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刑事事件(事案6-覚醒剤取締法違反事件[所持])

事案(覚醒剤取締法違反事件[所持])

 

・被疑者は、若い女性です。

・女性は、彼氏のマンションに半同棲の状態でした。

・女性が一人で彼氏のマンションに居たところ、突然、警察のガサ入れ(捜索差押)があり、覚醒剤や注射器等が発見されました。

・女性は、その場で、覚醒剤の所持で逮捕されました。

・女性が言うには、覚醒剤の存在を知らなかったそうです。

・女性の尿鑑定の結果は陰性で、証拠上、覚醒剤の使用は認められませんでした。

 

薬物事犯(一般)

 

国選の刑事事件を担当すると、一番多いのが覚醒剤大麻の薬物事犯です。

 

覚醒剤の場合は「所持」と「使用」、大麻の場合は「所持」のみが罪となります

大麻は「使用」については罪を問われないことになりますが、尿鑑定の結果が陽性で、かつ、その他の「所持」を伺わせる十分な事情があれば、所持罪で起訴される場合もあります。

 

芸能人の薬物使用のニュースでご存じのとおり、初犯でも逮捕・勾留され、起訴されて裁判になります。もっとも、初犯の場合は、薬の量がそれほど多くなければ、懲役1年6月、執行猶予3~5年くらいで、刑務所には行かなくて済むことが多いです。

 

覚醒剤の場合は、傷害罪や窃盗罪とは異なり、被害者がいません

したがって、示談交渉がない点では、弁護活動は気が楽です。

 

もっとも、尿検査で使用の事実が明らかになり、また、ガサ入れで所持が明らかになると、ほとんど起訴になってしまい、公判(裁判)のための準備をしなければなりません。

 

そこで、被疑者が自白している場合は、弁護人は、専ら、(罪を軽減するための)情状立証のために、いろいろと活動します。これが結構大変です。この点は、また、別の機会にご説明したいと思います。

 

本件の覚せい剤所持について

 

本件の問題点は、被疑者の女性が、覚醒剤を所持していたといえるか、という点です。

 

しかし、彼氏が、自分のマンションで覚醒剤を所持していた(置いていた)のであり、その女性は(そのことを知らず、)その場に居合わせただけとも言え、被疑者女性が覚醒剤を「所持」していた評価するのは難しい場合があります。

「パケ」(覚醒剤が入っている小さい袋)から、彼女の指紋とかが検出されれば、(所持に関する情況証拠となり得るので、)話は別ですが。

 

検察官が、覚醒剤が女性のものといえるかどうかを十分に証拠固めせずに、下手に起訴してしまうと、弁護人は裁判でおもいっきり争います。

 

このような被疑者は、通常、尿検査を受けますが、陽性なら、少なくとも「使用」について起訴されます。

一方で、尿検査の結果が陰性の場合、「使用」は立件が無理で、「所持」も難しくなります。

 

警察・検察としては、彼氏も逮捕・勾留されている場合は、彼氏から、(被疑者女性も一緒に使っており、)彼女のものでもあったとの供述をとろうと頑張ります。

また、被疑者女性からも、自分のものである(自分も使っていた)との自白をとろうとします。

 

弁護人としては、被疑者女性が、彼氏の部屋に覚醒剤があったことを知らないと言っている以上、徹底的に否認するようにアドバイスします。長期の勾留で自白させられてしまいそうな場合には、黙秘するようにアドバイスすることもあります

 

本当のことは、神様ではないと分からないのですけどね。

 

本件に限らず、私は、いつも、被疑者に、「本当のことを言ってくださいね。それを前提に弁護活動をしますから。」というのですが、被疑者が、本当のことを言っているかどうか、分からないこともあります。不合理な弁解の場合はいろいろと質問して、本当のことを話してくれるように、説得します。原則的には、被疑者のおっしゃっていることを前提に、弁護活動をします。

 

本件のような事件の場合、検察官は、被疑者から自白をとろうと、勾留が10日から20日に延長し、逮捕から20日以上、警察署の留置施設に留め置きます。弁護人としては、2日に1回は接見(面会)に行って、自白させられないように励まします

 

今回の件は、被疑者女性は、20日の勾留後、何とか釈放されました

女性の尿検査の結果が陰性であり、しかも、(私のアドバイスどおり、)彼女は徹底して否認、つまり、覚醒剤は自分ものではないと供述しました。

 

検察官としては、彼女が覚醒剤を所持していたとして裁判で、確実に(99.9%)有罪に持ち込むのは難しい(公判を維持できない)と考えたのかもしれません

被疑者女性は、彼氏と半同棲であったとはいえ、自分のマンションではなく、彼氏のマンションに覚醒剤があったわけですから。

 

覚醒剤の「醒」は常用漢字になりました

 

余談ですが、これまで、覚醒剤の「」は常用漢字ではなかったので平仮名で書いていました。「覚せい剤取締法違反事件」というように。

 

しかし、今年の4月1日から、「」は常用漢字になりましたので、これからは覚醒剤と書面で書くことになります。

覚せい剤」で書き慣れているので、今回の記事でも全部漢字で書いたかなぁとちょっと不安です(が、見直しするのが面倒)。

 

女性が勾留される場所は3つの警察署(東京23区)

 

ちなみに、女性の被疑者が勾留される警察署は、湾岸警察署原宿警察署、(板橋の)西が丘分室の三か所です。女性専用というわけではなく、男性の被疑者も(もちろん別々ですが)勾留されています。

 

刑事事件に慣れている弁護士かどうかは、東京23区の弁護士の場合、

 

東京23区内で、女性が勾留される警察署を3か所挙げよ。

 

という質問を弁護士に投げかけることで、分かります。多分、この三か所以外にはないと思いますが、4か所目があるかどうかは分かりません。

 

湾岸警察署は、新交通ゆりかもめの東京国際クルーズターミナル駅から歩いて5分くらいです。周りに何もないので、報道陣が騒いでも、周囲にあまり迷惑にならないので、芸能人がよく勾留される場所です。

ゆりかもめで綺麗な景色(夜景)を見ながら、接見(面会)に行くことができますが、なにぶん事務所から遠いですし、ゆりかもめの料金が高い。

警察署は、綺麗な建物で、あまり待たされないのも良いです。

 

原宿署は、竹下通りから、少し歩いたところにあり、事務所から行くのにも、近くて便利です。ここも、建物が綺麗です。

 

西が丘分室は、たしか、都営三田線の板橋本町が最寄ですが、そこまでだいぶ遠いですし、駅からも結構歩きます。普通の警察署とは違って、ピンポンしてから開けてもらうので、面倒で嫌いです。