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特許実務-優先権主張の問題

久しぶりに、特許実務についても、記事にしたいと思います。

自信が無いので、間違ってたら、是非指摘してください。

今回は、優先権主張の問題ですが、んー、慣れてないので難しい。

 

事案

 

ある会社において、職務発明について、日本人を含む発明者らが米国仮出願に出願し、その後、会社が、1年以内に、米国仮出願により発生した優先権を主張して、欧州特許庁PCT出願した。

 

その後、ドイツで特許となり、当該特許権について、ドイツの侵害訴訟にて、他社に侵害主張をしたところ、他社は特許裁判所へ無効訴訟を提起し、「PCT出願より前に、発明者から会社への優先権の譲渡が有効になされていなかった」ことを前提に、優先権の効力につのいて争い、米国仮出願後PCT出願より前の先行技術文献に基づいて、進歩性を否定する主張をした。

 

検討

 

(1)米国仮出願は優先権確保が目的(クレーム提出が不要)

優先権を確保するため、クレームを提出する必要のない米国仮出願(provisional application)が利用される場合がある。

 

(2)米国仮出願では、発明者が出願人でなければならない。

米国仮出願においては、発明者を出願人としなければならない。したがって、職務発明であっても、従業員を出願人として出願することになる。

 

(3)米国仮出願により、優先権が発生する。発明者に帰属している。

 

(4)「承継人」について

後のPCT出願で会社が、有効に優先権を承継するためには、パリ条約4条A1項の「承継人」でなければらない。「承継人」とは、第1国出願(本件では米国仮出願)の出願により発生した優先権を承継した者である。ここで、特許を受ける権利や第1国出願の出願人の地位の移転とは直接関係がない(必ずしも随伴するものではない)。したがって、会社は、発明者(米国仮出願の出願人)から特許を受ける権利や出願人の地位の承継を受けているか否かとは別問題として、優先権自体を承継していなければならない。

※知的財産関係条約(茶園)p. 20、特許関係条約(橋本)[第3版]p.50、パリ条約講話(後藤)[第12版]p.124-132参照。

 

(5)承継の時期について

米国仮出願より「後」(∵第1国出願によりはじめて優先権が発生するから)、PCT出願より「前」までに、従業員から優先権を譲り受けていなければならないと解されている。

※国際工業所有権法(播磨)[初版] p.78参照。欧州特許庁の審判部も後の出願の出願時までに優先権の省益が発効していなければならないことで意見が一致しているらしい。

 

論点

 

優先権の承継について、米国仮出願後、PCT出願前に、会社が発明者から優先権を承継した旨の明示的な合意(米国仮出願後、PCT出願前の日付の両者の合意書)があれば、問題ない。

しかし、たとえば、特許を受ける権利の予約承継についての職務発明規程(旧法下)しかなかった場合はどうなるか?

 

(1)優先権の承継を示す証拠についての欧州特許庁での判断

欧州特許庁では、優先権の承継を実証するために両者が執行した譲渡証書を要求するという制限的な見解(審決T62/05)、優先権の承継に要求される形式について特定の状況下での黙示的な移転を許容する見解(審決T517/14)があり、意見が分かれているようである。

なお、EPC72条は、「欧州特許出願の譲渡は、書面によるものとし、契約当事者の署名を必要とする」という要式行為を要求する規定があり、優先権についても、これと類似的に考えると、前者(審決T62/05)の考えと親和性が高くなる。

※「論説 米国特許庁における優先権の承継と優先権の享受」(Steven M. Zeman, Ph.D.)[AIPPI (2017) Vol.62 No.1]のp. 54-57、審決T62/05。

 

(2)日本法適用の余地

日本の会社で、日本人発明者の場合、たとえ、ドイツの無効訴訟であっても、優先権の承継につき、日本法が適用される余地があるらしい。

※「論説 米国特許庁における優先権の承継と優先権の享受」(Steven M. Zeman, Ph.D.)[AIPPI (2017) Vol.62 No.1]のp. 56、審決T517/14。

 

(3)日本だと、優先権の承継について、職務発明規程で、(外国を含む)特許を受ける権利の承継が規定されている。しかし、前述したように、優先権は、特許を受ける権利の承継に随伴するものではない。そして、米国仮出願では、発明者が出願人とならなければならないから、その後の優先権の承継の問題がでてくる。

 

(4)黙示の合意

(旧法下)職務発明規程で特許を受ける権利の予約承継があった場合、明示的な合意はなくとも、

 

①事前に優先権の承継について黙示の合意(停止条件付)があり、米国仮出願による条件の成就した、

 

あるいは、

 

②優先権の承継についての黙示の予約、②米国仮出願後の(黙示の)完結の意思表示によって、米国仮出願「後」PCT出願「前」に黙示の合意による承継があった

 

と理論構成できるか。んー難しい。

 

最後に

 

クレーム解釈や無効論は得意ですが、手続き関係になるととたんに辛くなりますね。

間違ってたら、こっそり教えてください。

 

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