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刑事事件-大麻取締法違反 & 飛行機内でのマスク拒否

はじめに

 

今回の芸能人の大麻取締法違反の逮捕・勾留を受けて、かつてないほど大麻取締法の見直しの是非が議論されていますね。

 

今回は、大麻取締法違反と、これに関連して飛行機内でのマスク拒否について記事にしたいと思います。

 

大麻取締法の見直しの是非について

 

私自身が、大麻取締法(つまり、大麻の所持が刑事罰に値するものか否か)について、判断することはできません(意見を言うことはできますが。)。

 

なぜなら、大麻の依存性、心身に与える影響、他者危害可能性等については、研究者の見解を読んでも意見が分かれており、未だ明らかにはなっていないように思われるからです。

 

また、外国(あるいは、一部の州での)大麻の合法化は、それぞれの国・州の事情(マフィアの資金源になる等)も含めた政策的判断の要素がありますので(売春も同様ですね)、外国で合法化されているところがあるから、日本でも、合法化すべきというのもあまり説得力がありません。

 

大麻以外にも、禁止薬物(覚醒剤など)は多種類あり、それぞれ依存性の程度や体への影響も様々です。大麻から始まって他の禁止薬物に手を出してしまう事例を、刑事弁護人として実際によく見ています。禁止薬物に対する情報が(友人や売人などを通じて)入手しやすくなり、また、大麻より薬効が強いとされる禁止薬物へ手を出してしまう傾向は、実際に多数の薬物事犯の弁護人をした経験上、ありそうな気がしています(明確は根拠はありません。)。したがって、大麻以外の禁止薬物への影響も含めて議論しなければなりません。

 

いずれにしても、私は、法律の専門家で、実際に薬物事犯を多数扱ってきたことはあるものの、大麻に関する専門家ではありませんし、大麻の所持等を合法化すべきかこのまま刑事罰を科すべきかを判断できる政策判断をするほど十分な知識も持ち合わせていません。

 

私の個人の意見としては、合法化反対です。

ただし、念のため、薬物事犯の刑罰の在り方としては、薬物治療を優先する観点からまだ検討が必要ですし、薬物事犯による社会復帰を容易にする社会環境の整備が必要ですし、芸能人でいえば、作品をお蔵入りさせてしまうという社会的な損失はナンセンスです。

 

大麻取締法で逮捕されるとどうなるか?

 

いずれにしても、私は、刑事弁護人ですので、現時点で違法な大麻の所持により、逮捕・勾留されたら、その後どのような人生が待っているかを説明することはできます。

 

逮捕され、その後、(勾留請求から)10日間、勾留されます。

 

捜査では、被疑者の取調べ、尿検査、自宅などの捜索差押(ガサ入れ)、入手ルートの解明(スマホを領置して通話記録を調べる)などがなされますが、10日間で終わらないことも多く、さらに、10日間勾留が延長されることも結構多いです。

 

つまり、逮捕から20日ちょっと勾留されることになります。

 

多くの方は、最初、「早くここから出してくれ!」と要求しますが、勾留を取り消すことは容易ではありません。認められないことの方が多いです。

 

薬物事犯では、大麻所持の事実に疑義がある場合(たとえば、被疑者自身のものではない疑いがある場合)などを除き、起訴されて裁判になります。その場合、更に、勾留が続きます。

 

起訴後は、保釈請求が可能ですので、(同居の家族などの)身元引受書を予め入手し、被告人本人には(逃げない、証拠隠滅しない、裁判には必ず出頭する等の)誓約書を書いてもらい、これらを添付して、保釈請求をし、認められればやっと釈放されます。

保釈金は、通常、150万円以上です(ゴーンさんのように逃げたりしなければ、裁判が終われば返金されます。)。結構な額なので、家族に駆けずり回って用意してもらうことが多いです。

 

この間に、被疑者(起訴後は被告人)は、長期の欠勤となり、場合によってはクビ・自主退職になることが多いです。

 

最初は、「弁護士さんよぉ、ここから早く出してくれ!」と元気だった被疑者も、10日を過ぎた頃になると、元気がなくなり、接見(=面会)でボロボロ泣き出す人も多いです

 

被疑者・被告人本人だけでなく、家族も、そのような事態になり、慌てて警察署へ面会に行ったり、被疑者・被告人の職場へ連絡したり、多額の保釈金を親戚などから工面し、疲弊してしまいます。

被疑者・被告人の親や奥様が絶望的な目をしている姿は、私の脳裏に焼き付いています

 

起訴されて、執行猶予がついても、多くの士業の方は欠格事由にあたり、資格を失います。

 

大麻取締法違反での逮捕後に、不幸のどん底に落ちていく具体的な事例は、いくらでも書けますが、もう十分ですよね。

 

今、現在は違法である以上、絶対に大麻に手を出しては行けません。

 

大麻取締法違反による刑事罰の是非は、政策議論であって、ネットなどで自分の意見を主張するのは全く構いませんし、様々な立場から議論をするのは有益だと思いますが、たとえ自分が大麻は問題ないという意見を持っていても、手を出しては行けません。

 

飛行機でマスクを着用しなかったこと

 

話は変わりますが、飛行機内でマスク着用を拒否したため、他の空港へ緊急着陸し、飛行機を降ろされたというニュースがありました。

 

news.livedoor.com

 

この件は、航空法違反ということで、そもそも刑事事件化はされていませんし、報道以上の詳しい事実は分かりませんし、マスク拒否は健康上の理由であったという主張もあるようですが、場合によっては業務妨害罪等の可能性は出てきます。

上記記事にもあるように、民事での損害賠償請求を受けることもあり得るかもしれません。

 

なぜ、大麻の話から飛行機でのマスク拒否の話に飛んだかというと、

 

自分の意見(信念)で、法律・ルールに従わないと、自分だけではなく、家族や他人にも大変な迷惑をかけてしまう

 

ということが言いたかったからです。

 

自分の意見や信念を持つことは自由だし、それをネットで公にするのもよいと思いますが、(今回の芸能人のお考えは分かりませんが、)その意見・信念に基づいて、法律・ルールに従わない具体的な行動は、自分自身を傷つけ、更に、家族や関係者、他人への迷惑になるということです。

 

マスク拒否の方は、健康上の理由や、説明がなかった等をおっしゃっていますが、航空業界におけるコロナの状況・対策(非常にセンシティブであること)は事前に知っていたはずであり、飛行機に乗らざるを得なかったとしても対応を適切にしていれば、今回の緊急着陸に至る以前に、他の乗客に迷惑をかけない手段でこのような事態を回避ができたはずですよね。

 

最後に

 

法律・ルールがある以上、それに従わないと、自分と家族が大変な不利益を被ります。

 

もちろん、法律・ルールが間違っているという意見もあろうかと思います。社会的に有用なので、大いに議論してください。(私も、この記事で紹介している限り、刑事手続が明らかにおかしい点は主張しています。)

 

ただし、現状の法律・ルールがある以上は、具体的な行動としては、その法律・ルールが存在するのを前提に行動しないと、自分と家族を不幸に陥れ、関係者や他人まで相当な迷惑をかけてしまいますので、是非ご注意を。

 

 

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