はじめに
前回の下記記事では、特許入門として、被疑侵害者側の紛争時対応(警告レターをもらってから)についてご説明しました。
masakazu-kobayashi.hatenablog.com
その続きです。
無効審判・異議申立て、特許無効の抗弁
前回ご説明した(特許発明の構成要件を充足しないような)設計回避が、費用面や事実上困難な場合においては、特許を無効にするという手段を採ることが考えられます。
オプションとしては、主に以下の3つがあります。
無効審判
特許庁に対し、無効審判を請求するという手段があります。
詳しくは、後述します。
異議申立て
また、特許掲載公報の発行日から6月以内であれば、特許異議の申立てができます。が、書面審理であったり、あまり異議が認められないので、思ったほど活用されていないようです。
EPOのOppositionのように、もっと積極的に活用されれば、我々の仕事も増えるのですが・・・。日本の特許異議申立ては、制度上の魅力がないのかもしれません。
特許無効の抗弁
相手方から訴訟を提起されている状況では、被告として、特許無効の抗弁(原告の特許は無効だ!)を主張することが考えられます。
併せて、特許庁に対し、前記の無効審判を提起することができますが、
①(積極的には)戦略的に、
②(消極的には)代理人費用との関係で、
裁判所での特許無効の抗弁のみを主張することもあります。
特許無効の抗弁と無効審判・異議申立ての違い
なお、特許無効の抗弁と、無効審判・異議申立てとは、効力において以下の違いがあります。
(1)特許無効の抗弁(侵害訴訟において)・・・当該訴訟の当事者間のみの効力
(2)無効審判・異議申立て(特許庁で)・・・対世効的に特許無効の効力
まぁ、特許庁で無効とされなくても、侵害訴訟の裁判所が特許無効(故に、特許権行使は権利濫用)と評価してくれれば、被告としては十分という場合もありますね。
無効審判の特徴
無効審判ですが、代理人の観点から少し言及すると、技術系のバックグラウンドのある審判官が判断者なので、技術論はやりやすいです。
一方で、口頭審理では事前予告なく、審判官から質問が口頭で飛んでくるので刺激的で、ちょっと準備が大変だったりします。裁判所の場合は、「次回までに書面で反論する。」と言えば、口頭で議論することはほとんどありませんので・・・。
なお、EPOのOppositionも多数回傍聴したことがあるのですが、代理人にとっては、日本の無効審判以上に準備が大変な印象です。
無効審判では、公知文献は、特許文献が望ましい(やりやすい)です。
公然実施品や、立証が必ずしも公開日が明確ではない文献などは、訴訟の場合より採用されるのが難しいです。とうのは、特許庁の審判官は、(公然実施となった日や、公開された日など)の認定に慣れていないから、明確な日付が入っていないと採用を躊躇するからです。
先に、①戦略的には、特許無効の抗弁のみを主張すると書きましたが、上記の証拠の性質からくる理由がその一つです。
(無効資料となる適切な特許公報がなく、)公然実施品(+補足資料)による無効主張であれば、敢えて無効審判をせず、訴訟の中だけで特許無効の抗弁を主張するという選択をすることも多いです。
無効審判は、事案にもよりますがが、半年~1年強。昔より大分早くなりました。件数少ない(審判官暇)なんでしょうか。
前述しましたが、②消極的には、費用の問題があります。侵害訴訟の代理人費用に加え、無効審判(→審決取消訴訟)の代理人費用がかかってしまいます。
大企業なら費用面を気にしなくてよいですが、そうではない場合には、訴訟での特許無効の抗弁のみという場合が多いです。
知財高裁での統一的判断
審決に対しては、知財高裁に、審決取消訴訟(略して、審取[しんとり])を提起できます。
もし、侵害訴訟が係属している場合には、タイミングが合えば、知財高裁の同じ部で
侵害訴訟の控訴審と、審決取消訴訟が同時係属し、統一的なクレーム解釈(要旨認定)の下、侵害・非侵害(特許の無効・有効を含む)が判断されます。
その他の手段
特許庁の判定制度(充足・非充足のみ判断)というのもありますが、法的拘束力がありません。
積極的に、債務不存在確認訴訟(特許権者の特許権を侵害していない!と被疑侵害者側から積極的に訴訟を提起する)というのもあります。
和解の可能性
訴訟に至る前の段階では、解決金、ライセンス料の支払いによる解決を図ることが考えられます。
特許権者のレターや特許権者との交渉を通じて、特許権者が何を望んでいるのかを見極める必要があります。
この場合、特許権者の損害賠償額の見積もり(たとえば、売上額をベースとしたものや、実施料相当額)をした上で、交渉していくことになります。
通常は、過去分として一時金、将来分としてライセンス料(ランニング)が挙げられます。
訴訟に至った段階でも、裁判上の和解があります。侵害論をした後、あるいは、損害論をした後のタイミングで、裁判所が和解を勧試する(薦める)ことが多いです。
カウンターの準備
被疑侵害者としても守備ばかりでは寂しいので、もし、特許権者に対して、逆に、行使できるカウンター特許がもしあれば、その準備をすることが考えられます。
大企業同士ですと、複数特許 vs 複数特許で、①技術論(充足論、無効論)をし、その上で、互いにレイティング(評価)をして、②それらを擦り合わせるように、ビジネス論(要するに、どっちがいくら払うか。)をしたりします。
相手がNPEのように実施主体ではなかったり、相手(特許権者)の製品・ビジネスについて、こちらが特許権を持っていないと、難しいかもしれません。
最後に
2回にわたって、特許権者から警告を受け、さらに訴訟を提起された場合に、被疑侵害者側での対応を説明しましたが、結構いろいろ手段がありますね。
もし、何かありましたら、お近くの特許弁護士・弁理士にご相談ください。
もし、どっかの弁護士・弁理士に相談に行って、2回分の記事の内容について十分な説明がなかったら、他の代理人にした方がよいかもしれません(笑)。
私は、刑事事件で忙しいので受任できません(嘘)。