私が担当した刑事事件を、個人情報を特定しないようにデフォルメして、ご紹介したいと思います。
事案(傷害事件)
私が弁護士になって初めて担当した刑事事件です。
若者が傷害で逮捕されたため、私は警察署に接見(=面会)に行きました。
その若者は、ラーメン屋さんで、店員に自分の携帯を投げつけて、その店員に怪我をさせた、という事案でした。事実は認めていました。
最初の刑事事件ということで、私は、はりきって、その若者の書いた反省文・謝罪文を持って、その若者の代わりに被害者に謝りに伺いました。被害者である店員さんと無事示談をし、そのおかげで、その若者は起訴されずに(裁判にならずに)無事釈放されました。最初の事件だったので、ホッとしたのを覚えています。
犯行の動機
何の変哲もないかの事件ですが、少し変わっていたのは、その若者が携帯を店員に投げつけた「動機」(理由)でした。
その若者が犯行に至った動機は、そのラーメン屋で、ラーメンとビールを同時に注文したら、ラーメンが先に来た、というものでした。それで、店員への怒りを抑えきれず、自分の携帯を店員に投げつけてしまったそうです。
その若者は、まず、ビール、シメでラーメンというのが当然の流れだと思ったのでしょうか。あるいは、まず一口目はビールからが当然と思ったのでしょうか。「ビール→ラーメン」という順番は絶対的な順番だと思っていたようです。
そのような考え方を持つこと自体は自由ですが、だからといって、店員への暴行は言語道断ですし、「先にビールを持ってきて」と事前に言えば良かったですよね。単に、その当時、別のことでむしゃくしゃしていたことがあるのかもしれません。
ちなみに、私は、味の濃いラーメンを水を飲まずに食べた後、喉の渇きを最高潮にした状態で、コンビニでビールを買ってそれをグビグビ飲む、というのが好きで、その若者の考え方には必ずしも賛成しません(が、別に、その若者の考えを否定するわけでもありません。)。
もちろん、ビールを飲んで、シメでラーメンを食べる、いや食べてしまうこともありますが、その際は、ラーメンは後で注文しますよね。
そういえば、この前、ラーメンとビールを同時注文しましたが、そのときはビールが先に来ました。多数の認識は、先にビールが来るべき、でしょうか。
ただ、いずれにしても、そんなことで、人に暴力を振るい、怪我をさせてしまったことについては、反省するよう促しました。
私は、「人の犯行の動機(=この場合、怒りポイント)というのは、様々で、興味深いなぁ。」と、結構冷静に思ったのを記憶しています。このような不合理なことも含めて、人の考え方や行動をつぶさにみることができるのも、刑事事件の興味深いところです。
さて、犯行の動機というのは、量刑に影響する場合が多いです。
例えば、本件とは違いますが、被害者が何らかの理由で加害者(被疑者)を挑発したというような喧嘩の事案であれば、被害者には一定の落ち度があるとして、被疑者に有利な情状になる場合もあります(=量刑としては軽くなる方向の要素として働きます。)。
一方で、本件のように、落ち度がない被害者に対する暴行は、情状としては非常によくないです(=裁判であれば、「身勝手で動機に酌むべきところがない」、と量刑としては重くなる方向で評価されてしまいます。)。
動機といえば、窃盗罪の場合は様々です。①お金がなく盗んだ、②お金はあるけど使うのがもったいないから盗んだ、③ストレスを発散するために盗んだ、④刺激を得るために盗んだ、…など。(元マラソン選手が告白していましたが、)クレプトマニア(窃盗癖、窃盗症)という治療が必要なものもあります。
ですので、動機の違いによって、われわれ刑事弁護人の活動の内容が変わってきたりします。窃盗事案で、示談だけでなく、場合によっては、被疑者の診断書をとったりもするわけです。詳しくはまた別の機会に。
やや脱線しましたが、本件のような事案では、示談するのが弁護活動として一番重要です。本件では、被害者から、「どうして、若者はいきなり私に携帯を投げつけてきたのか?」という質問をされなかったので、若者の身勝手な犯行動機を説明せずに済みました。説明していたら、被害者が怒ってしまい、示談できなかったかもしれません。
自分の知らない世界を知る
刑事事件を担当することが素晴らしいもう一つの理由は、自分が普通に生活していたら、出会わなかったかもしれない世界を経験することができることです。たとえば、普段は絶対行かない歌舞伎町に(示談のために)行くとか。トルコ人の方と話をするとか。
この事件で、私は、若者がそのラーメン屋の様子を説明しているとき、正直よく理解できませんでした。「座席の両側に仕切りがあって・・・」。そう、某ラーメン屋さん独特のシステムですね。私は、当時、そのラーメン屋さんに行ったことがなかったので知りませんでした。後で、ネットで調べて、そんなシステムのラーメン屋さんがあるのかと感心しました。ラーメンを食べるのに集中するため、でしょうか。これまで私の住んでいる場所や職場の近くに、その系列のラーメン屋がなかったため、あれから10年経ちましたが、まだ行ったことがありません。いずれ機会があれば、行きたいなぁと思っています。ちょっと高いらしいですけど。
そう、ラーメン屋と言えば、刑事事件で初めて訪れた警察署や拘置所の近くの美味しそうなラーメン屋を巡るのも楽しみの一つです。事件の内容によってはそれどころではない場合も多いですが。
また、話は変わりますが、このラーメン屋さん、(仕切りを含む)店舗システムで、特許権を持っていますね、特許第4267981号。興味のある方は、J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)で検索してみてください。特許弁護士でした。
ちょっと、今日はテーマから脱線しすぎました。
また、皆様の役に立つよう、ときどき、刑事事件の内容やその弁護活動を説明していきたいと思います。