はじめに
しばらく特許実務シリーズが続いていたのですが、久しぶりに、特許入門シリーズを再開したいと思います。両者の区別は正直曖昧ですが・・・。
今日から、筑波ロースクールで知的財産法演習の講義(でも、残念ながら、オンライン授業)が始まりますので、講義で触れる予定の内容の一部を、記事にしたいと思います。
司法試験向けの内容でもあり、実務家向けの内容でもあると思います。
用語・概念
特許法に限りませんが、特許法も独特の用語や概念が登場します。特に、実務をやられていない学生さんには非常に分かりにくいところかと思います。
ですので、(講義に関係しないことでも、)遠慮せず、何でも聞いてくださいといつも申し上げます。
さて、特許法での独特の用語や概念を押さえておきましょう。
まずは、言葉の使い分け問題からです。
<問題>
以下の括弧には、「特許」、「特許権」、「特許発明」のいずれの用語が入りますか?
(1)「 」の無効 ※ヒント(特許法123条など)、行政処分の無効
(2)「 」の侵害 ※ヒント(特許法100条など)、権利の侵害
(3)「 」の技術的範囲 ※ヒント(特許法70条など)
(4)「 」の設定の登録 ※ヒント(特許法66条など)
(5)「 」の実施 ※ヒント(特許法68条、2条3項など)
特許実務をされている方は間違わないと思いますが、特許法を学問として勉強されているだけの学生は、3つの用語をあまり意識的に使い分けていないので、間違えることが多いようです。
司法試験では、特許法は論文式試験だけですので、このような穴埋め問題や短答式の問題は出ないのですが、実際、論文式試験の答案の添削すると、混同して使われていたりしています。
実際の司法試験でも、印象点があると聞いていますので、これらの用語の使い分けが滅茶苦茶だと印象点が凄く悪くなるような気がします。
マスコミのニュースで見かけるのが「特許侵害」。これは間違いです。
<問題1の解答>
(1)「特許」の無効・・・無効の対象は行政処分なので。
(2)「特許権」の侵害・・・侵害の対象は権利なので。
(3)「特許発明」の技術的範囲・・・特許の技術的範囲と書いている答案多いです。
(4)「特許権」の設定の登録・・・これも「特許」と書く人が多いです。
(5)「特許発明」の実施・・・実施(生産、使用など)の対象は、「発明」です。
先に述べたように、マスコミは「特許侵害」と書いていますし、慣習で、米国特許権のことは、「米国特許権」とは言わず「米国特許」と言ったりするので、必ずしも厳密ではありません。
私も、セミナーとかではキャッチ-に「強い特許とは?」なんて、使っていますが、これも厳密ではありません。行政処分が「強い」、「弱い」ということはありませんので。
しかし、法律の試験の答案としては、適切に区別したいところです。
司法試験に必要な条文
特許法の全体像を把握した上で、(司法試験に必要な条文)を確認しておくことが大切です。なお、弁理士試験は、すべての条文を理解していないといけないんでしょうね。
私は、元審査官で、今も特許法等の知財法が専門とはいえ、紛争・契約がメインなので、出願や手続関係の条文を見ても、正直、「へー、こんな条文あるんだー。」「んー、何この条文?」というのにも出くわします。勉強しなおさないといけませんね。多分、時間的に無理ですが・・・。
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第1章 総則(1条[特許法の目的]、2条[定義]、17、17条の2[補正])
第2章 特許及び特許出願(29~30条、33~36条、38条、39条)
第3章 審査
第3章の2 出願公開(64条、65条[補償金請求権])
第4章 特許権(66~70条、72条、73条[共有に係る特許権]、74条、
77~79条、99条、100条、101条[間接侵害]~104条の4)
第5条 特許異議の申立て(113条)
第6章 審判(121条、123条、125条、126条、132条、134条の2、176条)
第7章 再審
第8章 訴訟(178条)
第9章 特許協力条約に基づく国際出願に係る特例
第10章 雑則
第11章 罰則
+民法709条(不法行為)、民事訴訟法338条1項8号(再審の事由、行政処分変更)
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ちょっと抜け落ちたりしているものもあるかもしれませんので、また、改めて加筆・修正したいと思います。とりあえず、司法試験的に重要な条文です。
補償金請求権は見つけにくいですね。ルビに「補償金」と書いていないので。特許法65条(出願公開の効果等)に規定されています。
補償金請求権は、「出願公開があった後」が要件ですので、出願公開を規定した64条の後の65条にあります。
過去の司法試験でも出てますね。覚えておきましょう。
あと、特許法73条(共有に係る特許権)も見つけにくいです。特許法は、民法の共有と異なる規定がされているので、試験的にも出したくなる分野です。
条文の番号を憶えておきましょう。
あと、異議申し立て、無効審判については、異議申し立て(113条)これに「10」を足して、123条と覚えておきましょう。
最後に
これから、1か月間、筑波ロースクールでの講義ですので、特許入門の続きとして、要件事実や共有について、あるいは、私が勝手に作成した事例問題などを記事にしたいと思います。