理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

特許入門18(論文問題1-起案例)

 

はじめに

 

筑波ロースクールで知的財産法演習(特許法著作権法)の講師をしているのですが、講義で扱った論文問題1(オリジナル)の問題と答案構成を以前に記事にしました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

今回は、起案例(甲の乙に対する請求のみ)を晒したいと思います。

 

論文問題1

 

    甲は、「10%以下の物質Aを含むP化合物」の発明について、平成27年3月1日に特許出願し、平成30年3月30日に特許権の設定登録がなされた(以下「甲特許権」という。)。同特許発明は、従来技術であるのP化合物に物質Aを適量添加することにより、従来見られなかったα効果を奏するというものである。実施例においては、物質Aを含まないP化合物との比較例、及び、物質Aをそれぞれ10%、9%、8%、7%、6%を含むP化合物の実施例との間での定量的なα効果の違いについて説明されていた。なお、後述のβ効果についての説明はなかった。甲は、平成30年5月1日から物質Aを5%含むP化合物(以下「甲製品」という。)の製造・販売を開始した。

 乙は、「4%以上5%以下の物質Aを含むP化合物」の発明について、(α効果とは異質の)臨界的意義を有するβ効果を奏することを発見し、平成30年2月1日に特許出願をし、令和元年5月1日に特許権の設定登録がなされた(以下「乙特許権」という。)乙は、令和元年6月1日から物質Aを5%含むP化合物(以下「乙製品」という。)の製造・販売を開始した。

 甲、乙が、それぞれ、甲製品、乙製品の製造・販売を支障なく継続したい場合、甲、乙は、如何なる法的手段を採り、如何なる主張をすることができるか。また、それに対する反論・再反論もあれば検討せよ。

 

起案例

 

第1 甲の乙に対する独占実施のための法的主張、及び、乙の反論

 

 1 ①甲は甲特許権保有しており、②物質Aを5%含むP化合物である乙製品が、甲特許発明の技術的範囲「10%以下の物質Aを含むP化合物」に含まれ、③乙が当該乙製品を製造・販売しているとして、甲は、乙に対し、甲特許権の侵害に基づく差止等請求訴訟を提起することが考えられる(特許法100条1項、民法709条)。

※注)請求原因事実①~③

※注)実際の司法試験での起案を意識して、書く量を減らすために、「要件」と「あてはめ」を同時にした。

 

 2 これに対し、乙は、②を否認する理由として、乙製品は、甲特許発明が予想し得ないβ効果を奏するところ、甲特許発明とは技術的思想の異なる全く別発明であるとして(特許法2条1項)、甲特許発明の技術的範囲に含まれないと一応反論することが考えられる。

   しかし、文言上は含まれている以上、認められることは難しいのではないかと思われる。

 ※注)乙の否認

 

 3 そこで、乙は、特許無効の抗弁特許法104条の3第1項)として、(1)新規性欠如特許法29条1項3号)、(2)サポート要件違反特許法36条6項1号)、(3)明確性要件違反(同条6項2号)、(4)実施可能要件違反(同条4項1号)の各無効理由を主張することが考えられる(特許法123条1項2号、4号)。

 ※注)乙の抗弁、試験的には、先に列挙しておく。あとで時間がなくなっても、少なくとも、項目は挙げたことで、点数が貰えるかも。

 

 (1) 新規性欠如

   甲特許発明の技術的範囲は「10%以下の物質Aを含むP化合物」であるところ、同範囲は「0%」すなわち物質Aを含まない従来技術のP化合物を含んでいると解される。したがって、そのような甲特許発明は、単なるP化合物を記載した公知文献等に基づいて、新規性を有しない、と主張することができる

※注)赤い部分が「問題文からの事実の抽出」、青い部分が「規範(要件)へのあてはめ」。以下同じ。

 

 (2) サポート要件違反

   甲特許発明の技術的範囲が「10%以下の物質Aを含むP化合物」であるのに対し、発明の詳細な説明では、6%以上10%以下の各物質Aを含むP化合物の実施例だけしか開示されていない。したがって、6%未満の範囲の発明については、発明の詳細な説明に記載されていないから、サポート要件違反であると主張し得る。

 

 (3) 明確性要件違反

   甲特許発明の技術的範囲は、「10%以下の物質Aを含むP化合物」であるところ、物質Aの含有率の下限を規定しておらず、かつ、上述(1)で述べたように「0%」すなわち物質Aを含まない従来技術のP化合物も含む記載となっており、そのような記載により、甲特許発明の技術的範囲が不明確となっている、と主張することも考えられる。

 

  (4) 実施可能要件違反

   本問の事情の下では詳細は明らかではないが、6%未満の物質Aを含むP化合物について、実施例には開示されていないところ、技術常識を踏まえても、そのものを製造ことができるかどうか明らかではなく、(例えば、物質Aを少量添加する際の均一混合の問題など)当業者に過度の試行錯誤を強いる可能性がある

   また、6%未満の物質Aを含むP化合物がα効果を奏するかについても開示されておらず、技術上の意義のある態様で使用することができるかも不明である

   したがって、発明の詳細な説明が、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない疑いがある

 

 4 訂正の再抗弁

   甲としては、乙の無効の抗弁に対し、訂正審判ないし訂正請求をすることにより、訂正の再抗弁を主張することが考えられる。

   しかしながら、下限を設けて特許請求の範囲を減縮しても(たとえば、5~10%の物質Aを含む化合物)、乙製品である物質Aを5%含むP化合物を充足させる限り、依然としてサポート要件ないし実施可能要件は解消されないし、逆に、記載要件を充たすよう「6~10%の物質Aを含むP化合物」と訂正してしまうと、乙製品を充足しなくなってしまう。

   したがって、訂正の再抗弁を主張することは難しいと思われる。

※注)訂正の再抗弁の要件を意識する。

 

 5 特許庁での手続き

   乙は、上記各無効理由について、期間内であれば、特許庁に、特許異議の申立てをし(特許法113条本文)、また、無効審判を請求することができる(123条1項2号、4号)。

 

・・・

 

最後に

 

また、別の論文問題(オリジナル)も検討したいと思います。

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁理士へ
にほんブログ村

 


弁護士ランキング

 


弁理士ランキング