害を主張することができるか。

 

(2)丙は、A部材、B部材、断面形状が「楕円形」であるC部材からなる器具を製造・販売している。

   発明の詳細な説明において、C部材の断面形状の実施例として、「真円形」と「楕円形」を同等・等価のものとして列挙していた。

   甲は、丙に対し、甲特許権に基づく侵害を主張することができるか。

 

(3)丙は、A部材、B部材、断面形状が「楕円形」であるC部材からなる器具を製造販売している。

   発明の詳細な説明において、C部材の断面形状の実施例として「楕円形」は挙げられていなかった。甲は、補正の際に、意見書において、甲発明と引用発明との構成の違いを比較した上、「C部材の断面の外縁が、中心から同じ距離にある」構成であることによる有利な効果を主張していた。

   甲は、丙に対し、甲特許権に基づく侵害を主張することができるか。

   甲が、意見書において、「C部材の断面形状に角がない」構成であることによる有利な効果を主張していた場合は、結論が異なり得るか。

 

解説

 

設問1:

乙製品のC部材の楕円形は、クレームの「真円形(まんまる)」の概念に含まれないので、文言非侵害。

均等侵害については、マキサカルシトール判決(「客観的、外形的にみて、・・・代替すると認識しながらあえて・・・表示していた」)を規範として、出願時同効材は、第5要件で、意識的除外にあたり、特段の事情があるとして、均等侵害は認められない。

 

設問2(1):

乙製品のC部材の正方形は、クレームの「真円形(まんまる)の概念に含まれないので、文言非侵害。

均等侵害については、審査過程で、C部材が正方形のものは、文献公知なので、第4要件を満たさない。

 

設問2(2):

乙製品のC部材の楕円形は、クレームの「真円形(まんまる)」の概念に含まれないので、文言非侵害。

均等侵害については、審査過程において、クレームほ補正により、明細書に記載されている2つの実施例(真円形と楕円形)のうち、真円形に限定している。

マキサカルシトール判決は、補正の場面を射程とはしていないが、同様の利益状況なので、設問1と同様に考えて、第5要件を満たさず、均等も成立しない。

 

設問2(3)前半:

意見書の「C部材の断面の外縁が、中心から同じ距離にある」は、真円形と等価を意味するところ、(射程外ではあるものの)マキサカルシトールの規範で、当該意見書の記載に該当しない楕円形についてはあえてクレームに記載しなかった旨を表示したのだとして、意識的除外したとみるか、あるいは、

「客観的、外形的にみて」楕円形が「代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」とまではいえない(外形的にみて、楕円形を排除するとは、表示していない)として、、意識的除外にあたらず、第5要件の特段の事情はないとして、均等侵害を認めるか。

 

設問2(3)後半:

「C部材の断面形状に角がない」は、(楕円形をも含む記述であるところ、)「客観的、外形的にみて」楕円形が「代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」とはいえないとして、意識的除外にあたらず、第5要件の特段の事情はないとして、均等侵害を認めることになろうか。

 

実務的な視点

 

機械・電気系では、①明細書に、些末な構成まで含めてあらゆるパターンを記載するわけではありませんし、②除くクレームをあまり使わない、使えないので、公知文献を避けるべく、明細書の記載に基づいてした限定(本件で言えば、形状の限定「真円形」)が、意図せず、限定的になり過ぎるという場合があります。

その場合、後に登場する被告製品(「楕円形」)との関係で、文言侵害を問えず、かといって、第5要件を満たさず、均等侵害も問えないという事態が起こってしまうのは酷な気がします。ですので、特に、設問2(3)後半は、均等侵害が認められてほしい感じがしますね。

 

化学分野の場合、たとえば、明細書に、化合物の成分の一つとして、「酸」、好適には「強酸」、最も好適には「硫酸」と書いてあり、クレームの化合物では、「硫酸」と特定していたとします。

そこで、被告製品で「塩酸」が出てきた場合、マキサカルシトールの規範によれば、塩酸が明細書に明示的には記載されていないので、「客観的、外形的にみて」塩酸が「代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」)とまでは言えず、第5要件を満たさないとまでは言えないような気がします。

しかし、明細書で「酸」中でも「強酸」中でも「硫酸」と説明し、クレームでは「硫酸」に特定していたのだから、他の「強酸」や「酸」は権利放棄したに等しいと考える方が普通な感覚がします。だって、クレームに「硫酸」(だけ)を書いたんだから。

一方で、これと異なり、明細書で、(塩酸も含め)様々な「強酸」を列挙していれば、出願時同効材として、「塩酸」の被告製品には均等侵害を問えないことになります。

そうすると、なんか、明細書に詳しく書けば書くほど、第5要件との関係では、出願人(特許権者)が損することになり、変な気がします・・・。

 

マキサカルシトールの「客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しない旨を表示していた」というのは、読み方によっては結構ゆるゆるな(第5要件は満たしやすい)気がします。

 

最後に

 

この論文問題2に関連して、私、AIPPI (2019) Vol.64 No.12に、骨切術用開大器事件(地裁判決)の解説を執筆しました。補正で追加された構成要件に関して均等侵害を認めた事例です。ご興味があれば、是非、ご参考ください。 

 

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