はじめに
特許入門として、前回の続きとして、今回は、特許権侵害訴訟の要件事実についてご説明したいと思います。
前回は、下記の記事で、特許法における用語・概念、条文について説明しました。
特許、特許権、特許発明の用語の使い分けなどです。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
前回(特許入門14)以降の特許入門は、私が、筑波ロースクールの知的財産法演習の特許パートで学生の皆様に説明したいと思います。
特許権侵害訴訟における要件事実
ロースクールに入ると、民法の要件事実を勉強すると思うのですが、特許法についても同様に、要件事実で整理しておくと、実務にもスッと入れますし、何より、司法試験等の特許法の答案がきれいに整理され、印象が良くなります。
たとえば、特許権侵害訴訟の要件事実に限らず、知財関連訴訟の様々な要件事実は、あの有名な岡口裁判官の、あの有名な要件事実マニュアル3に載っています。
<請求原因事実>
原告が主張・立証する差止請求の請求原因事実(物の発明の場合)は、
② 特許発明の技術的範囲
③ 被告(被疑侵害者)が、業として、②の特許発明の技術的範囲に属する物を製造等していること(特許発明を実施していること。方法の発明の場合は、方法の使用)
です。
<否認・抗弁>
被告の請求原因事実に対する否認として、代表的なものは、
・被告が製造等する物は、②の特許発明の技術的範囲に属さない(非充足論)
という主張・立証です。ここで、実務上、クレーム解釈が大問題になります。
また、被告の抗弁として、代表的なものは、
<設問>
①「 」 ※ヒント(特許法104条の3第1項、123条)
②「 」 ※ヒント(特許法79条)
③「 」 ※ヒント(特許法69条1項)
④「 」 ※ヒント(特許法77条、78条)
⑤「 」 ※ヒント(特許権者等が国内で譲渡した後、・・・)
⑥「 」 ※ヒント(並行輸入)
⑦「( )」 ※ヒント(構成としては同じだが、発明の作用効果不奏効)
です(答えは、最後に)。
実際の特許権侵害訴訟で争点となるのは、否認(非充足論)と抗弁①(特許無効の抗弁)が圧倒的です。あっ、①の答えを先に出してしまいました。
その他の抗弁(②~⑦)についてお考えください。
<再抗弁>
原告の再抗弁としては、
・①に対して、訂正の再抗弁
があります。訂正の再抗弁の要件事実は、よく問題になりますね。
試験的には覚えないといけません。また、別の機会にご説明したいと思います。
証拠関係(請求原因事実)
請求原因事実に対する(裁判所に訴状とともに提出する)証拠としては、
① → 特許登録原簿
https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/document/genbo_about/genbo_p.pdf
② → 特許公報
③ → 被告製品に関する取説、パンフレット、インターネットの画面印刷など様々
です。
必要な証拠関係については司法試験には出ませんが、実務では、①、②を訴状と一緒にちゃんと証拠として提出しないと、特許権侵害訴訟を過去に扱ったことがない弁護士だと思われてしまいます。
まとめ+α+答え
民法と同様、特許法も要件事実(+必要な証拠)で整理して頭に入れておくと、実務も司法試験もすっきり整理できます。
次に、様々勉強する各論点が、要件事実のどこに位置づけられるかを頭に入れます。
ちなみに、均等論や間接侵害というのは、よく試験で問われますが、請求原因事実の③(すべての構成要件の充足性)を満たさない場合でも、なお、侵害を認める場合で、要件事実の③を修正するものですね。
例外的なものは試験に出やすいです。
ちなみに、均等論は、判例法(ボールスプライン判決等)で、特許法の条文にないので、試験のためには、残念ながら5要件を覚えないといけません。
一方で、間接侵害は、特許法101条を見ながら、要件を検討することになります。
<設問の答え>
①「特許無効の抗弁 」 ※ヒント(特許法104条の3第1項、123条)
②「先使用の抗弁 」 ※ヒント(特許法79条)
③「試験研究のための実施」 ※ヒント(特許法69条1項)
④「実施許諾による実施権」 ※ヒント(特許法77条、78条)
⑤「国内消尽 」 ※ヒント(特許権者等が国内で譲渡した後、・・・)
⑥「国際消尽 」 ※ヒント(並行輸入)
⑦「(効果不奏効の抗弁)」 ※ヒント(構成としては同じだが、発明の効果がない)
なお、特許無効の抗弁にも、新規性・進歩性欠如、記載不備などいくつか種類がありますので、その内容を頭に入れておく必要があります(特許法29条、29条の2、36条参照。)。
技術的な内容が多いに影響するので、試験では簡略化したものしか出しにくいですが、実務上は極めて重要です。
ここで、理系弁護士である私は、自分の過去の技術的な知識・経験に大いに助けられることになります。もちろん、元審査官としての知識・経験も。
以上が、特許権侵害訴訟の骨子です。
ざっと、書いたけど、間違ってないかなぁ。間違ってたら教えてください。