はじめに
先週から、 筑波大学ロースクールの知的財産法演習の講師を担当しているのですが、第1回目の講義では、特許法の論文式試験の答案作成に向けて必要な知識やTipsを説明しました。
たとえば、下記の記事のような内容です。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
次回の講義から、実際の論文答案の起案・講評に入っていきます。
そこで、最初に扱った論文の問題を紹介したいと思います。
論文の問題(自作)
そういえば、今年(2020年)の司法試験が、コロナのせいで遅れてしまいましたが、今日(8月12日)からやっと始まりました。
初日(8月12日)は、(特許法・著作権法からなる)知的財産法等の選択科目の日ですね。受験生の皆様、是非がんばってください。
私自身、既存の本や司法試験の過去問とは別に、オリジナルの論文問題を作成しようと頑張ってみたのですが、なかなか難しいですね。
あまりにも実務的過ぎてもいけないし、何か特定の技術的な知識を必要とする問題も不適切ですし。もちろん、変な問題であってもいけませんし。
ご批判を頂くことは覚悟の上で、下記の1問を作成し、学生の方と検討しました。
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<論文問題(特許法)1>
甲は、「10%以下の物質Aを含むP化合物」の発明について、平成27年3月1日に特許出願し、平成30年3月30日に特許権の設定登録がなされた(以下「甲特許権」という。)。同特許発明は、従来技術であるのP化合物に物質Aを適量添加することにより、従来見られなかったα効果を奏するというものである。
明細書の発明の詳細な説明の実施例においては、物質Aを含まないP化合物との比較例、及び、物質Aをそれぞれ10%、9%、8%、7%、6%を含むP化合物の実施例との間での定量的なα効果の違いについて説明されていた。
なお、後述のβ効果についての説明はなかった。甲は、平成30年5月1日から物質Aを5%含むP化合物(以下「甲製品」という。)の製造・販売を開始した。
乙は、「4%以上5%以下の物質Aを含むP化合物」の発明について、(α効果とは異質の)臨界的意義を有するβ効果を奏することを発見し、平成30年2月1日に特許出願をし、令和元年5月1日に特許権の設定登録がなされた(以下「乙特許権」という。)。
乙は、令和元年6月1日から物質Aを5%含むP化合物(以下「乙製品」という。)の製造・販売を開始した。
甲、乙が、それぞれ、甲製品、乙製品の製造・販売を支障なく継続したい場合、甲、乙は、如何なる法的手段を採り、如何なる主張をすることができるか。また、それに対する反論・再反論もあれば検討せよ。
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問題の趣旨
特許権侵害訴訟の骨格、すなわち、請求原因事実や典型的な抗弁がちゃんと分かっているかを問うたつもりです。
数値限定発明を題材とした問題は、実務経験のない学生の皆様には、ちょっと難しいかもしれませんのが、極力シンプルな問題にしました。でも、これで、特許無効の抗弁(記載不備)を色々聞くことができるのです。でもやっぱり、ちょっと実務的過ぎでしょうか。少なくとも、実務経験者(弁理士さんなど)の方が圧倒的に有利ですね。
また、本問は、裁判所だけでなく、特許庁に対する手続きも問うたつもりです。
基本発明・利用発明の関係の理解が問題の背景にあります。
最後に
問題でおかしいところがあれば、是非こっそり教えてください(そもそも、乙は特許権とれんだろ!とか。)。
次回以降に答案構成、起案例を晒したいと思います。