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刑事事件あるある(その2)

 刑事事件あるある

 

前回から、「刑事事件あるある」を始めてみました。

今日はその2回目です。

 

masakazu-kobayashi.hatenablog.com

 

 示談金が振り込まれない!

 

窃盗、傷害、痴漢(迷惑防止条例違反、強制わいせつ)などのように、被害者がいる事件の場合、自白事件(=被疑者が罪を認めている場合)であれば、弁護活動として最も重要なのは、なんといっても示談の成立です

 

被疑者段階で示談が成立すると、不起訴になる(=裁判にならない)ことも結構多いです

同種前科などがあって、残念ながら起訴されてしまった場合でも、示談が成立していると、量刑上考慮あれ、減刑されることも多いです

 

ところが、この示談でよくあることとして、「示談金が振り込まれない!」ということがあります。

 

これは、「被疑者やその家族にに、示談するためのお金がない!」ということではありません。無いものは仕方ないですものね。

 

示談金は用意できるのですが、用意して頂いた家族等から、「私(弁護人)の口座に、なかなか振り込まれない!」という事態です

 

被疑者段階では、勾留期間が原則として10日ないし20日です。

被疑者にとっては非常に長い苦痛の時間である一方、示談成立をめざす弁護人からすると、結構短いスケジュールです

 

というのは、検察官は、(決裁の関係で)勾留満期(10日ないし20日)の前々日までに処分方針を決めるので、できれば、満期の前々日までに示談を成立させておきたいのです。示談の状況を逐一確認してくれ、ギリギリまで終局処分(=起訴するか否かの判断)を待ってくれる検察官もいますが。

 

被疑者自身は、警察署に勾留され、身柄をとられてしまっているので、被疑者自身は物理的に示談金を用意できず、用意するのは家族や友人であることが多いです。

 

そして、家族や友人が(私の場合であれば)東京23区に住んでいれば、示談金を持ってきてもらったり、私が受け取りに行くのですが、遠方の場合、銀行振込で送金してもらうおうとします

振込は、手渡しより、受領した金額が明確ですので後のトラブルがなくてベターです。

 

ところが、近年、銀行での送金(銀行振込)手続きが厳しいですよね特殊詐欺振り込め詐欺)のせいです。

 

一度、被疑者のご高齢のお母さんが遠方に在住で、時間的余裕もないので、私の銀行口座に、示談金(確か、20万円くらい)を振り込んでもらうことになりました。

 

ところが、そのお母さんがご高齢の方で、某銀行の窓口で、非常に焦った様子で「急いで、振り込みをしたい!」とおっしゃったらしく、銀行員は、これは振り込め詐欺ではないかと思ったらしく、その銀行員とお母さんとのやりとりで、なかなか振込が進まなかったようです。

 

結局、この件は、その銀行員から、私のところに電話がかかってきました。

 

私は、「東京の弁護士です。(決して、あやしいものではありません。)住所は〇〇で、〇〇法律事務所です。実は、詳しいことは申し上げられないのですが、振り込んで頂くのは示談金でして。」と説明したのですが、(守秘義務の関係もあって、説明が足りなかったようで)、身分証やら何やらのコピーをFAXで銀行に送り、やっとのことで送金してもらえました。

 

高額送金の手続きが面倒になっているのは、特殊詐欺の被害を防ぐために、仕方ないことかもしれませんが、一刻を争う示談の場面で、「示談金が振り込まれない!」というのは、結構イライラしますし、場合によっては冷や汗ものです。

 

実は、保釈金の場合は、もっと金額が大きく(100万円以上、通常一審で、150万円とか)なるので、同様の振込の手続きに伴うトラブルが結構あります。

 

「 示談金の額はいくらでしょうか?」

 

これは、大変難しい問題です。私にも分かりません。他の弁護士の先生がおっしゃることは、私が言うこととは違うかもしれません。ですので、あくまで私の場合の話ですので、予めご了承ください。

 

相場という言い方が適切かどうかわかりませんが、財産犯(万引きなど)の場合、被害金に少し上乗せすることが多いです。警察への届出や、捜査への協力でご迷惑をおかけしていることも多いためです。

 

たとえば、5万円のスリの場合(つまり、被害金額が5万円。ただし、現金以外の財布の中身は被害者に返ってきたような場合)、被疑者から示談金をいくらにすればよいかと聞かれたら、私でしたら、

 

「まぁ、被害者は、警察の取調べやらでご迷惑をおかけしているので、少し上乗せしてお支払いするのがよいのではないでしょうか。7、8万円、できれば、きりがよい金額として10万円とか用意できますか?」

 

と聞いて、被疑者が用意できる範囲で、示談金をお預かりし、その範囲で、被害者と示談できるか交渉します。

 

一方で、被害者と示談をする際に、被害者の方から

 

先生、示談してもいいのですが、いくらで示談するのがよいのでしょうか?

 

と逆に聞かれることがあります。

 

これは、大変困ります。正直なところは、弁護人としては、安ければ安い方が、依頼者である被疑者にとって有難いですからね

 

「できれば、被害金額相当で示談させて頂ければありがたいですが、・・・。」と伺いつつ、

「でも、警察への届け出や取調べ(事情聴取)でご迷惑もおかけしてますよね、ですから、・・・」

 

といった感じで、被害者の方が納得して頂ける金額を探っていきます。

※詳細は、企業秘密にしたいと思います。

 

被害感情の大きい場合の示談の額

 

財産犯以外の場合は、(感情的なものが大きいので)示談金の額はもっと難しい問題です。

 

たとえば、傷害罪は、治療費に(慰謝料等の)上乗せして示談をしますが、傷害の程度や相手の被害感情(怒り具合)にもよります。私の経験では、何とか治る怪我とかですと、5万円~数十万円で示談しています。ケースバイケースです。

ただし、被疑者(加害者)に支払えるお金がなければ、どうしようもありませんが。

 

痴漢等の場合は、もっと難しいです。

 

正直、被害者から、具体的な金額を提示してもらえた方が、そこからのスタートで交渉できるので有難いですが。被害者も、示談金の相場なんてわかりませんしね。

 

逆に、窃盗でも、

 

「お金はいらないから、是非、被疑者を死刑にしてくれ!」

 

と怒鳴られることもあります・・・。もちろん、窃盗罪の法定刑に死刑はありませんし、私が罪を決めるわけでもありません。むしろ、被疑者の代理人です。

感情的には分かりますが・・・。

 

こういうのが嫌で、刑事弁護をやらない先生が多いのも確かです。

私は、なぜか、わりと平気です。性格と年齢のおかげでしょうか。怒鳴られても、それほどストレスも溜まりません(笑)。

 

しかし、こういう場合は、示談交渉も大変です。

示談の進め方については、またあらためて記事にしたいと思います。