理系弁護士、特許×ビール×宇宙×刑事

理系弁護士・弁理士。特許、知財、宇宙、ビール、刑事事件がテーマです。

刑事事件-被疑者の話をきちんと聞くということ

 

はじめに

 

今回は、被疑者(被告人も)の話を聞くということについてご説明したいと思います。

 

被疑事実と全く関係のない話を始めるが・・・

 

たとえば、万引き(窃盗)で逮捕された被疑者から話を聞くことを想定します。

 

弁護士になりたての頃は、警察署で逮捕・勾留された被疑者と面会し、本人確認(名前、生年月日、住所)をした後、

 

① 逮捕・勾留後の手続きの流れ(勾留期間や検事調べの時期など)、

② 被疑者としての権利や捜査・取調べへの対応(黙秘権、指印拒否など)

 

などを説明します。

これは、ほとんど弁護人(弁護士)の方が一方的に話をするいわば情報提供です。

 

しかし、今度は、こちらが情報を聞き出す必要があります。

 

被疑事実(被疑者が行ったとされる犯罪となる具体的な事実)を読み聞かせた後、

 

この被疑事実は間違いないですか、それとも、どこか間違いがありますか?

 

と被疑者・被告人に聞きます。

 

被疑者・被告人が、

 

「はい。間違いありません。その日のその時間に、その食品を3点、万引きしました。なぜ、万引きをしたかというと、アルバイトを掛け持ちしても、月10万円しか稼げず、これを全てギャンブルに使ってしまい、お金に困っていたということと、コンビニでのアルバイトで先輩に怒られてばかりでストレスが溜まり、その日も、むしゃくしゃしていて、お金を払って買うのがばからしいと思い、つい盗んでしまったのです。」

 

と話してくれたら、動機の点も含め、非常に分かりやすくて助かります(こんな理路整然答えられたら、逆に、本当かどうか疑ってしまいます。)。

 

しかし、このように分かりやすく明確にかつ端的に説明してもらえることは、実際にはほとんどありません。

 

現実は、

 

「私、警察から昔、猫を一時的に預かったのね。今、もう10匹に増えちゃってね。それでね、・・・」

 

とか、

 

「私、隣の家から、電磁波で攻撃を受けているんです。誰にも言わないでくださいね。その隣の家の〇〇さんはね、△△っていう宗教に入っていてね、・・・」

 

といった感じで始まり、延々と話をされることの方がむしろ普通です。

  

弁護士になりたての頃は、

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私がご質問したのは、この被疑事実の万引きをしたのですか、していないのですか?」

 

というように、話を途中で遮ってしまっていました。

 

しかし、話を遮らずに聞いていると、結構、万引きに至っってしまった全体像を把握することができ、万引きに至ってしまった核心部分が見えてくることが多いのです。最初はそれに気が付きませんでした。

 

以前に紹介した下記の窃盗事件(万引き事案)が良い例です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

ですので、今は、被疑者・被告人が、被疑事実と全く関係のないことから話始めても、話を遮らずに聞くようにしています。

 

逆に、遮ってしまうと、この弁護士は自分の話をちゃんと聞いてくれないんだ、ということで、本当の意味でコミュニケーションがとれなくなってしまうこともあります。

 

これは、刑事事件での被疑者への聞き取りだけでなく、一般的な弁護士の法律相談でも同じです。

法的に関係のある事項だけを短時間で聞き取れれば効率は良いのですが、一般の方はそううまくは話してくれません。

 

弁護士(弁護人)は、依頼者(被疑者)の話の腰を折らないようにしつつ、聞き出すべき法的事項(被疑事実に対する認否、動機)をうまく聞き出すという能力が求められるのです

 

法律相談の時間も限られますし、接見(面会)時間もある程度は限られますので、うまく本題に導いていく必要があります。

 

理解できない話の場合は・・・

 

先に例で挙げた「電磁波攻撃を受けている」という類の話は、1人や2人でなく何回も登場します。万引きの動機の類型の一つではないかと思ってしまうくらいです。

ちゃんと調べたことはないのですが、都市伝説的なものでしょうか。

 

私も一応理系だったような気がするので、

 

「いや、電磁波で人を攻撃できるレベルの兵器があるとしても、それなりの施設・設備が必要で、人が携帯できるレベルものは、(スタートレックの世界ならともかく)現在の技術レベルではないのではないか?」

 

とかやや適当なことを言ってしまいそうになりますが、そんなことを言っても、被疑者は、無視して話を続けられるか、場合によっては(自分を信じていないからと)逆上してしまうかもしれません。

ですので、「うん、うん」と言いながら聞きます。何か、手がかりになることがあるかもしれませんので。なんとか、万引きの話に持っていきます。

 

家族に話を聞く

 

このような場合の一つの対処法として、家族からお話を聞くというのがあります。

 

ご家族に連絡を取ってもよいかを被疑者に確認し、ご家族とお話をすると、たとえば、被疑者の両親から、

 

「実は、あの子は・・・」

「実は、うちの母親はですね・・・」

 

ということで周辺事情を伺い、今回の件について納得できたりする場合もあります。

 

また、家族に話を聞いてみると、特に薬物事犯で多いのですが、(生い立ちや家族構成など、)何から何まで本人の話と家族の話が食い違っている場合があり、これは、本当に何が正しいのか困ってしまうこともあります。

 

人と話をして人を理解するというのは、一筋縄ではいかず、なかなか難しいですね。

 

被疑者が弁護人に嘘をつくことも・・・

 

「私(弁護人)は、あなたの味方です。もし、犯罪をやっていないのなら、徹底的に争いましょう。でも、犯罪をしてしまったのでしたら、正直に話してくださいね。有利な情状の証拠を集めて、早く釈放されるよう、起訴されないように頑張りましょう。」

 

ニュートラルに質問するのですが、よくあるのは、最初は、弁護人に対しても、「自分はやっていない」と否認し、何日か勾留された後には、「実はやりました。」ということが結構あります。

 

これは、要注意です。

 

勾留が長引き、取調べなども辛くなり、罪を認められば、釈放されると思い、犯罪をしていないのにやったと嘘を言っている場合があるからです。

 

一方で、(理想的には)被疑者と弁護人の信頼関係が出来て、あるいは、検察官から追及されて、もはや言い逃れができないと思い、罪を認めるという場合もあります。

 

前者は冤罪を生んでしまうので、被疑者が、否認から自白に転じたときは、じっくり話を聞いて、慎重に確認する必要があるのです。

 

被疑者が、話している内容の骨子は、メモで残し、後に矛盾した話が出てきていないかなどをチェックしながら質問します。「矛盾しているのでないかいは?」と聞くのではなく、「この前は、〇〇と話されてませんでしたか。」という具合に、被疑者の発言を否定せず、真意を追求(×追及)していく感じです。

 

まとめ

 

被疑者から、話を聞くのは大事です。犯罪事実と直接関係ない話から始めても、遮ってはいけません。犯罪に至った経緯の重要なポイントが含まれていることがあります。

 

被疑者の言っていることがよく分からない場合は、被疑者の了解を得て、家族から話を聞くことで解決することも多いです。

 

被疑者は、味方である弁護人に対しても、本当のことを言っているとは限りません。

特に、否認から自白に転じた場合は、被疑者から慎重に話を聞く必要があります

 

んー、いろんな被疑者に会うたびに、心理学を勉強して、被疑者のことをもっと解できるようにしようと思うのですが、なかなか忙しくて、勉強を始めるには至っていません。もっとも、そんなちょっとした勉強で人を理解できるなんてことはないでしょうが、何か良い本や教材があればと思ったりします。

 

弁護士に限らず、人とコミュニケーションをとって、何かを引き出すのがメインの仕事は、本当に難しいです。

特許のクレーム解釈の方が圧倒的に楽です。

 

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村