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特許実務-査証手続の運用に関するQ&A

はじめに

 

 裁判所から、「査証手続の運用に関するQ&A」が出ています。

 

 

www.courts.go.jp

 

下記のPDF版では、Q&Aに番号が付されているので、こちらもご参照ください。

https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/2020/tizai-sasyou-qa.pdf

 

 ちょっと読んでみましたので、今回、記事にしたいと思います。

 

 条文(特許法105条の2以下)だけからでは明らかでない運用の部分も少し垣間見えます。

 また、何より、申立書の例も掲載されており、代理人としては有難いですね。

 

方法の発明は立証が難しい

 

 以前に、特許入門(下記記事)で、「強い特許とは、立証が容易な特許である」というご説明をしました。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 しかし、方法の発明などのように、相手方である侵害者の敷地内(工場など)で実施されている場合には、特許権者にとって、立証が容易ではありません。

 

 それを補うために、改正特許法で、査証制度が導入されました。

 さて、査証制度は、活用されますでしょうか?

 

10月1日より施行で、係属中の事件も使える

 

 最後のQ&A(問7-B)にあるように、改正法は4月1日施行ですが、査証手続の施行日は10月1日で、それにあわせて今回ご紹介するQ&Aが作成されています。

 

 既に係属中の事件も、10月1日以降の現在、査証制度を使えるようです

 

査証制度は訴訟提起後に使える

 

 問2-Aにあるように、査証制度は、訴訟提起「」に申し立てることができます。

 逆に言うと、訴訟提起「」に、査証制度は使えません。

 

 これは、ドイツの査察制度(Inspektion)は訴訟前にできますが、これとは違い、証拠収集制度としてはかなり魅力が小さくならざるを得ません

 

 訴訟提起後であれば、被疑侵害者は、査証に事前に備えることができてしまいますからね。

 

確認、作動、計測、実験、その他の措置は具体的に特定

 

 査証人が行う必要のある措置は、申立書で、具体的に特定しなければなりません(問2-E)。裁判所の査証命令も、具体的なものになります。

 

 単に「確認」、「計測」などと抽象的に記載するのでは足りず、たとえば、

 Q&Aの説明にあるように、

 

 「装置Aの洗浄工程で使用される洗浄液に含まれる化学物質の確認及び

  その確認に必要な実験」

 

などとと記載するそうです。 

 

 特許権者(原告)としては、「侵害立証のための証拠を査証人に作ってもらう」という作業になりますから、申立書において、(相手方の装置ですので分からないところも多い中)、特許発明との関係で、具体的に「どのように侵害の証拠が作成される必要があるのか」想像力を働かせて、申立書で特定しなければなりません

 

 これは、原告代理人の腕の見せ所ですね。

 

結局、サプライズはあまり無いか?

 

 問2-Gにあるように、実務的には、査証命令の前に、任意の証拠開示が可能か、裁判所と両当事者で協議するという運用だそうです。

 査証をするとしても、具体的なところをかなり詰めるようです。

 

 そうすると、被疑侵害者としては、どうせ立証されてしまうような状況になれば、(営業秘密に注意しつつ)任意での証拠開示に応じた方が、ダメージが少ないと思えば、査証手続の前の段階で、終わってしまいます。

 

 前述したように、そもそも、訴訟提起後でないと、査証手続きが使えないので、被疑侵害者は十分な準備ができてしまいますし、侵害に当たらない確証があれば、被疑侵害者としては、査証手続にも堂々と協力的に応じればよいだけですしね。

 

 査証手続でのサプライズはあまりない感じがします。

 

誰が査証人になれる?

 

 これが、私が一番関心が高いところです。

 

 「査証手続に係る専門分野,要証事実,査証手続の内容等を考慮しつつ,

  事案ごとに,弁護士弁理士,学識経験者等から指定することが

  想定されています。」(赤字は私が付しました。)

 

 私は、査証人になるチャンスがあります!

 

 確か、以前に、弁理士会から、査証人への名簿登録の受付のメールが来ていたように思いました。

 

 (色々裏で事情があって)「どうせ、選ばれないだろうなぁ」と思って申し込みませんでした。

 

 一方で、弁護士会からは、そのようなメールはなかったように思います。

 

 仮に、選ばれたとしても、この「専門分野」というのが曲者です。

 

 査証命令申立書の例を見てみると、「5 査証人に関する要望」(PDFの10頁)で、

 

 「・・・査証人としては,この技術分野に精通した学識経験者,

  技術者等が相当であると考える。」

 

とあります。

 

 私のように、弁護士・弁理士でも、専門分野というのが無いので(強いて言えば、大学時代は航空宇宙工学会、7年半の審査官時代には、自動車関係の審査はしていたのですが、あまり訴訟のない分野ですね。)、査証人に名簿登録されても、実際には選ばれる可能性が低いように思われます。

 

 ただでさえ、査証手続の件数は少ないでしょうし。

 

 ということで、現実に、私が査証人を経験できる可能性は、すごく少ないかもしれません。

 

執行官の役割

 

 査証人の選任とともに、執行官の選任もできます。

 問5-Eの回答にあるように、

 

 「裁判所は,査証を受ける者の反対が強く,査証人のみでは円滑に査証をすることが

  困難な場合など,円滑に査証をするために必要と認められるときは,

  当事者の申立てにより,執行官に対し,査証人が査証をするに際して

  必要な援助をすることができます(法105条の2の2第3項)。」

 

 しかし、一方で、

 

 「査証の手続については,民事執行法6条や同法57条3項に類する規定,

  すなわち,査証を受ける当事者が工場等への立入りを拒絶した場合に,

  執行官が抵抗を排除するために威力を用い,又は警察上の援助を求めたり,

  閉鎖した戸を開くための必要な処分をすることを認める規定はありません。」

 

とあり、執行官による強硬手段は用いられないようです。

 

 そうすると、単に、(アウエーで独りぼっちの)査証人が、裁判所の命令に従い、被疑侵害者側に、「あーして、こーして。」などと強く言えないところを、執行官が代わりに(繰り返し)強く言ってくれる、というだけの存在のようです。単なる「援助」者で、あんまり、独自の役割はなく、面白みもありませんね。

 

最後に

 

 ざっと、Q&Aを確認しましたが、

 

 ① 被告(被疑侵害者)には、事前に準備されてしまいますし、

 ② 査証の手続きを細かく詰めるが故に、査証に至る前の段階(任意開示で)終わってしまったり、

 ③ やってみても、あまりサプライズが起こらないシャンシャンで終わったりして、

 

 あまり、魅力的な感じがしませんでした。

 

 私としては、ガサ入れのように、いきなり乗り込んでいる査証人の役割を経験したかったのですが、そのようなドラマチックなものでもありません。

 

 その上、明確な専門分野がなく、悪い意味でオールラウンドな私は、弁護士・弁理士であっても、査証人に選任される可能性は、(よほど査証手続きが多用されない限り)かなり低そうです。

 

 ということで、査証人にはなれないかもしれませんが、原告側代理人として、いずれ、一度は査証の申立てをしてみたい、という程度でしょうか。

 

 

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