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特許実務-管轄(特許権侵害訴訟の第一審)

 

はじめに

 

今回は、特許権侵害訴訟の第一審の管轄についてご説明したいと思います。

 

特許権侵害訴訴訟の第一審の管轄

 

結論から言うと、大阪地裁か東京地裁です。この2つの地裁が専属管轄になります。

これは、実は、特許法に規定されているのではなくて、民事訴訟法に規定されています(以下の説明では、条文は民訴法しか出てきません。)。

 

特許権等に関する訴え等の管轄)

民事訴訟法6条

特許権実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前二条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
 
 
 

ざっくり言うと、民訴法の規定でいくと、東日本のいずれかの地方裁判所が管轄になる場合には、東京地裁6条1号)、西日本のいずれかの地方裁判所が管轄になる場合には、大阪地裁6条2号)という感じです。

 

なお、実用新案権も、プログラムの著作物に関する著作者の権利も、そうなんですね。

 

そして、民訴法6条にいう「前二条」というのは、4条5条をみると、たとえば、

 

① 普通裁判籍被告の所在地4条)、

② 義務履行地5条1号、持参債務として原告の所在地など)、

③ 不法行為5条9号、損害賠償請求の場合など)

 

などが規定されています。

 

したがって、特許弁護士は、主に行く裁判所といえば、東京地裁か大阪地裁なのです。その他の地方にはあまり行けません。私、弁護士になってから、横浜や立川の裁判所に行ったことがありません。

 

それはそれで寂しいのですが、私は、刑事事件を通じて地方の裁判所や拘置所にいったりしています。今は、コロナで難しいですが。

 

そして、様々な特許権に関する裁判例を見るかぎりにおいては、東京地裁と大阪地裁で、傾向の違いなどはあれど、実務や質が大きく異なるというものではありません。

 

ですので、特許権侵害訴訟において、いわゆるフォーラムショッピング(=どこの裁判所に訴えたら有利だろうと考えて、有利そうな裁判所へ訴えを提起すること)については、あまり考えなくて良いです。

 

ちなみに、ドイツだと、確か12の地裁に特許権侵害訴訟を提起できるけれど、結局、デュッセルドルフマンハイムミュンヘンハンブルグ地方裁判所特許権侵害訴訟のほとんどを扱っており、これらの間でも、審理の進め方や有利不利があったりするそうなので、いわゆるフォーラムショッピングを考える必要があるそうです。

 

移送された事件

 

実は、私は、東京の事務所に勤めていますが、まだ大阪地裁に係属した特許権侵害訴訟を経験したことがありません。

正確にいうと、過去に一度だけ、下記の大阪地裁に係属した特許権侵害訴訟を受任しました。

 

特許権侵害訴訟

・原告: 愛知県所在

・被告: 東京都所在(依頼者)

 

先にご説明した民事訴訟法4条1項、4号(法人の場合は、主たる事務所)でいくと、被告の本社は東京なので、東京地裁に訴えて欲しいところです。

 

しかし、被告は、大阪地裁に訴えました。もしかして、嫌がらせでしょうか。

愛知から大阪は、新幹線でも、近鉄でも、比較的近いですよね。

東京から大阪はそれに比べると遠いです(それでも3時間ですが)。

 

大阪でも被疑侵害品が販売されているとして、不法行為地として、関西も含まれるとして、大阪地裁に訴えたのでしょう。

 

しかし、私は地元が三重県(愛知と大阪の間の位置します。)ですし、大阪に行くのはそれほど苦ではありません。むしろ気分転換に行きたいくらいです(依頼者は、我々の交通費を負担しなければならなくなるので、申し訳ないのですが・・・)。

 

なので、「大阪で受けて立とう!」と勝手に心の中で思っていたのですが、パートナー弁護士から、「大阪ぁ・・・? 東京へ移送の申立てしてね。」と言われました。

そこで、答弁書で本案前の申立てとして東京地方裁判所に移送するとの裁判を求めたところ、(幸か不幸か)東京地裁に移送される決定がされました。

 

で、結局、大阪には行けませんでした。

 

裁判所の決定の理由の骨子としては、

 

・被疑侵害品が大阪地裁の管轄区域内で販売されていても、同区域内での被告自身の具体的行為については、原告は主張していない。

・よって、民訴法5条9号不法行為)、6条1項2号西日本の裁判所が管轄なら、大阪地裁へという規定)により事件が大阪地裁の管轄に属すると認めることはできない。

・被告の本店所在地は東京都であるから、民訴法4条4項(法人は主たる事務所が管轄)、6号1項1号(東日本の裁判所が管轄なら、東京地裁へという規定により、事件は東京地裁の管轄である。

・原告の本店所在地である愛知県を義務履行地とみても(民訴法5条1号)、6条1項1号(東日本の裁判所が管轄なら、東京地裁へという規定により、同様に東京地裁が管轄である。

 

でした。

 

ビジネス・コート

 

ちなみに、近い将来、東京地裁知財部や(特許権侵害訴訟の第2審や特許庁の審決の取消訴訟を扱う)知財高裁は、霞が関から(不便そうな)目黒に行ってしまうようですま・・・。(知財を含め、ビジネス関係の訴訟を扱う)ビジネス・コートとか言うらしいです。当初の予定からはどうも遅れているようで、まだいつ始まるのか分かりません。どうなったのでしょうか。

 

www.nikkei.com

 

まとめ

 

特許権侵害訴訟の第一審の専属管轄は、東京地裁か大阪地裁です。

 

残念ながら、私の場合、東京地裁に係属する事件ばかりで、大阪地裁に係属した事件がありません。

 

大阪(東京)地裁に訴えられた場合にも、場合によっては、東京(大阪)地裁への移送の申立てが認められる場合があります。

 

私は、たまには大阪行きたいです。大阪近辺にも地ビール結構ありますしね。

 

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