はじめに
数値限定発明・パラメータ発明についての3回目の記事です。
前2回は、以下の記事です。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
数値限定発明の特徴
数値限定発明って、数値範囲をたとえば、
「・・・〇〇成分が(重量比とかで)3~8%含むことを特徴とする・・・」
といった感じです。
なので、文言(たとえば、「少量含む」。これだと明確性違反になってしまいますが・・・。)と比べると、圧倒的に権利範囲がはっきりしている感じがします。
上のスライドにあるように、「3~8%の場合」、
・0.1%は、数値範囲に含まれません→侵害の可能性なし
・5%は、数値範囲に含まれます→侵害の可能性あり
・11%は、数値範囲に含まれません→侵害の可能性なし
です。なお、数値限定発明の均等侵害の話は、また後日。
そうすると、数値限定発明は、数値範囲に含まれるか否か(充足するか否か)の点においては、はっきりしていて充足・非充足の疑義はないように思われます。
しかし、現実には、むしろ、数値限定発明の方が、充足・非充足の議論が様々あり、これだけでも、大学で一コマ授業ができてしまうくらいです(笑)。そんなつまらん授業はないでしょうが(笑)。
数値限定発明の問題点(充足性)
数値限定発明の充足性をめぐって、実務上(裁判上)問題となる点を、下のスライドのようにざっと挙げてみました。これ以外にも、有効数字やら製造誤差やら、まだまだあります。
たとえば、層の厚さを特定している発明(「被膜層が1μm以下である」)があったとして、
① その被膜層の1μm以下って、平均値?
被告製品の層のうち、1箇所でも1μmを超える箇所があったら、非充足?
② ある被告製品(たとえば、量産品)で、ある製品(ロット)では、
1μm以下だが、別の製品(ロット)では、1μmより大きかったら、
(特定された)被告製品全体として、充足?それとも非充足?
③ 製造時は、1μmより大きいけど、実施(使用)段階、つまり、
経時変化により(使っているうちに)1μm以下になる場合は、充足?非充足?
また、たとえば、「粒子径が5μm以上とした」発明の場合、
④ 「粒子径」ってどの径? 平均の粒子径?
平均ではないとすると、どの径をもって粒子径というの?
⑤ 測定の仕方によって、粒子径って変わってくるけど、その場合、
どの測定方法、あるいは、どういう測定条件で測った粒子径?
何種類かの測定方法が考えられる場合、どれか1つの測定方法で測って
発明の数値範囲内なら充足? それとも、どれか1つの測定方法で測って
発明の数値範囲外なら非充足?
⑥ スペック(設計値)は発明の数値範囲内だけど、実際の製品の実測値では
数値範囲外の場合は、充足?それとも非充足?
数値限定発明は、数値範囲自体は(算数的に)明確ですが、上に挙げた例のように、
充足か非充足かはっきりわからない場合が出てきます。
まとめると、
(1)数値の「対象」が(一義的に)明確ではない、
・「層」や「粒子径」の定義など
(2)被告製品の捉え方が(一義的に)明確ではない、
・製品内のバラツキや、製品毎のバラツキ
・測定方法や測定条件によるバラツキ
・経時変化がある場合
・被告製品のスペック(設計値)と被告製品自体(実測値)どちらかとか、
・製造誤差や有効数字をどう評価するか
といった感じです。
ということで、実務では、数値限定発明は、むしろ、充足性の論点の宝庫です。
同様に、数値限定発明については、先使用の抗弁が成立するか否かの場面、進歩性があるか否かという場面でも、同様の論点を議論しなければならない場合が多いです。
特許の実務家(弁護士や弁理士や裁判官や学者など)は、これまでの様々な裁判例などを勉強して、上記論点を一個一個議論したりします。
最後に
ということで、数値範囲自体は明確なはずですが、対象製品の数値の対象や捉え方をめぐって、やっぱり文言と同様曖昧な部分が残るため、そして、数値範囲に含まれるか否かが発明のポイント(運命の分かれ目)だったりすることも多く、議論が尽きません。
私が、充足・非充足や進歩性の有無について、企業の方からご相談を頂くとき、だいたい2、3件に1件は数値限定発明な感じがします。
実務家の飯のタネですね。ありがたい。